子どもが中心「まなびの多様化学校」
「まなびの多様化学校」をご存じですか?
まだあまり耳にすることのない学校名かもしれませんが、この学校は、文部科学省が学校教育法施行規則に基づき、不登校の生徒に学びの場を届けることを目的として設立された特別な教育課程を持つ学校です。
2004年に「不登校特例校」として誕生し、2023年に現在の名称へと改められました。
公立・私立の小学校、中学校、高校があり、一般の学校と同じように卒業資格を取得することができます。
2023年度、文部科学省は全国の不登校生が過去最多の34万6482人にのぼると発表しました。
この状況を受け、「まなびの多様化学校」の設立が全国で求められています。しかし、現在開校しているのは35校、設置予定は22校と、目標の300校に対して進捗は約2割にとどまっています。
子どもが中心、安心して多様な方法で学べる場所
「まなびの多様化学校」の大きな特徴は、“ 学校側の画一的なルール ”ではなく、“ 子どもたち一人ひとりの特徴やニーズ ”が運営の軸となっている点です。
以下、実施されたカリキュラムの一部です。
- 年間の授業時間数は、学習指導要領にとらわれることなく、通常の1-2割ほど少ない
- 登校時間も1時間程度遅く、子どもたちのペースで通うことができる
- 朝の時間や放課後のゆとりを考え、午前2時間、午後2時間を基本とする
- 音楽・美術・技術・家庭を統合したクリエイティブな授業を設置
- クラス担任は2人とし、男女を組み合わせる
- 登校が必須ではなく、学校内の別の場所や家庭からのリモート参加もOK
- 給食はなし、お弁当は学校内のどこで食べてもよい
- 授業は習熟度別に行われ、自分の学力に最も適したクラスで授業を受けられる
- コミュニケーション能力の向上をめざし、ソーシャルスキルトレーニングの授業を実施
- 体験型学習(たとえば校外学習)を年4回以上実施
NHKの報道で紹介された北海道札幌市の「まなびの多様化学校」では、授業中に教室を離れ、ハンモックのある部屋でタブレットを使って学ぶ生徒の姿がありました。
学校が配布されたタブレットを使えば、生徒は校内の好きな場所や自宅からでもリモートで授業に参加できます。
「教室で授業を受けるのは好きだけど、ずっといると疲れちゃうから」。
そんな声に寄り添う形で、校舎内には自由に使える”休憩スペース”も設けられています。
授業への集中が難しい時や少し気分を切り替えたい時、生徒は気兼ねなくここで休むことができます。
自分のペースで安心して過ごせる空間があることが、生徒にとって学校を心地よい場所にしているのかもしれません。
大分県玖珠町、地域ぐるみで開校
2024年4月、大分県玖珠町(人口1万4061人)に九州で初となる小中一貫校(義務教育学校)の「玖珠町立学びの多様化学校」が開校しました。
背景には、不登校の急増という深刻な状況があります。
特に中学校では、不登校の割合が2014年の1.2%から2023年には12%と、わずか10年で10倍に増加しました。
危機感を抱いた玖珠町教育委員会は「今、困っている子どもをすぐに支えたい」という強い思いのもと、約1年という短期間で学校設立を実現しました。
不登校児童生徒への支援を考える際に、避けなければならないのが、不登校を児童生徒自身・家庭だけの問題と考えて事態を矮小化してしまうことです。不登校は決して個人の問題に留まるものではなく、パンデミックなどにより、世界規模で価値観が変容した今日において、これまでの学校教育のあり方、子ども・家庭を取り巻く社会のあり方を見直すための問題提起と捉えるべきだと思います。
教育長の梶原さんからこのようなメッセージが町内の学校に配布され、地域の理解が広がる中で870万円の寄付が集まりました。さらに、町民が廃校となっていた学校を無償で整備し、地域ぐるみで開校を支えました。
“みんなが主役の学校“をコンセプトにした同校では、開校から約1年・・登校率は約8割です。
「先生が笑顔で楽しそうだから、私も行きたくなる」。そんな子どもたちの声が、この学校の日常を物語っています。
独自の様々な工夫されたカリキュラムは、新設教科で「対話」の教科があります。
子どもたちが輪になって対話し、自分を表現して他者との違いを認め合う力を育むのが狙いです。
自分を表現し、他者の声に耳を傾け、その違いを尊重しあえる、扉を開く「対話」の教科は、私たち大人も受けてみたい授業です。
黒柳徹子さんの個性を伸ばした「トモエ学園」
落ち着きがないという理由で小学校を退学し、「トモエ学園」に通うことになった徹子さん。そこでは、徹子さんが自由に自分らしく過ごし、それをとがめる大人はいなかったと、黒柳さん自身が語っています。
校長の小林先生は、好奇心旺盛で突拍子もない行動をする徹子さんに「君は、本当はいい子なんだよ」と繰り返し伝え続けたそうです。
「どんな子どもも、素晴らしい才能を持っている」。
この信念を胸に、小林校長はヨーロッパで目にした自由な教育に感銘を受け、日本でトモエ学園を開校しました。
徹子さんはこう言います。
先生は、いつどこで私に会っても、「君は本当はいい子なんだよ」ってずっと言い続けてくださいました。
どんな時代となっても、すべての子どもたちが取り残されない、一人一人の良い所を見い出してあげる、そんな世界であってほしいと思います。
「まなびの多様化学校」の教育方針や手法は、不登校の生徒たちだけでなく、全ての生徒たちに選択肢として提供する価値のあるものだと感じます。
現在私たちを取り巻く世界は、“学力”では解決できない難題ばかりです。
これからは“人間性”を軸にした教育が、新しい時代に必要な人材を育てるかもしれません。
まなびの多様化学校が、全国に速やかに広がっていくことを期待します。