【アメリカ留学中の日本人学生による同級生インタビュー】トランプ再選から1年——若者が見つめる、民主主義の行方

トランプ大統領の就任から1年が過ぎた。
この一年、アメリカをめぐるニュースは、世界中に繰り返し届いてきた。
年明けに報じられたトランプ米政権がベネズエラ大統領を拘束したニュース、さらにグリーンランドの領有に言及する発言、移民税関捜査局(ICE)による無抵抗の市民を対象とした取締り、そしてエプスタイン文書の公開――。
こうした出来事は、個別には異なる文脈を持ちながらも、「世界最大の民主主義国家」とされてきたアメリカの現在地を、 改めて問い直すきっかけとなっている。
私たちが戦後、時間をかけて育んできた民主主義は、 いま、どのような状態にあるのだろうか。
その問いを考える材料として、いまのアメリカを日常として生きる若者たちの声に耳を傾けた。
ホピアスが大切にしたいと考えている、そこで生き、生活している当事者の声である。
SNSでは切り取られにくい、迷いや戸惑い、率直な感情や言葉。そうした声の中に、社会の実像の一端があると考えている。
今回、アメリカに留学中の日本人学生・Kさんへのインタビューを行い、さらに彼を通じて、同じ大学に通う同級生3名にも話を聞いた。
未来を担う学生たちに、いまのアメリカはどのように見えているのか。
民主主義:国民(人民)が主権を持ち、自ら、あるいは選挙で選ばれた代表者を通じて政治を行う統治の仕組みである。話し合いや投票を通じて意思を決定し、多数決の原理と少数意見の尊重、基本的人権の保障を基本とする。
「怖い」という感情が生まれる場所

―― 日本人留学生・Kさん(仮名)
アメリカ・アーカンソー州の大学に留学するKさんは、学業と同時に、ビザという在留資格の制度に生活そのものを委ねる立場にある。
アーカンソー州は、アメリカ南部に位置し、農業・林業・食品加工などの一次産業を基盤に発展し、とくに畜産(鶏肉産業)や農業関連ビジネスが盛んで、ウォルマート創業の地としても知られている。
政治的には共和党の強固な支持基盤を持ち、2000年代以降は保守化が進行。福音派キリスト教に代表される宗教的価値観や、「小さな政府」「伝統的家族観」を重視する有権者が多い。そのため、トランプ支持者が多い州と位置づけられてきた。
一方で、大学周辺や都市部ではリベラルな価値観を持つ若者も少なくない。州全体としては、保守と進歩が同時に存在する、コントラストの強い地域でもある。
そんな場所で生活するKさんは、現在の政治状況を「遠いニュース」ではなく、自分の生活に直結する現実として受け止めている。
彼が繰り返し口にした言葉は、率直だった。
「正直に言うと、怖いです」
何が起きるのか分からないという不確実さが、不安を生む。
留学生への資金カット、ビザ取得の厳格化、SNS利用の履歴提出をめぐる混乱した情報。
トランプ政権の掲げる「移民政策」は、留学生の生活にも直接影響を及ぼしている。
Kさんは、昨年サウジアラビア出身の同級生が、突然ビザを取り消され、強制送還された出来事を間近で見た。
弁護士を雇い、法的に争ったが、ビザが戻ることはなかったという。理由は、最後まで明確に説明されなかった。
「強制送還されないように、公共の場では批判的な発信を控えるよう意識しています」
自分の考えを、自由に表現できない。その感覚が、すでに現実のものとして存在している。
エプスタイン関連文書の公開以降について、 Kさんはこう語る。
「多くのアメリカ国民は、トランプの非人道的な振る舞いに、もううんざりしていると思います」
「これは政権ではなく、体制だと思う」
――20代・アメリカ人男性
Kさんは、同じ大学に通う20代のアメリカ人男性にも話を聞いた。
彼は故郷ミネソタ州で行われているデモを間近で毎日のように目撃している。
「私の周りで、現政権について肯定的な意見を耳にしたことは一度もありません。
日常会話では、『政権(アドミニストレーション)』ではなく、『体制(レジーム)』と呼ぶ人が増えています(※1)」
※1 「政権(アドミニストレーション)」と「体制(レジーム)」の違い
一般に「アドミニストレーション」は、選挙によって選ばれた政権が、憲法や法律、制度の枠内で行政を運営することを指す。一方で「レジーム」は、政治学では、権力が制度の上に立ち、反対意見や少数派の権利が抑圧されやすい支配構造を意味する言葉として使われる。
彼の言葉は、激しい感情を含んでいる。
「トランプに対する人々の感情は、怒りから純粋な憎悪までさまざまです。大統領は、ファシストであり、権威主義者であり、 同胞であるアメリカ人を抑圧し、間違った方向を見たり間違ったことを信じるという理由だけで人々の生活を破壊することに何の躊躇もない人物だと見なされていると思います」
彼は、こうした政治状況を支えている構造にも目を向ける。
「シリコンバレーでは『テクノ封建主義』という言葉が使われています。テック億万長者や超富裕層が、中世の領主のように人々を支配するという考え方です。彼らが大統領を支持するのは、人間的に優れているからではありません。自分たちがやりたい放題できると分かっているからです」
政治的な意見の違いについて、彼ははっきりとした線を引く。
「税制や最高裁の判断について、意見が違う友人はいます。でも、ICE※を無法な準軍事組織だと思わない人とは、友達ではいられません。
子どもを家から引きずり出して収容所に送るべきだと考える人間とは、価値観が根本的に違います」
※ICE(移民税関捜査局)とは
ICEは米国国土安全保障省の下部組織で、不法滞在者の摘発や強制送還を担う機関。近年は令状なしの拘束や家族分離などが問題視され、市民的自由や人権を侵害しているとの批判が強まっている。
彼にとってそれは、政治的立場の違いではなく、人間の尊厳や権利に関わる問題だった。
理想の大統領像を尋ねると、彼は歴史を振り返りながら答えた。
「リンカーンやルーズベルトのように、 大多数の市民に利益をもたらす明確なビジョンを持つ人物です。億万長者や残酷な人々を優遇するのではなく、国民を助けることに関心を持つ大統領を望みます」
「この状況のなかで、希望はありますか?」と尋ねると、彼は一度、言葉を選ぶように間を置いてから、こう答えた。
「正直に言って、今はあまり希望が見出せません。この国がどうなるのか、見当もつかない」
そう前置きしたうえで、彼は続けた。
「私は代々アメリカ人の家庭で育ちました。世界で最も大切なのは、自由な民主主義社会で生きること、そしてその民主主義を守るためなら、必要な犠牲は払うべきだと教えられてきました。だから、今の状況でそれが何を意味するのか、自分でも分からなくなっています。
それでも、多くのアメリカ人が、自分自身や家族を守り、この国の制度を現大統領から守るために、必要なことは何でもする覚悟を持っていることは、確かだと思います」
政治が「好み」ではなくなる瞬間

―― 20代・アメリカ人女性
別の20代前半の女性は、政治をこう捉えている。
「これは意見の違いじゃありません。命や人権の問題です」
彼女の周囲では、移民政策への恐怖や、医療・保険、女性のヘルスケアを受けるのが困難になってきていることへの不安が日常的に語られている。メキシコ系の友人や家族が、将来に強い恐怖を感じている例も少なくない。
彼女が挙げた「理想の大統領の条件」は、印象的だった。
- 犯罪者でないこと
- 宗教と政治を明確に分離できること
- 基本的人権を尊重すること
トランプ大統領への不信感の強さをを物語っているようだ。
社会の分断について、彼女はこう感じている。
「いまは『右 vs 左』というより、『上(権力や富裕層)vs 下(一般市民)』という構図に変わってきている気がします」
政治的意見が合わない人とは深く議論しない。
それは無関心からではなく、精神的な自衛だという。
怒りよりも、疲労が広がるとき

―― 20代半ば・アメリカ人女性
20代半ばの別の女性は、この一年をこう振り返る。
「ストレスが多くて、混乱していて、先が見えない時間でした」
彼女の周囲でも、政権を肯定的に語る声はほとんどない。それでも、政治について語ること自体が減っている。
「みんな、もう疲れているんだと思います。意見が合わないと分かっている人とは、言い争いになるかもしれないから、話題にしない」
彼女が希望を託しているのは、政治や国家ではなく、コミュニティだ。
「仕事、教会、クラブ、(住民が共同で花や野菜を育てる)コミュニティガーデン。人と人とのつながりが強ければ強いほど、
政治家が社会を引き裂く力は弱まると思います」
将来について、彼女は率直に語った。
「正直、いまはアメリカでの自分の未来を描けません。だから、一度この国を離れたいと思っています」
民主主義を諦めない人がいる

最後に、Kさんに尋ねた。
――この状況のなかで、希望は見出せるだろうか。民主的な社会は継続するだろうか。
「正直、難しいと思っていました。でも最近は、中間にいた人たちが アンチ・トランプの側に動いてきて、連帯が生まれていると感じます。ICEの弾圧はおかしい、と仕事を休んででも抗議に参加する人たちが5万人もデモに参加した。 本気で国の将来を考えて行動している人がいる。まだ民主主義を諦めていない人がいることが希望だと思いました」
一方で、彼はこうも語る。
「もし今回、私がインタビューした相手がトランプ支持者だったら、 冷静に話せなかったかもしれません。それくらい、いまは難しい状況だと思います」
民主的な社会は、制度だけで成り立つものではない。
人が何を信じ、何を守ろうとし、どこで踏みとどまるか。
アメリカの若者たちの声は、民主主義と平和がどれほど繊細な基盤の上にあり、決して自明なものではないことを伝えている。
それは同時に、この仕組みが、人間の弱さだけでなく、確かな強さにも深く依存しているという事実でもある。
絶望のなかで、それでも希望を手放さないことができるか。
相手を信じ、主義主張をいったん脇に置き、まず話を聞こうとする姿勢を保てるか。
理屈よりも、良心や感覚に耳を澄ませることができるか。
難しい状況だからこそ、 民主主義は「考え」ではなく、「あり方」として、一人ひとりに問いかけられているのかもしれない。
ホピアスでは今後も民主主義をテーマに、市民の声、そこで生きる当事者の声を拾っていく。


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