「パレスチナを忘れないで」―ガザへの大規模攻撃から3年、一人ひとりの命と尊厳を守る

「私たちが望むのはただ人間らしい尊厳ある暮らしです。」
「多くは望みません。ただ寄り添ってほしい。」
会場で上映されたビデオメッセージで、パレスチナの母親が訴えた。食べるものがなく、市場に落ちている野菜を拾い、傷んだ野菜を調理して子どもたちに食べさせているという。生活の状況を語る途中、母親は涙を流した。
2026年10月3日、東京・港区の聖アンデレ教会で、NGO合同イベント「パレスチナを忘れないで」が開かれた。現地で活動するNGOによる報告、アーティストの坂本美雨さんのトークとミニライブ、絵本の朗読やワークショップが行われた。
ガザへの大規模攻撃が始まった2023年10月7日から3年。イベントでは、停戦合意後も続く人道危機とともに、人々の命や暮らしを支える活動が伝えられた。
停戦合意後も続く攻撃と避難生活
主催団体が公表した共同声明によると、2023年10月7日以降、ガザでは7万3千人以上が死亡した。2025年10月に停戦合意が成立した後も攻撃は続き、1年弱の間に1,300人以上が犠牲になっている。(出典:国連人道問題調整事務所 2026年8月19日時点)
当日のNGOの報告では、住居や水道などのインフラの破壊、食料や医療の不足、避難生活の長期化が取り上げられた。テントや損壊した建物で暮らす住民にとって、夏の暑さ、冬の寒さや雨、建物の倒壊リスクも深刻な問題となっている。
ヨルダン川西岸地区についても、移動の制限や入植者(※1)やイスラエル兵による暴力、オリーブ畑や農業資材への攻撃が報告された。オリーブは収入源であるとともに、土地とのつながりや文化を象徴するものでもある。農地への攻撃は、人々の生活基盤を脅かしている。
西岸地区に暮らすパレスチナ人の大学生は、現在の状況についてこう語った。
「以前は入植者によって書かれた『パレスチナに未来はない』という落書きを見ても、冗談を言って笑っていました。でも今は正直、『本当にそうかもしれない』と感じてしまうことがあります」
危機が長期化するなか、「未来を思い描くこと」そのものが難しくなっている。
(※1)入植者
1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領したパレスチナ自治区(ヨルダン川西岸や東エルサレム)などに移り住み、ユダヤ人専用の住宅地(入植地)で暮らしている人々のこと
惨状に慣れず、パレスチナを思い続ける

現地の人々と、長く直接やり取りを続けている一人が坂本美雨さんだ。
アーティストの坂本美雨さんは、ガザの人道支援を目的とするチャリティーオークション「Watermelon Seeds Fundraiser(※2)」を主宰し、支援や発信を続けている。
現地から届くのは、困難な状況を伝える知らせだけではないという。
姪が生まれたこと。結婚したこと。その日にあった、ちょっとした楽しい出来事。
悲惨な状況の中でも日常が営まれ、幸せな瞬間があることを伝えてくれるのが、大きな希望になっていると語った。
一方、発信を続ける中で感じているのが、惨状に対する人々の「慣れ」だ。
爆撃の映像に当初は強い衝撃を受けていた人が、繰り返し目にするうちに「また同じ爆撃か」と受け止めることもあるという。坂本さんは、一人の子どもの命が失われることが、どれほど消えない悲しみをもたらすのか、自分自身にも、周囲にも問い続ける必要があると話した。
トークでは、現地から届く「ありがとう」の言葉にも変化があることが紹介された。
「支援してくれてありがとう」「物を届けてくれてありがとう」に加え、「知っていてくれてありがとう」という声が届くようになっているという。
状況を伝え続けることは、日本の人々に現状を知らせるとともに、パレスチナの人々に「忘れていない」「寄り添っている」という思いを届けることでもある。
(※2)Watermelon Seeds Fundraiser
音楽家の坂本美雨さんが2024年に立ち上げた、ガザの人道支援のためのチャリティーオークション。SNSを通じた現地の人々との交流や、海外のチャリティー活動に触れたことがきっかけとなった。賛同するアーティストが作品や愛用品を出品し、Yahoo!オークションで開催。売上金から実費を差し引いた全額を支援に充て、寄付先には日本国際ボランティアセンター(JVC)やガザの動物保護団体などを掲げた。 2024年7〜8月の第1弾では10,359,377円を寄付し、同年11月には第2弾を実施。日本から寄せられる思いを、現地への具体的な支援につなげている。
食料、水、医療、学び。続いてきた支援

食べること。
安全な水を飲むこと。
病院で診てもらうこと。
子どもが学ぶこと。
危機が長期化するなかでも、日々の暮らしを支える活動は続いている。
日本国際ボランティアセンター(JVC)は、ガザ地区で子どもの栄養・医療支援を実施している。2025年度には、乳児用粉ミルク4,250缶、医薬品の配布や診療所支援を行い、4,000人以上の子どもの栄養状態の簡易健診や保護者への栄養相談、子育てに関する講習の支援も行ってきた。
パルシックは、2023年11月以降、避難民に食料や衛生用品、衣類などを届けている。避難民キャンプ8カ所に飲料水用タンク26基を設置し、子ども1,820人に衣類などを配付。親を失った子どもや、病気・障がいのある子どもへの支援にも取り組んでいる。
また、戦争以前から継続して畜産農家の収入向上支援を行っているほか、農家への農業資材の配付も行っている。
危機が続くなかでも、こうした支援は積み重ねられている。
「希望となれ、尾の長い物語となれ」
坂本さんは、音楽を通じても声を届けている。
2025年には、イスラエルの空爆で命を落としたガザの詩人・大学教授、リフアト・アルアライールさんの詩「If I must die(※3)」を歌った楽曲を発表した。
詩は、残された人に自分の物語を語り、白く尾の長い凧を作ってほしいと呼びかける。
父を失ったガザの子どもが、その凧を見て、愛されていると感じられるように。
「もし、わたしが死ななければならないのなら
希望となれ
尾の長い 物語となれ」
この日もミニライブが行われ、会場は坂本さんの歌声に包まれた。
(※3)「If I must die」
パレスチナ・ガザ地区の詩人・文学者リフアト・アルアライールさんが遺した詩。2011年に発表され、2023年11月に本人がSNSで再び共有した。同年12月、リフアトさんはイスラエル軍の空爆で命を落とした。詩は、自分の物語を語り継ぎ、子どもたちに愛と希望を届けてほしいと呼びかける。死後、世界各地に広まり、70以上の言語に翻訳されている。
9団体が共同声明。自由と尊厳を守るための行動を求める

現地への支援とともに、日本政府や国際社会への働きかけも続いている。
イベントに合わせ、認定NPOパルシック、日本国際ボランティアセンター、ピースボート、ヒューマンライツ・ナウなど9団体が呼びかけ、共同声明「パレスチナに自由と尊厳を」を発表した。
声明で求めた内容は、大きく四つある。
- ガザ地区とヨルダン川西岸地区での攻撃や強制移動を止め、命と暮らしを守ること
- ガザ地区への人道支援を届け、パレスチナ人が主体となった復旧・復興を支えること
- 占領の終結に取り組み、人々が自らの将来を決める権利を保障すること
- 重大な国際法違反について独立した調査と責任追及を進めること
会場での発表によると、声明には53団体と272人の個人が賛同した。
パレスチナへの思いを言葉にして共有する

会場では、参加者が平和の象徴であるオリーブの造花にメッセージを添える「オリーブメッセージ for Peace」も行われた。
「一人ひとりの名前を奪う戦争を許さない あなたたちのことを毎日想っています」
「友だちと一緒に大きな声で歌を歌える日が早く来ますように」
寄せられたのは、暴力への抗議や、一人ひとりの命と尊厳を守りたいという願い、平穏な日常を望む言葉だった。
危機が長期化するほど、惨状が日常のニュースの一つとなり、関心が薄れてしまうことがある。それでも、現地の一人ひとりの暮らしは続いている。
私たちは、その声を聞き、伝え、支援に参加することができる。「忘れていない」という思いを届けることもできる。
イベントは、パレスチナを忘れず、平和をあきらめないという思いを共有し、それぞれの立場から支援や行動を考える場となった。


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