国連が「世界瞑想の日」制定―平和、団結、思いやりを育むアプローチへ

2024年12月6日、国連総会は、インドが共同提案した決議案が全加盟国で満場一致で採択されたことを受けて、毎年12月21日を世界瞑想の日とすることを宣言しました。
この動きの背景には、瞑想が持つ普遍的な価値と、世界的な課題に対する新たなアプローチへの期待があります。
初回イベントでは、インド常駐代表部の主催により、850万人がオンラインで平和と調和を祈る瞑想に参加。世界中の心が、同じ静けさの中に結ばれました。

瞑想の歴史――数千年にわたる人類の叡智

瞑想のルーツは紀元前5000年まで遡るとされ、古代エジプト、中国、ユダヤ教やヒンズー教、仏教、キリスト教、イスラム教など、時代や宗教を越えて実践されてきました。
現代においても、ストレスや不安の軽減、自己認識の向上、睡眠の質の改善、感情的な健康の促進など、その効果は科学的にも裏付けられつつあります。

マインドフルネス―Google社が開発したプログラム

「瞑想」は、「マインドフルネス」という名で世界に広がりました。

1950年代にはアメリカの文化人たちの間で禅がブームとなり、その後、1979年に大学院教授のジョン・カバット・ジンがマサチューセッツ大学の医学センターでMBSR(マインドフルネスストレス緩和プログラム)を開発し、さらにAppleの共同創設者であるスティーブ・ジョブズ氏をはじめとする先進的な一部の経営者に広がっていきます。

その後「マインドフルネス」が、一般的に世界で知られるようになったのは、2012年に発刊したマインドフルネスの実用書「サーチ・インサイド・ユアセルフ―仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法」の世界的なヒットです。

元Googleエンジニアのチャディー・メン・タン氏が書いたこの本は、マインドフルネス実践のバイブル。
Googleの社員が、楽しく創造的に働き、柔軟性を持ち、優れた成果を上げられる鍵がこの「マインドフルネス」にあるとされ注目を集めました。
メン・タン氏は、「社員の幸せを増やすこと」や「心の知能指数(EQ)の向上」に強い関心を持ち、2007年にGoogle社内で「Search Inside Yourself(SIY)」というマインドフルネスに基づいたプログラムを開発・提供しました。

「マインドフルネス」を、科学に基づき、日々実践しやすい形にしたこのプログラムはGoogle内で熱狂的に支持され、SAP、アメリカン・エキスプレス、LinkedInなど多くのグローバル企業にも広がっていきました。
「社員の幸せが企業の成長につながる」という思想のもと、マインドフルネスは創造性や生産性、柔軟な働き方を支える土台として、世界的に導入が進んでいます。

今ではマインドフルネス瞑想アプリの開発・提供が進み、世界市場は2030年までに2億1,870万米ドル(日本円で約318億円)に達する見込みとされています。(市場調査レポート「マインドフルネス瞑想アプリの世界市場」より)

日本は大企業中心にマインドフルネスを研修で導入

日本でも、Google発のSIYプログラムに影響を受けた企業が次々に社員の心身の健康増進を目的にマインドフルネスを取り入れ始めました。

LINEヤフー、メルカリ、大和証券、ソフトバンク、パナソニック、東京海上、ライオンなど業種を超えて、様々な企業に広がっています。たとえば、ヤフーでは2016年に独自のマインドフルネス研修を導入。導入から2年後、実践者と非実践者では業務パフォーマンスに最大40%もの差が確認されました。

また、マインドフルネスのサービスを提供する企業も注目を集めています。
東京都の出資するインパクトファンドから出資を受けたマインドフルネス研修を展開する株式会社Melonや、2025年3月号 「Forbes JAPAN」の「次世代インパクトスタートアップ30社」に選出されたマインドフルネス&セルフケアアプリを開発・運営する株式会社Awarefy(アウェアファイ)など、個性的なスタートアップが市場を切り拓いています。

国連がなぜ今、「世界瞑想の日」を制定したのか

現在、推定で2億〜5億人が瞑想を実践していると言われます。宗教を超え、文化を越え、人々の間で広がりつつある瞑想。
国連がこのタイミングで「世界瞑想の日」を制定した背景には、現代社会が直面する未曾有の課題があります。

2000年代に入り、人の能力開発の側面と、心身の健康を保つセルフケアの側面に実績を出し、広がってきた瞑想ですが、パンデミックや戦争、気候変動などの未曾有の出来事が世界を覆っている近年、世界的な団結を促進するものとしての役割が期待されています。

国連は、瞑想が持つ以下の価値に着目しています。

  • メンタルヘルスケアの促進:ストレス、不安、メンタルヘルス障害が世界的に増加している中、瞑想は感情的な健康と回復力を改善するための手軽で効果的なセルフケアの手段を提供します。
  • 世界的な団結の促進:瞑想は文化、宗教、国境を越え、分断が進む世界で、平和と協力という共通の価値観を育みます
  • 持続可能性の目標をサポート:マインドフルネスを日常生活に取り入れることで、より意識的で持続可能な選択を促し、より健康的な地球を構築するための国連の持続可能な開発目標 (SDGs) に沿って行動できるようになります。

心の静けさから始まる、世界の平和

国連のサイトでは以下が明記されています。

武力紛争、気候危機、急速な技術進歩などの世界的課題の時代に、瞑想は平和、団結、思いやりを育む強力な手段となります。瞑想を通じて心の平和を育むことで、現在、そして将来の世代のために、より回復力があり持続可能な世界の構築に貢献することができます。

世界の平和というと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、家族や友人、職場といった小さなコミュニティが平和で穏やかであること。その積み重ねが、争いのない世界、心にゆとりのある社会の礎になるのではないでしょうか。

忙しない日々の中で、たとえ1分でも心を静める時間を持つこと。それが「世界瞑想の日」が目指す平和への第一歩なのかもしれません。

(参考文献)
国連「世界瞑想の日」

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