本気で挑む。川崎市が描く再生可能エネルギー100%の社会

再生可能エネルギーの必要性
「気候変動への対策が必要です」と聞いて、皆さんはどんな印象を持たれるでしょうか。
「もちろん知っているよ。最近はさまざまな取り組みも増えているし」と思う方も多いかもしれません。
しかし、まだまだ現状のままでは、約100年後の2100年には、想像を超える暑さが日常になる可能性があります。
環境省が公開している未来の気温シミュレーションでは、少しの外出ですら危険に感じられるような猛暑が描かれています。夏のあいだ、孫やその子どもたちが数ヶ月間、家の外に出られない――そんな未来が、現実になってしまうかもしれないのです。

2015年のパリ協定では、世界の平均気温の上昇を工業化以前と比べて2℃より十分低く抑え、1.5℃以内にとどめる努力をすることが国際目標として定められました。
この目標の達成に向けて、日本も2050年までに、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しています。

しかしながら日本は諸外国と比べて、気候変動への意識や行動がまだ十分に高まっていないのが現状なのです。
より真剣で早急な対策が求められています。

こうした背景の中で、神奈川県川崎市では、2050年の脱炭素社会の実現に向けて、さまざまな取り組みを進めています。
本記事では、その一環として川崎市立の学校で始まった再生可能エネルギー100%電力の先進的な取り組みをご紹介します。
再生可能エネルギー100%電力の小学校
川崎市立の学校では、屋上に設置された太陽光発電と、廃棄物発電によるクリーンな電力を組み合わせ、その双方の電力を自分たちの学校に活用する、全国でも珍しい再生可能エネルギー100%電力による地産解消の取り組みを実現。対象となる学校は、記事公開時点で26校にのぼり、2025年7月14日から順次導入が始まっています。
また、ポータルサイト「かわさき太陽光広場」では、各学校の太陽光パネルによる発電量をリアルタイムで公開し、取り組みの効果を可視化しています。

上図の左側にある“太陽光発電の電気”は、学校の屋上に設置された太陽光パネルによって発電された量を示しています。
こうした学校での太陽光発電は「スクール発電所」として位置づけられ、導入を進めています。

しかしながら、太陽光発電は天候に左右されるため、それだけで安定的な電力をまかなうのは難しいのが現状です。
そこで安定的な再生可能エネルギーとして活用されているのが、さきほどの図の右側にある、資源物以外の普通ごみをごみ焼却処理施設で燃やし、そこで発生する熱を利用した廃棄物発電です。この電力は「川崎未来エナジー株式会社」が提供する「川崎産グリーン電力」として、2025年4月時点で川崎市内ほぼすべての市立学校をはじめとする、248の市公共施設に供給されています。

また川崎市では以前から、ごみの分別や環境問題の背景・対策などを学ぶ環境学習、「出前ごみスクール」を行ってきました。
今回新たに「スクール発電所」や「川崎産グリーンエネルギー」に関する内容が盛り込まれたプログラムが、川崎市立菅生小学校で実施され、HOPIUSはこの学びの現場に密着し徹底取材。
子どもたちが環境と向き合う、リアリティあふれる教育の現場をぜひご覧ください。
菅生小学校で行われた「出前ごみスクール」
まずは、家庭から出る日常のごみが、ごみ収集車によって回収され、市内のごみ焼却処理施設に運ばれるまでの流れを子どもたちに説明。その中で、3R(リデュース=削減、リユース=再使用、リサイクル=再資源化)の重要性についても理解を深めます。

次に、適切なごみ分別を行うことで、廃棄物発電によって環境にやさしい電力が生まれることを学ぶ子どもたち。
その後は、実際に用意されたサンプルのごみを手に取り、プラスチックやミックスペーパーなどの「資源物」と焼却される「普通ごみ」の分別に挑戦です。

答え合わせの時間には、一つひとつの資源物や普通ごみについて、その性質や分別の理由を職員から解説。子どもたちは真剣な眼差しで耳を傾け、学びを深めています。
(お恥ずかしながら、私自身もこれまで間違って理解していたものもあり、ハッとさせられる場面も。)

続いて子どもたちは屋外に出て、分別された普通ごみが、どのように回収されるのかを実際に体験します。
なんと、小学校の校庭には本物のごみ収集車がずらりと並び、川崎市の環境学習に対する本気度が伝わってきます。

大人たちがしっかりと見守るなか、子どもたちは好奇心いっぱいにごみの投入を体験し、笑顔がこぼれます。

屋外授業の最後には回収されたごみを収集車から、ごみ焼却処理施設の貯留施設へ搬入するデモンストレーションも実施。
迫力満点のシーンに、子どもたちからは大きな歓声が上がります。
約10秒の動画から、その盛り上がりをぜひ感じてみてください。
再び屋内に戻り、プログラムはいよいよ終盤へ。
地球温暖化の原因や今後さらに悪化した場合に生じるリスク、温暖化対策となる再生可能エネルギーの種類や川崎市の取り組みについて、子どもたちにも分かりやすい言葉で丁寧に解説が行われます。


そして温暖化対策への取り組みとして、ここではじめて、太陽光を利用した「スクール発電所」や、再生可能エネルギーである「川崎産グリーン電力」を活用し、学校で使用されている電力に再生可能エネルギー100%電力が供給されていることが説明されます。
前提となる知識を学び、実際に体験を重ねたうえでこの話を聞くことで、子どもたちは表面的な知識ではなく、実感を伴って深く納得しているようにみえます。

質疑応答では、子どもたちから次々と高度な質問が寄せられ、応答する職員の方が驚くような場面も。

最後の感想パートでは、「学んだことを活かしたい」「家でもごみの分別をしっかりやる」など、前向きで意欲的なコメントが数多く寄せられました。
「出前ごみスクール」を終えた子どもたちが、学んだことを家庭で大人に伝えている姿が、目に浮かびます。

教育とは、時間も労力もかかる地道な取り組みですが、川崎市はハード面の整備にとどまらず、ソフト面――つまり文化や意識そのものを変えていくことにも本気で向き合っている。
そんな思いがひしひしと伝わってくるプログラムでした。
最後に、このような先進的な取り組みを進める川崎市の背景や姿勢について、もう少し詳しくご紹介したいと思います。
川崎市の今後の展望
川崎市では、2050年の脱炭素社会の実現に向けて、2022年3月に「川崎市地球温暖化対策推進基本計画」を改定しました。今回の小学校での取り組みも、その具体的なアクションの1つとして位置づけられています。
「川崎市地球温暖化対策推進基本計画」は、100ページ以上にわたって丁寧に構成された内容で、脱炭素社会の実現に向けた明確なロードマップが示されています。

具体的な方針が各領域ごとに40の施策に整理されており、網羅性と具体性を兼ね備えた、実行イメージの湧きやすい構成です。

もちろん、全国のさまざまな自治体が脱炭素に向けた取り組みを進めていますが、川崎市のように、計画と実行の両面で高い水準を保ちながら“本気で”進めているチームは、決して多くないかもしれません。
その背景には、川崎市がかつて工業都市として発展し、環境への負荷が大きい街だったという歴史があります。
「工業都市としての歴史があるからこそ、現・福田市長のリーダーシップのもとで、市全体が一体となって脱炭素に取り組んでいるんです。」
取材中、職員の方からそんな熱い言葉も聞かれました。
そして、私たち一人ひとりにも、まだまだできることはたくさんある。
子どもたちの姿や、川崎市の職員の皆さんの取り組みを通じて、改めてそのことを教えられた気がします。
環境問題への取り組みに“裏道”はありません。
誰か任せではなく、すべての人が力を合わせてこそ、未来は変わっていきます。
このかけがえのない地球を、次の世代に受け渡していくために。――川崎市の取り組みから、ぜひ一人ひとりが考えていければと思います。
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