Policy Pitchに見る、若者たちの希望と共創──「グローバルヘルス」の未来を拓く声

2025年6月5日(木)、第5回「Policy Pitch(ポリシーピッチ)」が開催され、HOPIUSもその現場に立ち会いました。
国際保健をめぐる政策共創の現場に、政界・経済界・そして未来を担う若者たちが集結──。 私たちは、この場から“いのち”の未来を考える大きなヒントを受け取りました。
「Reach Out Project」とは何か?
このイベントを主催したのは、PoliPoli(ポリポリ)(※1)が運営する「Reach Out Project」。
国際保健(グローバルヘルス)分野における課題に対し、10代~30代の若者たちがアドボカシー(政策提言)を行い、実社会と接続していくための育成・コミュニティ支援プロジェクトです。
感染症、母子保健、薬剤耐性──いのちにまつわる諸課題は、国や地域を超えた共通のテーマ。
だからこそ、これからの世界を形づくる若い世代の「声」と「行動」が、政策と社会を変えていく力になると信じて運営されています。この「Reach Out Project」は2022年に始まり、延べ80名が参加。現在は第3期に入り、国内外のNPOやスタートアップ、グローバル機関のサポートを受けながら、実践的な提言力を育てています。
(※1)PoliPoli(ポリポリ)とは?
PoliPoliは、政治や行政と市民・企業をつなぐ政策共創プラットフォームを運営するスタートアップです。政治家や行政との対話を促進し、社会課題を共に解決する仕組みづくりに取り組んでいます。https://www.polipoli.work/
グローバルヘルスとは? 私たちに関係あるの?
「国際保健(International Health)」という言葉は、かつては“先進国が途上国を支援するもの”というイメージが主でした。
しかし今や、感染症は瞬く間に国境を超え、気候変動と結びついて健康リスクが広がる時代です。
こうした変化を受けて、「Global Health(グローバルヘルス)」という概念が生まれました。
それは、すべての人々の健康を守るために、先進国と途上国が対等なパートナーとして課題に取り組むことを意味します。
グローバルヘルスとは、いのちの共通課題に対する“人類の共同作業”なのです。
「新しい資本主義」が描く健康安全保障の未来

イベント冒頭には、岸田文雄議員、木原誠二議員、渋澤健氏によるパネルディスカッションが行われました。
テーマは「『新しい資本主義』が拓く健康安全保障の新機軸」。
岸田前総理は、新型コロナを契機に日本がグローバルヘルスと本気で向き合った経緯を語り、2022年の「グローバルヘルス戦略」の策定やG7広島サミットでの国際合意、75億ドルの資金拠出を通じたリーダーシップを紹介しました。さらに、日本初のインパクト投資ファンド「トリプルI(Impact Investment Initiative)」(※2)の設立にも触れ、健康を軸とした社会課題への投資の必要性を強調しました。
日本は、国民皆保険制度(UHC)を実現し、長寿国としての実績を背景に、国際社会でもユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)(※3)の推進に継続的に貢献しています。たとえば、2016年のG7伊勢志摩サミットではUHCが主要テーマに掲げられました。
また、COVID-19対策としては、JICAによる病院整備や人材育成に加え、COVAXへの最大15億ドルの財政支援やワクチンの供与など、国際的な支援も積極的に展開。これらの取り組みは、グローバルヘルスを「安全保障」の観点から捉える姿勢を国際的に浸透させる契機となりました。
岸田前総理は、「社会課題を経済成長のエンジンに変える」という視点から、グローバルヘルスやインパクトスタートアップが持つ可能性に言及。「人への投資」の延長線上に、健全な社会と経済の未来があると語り、木原議員は「日本の「安定」こそが世界にとって重要な価値になっている」と述べました。
(※2)トリプルI(Triple I for Global Health)とは?
2023年のG7広島サミットおよび国連総会にあわせて設立された、グローバルヘルス分野におけるインパクト投資推進の国際イニシアティブです。インパクト投資とは、経済的リターンに加え、測定可能な社会的・環境的成果をもたらすことを目的とした投資のこと。トリプルIは、低中所得国における保健医療へのアクセス改善と、持続可能な資金調達を両立させる仕組みとして期待されています。https://tripleiforgh.org/about.html
(※3)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは?
すべての人が、経済的困難を伴うことなく、必要な保健医療サービスを受けられる状態を指します。予防・治療・リハビリ・緩和ケアを含む包括的な医療へのアクセスを保障することで、健康の格差を縮小し、社会全体の持続可能性を支える重要な理念です。SDGs(持続可能な開発目標)でも主要なターゲットの一つとされています。https://www.jica.go.jp/about/policy/sdgs/UHC.html
若者による政策提言──いのちの未来を語る

後半にイベントのメインである、「Reach Out Project」所属の若者たちによる政策提言セッションが行われました。国際保健の最前線で課題に取り組む彼らが、官僚や政治家に向けて直接提言を届ける貴重な機会です。
- 平田竜都(一般社団法人Reaching Zero-Dose Children)
「不安定な世界情勢における日本のリーダーシップ」 - 前田沙弥・坂野千紗都(一般社団法人Liaison)
「未来への投資と決断:ポリオ根絶に日本の力を!」 - 吉川健太郎(株式会社Famileaf 共同創業者)
「栄養とワクチンの統合による母子保健の推進」 - 梅田昌季(SORA Technology株式会社 取締役)
「日本発イノベーションと国際公共調達」 - 伊藤有実(DePauw University)
「“命の格差”をなくす──ワクチン外交と医療アクセスの改善」
いずれの提言も、世界各地の“声なき声”に耳を傾け、「いのちの平等」と「未来への責任」を真正面から問いかけるものでした。若者の声、何よりそのまっすぐなパッションが伝わってきて、力と勇気をもらいました。意見交換が重なることで、政策現場がより活性化されていく可能性を感じました。
読者の皆さんも、各団体の取り組みをぜひご覧ください。日本にも、これほど多様で先進的な社会課題に取り組む若者たちがいる──その事実自体が、私たちの希望です。リンク先で、ぜひその歩みを追ってみてください。
未来をひらく世代が、今ここにいる
国民皆保険のある日本だからこそ、私たちは「健康は当然の権利」と感じがちです。
しかし、世界を見渡すと、それがいかに得難いものかがわかります。
「人類はつながっている」──。コロナ禍で実感したこの事実は、今も私たちの課題意識の土台です。
だからこそ、国家間の対立ではなく、人類共通の危機に対して“ともに手を取り合う”未来へ。
それは、若者たちの姿を通じて確かな可能性として感じられました。
私たちは、平均寿命を延ばし、貧困率を下げ、命を守ってきた歩みの先にいます。
次なるステージは、気候危機や感染症という共通課題を乗り越え、より健全で自由な社会を築く“人類の進化”の扉を開くこと。
皆で、その扉を開けて進んでいくことができるのか、まさに人類は岐路に立っていますが、私たちはきっと進んでいくだろうーーそう希望を感じた1日でした。