希望を語るだけでは終わらせない──事業共創カンファレンス「START CAMP」が描く「希望産業」への道

「希望産業」。まだ広く知られている言葉ではない。

希望は、未来への期待や願いを表す言葉だ。一方、産業とは、人や資金が動き、事業が継続し、社会の仕組みとして根づいていくものを指す。感情と仕組み。一見すると、二つは簡単には結びつかない。

「START CAMP 2026 in SHIZUOKA」を主催するIMA株式会社は、2026年から「希望産業」を「社会にポジティブで持続的な変化をもたらす産業」と定義している。

社会課題に向き合う人々の思いを、一過性の活動で終わらせず、持続する事業へと育てていく。そのためには、異なる組織や分野の人たちが出会い、課題を捉え直し、共に動く仲間を見つける機会が必要だ。START CAMPは、そうした出会いと対話から、具体的な一歩を踏み出すための場を2020年からつくり続けている。

業界や組織の垣根を越えた参画が、START CAMPの共創を支える(提供:IMA)

連携や共創を掲げるイベントは他にもある。では、START CAMPは、ほかのカンファレンスと何が違うのか。そして、わずか2日間で本当に「希望産業」への道は開けるのだろうか。

ホピアスは「希望産業」の実態を捉えるべく、2026年7月23日、静岡市で開かれたSTART CAMP 2026 in SHIZUOKAの1日目を取材した。

START CAMP 2026 1日目オープニング(提供:IMA)

希望を語る人から、希望をつくる人へ

START CAMPは、大企業、スタートアップ、自治体、NPO、有識者などが、組織や分野の垣根を越えて集う事業共創カンファレンスだ。2020年の初開催以来、過去6回で累計300団体、920人以上が参加。7回目となる今回は、約200人が静岡に集まった。

2026年のテーマとして扱われたのは、一次産業、モノづくり、テクノロジー・AI、環境改善・レジリエンス、歴史文化・地域資源の資本化という5つの領域だ。
50名にのぼる登壇者の内、約7割はグローバルでの事業展開を行っているという。社会や地域にある課題や資源を、国内に留まらないグローバルでの知見、技術、市場とどう結び直すか。それぞれの領域から問いが投げかけられた。

「歴史文化・地域資源の資本化」のセッション(提供:IMA)

一般的なカンファレンスとの大きな違いは、参加者が講演を聞く「観客」のままで終わらないことにある。

1日目は、登壇者の問題提起を起点に参加者も交えて議論し、その後は参加者自身が「このテーマで話したい」と議題を提案する。関心を持った人が集まってチームを組み、翌日の共創ワークに向けて動き始める。2日目には、チームごとにアイデアを具体化し、共創ピッチ、ファイナルピッチへ進む。

共創ワークの様子(提供:IMA)

問いを持ち帰るだけではなく、誰と何を始めるかまでを2日間の中で決めていく。参加者を「希望について語る人」から「希望をつくる人」へ変えていく設計が、START CAMPの大きな特徴だ。

START CAMP スローガン「道なき道は、誰かといけ。」(提供:IMA)

5つの領域から、社会の未来を捉え直す

会場では5つの領域に分かれ、議論が進む。テーマは、農業技術の輸出やAI・ロボティクスを活用した農業生産、新興国の課題から捉え直す日本のモノづくり、自然資本の可視化や海洋再生、文化資本を生かした観光や地域ブランドづくりなど多岐にわたる。参加者は5つの領域から参加先を事前に選び、関心のあるテーマを掘り下げる仕組みだ。

真剣な様子でセッションを聞く参加者(提供:IMA)

今回、ホピアスが参加したのはテクノロジー・AI領域だ。ここからは、会場で交わされた多様な議論の一例として、そのセッションを紹介したい。

テクノロジー領域で見えた「希望産業」の可能性

テーマの一つは「フィジカルAIとどう付き合っていくのか?」。フィジカルAIとは、AIがロボットなどの身体を通じて現実空間を認識し、判断し、行動する技術を指す。

セッションでは、工場や物流の現場で、人が担ってきた補充、運搬、トラブル対応などに活用できる可能性が語られた。ただし、議論は「どの仕事を機械に置き換えられるか」だけにはとどまらない。

チームディスカッションでは、ひきこもり支援に取り組むNPOとフィジカルAIを組み合わせるアイデアが出た。当事者が自宅からロボットアームを遠隔操作し、その操作データをAIの学習に生かす。外出が難しい人でも、新しい形で仕事や社会と接点を持てるのではないか、という提案だ。

技術を持つ人と、社会課題の現場を知る人が同じテーブルについたことで、フィジカルAIの意味は「人の代替」から「人の可能性を広げるもの」へと捉え直された。

もちろん、この段階ではまだアイデアにすぎない。技術要件や安全性、本人の意思を尊重した支援のあり方、継続する事業モデルなど、検討すべきことは多い。それでも、異なる領域が交わることで、これまで見えなかった選択肢が現れる。その過程に、希望産業の一つの原型があった。

2回目のセッションでは、生成AIや量子コンピュータが社会に実装された先で、人間は何を判断し、どの未来を選ぶのかも議論された。技術そのものが希望なのではない。
誰のために、何を良くするために使うのか。目的と判断を人が手放さないことが、技術を希望へ変える条件になる。

技術の具体的な活用と、「人間」への根源的な問い。その間を行き来しながら、会場の議論は次第に熱を帯びていく。

セッション「世界の課題は最新のテクノロジーでどう解決されるのか:生成AIや量子コンピュータが当たり前となる世で我々はどう生きるか?」(提供:IMA)

「このテーマで話したい」と手が挙がる

セッション後、会場の主役は登壇者から参加者へ移っていった。

参加者は、議論を通じて生まれた問いや実現したいアイデアを自ら提案する。そこに関心を持った人が集まり、翌日の共創ワークに向けたチームがつくられていく。

自分だけの言葉を紡いでいく参加者(提供:IMA)

技術を持つ人、社会課題の現場を知る人、事業をつくる人。それぞれの情報や経験は部分的でも、組み合わせることで、一人では描けなかったプロジェクトの輪郭が現れる。

この場で重要なのは、完成された企画を持っていることではない。「自分はこの問題が気になる」「この知見を別の形で生かせないか」と声に出すことだ。その意志に別の誰かが応えることで、問いは個人の内側から、共に取り組むテーマへ変わっていく。

「誰が、なぜ支払うのか」という壁

ただし、仲間が集まり、アイデアが生まれただけでは、まだ産業とは呼べない。

START CAMPに長年関わってきた住友生命保険相互会社の常務執行役員・藤本宏樹さんは、「希望産業」を事業として成立させるうえで避けて通れない問いとして、「誰が、なぜ支払うのか」を挙げる。社会的な意義が大きく、潜在的な市場が存在していても、それだけで収益を生む事業になるとは限らないという。

写真左:取材に応じてくれた住友生命保険相互会社・常務執行役員の藤本宏樹さん(提供:IMA)

特に社会課題の領域では、サービスによって恩恵を受ける人と、費用を支払う人が一致しないことがある。誰が費用を支払う想定か。その人や組織に、どのような支払い理由を提示できるのか。そこまで設計できなければ、良いアイデアも継続する仕組みにはなりにくい。

社会課題からアイデアを生み出す力に比べ、社会的な効果と経済合理性をつなぐ設計が追いついていないと指摘する。これはSTART CAMPだけの問題ではなく、日本の新規事業やイノベーションに広く共通する壁だという。

希望を語るだけで終わらせないためには、共感の輪を広げるだけでなく、「誰が、なぜ支払うのか」という事業の問いを引き受けなければならない。社会性と経済合理性をつなぐ方法を探る場として、藤本さんもSTART CAMPに期待を寄せていた。

1日目の終わりは、2日目の入口

1日目の終盤、会場の各所では、できたばかりのチームが翌日の進め方を話し合っていた。数時間前まで互いを知らなかった人たちが同じ問いを囲み、「明日も一緒に考える」と決める。1日目の終わりは、単なる散会ではなく、次の行動への入口になっていた。

アイデアがホワイトボードにびっしりと書き込まれていく(Photo by 奥 祥弓)

ホピアスが現地で目撃したのは、1日目の対話までだ。続く2日目には、生まれたばかりのチームがアイデアを磨き上げる共創ワークを行い、その結実がピッチの舞台で披露された。

参加者による共感の投票と企業賞が重なり、この場で最も大きな期待(資金)を集めたのは「Sea Vegetable Cycle 〜学校給食×授業ジャック大作戦〜 」だった。参加者応援賞で2位となる12万円を、さらに静岡銀行賞として20万円を獲得した。

同プロジェクトは、2月10日を「海藻の日」と位置づけ、全国の学校給食で海藻メニューを提供するとともに、オンライン授業で教室と海の生産現場をつなぐ構想だ。子どもたちの食育を入り口に海藻の消費を広げ、人の健康や新たな食文化、地域の産業・雇用、海の生態系の回復につなげることを目指す。

ピッチの様子(提供:IMA)

評価の決め手となったのは、海藻と静岡という土地の相性、そして次世代を担う若者が参画する姿に宿る未来への可能性だ。参加者からも、単なる理想に留まらない実現性の高さと、食育を通じて環境や産業を同時に動かす多層的なアプローチに、多くの支持が集まった。

結果発表(提供:IMA)

とはいえ、2日目の発表が完成形ではないだろう。
誰に価値を届け、誰が支払い、どのように続けるのかを検証していくための出発点といえる。希望産業が本当に生まれるかどうかは、イベント後にそれぞれのチームが重ねる行動にかかっているのだ。

ただ、写真越しにも伝わる会場の熱量は、このイベントが2日間で終わらず、その先へ続いていくことを予感させる。
主催のIMAが掲げる「今をかきまぜろ。」という言葉には、“今”この瞬間に徹底して向き合うことが、未来を切り開く力になる——そんな意味も込められているのかもしれない。

「仲の良い場」だけで終わらせない覚悟

なぜ、IMAは「希望産業」を掲げたのか。
運営メンバーの言葉からは、START CAMPが迎えている転換点が見えてきた。

運営メンバーでの集合写真(提供:IMA)

社会課題に正面から向き合い続けるだけでは、取り組む人が疲弊してしまう。一方で、成長だけを追えば、経済合理性のみに偏りかねない。
START CAMPが目指すのは、社会課題を新たな角度で捉え直し、成長市場と掛け合わせることで産業創出を目指す世界だという。

対話を通じ、自分の事業や活動を別の角度から捉え直して、「これがやりたかったことかもしれない」と気づく。約200人の異なる視点を混ぜることで、そうした変化を生み出すことも、運営の狙いだ。

そして、今年から「希望産業」というテーマを掲げたこと自体が、運営側の覚悟の表れでもある。社会課題に向き合う人たちがつながり、共感し合うだけで終わらせない。その関係性を土台に、活動を持続可能な事業へ、さらに産業へ育てていくことにコミットする。

START CAMPには、仲間が再会する同窓会のような温かさもある。しかし、その居心地の良さにとどまらず、具体的な成果も求める。親密な関係づくりと、事業を生み出す緊張感。その両方を成立させようとする姿勢に、「希望産業」という言葉への重みがある。

2日目の会場の様子(提供:IMA)

希望産業への道は、小さな歩みの先にある

見過ごされてきた課題に目を向け、「こんな社会をつくりたい」と声にする。
自分とは異なる経験や資源を持つ人と出会い、課題を捉え直す。
さらに、「誰が、なぜ支払うのか」という現実的な問いから逃げず、小さくても具体的な行動を始める。
その積み重ねが、希望を一時的な感情から、続いていく仕組みへ変えていく。

START CAMPだけで、完成された「希望産業」が見えたわけではない。そこにあったのは、問いと、出会いと、走り始めたアイデア、そして仲間と始めようとする熱い意志だった。

──今回の道の先に何があるかは、まだ誰にも分からない。

それでも、一人では進めなかった道を、誰かと歩き始めた人たちがいる。
「希望産業」は、そうした小さな歩みを積み重ねた先で、少しずつ形になっていくのだろう。

提供:IMA

START CAMP
START CAMPは、「道なき道は、誰かといけ。」をスローガンに、IMA株式会社が2020年から全国各地で開催している事業共創カンファレンス。大企業、スタートアップ、自治体、NPO、有識者など、異なる立場の人々が社会課題を起点に集い、ディスカッションやチームづくり、共創ワーク、ピッチを通じて、新たなプロジェクトを形にする。
2026年は「世界の未来を照らす『希望産業』の創出」をビジョンに掲げ、7回目となる「START CAMP 2026 in SHIZUOKA」を静岡で開催。
https://ima-inc.world/startcamp/2026/

IMA株式会社
IMA株式会社は、「今をかきまぜろ。」をミッションに掲げ、組織や業界を越えた共創を生み出す企業。社会課題と成長産業・市場が交わる領域で、新規事業の開発や組織変革を支援。事業共創カンファレンス「START CAMP」のほか、ソーシャルキャリアイベント「ソーシャルキャリアフェス」や、社会課題の現場で対話を行う企業向けオフサイト研修「DEEP DIVE CAMP」などを展開。2020年設立、代表取締役は海野慧氏。
https://ima-inc.world/

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