“ソーラーママ”が村に光をもたらす、ベアフットカレッジの活動

インド・ラジャスタン州の乾いた大地から、小さな奇跡が生まれ、広がっています。

その名は「ベアフット・カレッジ」。1972年、社会活動家サンジット・“バンカー”・ロイ氏によって設立されたこの学校は、読み書きができない女性たちを、たった6か月でソーラーエンジニアに育てるという、驚くべき仕組みをもっています。

電気の届かない辺境の村に、太陽の力を使って明かりを灯す――。

それを担うのは、名もなき村の母親たち。「ソーラーママ」と呼ばれる彼女たちは、光とともに、地域に尊厳と変革をもたらしてきました。

家族を離れ、村を出て学ぶ──女性の自立から地域が変わる

この研修に参加する女性たちの多くは、生まれてこのかた村を出たことがない人たちです。
言葉も通じない異国の地に旅立つ彼女たちに、周囲の村人が「無謀だ」「旅に出れば無事に帰ってこれない」などと冷ややかな視線を向けることもあります。

けれど、彼女たちは迷いながらも一歩を踏み出します。
そして6か月後、自信と技術、仲間を得て帰ってきた姿を見て、人々は驚くのです。

創設者のロイ氏は「WIRED誌」の取材でこう語っています。

たいへんな自信をつけて故郷に帰るものですから、村人たちは最初、戻ってきたのが送り出した女性と同一人物であることがわからないくらいなんですよ。
男女に関する固定観念をどれだけ彼女たちが変えたかということに、感心させられるばかりですよ。母親としてやって来て、トラの風格をまとって帰っていくのですから。総身に自信をみなぎらせてね。

創設者のバンカー・ロイ氏

ソーラーママが生むのは「電気」だけではない

ソーラーママたちが村に戻ると、ベアフット・カレッジやNPOなどから支給された機器とスペアパーツを活用し、自らの手で電子工房を立ち上げます。

彼女たちは家庭の屋根にパネルを設置し、ランタンを組み立て、必要なメンテナンスもすべて自分たちでこなします。

太陽光による明かりが村にもたらされると、生活も大きく変わります。

縫製の仕事を夜も続けられるようになったエリナティさんは、仕立て仕事の量を倍に増やし、収入が2倍になったといいます。

ほかにも、朝早くから揚げパンを作って販売したり、自宅で携帯の充電サービスを始めるなど、村の女性たちは自立した“起業家”へと変わりつつあります。

さらに、複数の学校の教室に電力を届けた女性グループも誕生しました。それは、地域の子どもたちにも希望の光を届けるという、連鎖する奇跡です。

ベアフットカレッジで学ぶソーラーママたち

世界を変えるのは、名もなき女性たち

ロイ氏は、ある時こんな言葉を残しています。

「世界で最も効果的なコミュニケーション手段は? テレビでも、電話でもない。それは、女性に伝えることです。」

この言葉の意味は、ソーラーママの姿にすべて表れています。
村の女性たちが変わると、家族が変わり、村が変わり、やがて国も変わる。

実際、ナミビア初のソーラーママであるスザンナさんは、村の100世帯に電気を届ける契約を結び、さらにその技術を他の住民に教え始めています。

「このプログラムが人々の生活を変えるんです。わたしたちは、暗闇から光の中へ歩み出るのです」とスザンナ・フイはいいます。

アフリカにもベアフットカレッジは広がっている

支援ではなく、力を引き出す

気候変動の影響を最も受けているのは、実はその原因をほとんどつくっていない、最貧困層の人々です。

ベアフット・カレッジは、そんな現実に対して、“支援する”のではなく“力を引き出す”という逆転のアプローチを提示しています。

ベアフット・カレッジの仕組みは今、世界中の国々へと広がり、アフリカ・アジア・太平洋地域に次々と姉妹校が誕生しています。

勇気ある女性が一歩を踏み出し、異国の地で学び、故郷に戻って灯す光は、単に暮らしを照らすだけでなく、地域の自立へとつながる確かな一歩となっています。

こうした活動が各地に広がり、さらなる希望の連鎖を生むことに、今後も注目していきたいです。

ベアフットカレッジ公式のyoutube,ソーラーママたちの生き生きとした様子が描かれている

参考:barefootcollege
VSOインターナショナル
WIRED

大切な人に希望をシェア