宇宙飛行士の体験するオーバービュー効果:人類がひとつである感覚

アメリカ大統領選で注目を集めたイーロン・マスク氏。その影響力はさらに広がり、彼が創業した航空宇宙メーカー「スペースX」のロビー活動も活発化していることが、連日の報道から伺えます。
近年、宇宙開発は人工衛星のデータ活用から宇宙旅行まで多様化し、新たなビジネスの舞台として世界中の企業が動き始めています。
宇宙は人類にとってまだまだ未知で巨大な可能性が広がっている空間として、多くの人を魅了しています。
そして実際に宇宙を旅した宇宙飛行士たちはどんな体験をしているのでしょうか。

オーバービュー効果 :宇宙空間から地球を見た時に生じる深い心理的・哲学的な変化

「地球は青かった」
1961年、人類初、有人宇宙飛行としてボストーク1号に単身搭乗したガガーリンの有名な言葉。

直訳は「空はとても暗かった。一方、地球は青みがかっていた」だったそうですが、宇宙から地球を見た人しか見られない創造を超えた景色が広がっていたのでしょう。
それから、64年。数々の宇宙飛行士が宇宙飛行をし、様々なミッションを行いました。
そして宇宙から地球を見るという体験が積み重ねられてきました。

宇宙飛行士が宇宙から地球に帰還した際、多くの人が「意識の変化(認識の変容)」を経験すると報告しています。
その中でも特徴的なのが「オーバービュー効果」と言われる作家のフランク・ホワイト氏が何人もの宇宙飛行士にインタビューして1987年に出版した著書 「The Overview Effect: Space Exploration and Human Evolution」で提唱した概念です。

オーバービュー効果とは:宇宙空間から地球を見た時に生じる深い心理的・哲学的な変化のことを指します。この現象を経験した宇宙飛行士たちは、以下のような感想を述べています。

  • 地球が一つの生命体のように感じられる
    • → 国境や政治的な対立が無意味に思え、人類全体が一つの存在であるという感覚を持つ。
  • 地球の美しさと壊れやすさを強く感じる
    • → 宇宙から見る地球は、青く美しいが、同時に非常に繊細で脆い存在に見える。
  • 環境意識の向上
    • → 宇宙からは、大気が薄い膜のように地球を覆っているのが見え、地球環境を守る必要性を強く意識するようになる。

このような現象は、宇宙飛行士たちが宇宙への旅立ち、生命を支えている美しい地球を遠く離れた空間から初めて眺める時に一般的に報告されています。
オーバービュー効果は宇宙から帰還した後も薄れることがなく、地球や生命への関わり方が変わり、その後の人生観すら大きく変えてしまうといわれています。
その結果、地球環境保護や世界平和を訴えるようになった人も多くいます。

オーバービュー効果を体験した宇宙飛行士のメッセージ

オーバービュー効果を体験した宇宙飛行士の示唆に富んだメッセージを紹介します。

ロン・ギャラン氏
合計178日間を宇宙で過ごし、アメリカのスペースシャトル、ロシアのソユーズ宇宙船、そして国際宇宙ステーション(ISS)での飛行で7100万マイル以上の距離を旅しました。
宇宙空間で壮絶な光景に触れたことによって、ギャラン氏は気候変動や森林伐採、生物多様性の喪失といった、問題が単独で起きている問題ではないという事実を確信するに至りました。

私は生命が溢れる虹色の生物圏を見ました。経済活動の姿を見たわけではありません。
しかし、私たちの人工的なシステムは、地球の生命維持システムを含め、すベてを地球規模の経済の完全子会社として扱っているので、宇宙からみると私たちが誤った道を進んでいるのが明らかです。
私たちは考える視点を”経済”→”社会”→地球”という順番から”地球”→”社会”→”経済”という順番に変える必要があります。このように変えた時、私たちは進化の道を歩み続けることができるからです。
(マルチメディアウェブポータル「ビック・シンク」インタビューより)

クリス・ハドフィールド氏
宇宙空間で166日間を過ごしたクリス・ハドフィールド氏は、宇宙空間で予期せず、ものの見方の変化が急速に起こり、感情が突然高揚したと述べています。
宇宙船からパキスタンの写真を撮っていたん瞬間に、「ああ!」と思わず声が出たといいます。
彼はパキスタン出身でもないにもかかわらず、この国のことを「彼ら」ではなく、「私たち」として表現していたそうです。ハドフィールド氏はその時、地球上の人類は真にいかに共存しているのか、いかに国境が人間としての究極的なアイデンティティーにとって本質なことではないかを認識したといいます。

古川 聡氏
2011年ソユーズに搭乗し、約5か月半の国際宇宙ステーション(ISS)の長期滞在ミッションを行った後、2023年8月から59歳にして12年ぶり2回目となる宇宙飛行を行った宇宙飛行士の古川聡氏。

宇宙空間に行ってすぐの時は、みんな「あ、日本だ。」「あ、アメリカだ。」「あ、ロシアだ。」とか指してるんですけど、段々そういうことを言わなくなってくるんですね。地球全体が故郷だと思うように感じるんです。

オーバービュー効果を提唱したフランク・ホワイト氏

私たちの心や人間の行為を通してつくりあげてきたきたものを除けば、私たちの惑星には国境がありません。
地上にいるときに私たちを分離させているあらゆる考えや概念は、月や宇宙船の軌道から見れば消え去ってしまいます。
その結果、世界観やアイデンティティが変化するのです。

人類がひとつである感覚

宇宙へ旅した飛行士たちが私たちに教えてくれるのは、「国境」というものが人間のつくり出した幻想にすぎないということです。彼らの目に映るのは、ひとつの美しい「地球」であり、そこに線は存在しません。

宇宙飛行士たちの素晴らしい体験と示唆から、私たちは意識を広げ想像力を働かせることができます。
人類が真に地球単位で考え、行動した時、世界平和を実現し、経済成長ではない新たな指標に向かって進んでいるかもしれません。

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