「すべての子どもが安心して成長できる世界を築くことができる」ー100ヶ国以上が誓約を発表

持続可能な開発目標(SDGs)では、「子どもに対するあらゆる形態の暴力を根絶すること」を国際社会の約束としています。しかし、2030年の期限を迎えるまでの折り返し地点を過ぎた今もなお、世界の子どもの半数が暴力にさらされ、約10億人の未来が危ぶまれています。
この状況を打開するため、2024年11月7日〜8日に史上初となる「子どもに対する暴力根絶に関する世界閣僚会議(Global Ministerial Conference on Ending Violence Against Children)」がコロンビア・ボゴタで開催されました。
コロンビア政府とスウェーデン政府が、世界保健機関(WHO)、ユニセフ、そして子どもに対する暴力に関する国連事務総長特別代表と共催し、世界各国のリーダー、市民社会、活動家たちが一堂に会しました。
日本からは、こども家庭庁の髙橋宏治・長官官房審議官が参加し、子どもの未来を守るための国際的な議論に加わりました。
この会議は、すべての子どもが家庭、学校、地域社会、そしてインターネット上で安全に過ごせる世界を築くための重要な一歩となりました。
ユニセフの子どもの保護部門長、シーマ・セングプタ氏はこう語ります。
私たちは、子どもに対する暴力の現状やその原因、影響を全面的に理解している最初の世代です。そして、効果的な解決策を知る最初の世代でもあります。
予防、教育、支援への投資を通じて、暴力の連鎖を断ち切り、すべての子どもが安心して成長できる世界を築くことができるのです。
こどもに対する暴力根絶に向けた世界の誓約
今回の世界閣僚会議では、政府や団体が子どもに対する暴力を終わらせるために120以上の具体的な誓約を発表しました。
各国がそれぞれ誓約を表明しています。具体的で各国それぞれに意義のある画期的なものが並んでいます。ここでは一部をご紹介します。(詳しくはこちら)
- 学校での体罰禁止:ブルンジ、チェコ、ガンビア、キルギスタン、パナマ、スリランカ、ウガンダ、タジキスタンの8カ国が、学校における体罰を禁止する法律の制定に取り組むことを誓約。
- 子育て支援の拡充:数十カ国が子育て支援への投資を強化。
- 学校での暴力根絶:英国政府は国際的なパートナーと共に、学校内外の暴力を撲滅するための世界タスクフォースを設立。
- 児童保護の強化:タンザニアは全国25,000校に児童保護デスクを導入。
- デジタル環境の安全性向上:スペインは新たなデジタル法を制定し、子どものオンライン環境をより安全に。
- 早婚防止:ソロモン諸島は結婚可能年齢を15歳から18歳に引き上げ。
- 国家政策の強化:多くの国が、児童に対する暴力を防ぐための国家政策を策定・強化。
発展途上国と先進国では子どもが置かれている状況は違えど、身体的・精神的な暴力に晒されていることには変わりはなく、それぞれの状況に応じた子どもの人権を守る取り組みが進んだ印象です。
日本の取り組み「こども家庭庁」の設立
日本では、「こども家庭庁」という新たな省庁が、2023年4月1日、内閣府の外局として発足し、約430人の規模で活動を開始しました。
少子化は予想を上回るペースで進行し、児童虐待やいじめ、不登校など、こどもを取り巻く環境は深刻さを増しています。こどもに関する取り組みを社会の中心に据え、より強固な支援体制を整えていくことを目的としています。
「こども家庭庁」令和7年度の予算では、「児童虐待防止施策等」の強化と、「多様なニーズを持つこども・若者への包括的な支援体制の拡充」が図られています。
特に、新たに策定された「児童相談所の採用・人材育成・定着支援事業」に関して、児童相談所における職員の課題と対策についてご紹介します。
児童相談所の役割と現状
児童相談所は、全国の都道府県および指定都市に最低1カ所以上設置することが義務付けられており、2016年4月時点で全国に209カ所あります。その役割は、0歳から17歳までのこどもの権利を守り、こども本人とその家庭に適切な支援を提供することです。こどもたちのセーフティネットとして重要な役割を持ちます。
具体的には、家庭や保護者からの相談を受け付け、家庭環境の調査や診断を行い、必要に応じた指導や一時保護などを実施します。相談対応には、事務官のほか、医師、児童心理司、児童福祉司などの専門職が関わり、状況に応じて医療機関やカウンセリング機関への紹介も行います。
近年、児童相談所への相談件数は増加傾向にあります。2021年度の相談件数は20万7660件と過去最多を記録し、10年間で3倍以上に増えました。この急増により、職員の業務負担が増し、人員不足や過重労働による離職率の高さが課題となっています。こども家庭庁の令和7年度予算案(支援局虐待防止対策課)によると、以下の記載があります。
児童相談所においては、これまでも、児童虐待防止対策総合強化プランに基づき児童福祉司等の増員を図ってきているが、急速に人材確保を進めてきたことから、経験の浅い児童福祉司等が占める割合が高くなっている※1。さらに、過大な業務量に加え、児童相談所の対人援助業務は心理的な負担も非常に大きいため、心身の不調で長期休暇を取得したり、退職する者も多い※2。
※1 勤務年数3年未満の児童福祉司が46%、勤務年数3年未満の児童心理司が43%(いずれも令和6年4月時点)
※2 令和3年度の調査研究によれば、管内の児童福祉司について、令和2年度にメンタルヘルスの悪化を理由とする1か月以上の休職者がいると答えた自治体が56.8%、業務の困難さを理由とする途中退職者がいたと答えた自治体が25%。
(労働安全衛生調査(令和2年度)によれば、連続1か月以上休業した労働者がいた(派遣労働者含まず。)全国の事業所(全業種)の割合は7.8%、退職した労働者がいた事業所の割合は3.7%であり、児童福祉司は他の職種と比べて休職者や退職者が多いことが読み取れる。)
これらに対応して「児童相談所がこどもを守るための本来の機能を十分に発揮できるよう、全国の児童相談所における採用・人材育成・定着の支援のための体制強化を図る」として、人材定着のためのノウハウ共有やカウンセラーによる心のケアなどが予算に盛り込まれています。
こどもたちに真摯に向き合う職員の人権を、まずは守ること。そして更なる推進が期待されます。
大きな1歩、世界は着実に前進している
2024年には、合計100カ国以上が子どもに対する暴力を終わらせるためのコミットメントを表明しました。
これらの国々には数億人の子どもたちが暮らしており、WHOはこの動きを「根本的な転換」と位置づけています。
日本でも、「こども家庭庁」の設立や、自治体、NPOなど様々な立場の人たちが、真剣にこどもの人権に向き合っています。2025年には、各国のコミットメントが具体的な行動へと移され、実現していくことが期待されます。
私たち人類は、後退しているようにみえますが、それは一部の政治家や著名人による言動が集中して報道されることが影響していると感じます。
世界の着実な前進に鼓舞され、私たちも日々の中で、自分を認め、相手を尊重し、穏やかな暮らしを営む意志を持ち続けていくこと。私たちが、すべての子どもが安心して成長できる世界を築くことができる最初の世代になるかもしれません。