「エネルギー×多様性」で未来を変える──女性リーダーたちが語った希望と戦略|Japan Energy Summit 2025レポート

「エネルギー安全保障」と「持続可能性」をテーマにしたアジア最大級のエネルギー国際フォーラム「ジャパン・エネルギー・サミット2025( Japan Energy Summit & Exhibition 2025 )」が、6月18日から20日まで、東京ビッグサイトで開催。HOPIUSは公式メディアパートナーとして参画しました。


政府、エネルギー企業、イノベーター企業などの関係者が参加。気候変動対策の潮流である「化石燃料から再生エネルギーへの転換」が世界的に求められる中、エネルギー安全保障と脱炭素を両立するための現実的な戦略から実践へ向けた情報共有や議論が行われました。
展示ブースでは、蓄電池技術や再生可能エネルギーのシステム、さらには水素やアンモニアの導入技術、また再生可能エネルギーへの橋渡しやバックアップエネルギーとして急速に注目が高まるLNG(液化天然ガス)の利活用やインフラ整備、地球環境への負荷を軽減するためのシステムなど、出展者がそれぞれの最新技術や製品などを紹介しました。
2か所の会議場では、120人を超える世界各国からのコーディネーター、パネリストが登壇。持続可能な未来を目指した国際協力の促進、エネルギー部門の持続可能な成長、クリーンエネルギーへの資金調達、2050年までにカーボンニュートラルの達成目標を掲げた日本の経済産業省の7次エネルギー戦略計画の実現方法など、多彩な観点から熱い議論を繰り広げました。

エネルギー分野でもっと女性の参画を!
“体験的戦略”を交えて世界的な課題を考えた熱いパネルディスカッションを展開
会期2日目の5月19日、興味深いパネルディスカッションが開催。タイトルは「Woman in Energy~エネルギー産業における女性の割合を増やすことで競争力を強化する」。
エネルギー分野における女性の参画は日本だけでなく世界でも、他産業と比べて低い状況が続いています。国際エネルギー機関(IEA)の調査によると、エネルギー部門に占める女性の割合はわずか16%。世界の労働力人口全体に占める女性の割合は約40%であることを考えると、その半分にも満たない現実は、大きな課題となっています。
新しい発想で、革新的な仕組みや技術を開発し、さらに取り入れることは不可欠となっているエネルギー業界。単なる労働力の多様性に止まらず、業界全体の持続可能性や競争力の向上、創造性ある発展のためには、女性の割合を高めることが重要です。
パネルディスカッションでは、各企業や組織において、パイオニアや代表として活躍してきた女性たちが、自らの体験や、それぞれの現場で取り組んでいることを紹介し、女性人材を惹きつけるための戦略について議論しました。

パネリスト
- 八尾祐美子(やお ゆみこ) さん
東京ガス執行役員 エネルギートレーディングカンパニー 原料部長
東京エルエヌジータンカー代表取締役社長 - ジェニー・ソロモンさん
ウッドサイド・エナジー(オーストラリア) 副社長(ポートフォリオ・ガバナンスおよび分析担当) - 三原寛奈(みはら かんな)さん
BHP ジャパン 代表取締役社長 - 結城百代(ゆうき ももよ)さん
石油資源開発(JAPEX) 海外事業第二本部アジアカーボンニュートラル事業部上級主幹
モデレーター
- デニス・マニックスさん
Lean In Network 会長・総括理事
(以下、発言を要約)
モデレーターのデニス・マニックスさん(以下、マニックスさん)の挨拶でセッションが始まりました。
「このセッションは3日間のうちで最高のものになるでしょう。参加しなかった人たちは、後でこのセッションのことを聞いて、『参加すればよかった』と後悔するはず。今回登壇してくれた皆さんの言葉は、それほど価値のあるものです」。
はじめにマニックスさんから3つの問題提起がなされました。
- どうすれば女性の参画をさらに進められるのか
- どうすれば女性の参画を増やしてイノベーションを促進できるのか
- 中間管理職に達したあたりで女性が会社を辞めるだけでなく、業界から去ってしまうという現実にどう対応すべきか
さらにマニックスさんは「多様性の重要性をもっと推進する必要があります。イノベーションを語る際の議論で欠けているのは、より多くの女性を取り込み、職場に多様性をもたらすことだと私は思います。それは、単なる配慮ではなく組織の民主性を高めるという点でも、今、最も求められていることだと思います」と語りました。
以下、モデレーターとパネリストとの応答が続きます。
マニックスさん:
最初の質問は、「ご自身がこれまで仕事をしてきた中で、自分の成功に役立ったと思う自分自身の資質や特徴」について。
これについてはどうお考えでしょうか。
結城百代さん:
私は自分が「成功した」とは思っていません。
私はごく普通の人間で、皆さんと同じように困難に直面し、壁にぶつかり、苦労しながらやってきました。でも、ありがたいことに、私には支えてくれる人や同じような気持ちを共有できる女性たちがいて、ともに活動してこられました。
幸運な出会いがあったことは大きかったです。
三原寛奈さん:
「情熱」が一番大きかったと思います。困難なこともありましたが、それ以上に仕事を楽しめてこれました。
特に、再生可能エネルギーの業界を立ち上げ、新しいプロジェクトをつくり上げることはすごくやりがいのあることです。
また、「人とのネットワークを築く力」も私の強み。人と関わることが大好きで、エネルギーへの情熱を他の人と共有できるのがうれしいんです。
ジェニー・ソロモンさん:
私はこれまで複数の会社を経験してきましたが、会社によっては、自分が「スター」として扱われることもあれば、ただの「珍しい存在」として見られることもありました。
私が意識したのは、「自分の価値が感じられる場所で働く」ということ、「自分が成長すること」でした。
今の会社には2023年の4月に入りましたが、翌年の6月には新しい役職に就きました。こうしたチャンスに「イエス」と言えること、それが私のキャリアの原動力だったと思います。
マニックスさん:
興味深いデータがあります。企業に応募する際、女性は企業が提示する求人条件の80〜90%を自分が満たしていなければ応募しない傾向がある一方で、男性は30〜35%しか条件を満たしていなくても「やってみよう」と応募します。
こうした心理的なハードルを打ち破っていくことが、私たち一人ひとりに求められているのでは?
八尾祐美子さん:
実は私も、結城さんと同じように、自分が「成功した」とは思っていません。
執行役員という立場にはいますが、「特別な人間」と思ったことはありません。ただ、ひとつ違いを挙げるなら、「正直であること」。正直にものを言うので、「ちょっと言いすぎじゃない?」と思われることもあります。
でも、私が困っているときに、周りの人たちが本当に助けてくれるんです。支えてくれる仲間がいるおかげで、私は今の立場にいられると思っています。

マニックスさん:
私の調査でも、多くのシニア女性管理職の方が「自分の考えを言うことができるようになるまでに時間がかかった」と。
ジェニーさんも以前、「自分の本音を語れるようになること、そして語る勇気を持つことが大切」と話してくれましたね?
ジェニー・ソロモンさん:
はい、当社では「自分らしくあること」や「意見を言える環境」が大切な価値観です。
社員が安心して声を上げられているかを測るために、定期的に調査を実施しています。自分の意見を言うことは時に勇気が要ることですが、当社はそれを「誠実さ」や「勇敢さ」として評価します。
たまに私が少し言いすぎたかも…と思うことがあっても、「あれはいい発言だった」と言ってもらえる。これはとてもありがたいことだと思っています。
マニックスさん:
さて、先ほども少し触れましたが、2024年の「ジェンダーギャップ指数」で、日本は146か国中114位という低い順位です。ここから進むべき道はただひとつ、「前に進む」しかありません。
次の問いですが、「どうすれば、いったん業界を離れた女性たちを呼び戻せることができるのか?」そして、「人気のないこの業界に、女性たちをどう惹きつけていけるのか?」です。
三原寛奈さん:
当社BHPは、鉱山事業が中心のため、多くの労働者は鉱山で働いています。
鉱山は地方にあり、週単位で現場と、都市部の家族のもとを行き来しなければならず、非常に厳しい労働環境でした。作業現場は物理的にも危険なところが多く、伝統的に女性労働者はきわめて少数でした。
ところが、私たちは2016年に「インクルージョンとダイバーシティ(包摂性と多様性)」を本格的に推進しはじめ、それで状況が大きく変わりました。取り組みの例としては、自動化技術の導入により、重労働を減らし、男女問わず働きやすい環境にしました。鉱山は地方にありますが、都市部からでも遠隔でオペレーション業務を可能にしました。
これらの改革によって、BHPでは女性比率40%を達成することができました。
(会場からため息)

八尾祐美子さん:
当社・東京ガスは、一般家庭や企業にガスを供給するB2C(対消費者)型事業です。
家庭でのガス利用者は、調理や給湯などを担う女性が多くなります。家庭向けガス機器の営業や広報において、女性社員の力が非常に重要です。そうした背景もあり、女性の採用には以前から積極的に取り組んできました。
さらに、いったん退職した社員に声をかけて、現在の会社の取り組みや制度を説明し、復職を促す制度もあります。今は環境問題やエネルギー分野に魅力を感じて入社したいという若者も増えています。
男女問わず、志ある人たちに業界へ来てもらえるよう努めています。
マニックスさん:
「出産休暇(産休/マタニティ・リーブ)」や「育児休暇(育休/パタニティリーブ)」制度、そしてワークライフバランスを考えた柔軟な働き方についての取り組みはどうなっているのでしょうか。
八尾祐美子さん:
東京ガスでは父親向けの育児休暇を強く推進しています。昨年の実績では、対象となった男性社員の99%が実際に休暇を取得しました。平均取得日数は63日間となり、これは本当に素晴らしいことだと思います。
休暇取得は性別を問わず取得するようになり、職場も社員の育休中の対応を考えるようになっています。この変化は、組織にとって非常に前向きなことであり、育児経験を経て戻ってくる社員は、チームマネジメントにも新しい視点をもたらしてくれます。私はこの変化をとても素晴らしいことだと思っています。
(会場から感嘆の声)
ジェニー・ソロモンさん:
当社では、産休・育休に加えて、柔軟な勤務制度が非常に整っています。たとえば、パートタイム勤務を前提とした職務システムや、2人でひとつの役割を担うジョブシェア制度もあります。
子どもの成長や家庭の状況に応じて、勤務時間を柔軟に変えたり、自宅でのリモートワークを取り入れた勤務モデルも取り入れられ、家庭と仕事を両立しやすくなっています。

結城百代さん:
JAPEXでも産休・育休制度や、在宅勤務などの柔軟な働き方を取り入れています。
新型コロナの影響で、在宅勤務は以前よりもずっとやりやすくなりました。これはパンデミックがもたらした数少ない「副産物」と言えるかもしれません。思い返せば10年前の「Gastech」というエネルギーイベントで、私は登壇して、日本のエネルギー業界の遅れについて述べましたが、残念ながら、その状況は今も完全には変わっていません。
けれど、それでも進歩はしています。たとえ小さな一歩でも進み続けることが何より大切だと思います。
マニックスさん:
最後の質問です。
企業が本気で女性を登用するには何が必要でしょうか。企業がすべきこととは?女性の登用や活躍を本気で進めるために「これだけはやるべきだ」と思うことをぜひ教えてください。
八尾祐美子さん:
結局のところ、すべては「個人を見ること」だと思います。「女性だから」と性別による分類ではなく、目の前の一人ひとりの能力や資質をしっかり見て評価することが大切なことだと思います。
ジェニー・ソロモンさん:
「私たちには実現できる」という前提で、いろいろなことに取り組んでいく必要があります。
社会ではさまざまな出来事が起こりますが、私たちは着実に取り組みを進め、変化を生み出していけると信じています。
三原寛奈さん:
日本の企業全体に向けてメッセージを伝えたいです。
「ダイバーシティ=多様性」は、単なる社会的意義ではなく、企業競争力の源泉そのものです。今、日本は少子高齢化・労働力不足に直面しています。ダイバーシティをきちんと進められなければ、人材が確保できず、企業は競争力を失います。
だからこそ、BHPではダイバーシティに関するKPI(指標)をビジネスの成果と同じように厳密に管理しています。これが本気の姿勢だと思います。
結城百代さん:
私が一番大切だと思うのは、「信頼」です。一緒に働く仲間を信じること。
それが男性であろうと女性であろうと、同じように信頼し、同じ機会を与えること―それが、私の願いです。
マニックスさん:
私たちが会社で、そして個人として、この課題にお互いにどう関わっていくのか―それを見つめ直すことが、未来を変える力になります。この素晴らしい女性たちの声を聞けたことに、心から感謝します。ありがとうございました。
著者あとがき
今回、登壇したモデレーターやパネリストの提言は、私たちの社会が抱える課題解決に直結しています。
異なる経験、価値観、視点を持つ人たちが参画することで、社会の現実に即した意思決定や研究・技術開発、サービスやシステムの拡大につなげることができます。公平で平等で偏りの少ない社会の実現も目指せます。
さらに女性を含めてあらゆる人々の能力が十分に発揮されることで、労働力人口を拡大し、少子高齢化が進む日本でも経済成長や生産性の向上が見込まれるでしょう。
マッキンゼーの2020年の報告書 「Diversity Wins」=「多様性の勝利」や、国連UN Women “Women’s Participation in Politicks ans Peace”を一例として、多様性のある職場や社会、政治参画は、創造性・革新性が高まり、社会福祉も充実し、企業では女性役員の割合が高いほど業績が良いという報告もされています。
それぞれの職場や団体、地域では、女性の参画推進や多様性の実現に取り組んでいる過渡期かもしれません。
今回登壇されたモデレーターやパネリストの体験を知り、勇気をもらった方も多いのではないでしょうか。
誰もがその人らしく生き、働き、力を発揮できる社会へ。変化は気づいた人から、取り組んだ人から始まります。
私たち一人ひとりが手を取り合い、性別を超えてすべての人が活躍できる世界へともに進んでいきましょう。あなたもその一人になりませんか?