企業の創造性が「売上」を超えるとき

企業が単なる売上や利益の追求を超えたとき、そこには新たな創造性が生まれます。その好例として、ナチュラルコスメブランド「ラッシュ」と、チョコレート専門ブランド「久遠チョコレート」の取り組みを紹介します。
ラッシュ:ビジネスと社会貢献の融合
ラッシュは、新鮮なフルーツや野菜を使った100%ベジタリアン対応のナチュラルコスメブランドです。そのうち約9割の商品がヴィーガン対応です。動物実験を行わず、合成保存料の使用を極力抑えたスキンケア、ヘアケア、バス製品を手作りで提供しています。創業当初から、環境負荷を抑えるために過剰包装を避け、固形製品を積極的に開発。
店頭では量り売りで購入し、簡単な紙で巻かれて、製造年月日や製造場所が書かれたシールが貼られます。カラフルで楽しいデザインの製品は、ヴィーガンであることや自然由来の素材へのこだわりを体現しています。
さらに、自らをキャンペーンカンパニーとうたい、人権擁護、動物の権利、自然環境の保全に関する課題に対して、積極的にキャンペーンを実施。広告宣伝費をかけないラッシュにとって最大のメディアであるショップのウィンドウや店頭、自社ウェブサイトなどを使ったり、商品の売上を寄付に回す仕組みを活用しています。
直近は、ガザの子どもの支援に全額寄付される商品が販売されたり、インドネシア・シムル島に生息するオナガザルの保護を目的とした入浴剤「Macaque Bubble Bar(マカク・バブルバー)」が販売されるなど、常に何らかの社会的なキャンペーンを実施しています。
色とりどりの楽しい商品からは、その確固たるアクティビズムを感じにくく、私自身、店頭でのPOPで商品の裏側のストーリーを知り、商品のアイデアと美しさに驚嘆することがありました。
人間の本能は、美しいもの、楽しいもの、癒されるものを求めています。
特に現代の忙しい人たちに取っては、それは消費活動によって、もたらされる構造になっています。
その消費活動は否定せず、人間の創造性や本能を刺激し、活用して社会に還元していく取り組みが、新しい経済活動の一つといえるかもしれません。
ラッシュは信念と製品のクリエイティビティが飛び抜けています。向き合う社会課題は、環境問題を起点としながらも、「戦争・紛争」「マイノリティ」「ビックテックからの脱却」など多様で広範囲です。
寄付や助成やキャンペーン活動を通して2024年9月までに金額にして1億ポンド以上(日本円換算:約200億円)、世界中で19,000件以上の小さな草の根団体や様々なプロジェクトへの寄付を実現しています。
久遠チョコレート:働く喜びを生み出すブランド
日本でもそんな取り組みに挑戦している企業が増えてきました。
「チョコレートで魔法をかける」をコンセプトにした愛知県豊橋市に本社を置くチョコレート専門ブランドです。余計な油を一切加えないピュアチョコレートという”素材”にこだわりと、障害者雇用を通して、全ての人にはたらく歓びを広げることを目指す企業です。
知的障害者の雇用を積極的に行い、ショコラティエとして製造に関わる障害者が、全店700人中430人と過半数を占めています。それぞれの強みと弱みを捉え、持続的に働ける職場を整えています。
創業者である夏目さんの「”あの商品を私が作っている”ということで人は胸を張っていく」 という言葉が印象的です。
はたらく上で選択肢の少ない障害者の方が自分たちの仕事に誇りを持てること、また美味しいチョコレートを世の中に届けているということが、久遠チョコレートの両面の価値です。
美しくカラフルで、風味豊かな味わい深いチョコレートは私たちの本能を刺激します。
企業の創造性が「売上」を超える瞬間
目指すビジョンが「売上」「利益」を超えた時に生まれる企業の創造性を2つの企業が教えてくれます。
環境や社会課題と向き合いながら、人々の本能的な欲求である「美しさ」「楽しさ」「おいしさ」と結びつけることで、新たな価値を生み出しています。また、消費者の視点から考えても、それらは私たちに豊かな体験をもたらします。
新たな消費活動の起点として「豊かな体験を求める本能」と「社会課題」を掛け合わせることの可能性も感じます。
企業の創造性が売上を超えて、世の中に新たな価値をもたらしていくー経済のアップデート、今後も注目です。