市民のチカラ-気候市民会議の広がり-
2024年は酷暑・豪雨が多発
2024年も残すところわずかですが、振り返ると夏の酷暑と残暑・・豪雨や竜巻など観測史上初という言葉も頻繁に使われて、日本でも気候変動の影響を誰もが感じるような1年でした。
とはいえ「気候変動」と言われても・・・
なんとなく地球全体の健康状態が悪くなっていることはわかりますが、この先どれくらいで自分たちの暮らしに大きな影響があるのか、まだ想像ができない人が私も含めて大半だと思います。
気候変動とは?
そもそもの気候変動とはなんでしょうか?
気候変動は、気温および気象パターンの長期的な変化を指します。
これらの変化は太陽活動の変化や大規模な火山噴火による自然現象の場合もありますが、
1800年代以降は主に人間活動が気候変動を引き起こしており、その主な原因は、化石燃料(石炭、石油、ガスなど)の燃焼と言われています。
化石燃料の燃焼は、気候変動の最大の原因で、世界の温室効果ガス排出量の75%超を占めています。
温室効果ガスは地球を覆い、太陽の熱を閉じ込めることで地球温暖化を引き起こします。
また、森林破壊も気候変動の大きな要因です。森林が農地などに転換されると、森林中の炭素が二酸化炭素として大気中に放出されます。森林減少の主な原因には、違法伐採、焼畑、森林火災、農地転換、都市化などがあります。
現在見られる気候変動の影響としては、とりわけ、深刻な干ばつ、水不足、大規模火災、海面上昇、洪水、極地の氷の融解、壊滅的な暴風雨、生物多様性の減少などが挙げられます。
また、気候変動は私たちの健康、食料、住まい、安全、仕事といった生きる上での必要な項目全てに大きな影響を与えます。すでに、海面上昇や塩水の侵入などによってコミュニティー全体が移住せざるを得なくなったり、長引く干ばつによって人々が飢饉のリスクにさらされたりしています。
世界の平均気温が1.55℃上昇
EU=ヨーロッパ連合の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」が、2024年世界の平均気温が1.55℃上昇し、産業革命前と比べて初めて上昇幅が1.5℃を上回る見通しとなると発表しました。
地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」で、平均気温の上昇幅を1.5℃に収める目標が、危機的な状況であることを示しています。
気候市民会議
人類が相対する気候危機は、しばしば「政治の問題」として捉えられがちですが、実は私たち一人一人の行動が大きな影響を持つことがあります。
その一つの手段として「気候市民会議」が注目されています。
気候市民会議は、社会の縮図を作るように、一般市民の中から無作為に選ばれた人たちが、気候変動対策について詰めた議論を行う場所です。専門家から公正な情報提供を受けながら週間から数ヶ月にかけて開催され、結果は自治体の気候変動対策の計画づくりなどに活用されます。
元々、日本では、市が計画・条例を作るときや個別の事案の対応を決定するときに、市民や学識経験者、関係者などの意見を聴く場として設置する会議体を「市民参加会議」として存在していました。気候変動という大きな課題に対しては有効な会議体という考えが自治体に広がり、国内では、2020年〜21年にかけて札幌市と川崎市で全国に先駆けて開催され、2024年3月時点で、全国15ヶ所で実施されています。
参加者は、無作為に選ばれた市民のため、自分たちの暮らすよく知る地域の環境を守ることに焦点を当て、本質的な議論ができる傾向にあります。
一方、議員は選挙を意識する事が多く、多様な有権者の意向に縛られるため、長期的で本質的な気候変動対策を打てないケースも多々あります。
気候市民会議を推進する名古屋大学大学院の三上直之教授は
「従来の社会的な意思決定の仕組みでは、気候変動問題のような長期的課題は後回しにされがち」
と指摘します。
気候市民会議は、個人の視点を超え、地域と共同体の一員として社会を考える力を高める可能性があり、日本内外でも実例が増えています。
世界の事例
メキシコでのブジャル市の気候市民会議では「持続可能なバイオエコノミー」というテーマで検討が行われました。
この地域の北部では、米、豆、とうもろこし、キャッサバの栽培、森林伐採地での畜産が主な経済活動です。
この地域の住民は、環境に影響を与えず、ジャングルを大切にする農業を望んでいますし、同時にアマゾンの生物多様性を保護する必要もあります。
この会議では、森林管理や農機の利用方法について実践的な提議が決定され、後に自治会に提案が提出されました。
メキシコのブジャル市で気候市民会議にくじ引きであたり、参加したブジャル市民のゲルティ氏は以下のコメントをしています。
極度に個人化された世界では、政治的不満が話題になっています。一方、今回の気候市民会議のように、国や地域にアイデアを提供できる扉が開くと、市政に積極的に参加したいという強い想いが生まれました。
フランスでは2021年、マクロン大統領が創設した「気候市民会議」の提案に基づいて、鉄道で2時間半以内に移動ができる路線の航空機を利用するのを禁止する法律が施行されました。(パリと、ナントやリヨン、ボルドーなどの都市を結ぶ航空便は、ほぼ全廃)
温室効果ガスの排出削減を狙ったもので、国会での審議を経て法案の成立となり、市民の提言の力を実証した事例です。
フランスでは、当局が勧告の約50%を実施するか、もしくは提案を部分的に実施する代替措置をとっていることが、2024年6月に発表した調査「審議民主主義と気候変動」で明らかになっています。(調査は「イデア・インターナショナル」とフランス政府開発庁が実施)
日本の事例
東京都日野市は、2023年に実施された気候市民会議の提言を受け、24年度から市の公共施設に実質再生可能エネルギー100%の電力を導入すると発表しました。
また、2023年に開催された「あつぎ気候市民会議」では、市民有志の団体(般社団法人あつぎ市民発電所)が母体となり市と協力して進められました。
6回に及ぶ会議を経て、様々な角度で議論し、アクションプランにまとめられました。
脱炭素化した厚木想像図というイラストも公開され、便利さと資源を分かち合う豊かな地域の営みが凝縮された暮らしの未来図と感じられます。
気候市民会議に参加した市民へのアンケートでは、「考えが変わった」と答えた人が約8割にのぼり、脱炭素社会について自分なりの意見を持つ人が増えました。
会議の最後には、参加者が「脱炭素マイアクション計画」を発表しました。その中には、こんなアイデアが並んでいます。
- 必要なものだけを消費する。「適量消費」「リユース」
- 日常生活ではコンパクトでゆとりのある豊かな暮らし。電力は自家発電、自家消費。家庭菜園も含めて地産地消
- 本厚木駅までバスを使う、EV 車に乗り換える。
- 生ごみ、コンポストの活用
- プラスチック製品の使用を減らす。弁当の容器がプラスチックのコンビニ弁当を買わない
- 近距離の移動では車に乗らず、なるべく自転車を利用する。市に要求する(自転車レーン、専用通路)
- 市議投票(脱炭素に意欲的な候補者か考える。)
(あつぎ気候市民会議に参加した市民の「脱炭素マイアクションプラン」一覧から抜粋)
市民は、地域の問題を歴史や風土を深く理解しているため、彼らの手による活動は、地域ならではの課題の解決につながる可能性を秘めています。
気候市民会議は事前準備や調整に時間と労力がかかるため、コストがかかるとも言われます。
しかし、市民が繰り返し集い、対話を通して生まれるアイデアや意見こそが、即席で匿名の声に影響を受けるSNS社会だからこそ「真の民主主義」の土台になるかもしれません。