奪われた土地に、再び命を──先住民の知恵が導く復元の力

先住民こそが、その土地を最も深く理解し、自然と共に生きる知恵を受け継いできた存在です。
1900年代、植民地化が進むなかで、多くの先住民は土地や権利を奪われました。
しかし今、彼らは再びその手に土地と誇りを取り戻し、知恵と共創の精神によって、荒廃した土地を再生しつつあります。
今回は、その実例を2つご紹介します。
森を取り戻す──アシャニンカ族の再生と共生の知恵
ブラジル西部、アマゾンの熱帯雨林に暮らすアシャニンカ族。
彼らは32年前、長い闘いの末に、連邦政府からアモニア川流域の土地を正式に認められました。
そこは、かつて森林が伐採され、荒廃した牧草地と化した場所でした。
アシャニンカ族は、非先住民の牧畜業者や伐採者から土地を取り戻し、少しずつ森を取り戻していったのです。
土地の境界線設定により部外者たちは立ち退き、荒れ果てた牧草地には果樹や森の木々が植えられていきました。
彼らは失われた貴重な樹木を植え直し、森の息吹を取り戻していきます。
再生を永続させるために、アシャニンカ族は「集団の利益」と「自給自足」に基づいた独自の統治システムを築きました。
80世帯すべてが、果樹や薬草を含む森林の手入れを担い、村の周囲に広がる農地や養魚池、森と畑を組み合わせた土地を共同で管理しています。
村の周囲には、キャッサバ(芋)、ジャガイモ、バナナなどの農地もあります。長年にわたり、アシャニンカ族は高級家具や楽器などに使われる高品質な木材である「マホガニー」などの樹木を植え直してきました。
村にある広々とした伝統的な小屋では、衣類用の綿花、神聖な醸造酒を生み出すブドウの木、染料抽出用のウルクムの木、茅葺き屋根を建てるヤシの木、薬用植物、弓の弦となるエンバウバの木を育てています。学校に給食も供給しています。
さらに彼らは、地域外の機関や、近隣のコミュニティ(先住民・非先住民を問わず)と連携し、外部からの侵入を防ぐために「緩衝地帯」を整備。伐採業者や鉱山労働者の無断侵入から、森を守る取り組みを強化しています。
こうした努力の結果、アモニア川流域の森は着実に再生し、部族は自給自足の生活とともに、文化的な復興も遂げつつあります。
彼らの挑戦と成果は、世界の注目を集めました。2015年、「アマゾン基金」はアシャニンカ族に220万ドルを支援。森林農業(アグロフォレストリー)の改善と、彼らのモデルを他の先住民社会へ広げるためのものでした。これは、同基金が先住民組織に初めて資金を提供したケースです。
さらに2023年11月には、「アマゾン基金」は「ジャルア川先住民機構」へ680万ドルを助成。アマゾン西部に暮らす12の先住民地域が、アシャニンカ・モデルを取り入れ、土地の管理を改善する取り組みが始まっています。
このモデルの中心にあるのは、「食料の生産」「文化の強化」「森林の監視」。
再生の輪は、今も広がり続けています。

気候変動と向き合う、知恵と適応の力
AP通信の報道によると、こうした成功にもかかわらず、気候変動は地元の生産に影響を及ぼし、アシャニンカ族が直面しなければならない新たな課題となっています。
昨年、アマゾンで記録的な干ばつが発生した際、アモニア川の水温が高騰したため、アシャニンカ族は初めて川で水浴びをしなくなり、数千匹の魚が死にました。今年もアマゾンのコミュニティは広範囲にわたる干ばつに見舞われています。
「この原因は私たちから遠く離れたところに存在します」
とアシャニンカ先住民のリーダーのフランシスコ氏は語ります。歴史的に先進国が最大の責任を負ってきた気候変動。しかし、「誰かを責め立てれば、多くのエネルギーを無駄にするだけで、何も解決しません。私たちは適応に焦点を当てています」と彼は言います。
「家を建て、作物を栽培するのに最適な場所を特定し、水へのアクセスを改善し、火災リスクを管理しています。」
カナダ・ブリティッシュコロンビア州の先住民「ファーストネーションズ」の取り組み

カナダ・ブリティッシュコロンビア州の先住民「ファーストネーションズ」が向き合っているのは、石油・ガス産業による深刻な環境破壊です。
採掘装置や伐採地、作業道路、使われなくなった油井跡地が点在し、地域の生態系は壊され、水源は汚染の危機にさらされています。
2010年代半ばまで、企業は表面的な「復元」しか行っていませんでした。重機で固めた土の上に草の種をまくだけ——その草が、伝統的な植物の生育を妨げ、生態系の回復をさらに遅らせていたのです。
そしてそこには、先住民の知恵も声も活かされていませんでした。
変化が起きたのは2010年代後半。
「ソールトー・ファーストネーションズ(※)」は部族の会合を開き、地域の未来について話し合いました。
そこで浮かび上がったのが、「自分たちの手で土地を癒す」ための、先住民独自の開墾会社の設立という願いでした。
(※)ソールトー・ファーストネーションズ:カナダの先住民であるファーストネーションズの一つのグループで、特にカナダ北西部の沿岸地域に住むノースウェストコーストインディアンの一部を指す
2019年、ブリティッシュコロンビア州石油・ガス委員会は、先住民を雇用し、かつて湿地帯だった場所の再生プロジェクトをスタートさせます。
彼らはまず、土地を知ることから始めました。
先住民チームと契約生態学者たちは、かつて水がどのように流れていたかを調査し、蛇行する川床を再現。保水力を高めるために小さな池を掘り、自生する植物のデータベースを長老たちと共に作成。必要な種を選び、丁寧に植え直していきました。
その結果、わずか5年で、むき出しだった油井跡地が、生き物が息づく湿地帯へと生まれ変わったのです。
この再生事業は新たな先住民企業として形になり、「ソールトー・ファーストネーションズ」全域で油井跡地を再生する正式な契約を獲得。
いまでは、使われなくなった林道や採掘跡地の再生にも着手し、再生の手は森の奥へと広がっています。
環境保護部門の責任者、ティナー・ドゥムルメスター氏は語ります。
「復元と再生は、今も続いており、土地は癒されつつあります。」
先住民の知恵と誇りが、傷ついた大地を癒し、失われかけた文化に再び命を吹き込んでいます。
その静かで力強い歩みは、 私たち人間は、再び立ち上がり、再生の道を選び取ることができるのだと教えてくれます。