BEYOND2025「再分配のはじまり」──taliki中村多伽が描く、誰をも救う新しい合理性

【HOPEFULなひと】
ホピアスの想い」をもとに、人類に希望を見出し、持続可能で愛ある世界を目指して活動している人たちを紹介します。
今回は、京都大学在学中の2017年、22歳の時に、社会課題解決に挑むプレーヤ―を支援する株式会社taliki(たりき)をひとりで設立。以来8年の間、社会起業家を支え続けてきた代表の中村多伽(なかむら・たか)さんにインタビュー。
ホピアスは、10月3日・4日に開催されるソーシャルカンファレンス「BEYOND2025」にメディアパートナーとして参加します。その主催者である中村さんが掲げた今年のテーマは「再分配のはじまり」。混沌とした2025年の世界で、なぜ今このテーマなのかを伺いました。

 『誰もが生まれてきてよかったと思える世界へ』

──まずは、talikiという会社について、どんな会社ですか?

「株式会社talikiは『誰もが生まれてきてよかったと思える世界へ』をビジョンに掲げ、2017年に立ち上げた、社会課題解決に挑むプレイヤーの伴走者です。
「taliki」という社名は「他力本願」が由来です。特徴は、多角的に支援できること。

起業初期にともに走り、起業家や事業を支援する インキュベーション機能。(400名以上の卒業生)
投資家から資金を集め、社会課題解決の事業へ投資を行う ファンド機能。(17社へ出資)
事業の経済的成長を後押しする 拡大支援機能
大企業と社会課題を解決する企業を繋げ、新規事業や協業を実現している オープンイノベーション機能。(丸井グループ、西部ガスホールディングスなど)
さらに、400社以上の支援実績と200社の創業者ヒアリングをもとに、社会課題型ビジネスの知見を体系化し、専門性を活かしたリサーチペーパーの発行などを行う シンクタンク機能も有しています。

支援する領域は、身近な暮らしから地球規模の課題まで幅広いです。

  • 高齢化社会を支える 福祉・介護
  • 未来を担う子どもを育む 教育・子育
  • 気候変動や災害に挑む 環境・防災
  • 持続可能な社会をつくる 食と農業
  • 地域や人を結び直す コミュニティづくり

社会の隅々に横たわる“まだ解かれていない問い”に光をあて、資金・ノウハウ・ネットワークを束ねて、挑戦を事業として成立させる。それがtalikiの存在意義です。」

──BEYONDを始めたきっかけは

「BEYONDを始めたのは2018年。きっかけは『社会課題に取り組む人たちにリソースが集まっていない』と感じたことでした。

起業家同士は横でつながっているように見えて、実は分野や領域を超えた出会いが少ない。行政や投資家、大企業とも交わる場がほとんどなかった。
だったら、そういう人たちが一堂に会して、共通のテーマで語り合える場をつくろう


そうした思いから、第一回BEYONDには全国から様々な団体が参加。社会起業家・投資家・行政担当者など、立場を越えた出会いが新たな連携を生みました。
以来8年間で累計2,500人以上が参加し、「支援する/される」を超えて共に考える場として成長してきました。」

2024年のBEYONDでのピッチ

再分配のはじまり

──今回2025年のテーマ、「再分配のはじまり」は非常に興味深いと感じています。この背景について伺いたいのですが、中村さんにとってそもそも「再分配」とはどういうイメージでしたか?

2024年のBEYOND会場にて

「2016年、アメリカでトランプ氏が大統領選で初当選した際、共和党は企業への税制優遇や規制緩和を打ち出していました。その一方で、『トリクルダウン(※1)は起きていない。企業優遇は経済全体には寄与していない』という批判記事を読んだのが、再分配を意識する最初のきっかけだったと思います。

当時、私はニューヨークのビジネススクールに留学し、現地報道局でアシスタントプロデューサーとして大統領選や国連総会の取材に携わっていました。ちょうどその時期に『どうやったら社会課題は構造的に解決するのか』を真剣に考えていたのです。
世の中は“お金持ちをさらにお金持ちにする仕組み”で溢れている一方で、社会課題を解決する仕組みはなかなか進まない。そこで、talikiを立ち上げる意義を強く実感したことを覚えています。

一般的に“再分配”というと、政府が税金を使って格差を是正するイメージが強いでしょう。しかし私は、それは政府に限られた話ではなく、ビジネスの世界でも成立する概念だと考えています。
企業や投資家が得た利益をどう配分するか。そのときに社会への投資が“善意”ではなく“合理性の中で成立する”ことこそ、今回のテーマに込めた思いです。

(※1)トリクルダウン理論

「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がこぼれ落ち、経済全体が良くなる」とする経済理論である。18世紀の初頭に英国の精神科医であるマンデヴィルによって初めてこのような考え方が示され、その後の古典派経済学に影響を与えた。税制優遇や規制緩和といった政策は、富裕層や大企業による投資を促し、経済成長を加速させると考えられていた。2014年のOECD(経済協力開発機構)の研究では、貧富の格差拡大が経済成長を大幅に抑制することが示され、トリクルダウン効果が否定されていることもあり、現在は批判的な意見が多い。

──ありがとうございます。創業時から念頭にあった「再分配」について、2025年のBEYONDのテーマとして今回改めて選ばれたのはなぜですか?

2024年のBEYONDセッションを真剣に聞く参加者

「BEYONDを毎年開催してきて、常に課題になるのは“大企業や金融機関が合理性の中でどう資金を出してくれるか”という点でした。これまでも議論してきましたが、今年はあえてそのテーマに正面から向き合おうと決めました。

最初期(2017〜18年頃)は、“合理性があるかどうか”よりも、とにかく社会課題に“関心を持つ”ことや“関わる”こと自体が中心でした。しかし、時代が進むにつれて“インパクト投資(※2)”という投資行動が広がり、社会や環境に良い影響を生み出したいという機運も高まってきました。

一方でその動きの中でも、『結局、経済的な成果に偏ってしまう』『本当に必要な領域には資金が届かない』という課題がはっきりしてきたのです。
資本主義の枠組みの中で挑戦してきたからこそ見えてきた、価値のある課題だと感じています。だからこそ今のタイミングで、“再分配”を真正面から掲げることにしました

(※2)インパクト投資

収益などの財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的・環境的は良い変化を同時に生み出すことを意図した投資行動。投資判断の軸に「リスク」「リターン」に加え「インパクト」の第3軸を取り入れ、特定の社会課題の解決や持続可能な社会の実現を目指す。

──再分配する対象として「資金、知見、技術、情熱」といったリソースを挙げられていますが、実際に現状、それらが届いていないと感じることはありますか?

「わかりやすいのは、毎年発表されるインパクト投資のレポート(※3)です。投資の配分先を見ていると、領域やフェーズ、投資対象のグループに大きな偏りがあります。
“社会によいことに資金が回る”という期待はあるものの、実際には儲かりにくい領域や、収益化の仕組みがまだ整っていない分野には依然として資金が届かない。
レポートを読んでいても、『結局、収益化が難しいことは避けられている』と痛感します。」

(※3)インパクト投資のレポート

(※3)一般財団法人社会変革推進財団とGSG Impact JAPAN National Partnerが共同で毎年公表している「インパクト投資市場調査レポート」。投資残高の推移や配分先の特徴を示し、日本におけるインパクト投資の現状と課題を把握できる唯一の包括的調査。
https://www.siif.or.jp/information/54496/

成長と社会課題への再分配の両立

──「成長」と「社会課題への再分配」は一見、相反するもののように感じます。資本の成長は儲かる分野に再投資される一方で、儲かりにくい社会課題にお金は流れにくい。この両立は本当に可能でしょうか?

「本来は両立できるはずなんです。
トリクルダウンが起きなかったのは、“成長を志向する人が再分配するだろう”と期待されたにもかかわらず、それを実行する合理的な仕組みが存在しなかったからです。

合理性の枠組みさえあれば、成長と再分配は“車の両輪”になり得る。
今回BEYONDで議論したいのは、まさに『どうすれば合理性の中で再分配が起こるのか』という点です。

たとえば、地域に根ざすインフラ企業。地域経済が活性化し、子育て世帯が増えなければ、自社のビジネスも先細りしてしまう。だからこそ、中長期の観点で考えると地域課題の解決に投資する合理性があるわけです。
そうした“合理性”を一つでも持ち帰ってもらえれば、成長と社会課題解決を両立する手がかりになるはずだと思っています。」

BEYONDが生んできた成功事例

──過去のイベントでは、どんな成功事例がありましたか?

「様々なセクターを巻き込んでいくことを目標にしていた時期に、BEYONDを通じて京都市が応援してくれるようになったのは、大きな成果の一つです。

また、参加者のSNSには『社会課題を解決するような仕事がしたいと感じた』という声もありました。
イベントをきっかけに“社会に向き合う視点”が開かれる
そうした気づきを得てもらえたことが、大きな成功だと感じています。

さらに行政の方々にとっても、『社会課題に熱意を持つ人材をどう呼び込むか』を考えるきっかけになっています。初年度から全国30団体を招き、家入一真さんをはじめ多くの方に参加いただき、大きな盛り上がりとなりました。
毎年テーマは変わりますが、その積み重ねが今につながっています。」

2024年のBEYOND表彰式

──BEYONDに参加する参加者は何を持ち込むと有意義な時間になりますか?

“問い”だと思います。
たとえば『何をもってインパクト投資と呼ぶのか』『虐待という課題をビジネスで解決できるのか』。
そんな、自分の中でまだ解けていない問いを持ち込んでほしいんです。

ネットやAIで調べても答えが出ない複雑な問いを共有することで、セッションや交流会から深い議論が生まれ、意識のパラダイムシフト(劇的な変化)につながります。
問いを持った人たちが真剣に議論を重ねることで、大きなうねりになるのを毎回感じています。」

2024年のBEYONDトークセッション

BEYOND2025を超えた先に

――2025年のテーマである、“再分配”が根付いた未来はどのような社会になるのでしょうか?

2024年のBEYOND会場

「社会課題に正面から取り組む人が、“当然のように価値あるプレイヤー”として認められる社会です。

今は『社会課題解決は大事だけれど、まだ方針が見えない』『あまり興味がない』といった声もあります。
しかし、社会の見過ごせない課題は、興味や方針の有無で片付けられるものではありません。本当に必要なことをしている人に資源が流れないのは、“社会のバグ”だと考えています。

だからこそ再分配によって、誰もが必要だと感じる活動をする人たちに、当たり前のように注目とリソースが集まる社会へと転換していきたいのです。

──BEYOND2025をきっかけに始めたいことはありますか?

taliki 取締役の原田 岳さんと談笑する中村さん

「一つは、財団の立ち上げです。
私たちはこの8年間、『どうすれば社会課題を事業化できるのか』や『どうすればそこにリスクマネーを集められるのか』を試行錯誤してきました。その中で、今の資本主義の仕組みでは向こう十年は難しいと感じる領域が、はっきりと見えてきたのです。

たとえば若年層の貧困。社会課題専門に投資をしてきた私たちでさえリソースを回すのが難しいのですから、こうした課題はますます深刻化していくでしょう。
だからこそ、寄付を基盤にお金を流す仕組みを新たに作りたいと考えています。

もう一つは、エンタメ分野への挑戦です。
直線的な解決策だけでは救えない人を、音楽や映画のような文化的アプローチで支える構想です。

たとえばメンタルヘルスの分野では、通院やカウンセリングが必要な人がそれに気づかず、問題を深刻化させてしまうケースがあります。その場合、どれだけサービスを整えても届かない。一方で、『音楽に救われた』『映画で気持ちが軽くなった』という声は少なくありません。
人々が能動的に触れるエンタメを通じて、間接的に人を支える方法を模索していきたいです。

──最後に、BEYOND2025への意気込みをお願いします。

『一人じゃない』と感じられる場にしたい。ぜひ楽しみに来てください

著者あとがき

株式会社talikiは、身近な暮らしから地球規模の課題まで、支援先の領域を限定していません。
掲げるビジョンは「誰もが生まれてきてよかったと思える世界へ」。その実現に向けて、合理性と実践を積み重ねながら、人々の視界を少しずつ開き、行動を促してきました。

今回のBEYOND2025のテーマ「再分配のはじまり」を耳にしたとき、胸が高鳴りました。資金や人、情熱が“儲かること”だけに流れるのではなく、社会や環境に資する活動へと再分配されていく──それこそが、新しい社会の仕組みを築く基盤になり得ると感じたからです。

再分配は、従来の資本主義の枠組みでは設計が難しく、その動機や合理性をいかに見出すかが極めて重要です。だからこそ、現場の最前線で活動するプレイヤーや専門性を持つ人々が集い、この課題に共に真剣に向き合う“リアルな場”としてのBEYONDに大きな価値があると思います。

私自身も“問い”を携え、この場に参加し、そのうねりの中から新しい合理性を見つけ出したいと考えています。

「BEYOND 2025」

「BEYOND」は、社会課題解決に取り組むプレイヤーを支援する株式会社talikiが主催してきたソーシャルカンファレンスです。2018年からスタートし、これまでに8回開催、累計2500名以上が参加してきました。
社会起業家・投資家・企業・非営利・行政など、セクターや世代を越えた参加者が集い、“支援する/される”の関係を超えて、共に考え、共に育てていく出会いと共創の場です。

「BEYOND2025」はtaliki・京都市・京都リサーチパークによる初の実行委員会体制により、1,000名規模で開催。
「再分配のはじまり」をテーマにした7つのトークセッション・4つのピッチ・40近いブース出展・VCと起業家の壁打ちなど、多彩なコンテンツを通して、社会課題解決のための学びや出会い、実践のきっかけになる2日間です。

日時

10月3日(金)12:00~17:35(開場:11:00)
10月4日(土)11:00~18:00(開場:10:00)※時間は変更になる可能性がございます。

場所

京都リサーチパーク4号館

中村 多伽(なかむら・たか)さん
株式会社taliki 代表取締役CEO/talikiファンド 代表パートナー 

1995年生まれ、京都大学卒。大学在学中に国際協力団体の代表としてカンボジアに2校の学校建設を行う。その後、ニューヨークのビジネススクールへ留学。現地報道局に勤務し、アシスタントプロデューサーとして2016年大統領選や国連総会の取材に携わる。様々な経験を通して「社会課題を解決するプレイヤーの支援」の必要性を感じ、帰国後に株式会社talikiを設立。
400以上の社会起業家のインキュベーションや上場企業の事業開発・オープンイノベーション推進を行いながら、2020年には国内最年少の女性代表として社会課題解決VCを設立し投資活動にも従事。Forbes JAPAN2023「世界を変える30歳未満」選出。

株式会社talikiは「誰もが生まれてきてよかったと思える世界へ」を掲げ、社会課題解決に挑むプレイヤーを支援する会社です。2017年の設立以来、起業初期の伴走や資金提供、事業拡大のアドバイス、大企業との協業支援など多角的に活動。さらに400社超の支援実績と豊富なヒアリングを基盤に、社会課題型ビジネスの知見を体系化したシンクタンク機能も持ちます。福祉・教育・環境・防災・食・地域活性など幅広い領域で挑戦を事業として成立させ、持続可能な社会の実現を後押ししています。
https://www.taliki.co.jp/

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