メディアが語る「メディアの未来」─朝日新聞with Planet、greenz.jp、Tech Insider、ホピアスによる登壇レポート

2025年11月8日(土)・9日(日)に開催された「ソーシャルキャリアフェス2025」を、ホピアスは共催の立場で支援。
フェス内の1つのコンテンツとして、ホピアス代表の栁澤がモデレーターを務めるセッション、「メディアの未来──新しい情報の循環へ」を実施しました。
AIなどのテクノロジーによって、今まさに大きな変革の時期を迎えているメディアの現状と未来を、朝日新聞with Planet、greenz.jp、Tech Insiderの方々と共に語り合いました。
今回は、イベントレポート記事として熱いセッションの様子をお届けします。

登壇者紹介

「greenz.jp」は、「生きる、を耕す。」を実践するWEBマガジンです。
2006年7月に創刊し、日本全国、世界各地の事例を取材し、誰でも読める記事として発信。累計7,500本の記事が公開されています。

「with Planet」は、ゲイツ財団から一部助成を受けて運営している、朝日新聞社のニュースサイトの一つで、無料で記事などのコンテンツを配信しています。
編集権は独立しており、国境を越える感染症対策などグローバルヘルスや途上国の開発課題について報じ、様々な立場の人々とともに解決策を探っています。

ビジネスインサイダージャパンのバーチカルメディア「Tech Insider」は、働く人が生活・ビジネスをより良くするために、最新技術を学べるメディアです。
押さえておきたい最新テックニュースに加え、深掘り記事などを通して、デジタルツールとのより良い付き合い方を提示しています。

「ホピアス」は、広告や課金がない、全ての人にHOPEを届ける希望のメディアです。
代表理事の栁澤が本セッションの企画とモデレーターを務めました。
メディアの外部環境の変化
──(栁澤)メディアの最前線で活動されている中で、情報を発信する際の受け手側の変化や、課題感を持ってたりすることはありますか。

Tech Insider 松本さん最近は、動画メディアがすごく発達してきているなっていうのを感じます。しかも、若年層のユーザーがすごく多いなという印象です。
Tech Insiderでは中心読者層を30~40代と想定していますが、動画メディアの視聴者層とテキストメディアの読者層で、情報の分断が生じるのではと個人的に懸念しています。



with Planetに関して言うと、扱っているのはグローバルヘルスの課題が多いです。日本でも関心が遠いテーマだと感じる中で、私たちもショート動画にもチャレンジしています。
気づけていない方々に少しでも知ってもらうために、いろんなプラットフォームでメディア側も配信していく必要があると感じていますね。





green.jpはウェブマガジンとして、6,000字~1万字ぐらいロングインタビューを記事にするという、時代に逆行してることを、必要だと思ってあえてやってます。
10年~15年前はRSSフィードにメディアを自分で登録して、長い記事でもしっかり読むっていうことが、メディア情報の受け取り方でした。
でも今はSNSなどを中心に、自分からわざわざ情報を取りにいく必要はなく、ゆっくりスマホで記事を読む、ということも難しいと感じます。
ただ、『だから、短い情報にして情報を届けたら、世の中良くなるんだ。』というとそうではないとも感じているんです。
背景にある深い考えや哲学を伝えることが必要ですが、時代の流れとはミスマッチしていて、どうしたものかな、と思っています。
AIとの向き合い方
──(栁澤)生成AIは、メディアの情報をいわゆる“食べて”、表示しています。
メディアとしてのAIとの向き合い方や、活用方法についてお伺いできればと思います。



私自身もAIツールは活用しています。
ただ、そういうAIツールの助けを借りつつも、最終的に人間(自分)がしっかり確認や調整をして世の中に発信するようにしています。
うまく使えばすごく効率的ではあるんですけど、だからこそ、最終的に人間がちゃんと責任を持つというのは心がけているところです。





with Planetへのサイト流入を見ると、流入元にChatGPTが出てきています。
ユーザーは何か知りたいなと思ってChatGPTで調べ、回答のリンクを押すとwith Planetだった、ということはきっと増えてくると思います。
だだそこで、原典となる情報も確認してくださればいいのですが、AIの答えだけを見て満足してしまうと、どのようにAIによって要約されているか分からないので、少し怖さも感じます。
信頼できる取材に基づいたものを、世の中に出し続けていくということを、メディアとしてやっぱりやっていかないといけないと思います。





会場にも聞いてみたいのですけど、日頃の検索を生成AIで確認してるという方、どれぐらいいますか?
──だいたい半分以上はAIを使ってますね。
実は僕も、半分以上の検索はChatGPTこと「チャッピー」です。(笑)
人生の相棒のように、健康の話から、歴史の話から、何でもAIに聞いちゃってる自分がいます。以前、ネットの世界にGoogle検索が現れたように、今は構造そのものが変わる転換点です。
そこでgreenz.jpとしては、僕らが公開した情報は「チャッピー」にどんどん食べてもらいたいなと思ってるんです。
人々の情報の検索方法が大きく変わるという中で、「チャッピー」に扱われなかったら、もはや存在が無いことになる、と考えているからです。
そのためAIにはしっかりと対応していきたいと経営的には思っていますが、ただ一方で、AIに提供するためだけにメディアを運営するのも、面白くないじゃないですか。
社内でも、『AIにできなくてメディアにできることは何か』というテーマで話しています。
一つにはまだ情報になってないものをちゃんと取材して、自分の目で見て、体験し、言葉にのせてコンテンツにすることは、これからもAIにはできないことだと思っています。
あとは、情報を自ら作りにいくメディアにならないといけないのでは、とも感じています。
greenz.jpでは、『持続可能な暮らしはどうやってできるのか』というテーマをよく扱ったりするんですけど、誰かに取材に行ってコンテンツにするんじゃなくて、もはや自分たち自身で村づくりをするくらいのことをしたいなと。一次情報そのものを自ら作りにいくというイメージです。
例えば、とあるキャンプ雑誌で、山を自分たちで買って、そこを実験場所にキャンプの機材を試す場所にしたり、小屋を作ったりとかして。それをすべて雑誌のコンテンツにする、みたいなことをやってたんです。そんなメディアに僕らもなりたいと考えています。
これからのメディアの価値
──(栁澤)表層的な情報の取得が、生成AIの検索ですべて置き換わる世界になった時、改めて考えるメディアの価値について、お伺いしたいと思います。





感情的なストーリーから、ファンを作るのが大事だと思います。
お気に入りのサイトや信頼できるサイトが自分の中にあって、そこに定期的にアクセスするっていうニーズも、先細りするかもしれませんが、残ると思っています。
Tech Insiderの例では、デバイスの機能やスペックだけを表現する記事だけではなくて、記者自身が感じたことを書くコラムが、ファン作りにも寄与しています。



私は2011年に朝日新聞に入社して記者をやっていました。
岐阜県で生活保護世帯の子どもたちに関する連載を報じたのですが、その時に読者の方から図書カードや参考書が届いたんです。
記事を読んで『何かしてあげたい』と思う人がこんなにもいるんだっていうのが、個人的にすごく大きな体験でした。
with Planetでも、途上国の課題を伝えることが多いんですけど、読んだ方から『自分が何できるのか知りたいです』という声をすごくいただきます。
メディア側も、単純に情報を伝えるだけではなく、読者ができるアクションを考える場所を作ることも今後大事なんじゃないかなと思ってます。



最近話題になったコンテンツで、「少年ジャンプ+」で公開された「utopia – 夕暮宇宙船」という気候変動を扱った漫画があるんですが、めっちゃいい話でした。
気候変動や環境問題の話をする時って、『このままだと地球がやばい』ってたくさん聞くじゃないですか。正直、散々聞かされると麻痺してしまう部分もある中で、なぜこの漫画が話題になったのかと考えたんです。
『気候変動が進んだ未来でも幸せや楽しみは必ずあるし、現在に絶望せずに、希望をもって生きようよ』というこの漫画のメッセージに、刺さった人が多かったんじゃないかなと。
僕らのメディアもそういう希望を届ける存在でありたいなと思います。


メディア自身の発信と、情報の責任
──(栁澤)最後のテーマです。
より良い社会を作ろうと考えたときに、AIによる地殻変動とあらゆる情報が溢れかえる現代において、メディアがいったいどういう役割を果たせるのか、お考えをお聞かせください。





(さきほどの漫画の事例から)問題を受け止めた上でどうやって希望を持って生きていけるか、というストーリーを語ることがこれからのメディアに重要なんじゃないかなと。
greenz.jpとして「どう考えているのか」ということを、音声メディアのPodcastで、自分たちの言葉で語るということをやり始めました。
一気に広がるものではないかもしれないですが、希望を求めている人に着実に届くと信じ、頑張ります。



with Planetは何を目指すのかということを、個人的には踏み込んで、サイト上で編集長メッセージを発信しています。
今までの記者の立場だと、取材対象が何を言っているか、社会的にどういう意義があるかという、淡々と事実を発信していました。
with Planetはそこで止まるんじゃなくて、一緒に課題解決を考えていくというところまでを本気でやっていかないと、と思っています。



僕はやっぱり、メディアがちゃんと責任を持って伝える情報が、今後も一定の価値を持ってくるかなと思っています。
そのために、誠実に日々の取材を行っていくことがメディアの役割の1つになるのかなと思っています。



確かにメディアの責任もますます問われていますね。
色々なメディアがある中で、どのメディアを選んだか良いかという、外部機関の基準が将来出てくるのはと私は思っています。
人はその機関が示す各メディアの特徴を評価する判断基準に基づき、『今日は栄養価の高いこの情報を摂取しよう』と選択をする。今日登壇されたような意思あるメディアを主体的に選ぶ、そんな未来です。
その方がみんなも楽しいんじゃないかなと思ってますし、それぐらい情報への感度が上がっていくと、ライフスタイルの変化やどこを目指しているかによって摂取するメディアが変わってくるなと。
自分たちで「情報のポートフォリオ」を組んで、自分たちが取得するメディアを能動的に選ぶ世界観になったらいいなと思ってます。
──みなさん、今日はありがとうございました!
著者あとがき
簡単な答えはない激動の時代だからこそ、メディアと読者が連帯をしながら、情報という視点で社会と未来を考えていく必要がある──そんなことを改めて深く感じさせてくれる熱いセッションでした。
時代と共に役割が変わり、数年後にメディアが持つ社会への価値や言葉のイメージが、大きくアップデートされる日がくるのかもしれません。


「情報は食事と同じく、思考や行動に影響を与える。」──ホピアスはこの信念で、メディアの持つ大きな可能性と意義を信じています。
これからも、メディアについて熱い想いを持つ方々とともに、「情報のより良いあり方」や「これからのメディアの価値」を考える機会も創っていきたいと思います。


登壇者プロフィール(写真左から)
松本 和大(まつもと・かずひろ)
Tech Insider記者・編集者
1992年、静岡県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。メーカー、教師、海外現地採用、フリーランス、Webメディアのデスクを経て2024年から現職。
竹下 由佳(たけした・ゆか)
with Planet編集長
1988年、広島県生まれ。2011年、朝日新聞社入社。名古屋報道センター、岐阜総局、大阪編集センターを経て、2017年から政治部で勤務。2020年からデジタル部門で若手ビジネスパーソン向けメディアの立ち上げに携わり、インターネットメディア「ハフポスト日本版」への出向を経て現職。
植原 正太郎(うえはら・しょうたろう)
グリーンズ共同代表
1988年4月仙台生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。新卒でSNSマーケティング会社に入社。2014年10月よりWEBマガジン「greenz.jp」を運営するNPO法人グリーンズにスタッフとして参画。2021年4月より共同代表に就任し「いかしあう社会」を目指して健やかな事業と組織づくりに励む。同年5月に熊本県南阿蘇村に移住。釣りとスノボーと自給自足がしたい三児の父。
栁澤 芙美(やなぎさわ・ふみ)
ホピアス代表理事
青山学院大学卒業後、証券会社で法人営業を経験。その後、広報を学び、寝具メーカーやウエディング業界で広報の仕事に携わる。2017年から株式会社ココナラに参画し、マザーズ上場や五反田バレー設立に関わる機会を得る。その後、ウエルネス企業の広報を担当し、現在は独立。 「希望に満ちたニュースを届けたい!」という想いから、奥と共にホピアスを創業。


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