【映画紹介】スイッチの向こう側にあるエネルギーの先へ──原発事故後の東北から、自治という希望を描く『みちのく電記』

『みちのく電記』 ©一粒舎

【Touch Hope
本、映画、展示、イベント、場所——。
世界には、人の可能性や社会の前向きな変化に気づかせてくれる作品や体験があります。
「Touch Hope」は、ホピアス編集部が出会った“希望に触れられる”モノやコトをご紹介するシリーズです。一冊の本、一つの映画、一つの場所との出会いを通じて、世界を少し違った視点で見つめ、新たな思考や行動につながるきっかけをお届けします。 

 電気は、私たちの暮らしになくてはならない重要なエネルギーになっています。部屋の照明、スマートフォンやパソコン、テレビ、冷暖房など、家庭でも職場でも電気がなければ日常が送れなくなっています。ですが、私たちはその生活必需エネルギーである電気が、どこで、誰の土地で、どのような方法で、さらには環境破壊や人権侵害などの犠牲や被害を伴って作られているのかもしれないということを意識することはあまりありません。停電が起きて初めて、「電気はどこで止まったのだろう」と考えることがあったとしても。それは、いわば「エネルギーへの思考回路が日常生活では寸断されている」と言ってもいいかもしれません。

 ドキュメンタリー映画である本作『みちのく電記』(岩崎祐監督)は、その見えにくくなったエネルギーや資源の生産・供給地への「思考回路」を、2011年の東日本大震災の被害に遭った東北から、世界へとたどり直す作品です。

東北から世界へ──見えない「エネルギーの現場」をたどる旅

仙台市内の商店街をプラカードを持ち、環境問題を訴える鴫原さんら「フライデー・フォー・フューチャー仙台」の若者たち ©一粒舎

 映画の中心にいるのは、福島県郡山市出身で、宮城県仙台を拠点に気候変動やエネルギー問題に取り組んできた東北大学大学院生の鴫原宏一朗さん。監督の岩崎さんは東京都生まれで、外国にルーツを持つ人々や難民申請者の生活などを撮ってきた映像作家で、日本にいながら世界の動きが見える題材に常に関心を持っていました。東日本大震災後は被災地でも撮影をしてきました。

 この作品の制作に向かうきっかけとなったのは、宮城県角田市でパーム油発電所の建設計画が持ち上がったこと。二酸化炭素を出さない環境に良い再生可能エネルギーをうたっていながら、実際にはインドネシアなどで大量に森林伐採をしていたことが分かりました。いわゆる「グリーンウォッシュ」と言われる問題で、海外では環境破壊に反対する住民運動も起きています。

 この問題を調査していた過程で岩崎さんはコロナ禍の2021年に、宮城県松島町で暮らす環境コンサルタントのロジャー・スミスさんから紹介され、鴫原さんと出会いました。当時鴫原さんは大学生の友人たちと「Fridays for Future Sendai (フライデーズ・フォー・フューチャー仙台)」を作り、パーム油発電だけでなく、石炭火力、メガソーラー、気候変動、貧困、地域社会の問題について、若者の立場から多くの人たちに考えてもらいたいと、毎週金曜日に仙台駅前で街頭活動をしていました。
「フライデーズ・フォー・フューチャー(未来のための金曜日)」とは、2018年当時15歳のスウェーデンの女性グレタ・トゥーンベリさんが、気候変動に対する行動の欠如に抗議して一人で国会前に座り込みをしたことをきっかけに始まり、全世界に波及した環境や人権を守るための運動です。 

 岩崎さんは鴫原さんの話を聞き、「理路整然と問題を整理しながら、豊富な知識でロジカルに語ってくれる。しかも核心を突いた内容。彼に話を聞いていけばいろいろなことが分かるのでは」と感じました。
同時に「宮城県内で問題のある発電所を回ってみよう。」と思いました。鴫原さんの友人の大学生たちとも知り合い、各地を一緒に訪問しながら撮影を始めました。

 鴫原さんや若者たち、岩崎さんの視点は宮城県や日本国内に止まらず、海外へも広がりました。2022年11月には、アフリカのエジプトで開かれたCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)にも参加。現地で出会った環境や人権を考える世界各地の若者たちと意見を交換し、「ローカル」と「グローバル」をつなぐ方向へと行動を拡大していく鴫原さんら日本の若者たちの姿が捉えられています。

若者たちはなぜ行動するのか──気候危機と地域課題をつなぐ視点

6月20日に福島県浪江町で開かれた上映会とトーク。参加者からも熱いコメントが寄せられた (写真 藍原寛子)

6月20日夕、原発事故の被害があった福島県で初めてとなる上映会が浪江町で開かれました。上映後のトークで鴫原さんは、

私たちは最初、宮城県丸森町のメガソーラーの問題(映画にも登場)に取り組みましたが、当時は知っている人はほとんどいない、ニッチなテーマでした。ところが、昨年の宮城県知事選挙では最も重大な、選挙結果を左右するトピックになりました。それだけメガソーラーの数がとてつもなく増えていることが原因です。市の中心部から車で少し走れば山があり、その山々には大規模なソーラーパネルが点在する様子が誰でも見て取れます。かつては誰もが自由に入れた山々に、ある日突然フェンスが立ち、『立ち入り禁止』の表示が掲げられています

と現状を説明。

 自然の山林が電気を生産するための手段としての土地になってしまい、そこから強烈に地元の人たちを排除・排外している様子は「さながら植民地のよう」だと例えました。そうした動きに対して、鴫原さんは環境保護や人々との連帯を目指して、仲間とともに畑を借りて農作物を作る活動を続けています。いずれは山林を共同購入して山道を作り、森林を管理していくような実践も考えていると話しました。

盛岡大学・盛岡大学短期大学部学長で東北大学名誉教授の長谷川公一さん(右)と対話する鴫原さん ©一粒舎

 映画では、エネルギー生産を巡る違和感や利害の衝突を「原発か、再エネか」といった単純な二項対立で捉えることはなく、むしろ二項対立では捉えられず、映画を観ている人が共に考え、取り組むべき共通の課題として提起していきます。

 原発事故を経験した地域では、再生可能エネルギーへの転換は当然の「希望」として語られてきた一方で、地域の合意や自治を欠いたまま、大都市の需要を満たすために地方の山林や農地を開発している事実があります。これは「原発と同じ構造を再生産してしまうのではないか」という問題を突きつけます。

 3.11で人災を含む大事故を起こした原発もまた、地方に立地しながら、そこで生産された電気は大都市へ送られて大量消費されてきたからです。地域の財政難、雇用、企業誘致、国策、そして住民の分断。鴫原さんはトークの中で、原発立地の前史には公害問題や地方の経済構造があると指摘しました。工場やコンビナートを誘致できなかった地域が、最後に誘致したのが原子力発電だったからです。そこにあるのは、地域が自らの力で生きていける経済や力を奪われ、外部の大きな企業や国策に依存せざるを得なくなるという構造です。

 この構造を見ないまま、「原発かメガソーラー(再エネ)か」という選択だけを迫れば、どちらかの環境破壊を受け入れ、被害者は大勢の利益のために我慢するしかないのではないかーという息苦しい議論になってしまいます。しかし鴫原さんは、「もっと(この問題を)大きく考えていいのではないか」と、構造的に見ることを提案します。

「環境問題は入口にすぎず、そこから貧困、差別、移民、地域経済、食料、土地、自治の問題をしっかりとみていけば、それらはつながって見えてくるから」とも語ります。最終的に、鴫原さんや友人たちが実現したいのは環境や人権を守ることは当然のこと、そのうえで誰もが自立し、自分たちのことを自分たちで決めていける「地域の自治」に根ざした地域社会をつくることだと、映画を通じて気づかされます。

東北からグローバルサウスへ──若者たちが動かした世界

鴫原さんたちをはじめとして世界中から若者たちも参加して環境や人権問題を考え、議論した2022年エジプト開催のCOP27 ©一粒舎

 映画の後半に広がるグローバルな視点も、非常に重要な問題提起をしています。日本のエネルギー政策や企業活動は、国内だけで完結してはいません。パーム油発電計画の背景には東南アジアの森林破壊があり、石炭火力事業の背後にはグローバルサウス(※1)の問題があります。

 COP27に参加して世界各国の若者と交流した鴫原さんたち日本の若者は、日本企業が途上国を含む海外で環境破壊に関与していることを指摘し、現地でのシンポジウムに参加したその日本企業の代表と直接対面して、問題を指摘し、事業を止めるよう要求します。

 日本の政府や企業は自分たちの利益のみを追求しているのに対して、鴫原さんたち若者は、世界全体、グローバルな環境保護や人権を訴えているのが象徴的です。ここには、自分たちよりも上の世代によって、環境や人権を搾取される立場となってしまった現在の若者たちの切実な訴えもにじみ出ています。

 問題を突きつけられた日本企業の代表の態度は、若者を前にして口ごもり、具体的な説明をしません。カメラはその不誠実な対応をしっかりと捉えました。COP27の前から、その企業に対して世界中からの批判が強まり、事業は中止に追い込まれました。これは「行動することで世界は変えられる」ということを若者たちが証明してくれた結果になりました。

(※1)グローバルサウス

アジア、アフリカ、中南米の新興国や開発途上国のこと。かつて「第三世界」と呼ばれた。先進国が地球の北部に集中している一方で、新興国は南部に位置していることから「グローバルサウス」と呼ばれている。現在は、国際政治において環境や人権、経済など多方面で急速に影響力を高めており、発言や発信が世界中で注目されています。

食べ物を育てることから始まる──地域の自治と共生への挑戦

ら畑を耕して農作物を作りながら環境問題に取り組む様子を語る鴫原さん (写真:藍原寛子)

 鴫原さんは仙台市でフードバンクの活動にも参加しています。気候変動の影響で洪水や農業被害を受け、生活のために日本へ来る留学生や移民とも日々接する中で、「気候危機は遠い国のニュースではなく、仙台の街のコンビニや食料支援の現場にも現れています」と話します。

 今、社会は非常に困難な局面に入っています。だれもが生活が苦しくなる中で、不満や怒りの矛先が移民や高齢者など、属性の異なる他者へ向けられていき、「共生社会」「誰も取り残さない」というSDGsの目標は遠ざかり、排外主義的な政治が力を増す現実もあります。差別や分断による困難さが、本来は構造的で政治的、社会的な問題であり、私たち全員が関わることで解決可能なのにもかかわらず、「自己責任」へとすり替えられていく危うさがあることも、私たちは考えなければなりません。

 では、どうすればいいのか。鴫原さんは「自治力」を提案します。鴫原さんたちは、企業の環境破壊に反対するだけでなく、地域で小規模の太陽光発電によりエネルギーを地産地消する人々と出会いながら、耕作放棄地を活用し、そこで育てた食べ物を生活に困っている人に届けるというフードバンクの活動を続けています。食料を渡すだけでなく、「一緒に山や畑を管理しませんか」と呼び掛け、一緒に汗を流して同じものを作り、食べる活動です。外国ルーツの人も、高齢者も、セクシュアリティが何であっても、あらゆる人が一緒に地域で自分が食べるものを生産しながら、自然環境を守る地域社会づくり。それは地域に備わった自然の力、植物や命の潜在力を高めることにもつながっているように見えます。

 岩崎監督はトークの中で「エネルギー問題の話としてこの映画を撮り始めましたが、撮影・編集を進めていくうちに、社会構造そのものを問う話であると再認識しました」 と打ち明けます。市民がお金を出し合って設立した市民電力や、住民自治の力を背景に地域で再生可能エネルギーを広げてきた長野県飯田市のような例にも触れながら、「問題は、『どの発電がよいか』というだけではなく、住民が主体性を持てるかどうかにあるのでは」と指摘しました。

希望は行動の中にある──『みちのく電記』が私たちに託すもの

映画は青空の下、生き生きとした鴫原さんの笑顔でクロージングする  ©一粒舎

 本作が印象的なのは、環境や人権といった重い問題を扱いながら、絶望ではなく希望を感じさせていることです。何よりスクリーンに登場する鴫原さんと友人たちの生き生きとした表情やきっぱりとした発言、行動力が光ります。体験や議論、思索を重ねながら、人間としても飛躍的に成長し、先へ、先へ、と踏み出している力強さが感じられます。

 鴫原さんは環境運動を義務感だけで続けることには苦しさがあるということにも率直な言葉で触れています。「原発、気候危機、貧困、差別を論理的に説明し続けることは重要ですが、それだけでは人は疲弊してしまいます。だからこそ必要なのは、運動の中にある楽しさ、解放感、尊厳を取り戻す感覚だと思います。」

 山を管理すること、畑を耕すこと、仲間と食べ物を分け合うこと。そこには、単なる反対運動を超えた、生きる場所を自分たちの手に取り戻す喜びがありました。

 筆者(50代)は、この映画を若者に未来を託す物語としてだけ見てはならないと感じています。大量生産・大量消費の恩恵を受けてきた私たち世代が、その負担を若者たちに押しつけていないかを問い返す作品でもあるからです。
「頑張れ、頑張れ」と若者に期待し鼓舞することは、本当の自分たち世代の責任を果たしたことにはなりません。福島で、東北で、そして日本各地で、私たちはどのような電気・エネルギーを使い、どのような地域社会を作ろうとしているのか。
私たちはどのようなエネルギーを選び、どのような地域社会を築こうとしているのか。その問いは、すべての観客自身に返ってきます。

 観客の多くが、スイッチの向こう側にある世界を見つめ、誰かの犠牲の上に成り立つ便利さを問い直し、奪われた自立、自治の力を行動によって取り戻すことの大切さを、スクリーンで描かれている鴫原さんたち若者の笑顔を通じて感じ取ることができる映画に仕上がっています。

仲間を作り議論し、行動するなかで問題の解決策を探る鴫原さん ©一粒舎

 「今、僕たちは多くの外国ルーツの人たちと一緒に畑で農作物を作る活動をしています。収穫した農作物は多くの人たちへの支援として役立てられています。可能なら、僕たちと一緒にこの農地に来て、土や植物、野菜に触れて汗を流してみませんか」と鴫原さん。

 国籍やルーツの違いを超えて、同じ地平に立ち、太陽の光を浴びながら、野菜の命を育て、地球がくれた季節ごとの実りを分かち合うこと。その積み重ねの中にこそ、お互いを尊重して地域で共に生きていくための小さな希望が生まれていくのかもしれません。 

出演の鴫原さん(左)、監督の岩崎さん (写真:藍原寛子)

【映画「みちのく電記」今後の上映予定】
8月5日(水)10:30 東京都渋谷区、婦選会館
9月4日(金)~10日(木) 福島県福島市、フォーラム福島
9月13日(日)9:30 宮城県仙台市、トークネットホール仙台

【自主上映会 募集中】
映画、上映会に関するお問合せ:『みちのく電記』上映会実行委員会 
michinokudenki@gmail.com

ドキュメンタリー映画『みちのく電記』
監督・製作・撮影・編集 岩崎祐
共同製作・追加撮影 ロジャー・スミス
製作協力 マイティー・アース
©一粒舎
83分/日本/2024年/カラードキュメンタリー
ホームページ https://www.michinokudenki.com

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