「ゴールドリボン」をご存知ですか?社会人学生が広げる、小児がん啓発の輪

小児がんと向き合う子どもたちを支えるシンボル、「ゴールドリボン」をご存じでしょうか。

まだ広く知られていないこのリボンの意味を社会に伝えるため、早稲田大学ビジネススクール「企業経営と社会変革ゼミ」(鶴谷ゼミ)の社会人学生のメンバーは、2021年から認定NPO法人キャンサーネットジャパン(※1)と啓発活動を続けています。なぜいま、小児がんの啓発が必要なのか──その背景と広がる取り組みを本記事でお伝えします。

本記事は、ホピアスの共創ライター(※2)市川さんと共に、小児がん啓発の現場を取材・執筆しました。現場の声を大切にしながらお届けします。

(※1)認定NPO法人キャンサーネットジャパン(CNJ)

2001年設立。厚生労働省や学会とも連携し、がん患者や家族、市民に信頼できる情報を届けることを使命とする日本有数の認定NPO法人です。専門医・研究者・患者会と協働し、公開セミナーやシンポジウム、ウェブでの情報発信を実施。乳がんの「ピンクリボン」や小児がんの「ゴールドリボン」など各種啓発キャンペーンも主導し、社会全体の理解促進と患者支援に取り組んでいます。

(※2)共創ライター

ホピアスの「希望の循環」を共につくる外部ライターのこと。取材や執筆を通じて、ホピアス編集部や取材先と協働しながら、希望の物語を読者に届けていきます。

ゴールドに染まった神宮球場「ゴールドリボンナイター」

村上宗隆選手が3本のホームランを放って活躍

2025年8月30日、残暑厳しい明治神宮球場。東京ヤクルトスワローズの試合が行われたこの日、観客席にはいつもと違う色が広がっていました。
小児がん啓発のシンボルであるゴールドリボンが、スタンドや来場者の胸元にきらめいていたのです。

試合開始前には、子どもたちが勇気をもってグラウンドに立ち、観客から大きな拍手を浴びました。その姿を見守るご家族の表情には、緊張と喜びが入り混じっていました。
ゼミのメンバーも会場に立ち、募金活動や子どもたちのサポートを実施。野球という多くの人に愛される舞台だからこそ、社会的なメッセージがまっすぐに届く瞬間となりました。

そして、この日の主役はスワローズの村上宗隆選手。なんと3本のホームランを放ち、球場は大歓声に包まれました。
その活躍に小児がんの子どもたちは目を輝かせ、「自分も頑張ろう」と勇気をもらったと語ってくれました。
スポーツの力が子どもたちの心を動かし、啓発活動の場をさらに意味深いものにした瞬間でした。

ゴールドリボンが意味するもの

がん啓発の「ピンクリボン」は広く知られていますが、「ゴールドリボン」の認知度はまだ高くありません。

ゴールドリボンは小児がんと闘う子どもたちやその家族を応援する世界共通のシンボル。
ゴールドは、子どもたちの輝く未来を意味しています。身につけたり掲げたりするだけで、子どもたちの未来を共に支えたいという想いを表すことができます。

9月は「世界小児がん啓発月間」。

子どもも「がん」になること、小児がんの治療は向上していても成長期に治療を受けたことにより、晩期合併症を抱えながら社会生活を送る小児がんサバイバー達が大勢いることを広く知ってほしい。そして、今まさに小児がん治療中の子ども達を、みんなで応援するために、ゴールドリボンナイターは2022年に初めて開催されました。

その後、毎年開催され、今年で4回目。東京ヤクルトスワローズの選手たちも「ゴールドリストバンド」を着用してプレーし、小児がんの子ども達を応援しています。

ゴールドリストバンドをつけて応援する特別な1日

世界を包む光 ― ゴールド・セプテンバー(世界小児がん啓発キャンペーン)

ゴールド・セプテンバーは、1970年代にアメリカで始まった「小児がん認知月間」を基盤とした国際的キャンペーンです。
毎年9月、世界各地で小児がんの認知啓発のための取り組み「世界小児がん啓発月間」として、世界中のランドマークが金色にライトアップされます。


「Light It Up Gold!」キャンペーンは国際的な連帯の象徴であり、日本でも参加場所は急速に拡大し、今年は全国約160カ所に広がっています。また、写真フレームやデジタルポストカード、多言語対応ツールなどを活用し、SNSを通じて国境や言語を越えた発信が進んでいます。
シンボルカラーのゴールドの光には「子どもの命は金にも勝る尊いもの」という願いが込められています。

キャンサーネットジャパンと鶴谷ゼミで共同企画した4つの城(駿府城・丸岡城・島原城・熊本城)のライトアップ

NPO法人キャンサーネットジャパン常務理事の古賀さんはいいます。

「キャンサーネットジャパンは、小児がんの認知度向上を目指し、啓発活動を行っています。小児がんには成人のような検診がなく、初期症状が風邪に似ているため見過ごされがちです。そのため、まず多くの人に“知ってもらう”ことが重要だと考えています。
また、子どもは大人とは異なる身体的・精神的特徴を持つため、『子どもは小さな大人ではない』という認識に基づき、小児がん専門の医療機関での治療が大切です。
小児がんの治療成績は向上していますが、治療を終えたサバイバーは、長期にわたる合併症を抱えていることがあります。キャンサーネットジャパンは、彼らが生きやすい社会になるよう、社会全体が小児がんについて理解を深めるための啓発活動を続けています。」

当事者の声 ― つながりが生む安心と力

Cancer Channel 小児がん啓発動画 (通年版)より

小児がんを経験した子どもや若者たちにとって、最も心の支えとなるのは「同じ経験をした仲間の存在」です。

「同じ経験をした人たちと一緒に過ごすことで安心できる」
「同じような病気の人とつながり、どうやって乗り越えているのか知りたい」 

病気のことを周囲に伝えるのは勇気がいることですが、同じ境遇を経験した人と話すことで、自分の苦労が理解され、孤独感が和らぎます。
当事者にとって「仲間とつながること」は、ただの情報交換にとどまらず、前に進むためのエネルギーとなり、未来に向かう力を育む大切な時間となっています。

ゼミ活動から始まった取り組み

鶴谷ゼミのこの取り組みは2021年に始まりました。
知ることが第一歩という信念のもと、キャンサーネットジャパンと連携して少しずつ仲間を増やしながら継続。今年で5年目を迎え、啓発イベントや連携プロジェクトは年々広がりを見せています。

学術的な学びを社会に活かす実践の場として、ゼミ活動は大きな意味を持ちます。研究や議論で得た知見を現実の社会課題に当てはめることで、学びと行動の循環が生まれているのです。

ゼミのメンバーは、それぞれの経験や視点から小児がん啓発に取り組んでいます。希少だからこそ伝え続けたいという想い、知らなかった自分だからこそ動かなければという決意、当事者の声を社会に橋渡ししたいという使命感、そして寄り添う力で支えたいという温かな志。

それぞれの想いは異なりますが、共通するのは「小児がんを他人事にせず、未来を支えたい」という一心です。

 広がるゴールドリボンの輪

ゴールドリボンをつけた代官山店のファミちゃん

この輪を、大学の枠を超えて社会全体に広げることを目指しています。

たとえば松田医薬品は、ゴールドリボンをイメージしたレモネード風入浴剤を、退院祝いとして患者家族に贈る取り組みを始めました。きっかけはゼミの課外活動での出会い。交流から「癒しの時間を届けたい」というアイデアが形となり、温かな協賛へつながりました。

また、不二家の「ぺこちゃん」やファミリアの「ファミちゃん」がゴールドリボンを身につけ、全国の店舗を通じてメッセージを発信。渋谷区では広報活動を通じて地域住民へ認知を広げています。

ゴールドリボン月間でキャンペーンを展開する「ecolab cafe(エコラボカフェ)

群馬県高崎市では、早稲田大学ビジネススクールの卒業生が経営する会社が運営するカフェ「ecolab cafe」とのつながりにより、店頭での小児がん啓発コーナーの設置や、スタッフがゴールドリボンバッジを身につける取り組みが実現しました。

店内ではオリジナルレモネードの売上の一部を寄付するとともに、SNSを通じて啓発情報も発信しています。社会人学生のネットワークをきっかけに、地域の街角からも小児がんへの理解が広がっています。

こうしたNPO・企業・自治体・地域社会との協働は、ゼミの活動を一過性の取り組みではなく、日常に根ざした社会運動へと育てています。

 社会人として小児がんの啓発を行う意味

鶴谷ゼミは社会人学生の集まりです。

これまでのキャリアで培ったそれぞれの経験や知識、人脈が、活動を推進する大きな力となっています。仕事と学びを行き来するなかで、社会人だからこそできる社会活動があると実感しているとのこと。小さな活動であっても、継続することが信頼を生み、次の協力を呼び込む原動力となっています。

先日のゴールドリボンナイターでは、募金活動や啓発グッズの配布、来場者への声かけなどを全員で行いました。最初は戸惑いもありましたが、多くの方が足を止め、笑顔や励ましの言葉とともに寄付をくださる姿に、活動の手応えを強く感じました。

実際に活動してみると、小児がんの現状や当事者の声をもっと知りたいという気持ちが自然と芽生え、同時に一人でも多くの人にこの想いを届けたいという情熱がより強まりました。
そして、最初は大きなことをしなければと気負っていましたが、小さなことでも一歩ずつ前に進むことこそが大切だと気付くことができました。

社会を変える一歩は、すぐそばにある

小児がんは、多くの人にとって身近ではないかもしれません。しかし「知る」こと、「関わる」ことは、子どもたちや家族にとって大きな支えになります。社会人学生の鶴谷ゼミが始めた小さな一歩は、企業や自治体を巻き込みながら少しずつ大きな輪になりつつあります。

あなたも、まずはゴールドリボンを知るところから始めてみませんか。そして可能であれば、イベントに参加したり、寄付をしたり、身近な人に話してみたり。

社会を変える一歩は、きっとすぐそばにあるはずです。

早稲田大学ビジネススクール(WBS)「企業経営と社会変革ゼミ」(担当:鶴谷武親客員教授)は、社会課題解決を目的としたゼミ活動の一環として、認定NPO法人キャンサーネットジャパン(CNJ)と共同で小児がん啓発プロジェクトを開始しました。
このプロジェクトでは、小児がんの認知度向上や世界小児がん啓発月間への取り組みを通じて、社会的課題の解決を目指します。ゼミ生は修士論文と並行して活動し、社会での実践的な学びを深めています。

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