ホームレスとのパートナーシップから始まる路上の一冊、「ビッグイシュー日本版」の挑戦

【HOPEFULなひと】
「ホピアスの想い」をもとに、人類に希望を見出し、持続可能で愛ある世界を目指して活動している人たちを、取り上げる企画です。社会に変革をもたらすチャレンジをしている社会起業家へのインタビューを通して、希望的な未来を発信しています。
 23年前に大阪で始まった雑誌『ビッグイシュー日本版』は、ホームレスの人や生活に困っている人たちの仕事を作り、自活の応援を目的にスタートしました。1冊500円の半分以上、250円を提供。雑誌の内容は、貧困や人権など硬派な社会問題から、アートや文化、暮らしの話題まで幅広く取り上げています。これを販売者が駅前などで売り、そこからの収入を販売者の社会復帰や生活再建につなげてもらう社会的活動です。創刊以来、編集長をつとめる水越洋子さんから伺ったHOPEFULなメッセージです。

 東京や大阪、札幌、仙台などの大都市の駅頭で、赤いベストを着た販売者が雑誌を売っている光景を目にしたことはあるだろうか?この雑誌、『ビッグイシュー日本版』は、ホームレスの人たちの自立支援のために大阪で生まれたストリートマガジンで、発行は大阪に本社がある「(有)ビッグイシュー日本」(水越洋子、佐野章二共同代表)である。

販売者はホームレスや生活困窮の状態にある人で、『ビッグイシュー日本版』を路上で販売し、売上の半分を現金収入として、生活を立て直して、社会に復帰することを目指している。

 このとてもユニークな雑誌は1991年にイギリス・ロンドンで創刊された。2003(平成15)年9月に日本で『ビッグイシュー日本版』として発売を開始し、昨年25年4月には500号発行を達成している。イギリスへ行って現地を視察し、アドバイスを受けながら日本での発売を目指したのが創刊以来の編集長の水越洋子さん。共同代表の佐野章二さんとともにファウンダー(日本版創設者)となり、佐野さんの娘である佐野未来(みく)さんが加わり、3人で起業してから23年目を迎える。ホームレスの人たちを「ともに働くビジネスパートナー」とし、その日から、すぐに、できる仕事(『ビッグイシュー日本版』の販売)をつくり提供してきた。創刊からの活動と、これからの“新たな挑戦”について、水越さんからじっくり話を聞いた。

映画でジョン・レノンを演じたハリス・ディキンソンが表紙のビッグイシュー日本版519号

きっかけは5行の記事――渡英して現場を訪ねる

水越さんは高校時代からボランティア的な活動をし、社会人になってからも仲間と一緒に障害者の活動にかかわり、『誰も書かなかった福祉機器の本』(ユーダ発行 1992.11)を執筆、制作、販売するなど、都市や社会問題に関心を持ち続けてきた。その水越さんがホームレスの人が売るイギリスの『The Big Issue、以下『ビッグイシュー』』を知ったのは全くの偶然からだった。

 その後、NPO「シチズンワークス」(大阪)の事務局長として、佐野章二さんなどの仲間とともに、メンバー自らが取り組みたいテーマを決め、それぞれが協働の場をつくり、活動を始めるというスタイルで動いていた。当時大きな社会問題となっていたホームレス問題についても関心をもち、大阪で02年1月、アメリカのホームレス支援に詳しい研究者を招いて勉強会を開いた。その頃、日本でホームレスの人々の支援といえば、ホームレス状態の人を訪ねての安否確認や物資の配布、夜回りや炊き出しが中心だった。そして、ホームレスの人々への3K(怖い、汚い、臭い)や彼らの自己責任だとする偏見も強く、活動に参加する市民の数もまだ少なかった。

 勉強会では、ワシントンDCでのスープキッチン(炊き出し)の例などが話された。この活動に参加していたあるレストランのオーナーが「ホームレス状態の人に食事を提供するだけでは、彼らはいつまでもその状態にとどまるしかない。調理の技術を身につけシェフになれば、雇用先が見つかる」と考えて、職業訓練コースをつくり、シェフになった後の仕事の継続率は7割以上だったというケースも報告された。そんな話を聞いて、水越さんは「ホームレスの人たちが生き延びるサポートだけではなく、仕事をつくっている人たちがいる」と衝撃を受けた。

 ホームレスの人の仕事をつくり、提供するという応援。その可能性に希望を感じていた時、偶然にも雑誌『PEN』(当時・阪急コミュニケーションズ、現在CEメディアハウス発行)の特集記事が目に留まった。イギリスには『ビッグイシュー』という雑誌があって、ホームレスの人が街頭で売り、その売上の半分以上を得て、生活を立て直し、社会へ復帰していく、という内容。たった4、5行の記事だった。それが、『ビッグイシュー』との出会いであった。そこには『ビッグイシュー・スコットランド』のメル・ヤングさんが社会起業家の賞を受賞したという内容も記されていた。

 『ビッグイシュー』は、ボディケア商品で世界的に知られる「ザ・ボディショップ」を立ち上げたアニータ・ロディックさんがご夫婦でつくられた「ボディショップ財団」の出資と、印刷・出版業の経験のあるジョン・バードさんのアイディアを得て、1992年にイギリス・ロンドンで始まった。ちなみにバードさんは少年院にいたことやホームレス経験もある人だ。
彼らは、「チャリティではなくビジネスを」を合い言葉に『ビッグイシュー』の起業を実現したという。日本版がスタートした時には、イギリス国内ではスコットランド、ウエールズなど5地域でそれぞれ独立した団体が発行し雑誌の知名度も非常に高かった。

 遠く離れたイギリスでの活動を知り、水越さんは「レストラン経営の経験はないけれど、本は作った経験があるから、雑誌なら自分も何かしら、かかわることができるかも……」とひらめいた。すぐに雑誌の発行元に連絡を取り、取材者からメル・ヤングさんの連絡先を教えてもらってメールを送った。「ビッグイシューについて教えてほしい。ホームレスの方が売っている現場も見たい」と伝えると、ヤングさんから「ゆっくり時間を取っていらっしゃい」とOKの返事が返ってきた。

 記事を読んでからわずか1か月後の2002年9月、水越さんは渡英。スコットランドのグラスゴーにあるビッグイシュー・スコットランドの事務所でヤングさんに会い、さまざまなことを聞いた。聞けば聞くほど、さらに知りたいことが増えていく。現地でのやりとりは帰国後、仲間に正確に報告し共有するために全部録音した。エジンバラやグラスゴーの街を歩き回って『ビッグイシュー』を売っている現場も見た。和やかにお客さんと談笑しながら雑誌を売る販売者たち。「街に自然に溶け込んでいる。この風景を大阪でもつくりたい」と思った。「やりたい」という”実感”を得られたことが最大の収穫だった。

ビッグイシュー・スコットランドの事務所でメル・ヤングさんと水越さん

「失敗する理由トラック一杯分もある」と言われて

帰国すると、水越さんの本気度に対して意外にも事業をしている人や編集や出版にかかわる人、主に男性の多くから、「やめたほうがいい」「99%失敗する」「失敗する理由はトラック一杯分もある」という心配の声が相次いだ。中には「登山でも天候が悪くなったら下山しないといけない。様子を見て、下山する勇気も必要だよ」というアドバイスをくれる人もいた。いずれも、困難な、雑誌創刊とホームレス支援という2つの事業、しかもそれを同時的に立ち上げて両輪として回していく活動の行方を心配してのことだった。ある作家には狂気の沙汰だとまで言われた。

 その一方で、水越さんの周囲の女性たちの中には、逆の反応を示す人もいた。「なんか良く分からないけど、すごく面白いと思う」「ぜひやってみるべき。応援する」と肯定的だった。「女性たちの声が、私の背中を押してくれました」と水越さんは振り返る。とはいえ、雑誌創刊後から現在に至るまで、最初は心配してくれた人も含めて、多くの人が応援し、ともに活動しているという。

 事業化に関して慎重派だった佐野章二さんは、水越さんが持ち帰った現地の様子や、雑誌編集・販売・運営の情報と、そして現物の雑誌『ビッグイシュー・スコットランド』の完成度の高さに感嘆した。「ここまでのレベルの雑誌ができれば、ひょっとしたら売れるかもしれない」。訪英した翌月には、創刊に向けて準備会を発足し、具体的に動き始めた。

 そして水越さんは米国に留学経験のある佐野未来さんと2人で再度スコットランドを訪問、編集会議にも参加した。ヤングさんから「路上で売るから行政との関係も大切。雑誌を買う人、読む人がいる都市であることが大切」などの具体的なアドバイスとともに、「必要なノウハウならいつでも、なんでも、いくらでも提供するよ」という力強い言葉を得たのだった。

 さらに佐野未来さんは、『ビッグイシュー』の創設者のジョン・バードさんから、雑誌名にビッグイシューを使用してもよいとの許可を得た。

ついに創刊!―弾む心で自転車のペダルを踏んだ日々

『ビッグイシュー日本版』の創刊に向けての準備が始まった。
「市民メディアとしてどんな記事を載せるか、記事の企画は佐野未来とともに1年かけて練りました。日本には存在しない雑誌をつくりたいと思ったので、日本の出版物はあまり参考にはせず、ほぼすべて日英のビッグイシューの仲間たちから教えてもらいました」。

 1993年にはイギリスの『ビッグイシュー』が中心となって、国際ストリートペーパーネットワーク(INSP=路上でホームレスの人が売る雑誌の世界的ネットワーク)が設立されていた。『ビッグイシュー日本版』も、このINSPに加盟することとなり、世界中の加盟雑誌が発行した記事を無料で共有し、翻訳して掲載することが可能になった。発行当初は、日本と海外の記事の割合はほぼ半々だった。その後、内容を吟味して徐々に日本の記事を増やしていった。独自の日本国内記事を増やすこと、それも社会の周縁の問題を中心に取り上げることを目指した。

 佐野章二さんは当時を振り返り、「僕らはいわゆる『情報誌』を作るつもりはなかった。『若者のためのオピニオン誌』、販売でホームレスの人を応援し、誌面を通して就職氷河期の若者の働く場もつくる、それが僕らの雑誌の本質であるべきだった」(『ビッグイシューの挑戦』講談社より)と、理念を綴る。

創刊に当たり、編集方針として以下の4つの柱を定めた。

  • 「ビッグイシュー」ネットワークで日本と世界をクロスする国際雑誌
  • 若い世代が時代のマイナス条件を踏み台にできる情報雑誌
  • 映画俳優からホームレスまで、多様な人々が登場する人間雑誌
  • 意外性を極めるポストエンターテインメント雑誌

そして2003年5月、3人は「(有)ビッグイシュー日本」を設立。翌月にはNPO法人釜ヶ崎支援機構の協力のもと、ホームレ スの人へ販売者になってもらうための説明会を実施した。2003年5月には見本誌を発行した。イギリスのロックバンド「オアシス」が表紙を飾り、記事には硬派な内容の、企業が国連のイメージや原則を利用して自社活動を(実際はそうでないのに)社会貢献しているように見せかける「ブルー・ウオッシュ」という非倫理的な企業活動を取り上げた。
これを見た販売者の反応は「オアシスって誰?」など、ジェネレーションギャップもあって「こんなもん、売れへん!」と大不評だった。
初回は販売者として登録した人はたった4人だったが、その後、徐々に増えていった。

そして2003年9月には創刊号を刊行。アメリカのオルタナティブバンド「R.E.M」が表紙で、バードさんの「なぜ『ビッグイシュー』はつくられたのか」や、ヤングさんの「ようこそ、INSPファミリーへ」という創刊を祝う記事とともに、フリーターをしている日本の若者の生き方、夢、人生観などを特集。

創刊号は5万部印刷し、4万部弱を売った。日本で初めての、ホームレスの人だけが売る雑誌『ビッグイシュー日本版』はこうして船出の日を迎えた。

 最初の3か月は大阪だけで月1回発行、価格は200円で、そのうち110円が販売者の収入になった。発売号を重ねるごとに、常連の読者が増えていく。当時、雑誌は倉庫に置いていたが、販売者から編集部に売り切れ間近の電話がかかってくるようになった。その電話を受けると、水越さんを含む事務局スタッフやボランティアがキャリーに雑誌を積んで、地下鉄で移動して街角の販売場所まで運んだ。当時の事務所が大阪・堀江にあったので、近場の繁華街・難波のあたりへは自転車をこいで届けた。

 「私も、みんなも、電話が来るたびに、自分の手で販売者のところまで届けました。『ビッグイシューがなくなりそうだけど…』と言われると、『はい、これから届けます』と。本当に嬉しかったですね」。

雑誌を積んで重いはずの自転車のペダルも、雑誌を待っている人がいると思うと心が弾み、軽く感じる。地下鉄の中で雑誌を持つスタッフの気持ちも、自転車をこぐ足も、前へ、前へと、一分でも早く販売者と読者のいる街角へと、大阪の街を駆け抜けていった。

 やがて、仙台や札幌など、ホームレス状態の人が多かった地域で支援活動をしている人や団体から「この地域でもビッグイシュー日本版を売れないか」と、相談が来るようになった。ビッグイシュー日本の販売サポートスタッフが現地に赴いて調査・準備をし、地元の警察署や市役所などにもあいさつをして雑誌販売の目的と仕組みを伝えた。必要な届け出や手続きも行った。そうして販売地域が全国に広がっていった。その後何度かの価格の改訂を経て、現在雑誌価格は1冊500円。
販売者は新規登録時に10冊を無料で受け取り、その売上げ5,000円を元手に、以後は1冊250円で仕入れて500円で販売。差額250円を収入として、生活再建に役立てている。

『ビッグイシュー日本版』を高く掲げて、雑誌を売る販売者

市民メディアとして現場を大切に

毎号、編集部で企画を練り、読者に届ける。創刊当初から、既存メディアが取り上げない社会の周縁にある問題をテーマにして報じてきた。貧困、ひきこもり、自殺、DV、依存症、発達障害、原発問題。時に「『ビッグイシュー日本版』は右寄りなのか?左寄りなのか?」と聞かれることがある。

そんな時、水越さんは「右でも左でもありません。下から、です。より良い社会にするための下からの提案です」と答える。

 「下から見える社会の実相」――それを描き出す視点からの誌面企画は現在も揺るがない。アッと驚いたり、そうなのかと思わずうなってしまったりする内容も多い。

 例えば、DVの特集。男性からDV被害を受けた女性だけでなく、女性からDV被害を受けた男性が被害を言いにくい状況も取り上げた。PFAS(健康影響があるフッ素化合物)汚染とその問題に取り組む市民の活動。憲法を守り生かす人々の平和構築への取り組み。人間だけでなく動物たちの生命や自然環境の現状。昨年亡くなった音楽家・坂本龍一さんの特集号(支援者による復刊特別号も発行)もあった。
災害や防災、トラウマ、PTSDなど心の問題。さらには毎年3月に組まれてきた東日本大震災と福島原発事故の特集など、当事者や被災者、そして支援者の声をじっくりと取り上げている。読者を焦らせず、急がさず、我が身を振り返って優しく熟考を促していくような誌面が続いている。

 現在、読者の7割が女性だという。取材をして記事を書き、誌面を作る。その流れの中で、水越さんが大切にしているのは「現場感覚、現場の状況」だ。「既存の雑誌では取材の前にあらかじめ誌面で使うイメージや写真を決めておくことも多いと聞きました。でも私たちは現場と取材結果から、ページ数の増減や調整をすることも多々あります」

 雑誌が販売者によって売られ、読者の手に渡ると、思いもよらない出来事が次々に起きた。まずはホームレスの販売者の変化だった。ある販売者の声を聞いて、水越さんは驚いた「雑誌を買ってくれた人に『ありがとう』って言われた。仕事をしていて感謝されたのは初めてだった」と感激する販売者。次も頑張ろうというモチベーションを雑誌の販売を通じて得ていたのだった。

 さらには販売者と市民との「さりげない交流」の誕生。販売者の姿に目を止め、「今日は寒いね」「前号、読んだよ」と声を掛けてくる男性。「これ、食べてください」と言って、サンドイッチやおにぎり、冬の時期はカイロなどをそっと差し入れる女性。駅から目的地までの道を聞く子どもたち。何も言わなくても「またお会いしましたね」という風にアイコンタクトをしてくる高齢者。

販売者と読者、市民の間に、それぞれの街角で、駅頭で、さまざまなコミュニケーションが生まれる。販売を始めた当初、ホームレスになってから他人と会話する機会が減って、「ビッグイシュー日本版です」という呼び掛けの声が出せない人もいた。それでも販売すると決心して街頭に立つと、顔見知りができ、常連が増え、お互いに心配し合うような関係が育っていく。『ビッグイシュー日本版』は、単なるメディアではなく、人と人がつながるための“場”であり、“心の居場所”にもなっている。

販売者さんと水越さん Photo:木下 良洋

 「私たちの読者は、路上で販売者さんが立っているのを探してでも買ってくれます。毎日立っている販売者さんなら、200人ぐらいの常連さんがいるのではないでしょうか。時折、販売者さんに、家では話せないこと、一人で悩んでいることなどを打ち明ける読者もおられます。そういう時、いろんな体験をしてきた販売者さんたちですから、アドバイスをしたり、励ましたりするそうです。それが雑誌の連載企画『ホームレス人生相談』となり、連載が始まって以来の人気コーナーになっています」と水越さん。


炊き出しをしたり、夜回りをしたりということができなくても、街頭で『ビッグイシュー日本版』の販売者を見つけてそこで雑誌を買うことで、ホームレス状態にある人に直接的な応援ができる。

そして雑誌を読むということで、今の社会が抱える課題を知ることができる。2024年5月に『ビッグイシュー日本版』の累計販売冊数は1,000万冊を突破販売者は約100人で、これまでの登録者数(販売者だった人を含む人数)は2,070人
12都道府県の約100か所の路上で販売され、総額で16億8,338万円の収入を提供してきた。イベントなど催しの主催者と連携して、会場近くの路上での出張販売なども実施してきた。『ビッグイシュー日本版』の販売によるホームレスの人の自立応援活動は、広く日本社会に認知され、着実に根付いてきたと言っていいだろう。

路上の販売者がつくり出す小さくても心温かなコミュニティ

水越さんは、『ビッグイシュー日本版』の発行と、それを売る販売者と読者や市民を通じて、日本社会に広がる「見えない貧困」を見つめ続けてきた。

 「リーマンショックの時には、派遣切りなどによって、大企業の工場に住み込みで働いていた人がリストラされ、仕事も住まいも、他の人との関係性も失った人が急増しました。そして東日本大震災、さらには新型コロナウイルス感染症でも同じことが起きました。

非正規雇用の拡大・解雇の問題、そして困ったことに『自己責任論』という当事者に原因があるかのような考えがいまだ幅を利かせています。

非正規雇用化が進み、経済格差が開き、賃金が上がらないのに物価が上昇続ける中で、炊き出しに並ぶ人たちに若い人や女性、ファミリーが増えています。こんな状況を変えていくためにも、市民メディアとしてできることは何かと考えながら情報を発信していきたいと思っています。」

 現場の当事者の声を聞き、伝え続けようとする『ビッグイシュー日本版』の存在が光る。

 新型コロナウイルス感染症の流行時には、販売者が路上に出られない、あるいは出ても販売ができないという状況が続いた。そこで、市民パトロンの募集(寄付として市民が活動に参加する制度)や雑誌の通信販売を実施。コロナ禍が深刻だった約2年半の間に、1人の販売者に約74万円の配布金を提供したという実績を残した。

自然災害、あるいは社会・経済、原発事故やコロナのような複合的な「災害」は誰の身にも起き得る世紀がやってきたことを現代の私たちはひしひしと実感している。

 「20数年前と違って、今路上で寝起きする人は確かに減りました。でも一方で増え続ける、路上以外でホームレス状態にある人や、より深刻な生活困窮状態にある人が増え、ある意味、以前より誰もがホームレス状態に陥りやすいような状況になっているのではないでしょうか。そういう人たちから、アプローチしてもらえる存在にビッグイシューがなるには何をすればいいのか、それも課題です。

『ビッグイシュー日本版』を街頭で売ることは、他の人に『わたしはホームレスです』『生活に困っています』とカミングアウトすることでもあります。

そのハードルを超え、さらにビッグイシューに出合うまで路上で生き抜いてこられたことには、リスペクトしかないです。販売者が街の中でお客さんと小さくても温かなコミュニティをつくっていることには誇りを感じます」。

2019年から始まった「ビッグイシュー講談部」。部員は自らの路上体験「当事者講談」も語る

NPOと市民メディアが一体となり、新たなチャレンジを計画

2007年には「有限会社ビッグイシュー日本」を母体に、NPOビッグイシュー基金が発足した。それ以来、会社と基金はともにホームレスの人たちを応援する活動をしてきた。基金は2012年に税制優遇される認定NPO法人となった。

基金の活動は、生活に困難を抱える人たちに対しての就業応援や生活支援の仕事に始まり、さらにスポーツ(ホームレス・ワールドカップ)、文化(コンテンポラリーダンス、講談、歩こう会など、販売者のクラブ活動)、政策提案(若者応援、ギャンブル対策、おうちプロジェクト、公営住宅の空き室活用)、市民起業と交流(夜パン&カフェ)などへと広がっている。

会社スタッフと基金スタッフの合同ミーティング

昨年2025年12月、「有限会社ビッグイシュー日本」と、2007年に発足しともにホームレスの人たちを応援する活動をしてきた「認定NPO法人ビッグイシュー基金(以下、基金)」(共同代表・米本昌平、稲葉剛)は、今後の活動の充実に向け、両者が統合していくという新しい方向性を発表した。

 具体的には有限会社と基金の両輪で活動を続けるなかで、両法人合同の委員会を設置し、「貧困問題の広がりと複雑化にどう連携し対応するか」を議論。そして今年4月1日より、基金が雑誌『ビッグイシュー日本版』の発行をはじめとする会社の各種事業を継承し一つの団体として活動することに決めたのだ。法人名も「認定NPO法人ビッグイシュー日本」と改称予定で定款の変更などの準備を進めている。

その目的は

  • 雑誌の路上販売の仕事、および独立した「市民メディア」を維持・展開すること
  • メディアづくりの事業と、基金の各種プログラム(相談機会の提供、夜のパン屋さんなど仕事の応援、住まいの実験事業、調査研究など)との連携を深めること
  • これらの活動に、より多くの市民、ホームレス状態の人はじめ社会の周縁にある人びととともに取り組むこと。
フードロスを減らし、生活困窮者や居場所のない人の職場をつくる「夜のパン屋さん」

社会の変化にいっそう即した活動を進める非営利組織へとステップアップするための新たな挑戦について水越さんは「今回の統合を通して、貧困問題への解決を目指し、雑誌の発行、そして市民が自らの力で働き場所をつくる『シビックエコノミー』など、これまで会社と基金が積み重ねてきたことを土台に、さらに“生きやすい社会”を実現するためのプラットホームにしたい」と話す。

2025年行われた「ホームレス・ワールドカップ 2025オスロ大会」での一場面 撮影:John Anderson

 あなたがもし、駅前で赤いベストの販売者を見つけたらぜひ声を掛けてほしい。そして『ビッグイシュー日本版』を購入していただけたらうれしい。

思い出してほしい。この一冊は、目の前の販売者の明日を支えるだけでなく、私たち自身の社会を生きやすくする力を持っているということを。
街角から始まるその活動に、いつでも、私たち誰でもが、簡単に参加することができる、ということを。

写真提供:(有)ビッグイシュー日本 認定NPO法人ビッグイシュー基金

市民パトロンに参加のお願い
統合にあたって現在、有限会社ビッグイシュー日本は『ステップアップ市民パトロン』に参加をお願いしています。(2月28日まで)。https://www.bigissue.jp/2025/12/33350/

水越洋子(みずこし・ようこ)
ホームレスの自立支援を目的とする雑誌 ビッグイシュー日本 編集長。英国発ストリートペーパー「THE BIG ISSUE」の理念に共鳴し、日本版創刊期から編集に携わる。路上販売という仕組みを通じて仕事と尊厳を生み出す活動を軸に、貧困、孤立、労働、人権など社会課題を丁寧に取材。声なき人の物語をすくい上げ、読者と社会を結ぶジャーナリズムを実践している。

参考資料
・『ビッグイシューの挑戦』佐野章二著、講談社
・『ビッグイシュー 突破する人びと 社会的企業としての挑戦』稗田和博著、大月書店

▼ビッグイシュー日本版 関連HP

ビッグイシュー日本版
BIGISSUE日本版 | ビッグイシュー日本版 ホームレス状態の人が路上で売る雑誌「ビッグイシュー日本版」。1冊450円で販売すると230円が販売者の収入になります。チャリティではなく、チャンスを提供する事業です。

▼ビッグイシュー基金

ビッグイシュー基金
ビッグイシュー基金 ビッグイシュー基金は、①ホームレスの人たちを中心に困窮者の生活自立応援 ②ホームレス問題解決のネットワークづくりと政策提案 ③ボランティア活動と市民参加 の3つの事業...

▼ビッグイシュー事業統合のアナウンス

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