デンマーク政府 、世界初の植物由来の食生活に関する国家計画を発表
肉と乳製品の消費量の削減が地球温暖化の鍵?
世界では食糧危機や、人々の健康、そして地球温暖化対策としての植物由来の食生活の推進が活発になっています。
そんな中、2023年10月にデンマーク政府が世界初となる植物由来の食生活への移行に向けた「国家行動計画」を発表しました。
具体的には、以下の主な目標を掲げています。
- 植物由来食品の需要を増やすこと
- 植物由来食品の供給を増やすこと
- 科学者から農家やシェフ、食品社会学者、栄養学の専門家まで、この新興の国内産業におけるさまざまな関係者
- 全員の協力体制を改善すること
国連食糧農業機関は、肉と乳製品が世界の温室効果ガス排出量の約14.5%を占めていると推定しています。
その上で、デンマーク当局は、肉と乳製品の消費量を減らすことが、 2030年までに、炭素排出量を70%削減する(1990年比)という北欧諸国の目標を達成する鍵だと考えています。
また当局は、家畜による温室効果ガスの排出量を削減する目的で、家畜に炭素税を導入することも発表しています。
畜産業が温室効果ガスに与える影響
そもそも畜産業が温室効果ガス排出に与える影響とは何でしょうか?
よく言われているのが、動物が生み出すメタンガスです。
牛や羊、ヤギ等の「反芻動物(はんすうどうぶつ)」のゲップやおならにはメタンガスが多く含まれています。このメタンガスは二酸化炭素の25倍もの温室効果があると言われており、世界の温室効果ガスの4%が牛のゲップによるものと言われています。
他にも飼料生産、輸送、加工、そして最終的な消費に至るまでの一連のプロセス全体で発生します。放牧地からのCO2排出を含めるかどうかにもよりますが、世界の排出量の14.0%から17.3%を家畜が占めていると推定されています。
これは、すべての車、飛行機、船などの交通手段からの排出量と匹敵するほどです。
具体的には、メタンガスは二酸化炭素に比べて、短期間で温室効果が約28倍も強いとされています。このため、畜産業が排出するメタンガスの削減は地球温暖化の解決において非常に重要な役割を担っていると言われています。
植物由来の食べ物推進プロジェクト
デンマークの国家計画の取り組みとして、植物性タンパク質の開発、植物由来の料理のシェフの訓練、全国的な情報キャンペーンなどの提案などのプロジェクトが進行しています。
例えば、新興企業のPlanetDairy は、エンドウ豆とソラマメ(空豆)から「ミルク」タンパク質を生産する「精密発酵」を通じて、天然ヨーグルトとデンマークの人気の牛乳チーズ「 Danbo」の植物由来バージョンの開発に取り組んでいます。
他にも、ナッツ、オート麦、大麦の生産量を増やしたり、キノコ(独特のうま味がある)の「料理としての可能性」を研究したり、陸上と沖合の両方で海藻の栽培を改善したり、海藻ベースのペストなど新しい持続可能な保存方法を開発したりしようとしている人たちがいます。
また、政府から資金提供を受けた実践的な取り組みは、デンマークのホスピタリティスクールでの新しいベジタリアン学位プログラム、シェフと学生向けの植物由来の料理に関する「ナレッジ センター」、そして通常は伝統的なフランス式の調理法で教育を受けている全国のシェフを植物由来のトレーニングなどです。
実はデンマークは世界最大の豚肉消費国
一方で、実はデンマークは世界最大の豚肉生産国の一つでもあります。
2019年の調査では、デンマーク人の約11.5%が「肉の消費を減らすつもり」で、27.5%が「すでに減らしていた」でした。しかし、57%は「肉の摂取量を全く減らすつもりがなかった」でした。
デンマーク政府は2021年に公式の食事ガイドラインを更新し、成人は1週間に350グラムの肉(ハンバーガー約3個分)を食べることを推奨していますが、現在の肉の消費量はその約3倍となっています。
畜産業界からの賛同が得られるかも焦点になってきます。オランダでは、2019年に畜産農場を買収して排出量を取り締まろうとした取り組みが、トラクターを使った大規模な抗議活動につながっています。ここ数カ月、フランス、スペイン、ベルギー、ブルガリアでは畜産業界主導の抗議活動が起こっています。
オーケン氏によると、デンマークはこの問題に慎重に取り組み、肉を主食とする畜産部門を取り締まるのではなく、新しい部門への需要とそれがもたらす経済的利益を促進することに重点を置く政策を考えていると言います。それがグリーン産業へのシフトです。
食肉産業をグリーン産業へ
オーケン氏は、デンマークの沖合石油・ガス部門の労働者が、現在では数十億ドル規模の輸出産業となっている沖合風力部門にうまく移行したのと同じ方法で、畜産業の労働者も再訓練を受けることでグリーン産業への転換を目指せると言います。
この戦略は、デンマーク最大の農業協会や、植物由来の食品部門と密接な相乗効果があるとみられる大規模な有機農業業界と緊密に協力して策定されました。
デンマークの大学、企業、その他の組織による研究・イノベーションパートナーシップであるAgriFoodTureは、デンマークが世界の植物由来食品市場の3%のシェアを獲得すれば、最大2万7000人の雇用を創出し、135億デンマーククローネ(DKK、19億ドル)をもたらす可能性があると見積もっています。
また、コペンハーゲン大学の研究によれば、デンマーク人が気候に優しいガイドラインに従って食事をすれば、年間1,000人の死亡を防ぎ、国の排出量を31~45%削減し、医療費を120億デンマーククローネ(17億ドル)節約できるといいます。
世界の植物由来の食生活への取り組み
他の国々でも、植物由来の道をたどっている事例がでてきています。
1月、韓国は、植物由来の代替食品、食品ロボット、食品アップサイクルの開発に向け、2024年の食品技術予算として639億ウォン(4,700万ドル)を計上すると発表しています。
ドイツ政府は、植物由来、精密発酵、細胞培養タンパク質の促進に、2024年の予算で3,800万ユーロ(4,100万ドル)を割り当てています。また、ポルトガルのベジタリアン協会は、植物由来タンパク質の国家計画を作成しました。
日本では
日本では、植物由来の食べ物=健康的な食品というイメージが多く、主に健康志向の人たちの間に広まっている食文化の一種という特性が強いです。また元々日本人は野菜、魚を中心とした食生活だったため、馴染みやすい食文化でもあります。
2021年8月20日、新型コロナウイルスワクチン接種担当大臣 河野太郎(こうの たろう)氏が記者会見にて、「プラントベース食品表示の明確化」について言及しました。
河野氏は記者会見の冒頭、イギリス バークレイズ銀行が発表した市場予測について触れ、プラントベース市場の今後の成長を「2029年の代替肉市場は1,400億ドル、畜肉市場の10%に達すると予測(イギリス バークレイズ銀行)している」と期待を示しました。
同氏は「これまで商品パッケージや飲食店のメニューにおける表示ルールが議論されてこなったことが企業の事業展開にとって足枷になっていた」と述べ、消費者庁含め、政府関係者により「プラントベース食品の表示ルールに関するQ&A」を作成した旨を発表しました。日本政府がプラントベース食品の表示ルールについて明確に言及したのは初めての事例です。
いま、スーパーやコンビニで買い物をしていても、プラントベースの表示を見かけるようになりました。
日本では畜産業の改革までのムードは今のところありませんが、今後の消費者の動向や世界の流れを受けて変化していく可能性は大いにありそうです。
今日、何を食べるかを考えることが、持続可能な地球の未来に繋がっているー。
そう考えると今晩の夕食の食材を選ぶ視点か変わってきそうです。
私たちの行動ひとつひとつが大事な時代であり、目覚めながら日々を過ごしていくことが希望の未来に繋がってるかもしれません。