イギリスで反差別デモがあらわす「平和への団結」

2024年イギリス・サウスポート事件

2024年7月29日、イギリス・サウスポートで発生した3人の子供が犠牲となる悲劇的な襲撃事件。
この出来事は、一部の極右勢力がSNSで拡散した虚偽情報により、各地で激しい暴動に発展しました。事件は「イスラム原理主義の移民による犯行」との根拠のない噂が火種となり、モスクへの投石などが相次ぎました。

事件発生直後からSNSでは「犯人は亡命を求めてイギリスに来た移民だ」といったデマ情報が拡散され、翌30日、サウスポートで暴動が発生し、モスクや難民申請を収用するホテル、公共施設、警察が襲撃されました。
31日にはロンドン中心部でも暴動が発生し、100人以上が逮捕されるなど、イスラム嫌悪や移民排斥の感情に満ち、暴力的な抗議運動が数日間に渡って広がりました。

暴動が沈静化に向かったのは、迅速な逮捕と実刑判決を伴う裁判措置、
そして何よりも反差別デモの力が大きかったと全国警察署長会議の議長が発表しました。

デモの参加者たちのプラカードには
「人種差別を愛国心だと偽るのをやめよう」
「憎しみが声高に叫ばれるなら、愛はもっと声高に叫ばなければならない」
掲げられていました。

反差別デモがあらわす「平和への団結」

英国の公共放送BBCニュースは、イギリス・ブリストルで8月7日の夜、他の街と同様に人種差別に抗議するデモの様子を報道しました。
たくさんの人が抗議のプラカードを持ちながら、平和的に集まりインタビューに答える人の中に印象的な言葉がありました。

人々は一つになろうとしています。
昔から言われるように、分裂すれば倒れるが、団結すれば立ち上がるのです。

一方で、リヴァプールでは移民支援のために数百人が集まり、ロンドンでは数千人が平和的に抗議活動を行いました。
ニューカッスルやサウザンプトンでも、多くの市民が人種差別への反対の声をあげました。

リバプールのモスクの門の外では、アダム・ケルウィックという導師が、「人種差別的な極右活動家」と「反差別デモ参加者」の両方に手を差し伸べ、笑顔でハンバーガーやチップス、冷たい飲み物をさし出す出来事がありました。

やがて人々はそれらの差し入れを受け入れ、自分たちの話や懸念を「極右活動家」と「反差別デモ参加者」の対立する同士が共有し始めました。

我々は人々の心を開きたかったのです。
それは、美しい交流でした。

移民・難民政策の岐路に立つイギリス

イギリスは高齢化による社会的な課題に直面しています。
医療制度の圧迫や公共インフラの老朽化が進み、多くの市民が未来への不安を抱いています。
防衛費の増額も迫られ、厳しい現実を受け入れる中、移民・難民問題が複雑化しています。

その中で、かつてジョンソン元首相が打ち出した「不法移民のルワンダ強制移送政策」も廃止の動きが出てきました。
今年7月、新首相キア・スターマー氏がこの政策を撤回。
英最高裁は、この計画が移送者の人権を侵害すると判断し、違法と結論づけました。

一方、英仏海峡を越える不法入国者の数は依然として増加。2024年に入って1万3,000人を超え、この問題が政府にとって主要課題であり続けています。
移民問題に対する多様な意見が交錯する中、未来への道筋が問われています。

リバプールの事例は、異なる意見を持つ人々が対立していても、対話をするきっかけさえあれば、
少しずつ心を開き合い、互いを理解する希望の道筋が生まれることを示しています。

不法移民のルワンダ強制移送政策
難民申請を目的にフランスから小型のボートで海を渡ってきた人を、6500キロ離れたアフリカ東部のルワンダに強制移送する政策。2018年以降、難民申請を目的に小型のボートで、海を渡ってイギリスに不法入国する人が急増し、当時のジョンソン首相が、資金援助の引き換えに、ルワンダに移送する計画を打ち出した。

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