「働く」は、社会とつながることだった。——希望のキャリアをひらく“ソーシャリア”とは

【HOPEFULなひと】
HOPIUSの想い」をもとに、人類に希望を見出し、持続可能で愛ある世界を目指して活動している人たちを取り上げる企画。
「働くとは何か」「自分らしく生きるとは」──そんな問いに、まっすぐ向き合いながら、社会起業家と人材をつなぐ新しい仕組みをつくっているのが、水本洋志さんだ。製薬企業、コンサル会社、教育分野を経て、株式会社スターコネクトの代表として社会起業家とビジネスパーソンをつなぐ“ソーシャルキャリア”を支援するプラットフォーム「ソーシャリア」を立ち上げる。その紆余曲折の軌跡と熱い想いを聞いた。

「ソーシャリア」 HPより
ソーシャリアへ至る原体験
水本さんの出発点には、父親の影響があった。小さな学習塾を経営していた父は、子どもに「明るく前向きに積極的に夢を持ち、愛と感謝を忘れずに生きる」という家訓を授けた。その言葉は水本さんの中に深く根づいていたという。
新卒で入社したのは、武田薬品工業。MR(医薬情報担当者)として、キャリアをスタート。
その後、PwCコンサルティングでヘルスケア業界の支援を行い、成長志向のキャリアを歩んできた。しかしその中で、「自分が本当にやりたいことは何か?」という問いが、心の奥に居座り続けていた。

転機は、父親が経営する学習塾への転職を決意した時に訪れた。学習塾への転職のきっかけでもあった、尊敬していた恩師が突然亡くなる。喪失感から、水本さんは「自分の人生の軸が他者にあったこと」に気づき、初めて自分の“主語”でキャリアを見つめ直すことになる。
2020年1月、これまでの経験を生かし「医療系コンサルティング」で独立。しかし、その仕事は「過去の延長」でしかなく、モヤモヤは晴れなかった。そんなときに出会ったのが、ボーダレスジャパン・田口一成さんのTEDトーク。
「社会性と経済性を両立させるビジネスがある」「モヤモヤをそのままにしないで」というメッセージが、自分自身への問いかけのように響いた。
「社会性と事業性を両立させる事業創りという選択肢が本当にあるんだ」と気づき、水本さんはボーダレスアカデミー(※1)の門を叩く。そこで3ヶ月間、教育系のビジネスアイデアを模索したものの、納得のいく事業構想に至らず卒業を迎える。
「誰のどんな課題を解決し、どんな未来を実現するのか?」について、熱量高く発表する同期を見て、自分の事業解像度の低さに気づいたことも大きな転換点だった。
卒業後に、社会起業家たちへインタビューを行うなかで、ある気づきが生まれた。社会性の高い事業にはベンチャーキャピタルから少しずつ資金が流れ始めていたが、「人材」が伴っていない。これが、起業家たちの共通する悩みだった。
・・この人たちを“人”で支えたい!
そう思ったときに、初めて自分の役割が明確になった。そして「ソーシャリア」という構想が生まれる。
約4年にわたる模索を経て、水本さんは「社会性と経済性は両立できる」と確信するに至る。
(※1)ボーダレスジャパンアカデミー:ボーダレスアカデミーは、世界13カ国で50のソーシャルビジネスを展開するボーダレス・ジャパンが運営する、社会起業のためのソーシャルビジネススクール。ボーダレスの内外を問わず、社会課題を解決する社会的なチャレンジャー(社会起業家)が立ち上がることが社会にとって必要、という信念のもと、本格的な起業支援を行っています。ビジネス領域の第一線で活躍される社会起業家・経営者・専門家の方々がメンターとして受講生の「社会を変える熱意とプラン」に伴走します。
ソーシャリアの価値とは

ソーシャリアが提供するサービスは、複業転職を通じて、社会起業家とビジネスパーソンをつなぐ仕組みだ。その“やわらかい入口”が、多くの人の共感を呼んでいる。
「年収という基準よりも、“この人たちと一緒に世界を変えたい”という気持ちが上回って転職する人が増えています」
水本さんが自信を持って話す背景には、当初の想定を超え、複業を始めた人の約半数が本採用に至るという成果が出ていることにある。
転職者からは「人生が大きく変わった」「初めて自分の価値観を軸に働けている」といった声が届き、企業からも「組織の推進力が増した」という反響が寄せられている。人は、自分にとって意味のある仕事を見つけて本気になれる時、想像以上の力を発揮できることが実証されつつあるのだ。
サイトの登録者は主に30〜40代でキャリア10年前後のビジネスパーソン。スキルや実績が一定水準に達し、「この先の10年をどう使うか」を見つめ直す中で、「社会や自分にとって意味のある仕事」との出会いを求めている。ただ、実際にそれを見つけられている人は多くないのが現状だ。
こうした「社会や自分にとって意味のある仕事」は、企業の売上や利益といった分かりやすい指標では測れない。
「誰かの人生を支える」「地域社会を良くする」「気候変動を止める」──そんな、経済合理性を超えた未来への投資とも言える営みは、既存の転職市場では見つけにくいものでもある。
「市場経済では、どうしても収益性の高い領域に人材が集中します。一方で、経済合理性では魅力が薄いとされている領域には、取り組むべき課題が山積しているのです」
複業転職という形態も活用しながら、こうした「市場性は小さいが社会的意義の大きい」領域へ人材の流れを作ろうとしているのがソーシャリアだ。経済的な成功だけでは測れない、本質的な「働く意義」に、ようやく光が当たり始めている。

水本さんは「報酬の定義自体が変わり始めている」と実感。金銭よりも「どれだけ自分と社会にとって意味ある仕事をしているか」が、働きがいを左右していると体感することが増えた。
水本さんは熱く語る。
「企業へのコンサルティングをしている中で、例えば、ある大企業の若手マネージャーの働き方をみた時に、遊び心とか、時間の余白とかが全くないことがあります。
1日のカレンダーは30分刻みで 会議がテトリスのように入っている。上司も忙しくて、相談するのもはばかられる。会議では雑談はほとんどなく、ミーティングの時間は30分なので上から議題をこなしていくみたいな感じです。
・・これは一つのやり方ですが、余白がなさすぎて、自分の仕事を振り返る時間もないし、まして仕事が社会にどういった影響を与えているのかみたいなことを考える余裕なんてありません。こういった企業はスキルを一定程度身に着けた途端、辞めてしまうことが多く、人が定着しません。
業務効率で考えたら正解かもしれませんが、人の本来の幸せってこのやり方では叶えられないなと考えさせられたんです」
ソーシャリアのクライアントで、「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、障がい者の異彩作家とともに新しい文化をつくる、ヘラルボニー(※2)という会社がある。
ヘラルボニーでは、入社する際に「入社エントリー」という「どうして自分がこの会社に入ったのか?」を表明する文章をnoteで綴るのだが、それをみると入社する人の熱い想いが溢れている。
それぞれが思想家であり、起業家である人たちが集まり、自分が社会をこう変えるんだという意思が強い。ヘラルボニーの強烈なビジョンが、そういった人たちを引きつけているのだ。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000416.000039365.html
「ソーシャリアのサービスは、転職支援ではなく“生き方支援”です。ヘラルボニーのように、個人のビジョンと社会のビジョンが重なって働いている人が増えることが、社会全体を良くしていく。だからこの循環を、もっと広げていきたいんです」
また、水本さんは「ソーシャルビジネスは日本人の気質に合っている」とも語る。欧米型の資本主義が前提とする競争や自己主張よりも、日本人のもつ「謙虚さ」や「和を重んじる心」「空気を読む力」は、ソーシャルビジネスの現場において強みになると感じている。
「人間的な優しさが活きるのがソーシャルビジネス。日本人やアジア人のメンタリティは、こうしたビジネスと親和性が高い。これからもっと活躍できる余地があると感じています」
(※2)ヘラルボニー:「異彩を、放て。」をミッションに掲げる異彩作家とともに、新しい文化をつくるアートエージェンシー。国内外の主に知的障害のある作家の描く2,000点以上のアートデータのライセンスを管理し、さまざまなビジネスへ展開しています。支援ではなく対等なビジネスパートナーとして、作家の意思を尊重しながらプロジェクトを進行し、正当なロイヤリティを支払う仕組みを構築。
「ソーシャルキャリアフェス2024」の成功

大きな転機となったのが、2024年3月に実施した「ソーシャルキャリアフェス2024」。
登壇者には、コテンラジオの深井龍之介さん、ボーダレスジャパンの田口一成さん、著作家の山口周さんなど、ソーシャルビジネス界を代表する人物が集った。広告は一切使わずに紹介と口コミのみで会場は満員に。「ソーシャルビジネスの世界に飛び込みたい」と願う人々の熱量と規模を、初めて肌で感じた瞬間だった。
「ソーシャルビジネス界を代表する大物を呼べたのはなぜ?」と伺うと、「とにかく、ひたすらお願いをしたんです」と爽やかに笑う水本さん。
自分ひとりの力には限界がある。だからこそ、「共感してくれる人を巻き込むこと」がブレイクスルーになった。
「自分のエゴでやっているだけなら、誰も協力してくれない。でも、社会を本気で良くしたい、新しい働きかたを創っていきたいという思いは、必ず伝わると確信しました。
また、自分一人で出来ることには本当に限りがある。ボーダレスアカデミーのメンター時代からお世話になっている海野さんを始め、周りの方々に助けて頂き、開催できたイベントです」

「ソーシャルキャリアフェス2025」と今後の展望
2025年11月には、第2回となる「ソーシャルキャリアフェス2025」の開催を予定。前回を数倍の規模で共感者を集め、実際の複業転職やマッチングへとつなげていく構えだ。

「ソーシャルキャリアの流れを一過性で終わらせず、持続的な“キャリアの選択肢”として確立したい。金銭的報酬や成長のためのキャリアもあると思います。でも、キャリアを社会軸でも選べるようにしたいんです」
また展望には、非営利のNPOにも人材移動を起こしていくことが含まれる。経済合理性では魅力が薄いNPOには人材が届きにくいという構造になっているため、「人材やお金の再分配」を通じて風穴を開けたいと考えている。
例えば企業側から得た手数料の一部をNPO側に還元したり、志を共にする人材紹介会社の連携を通じて、優秀な人材がNPOに届く仕組みを構築していきたいという。将来的には“人”だけでなく、“お金”そのものをソーシャルビジネスに流す仕組みづくりにも挑戦する構えだ。
「資金が届かないことで生まれる“断念”を減らしたい。挑戦が持続する循環を、仕組みとして実装したいんです」
熱を帯びて語る水本さんの野心的な挑戦は、まだ始まったばかりだ。
「はたらく」の意味を問う
「はたらく」が、“お金を得るためだけの手段”になってしまっているのは、やっぱり少しもったいない——
そう語る水本さんは、組織にとっても、そこで働く人にとってもやさしい働き方とは何かを、ずっと探し続けてきました。
働く時間は、人生の中でも大きな割合を占めています。だからこそ、「自分のしていることが、誰かの役に立っている」と実感できたとき、働くことはただの作業ではなく、心からの喜びへと変わっていく。水本さんにとって、それはとても大切な感覚でした。
「社会のためになることがしたい。でも、今の仕事を辞めるのはやっぱり不安…」
そう感じている方も、きっと少なくないはずです。そんなときは、まず“複業”というかたちで、一歩を踏み出してみるのもひとつの方法です。
水本さん自身も、心から納得できる働き方にたどり着くまでに、前職を辞めてから7年という時間をかけて歩んできました。
「だからこそ、モヤモヤした気持ちをそのままにせず、少しずつでも自分の想いと向き合っていってほしい」。
動いていれば、きっといつか、自分の心が大きく動く“なにか”に出会える。その小さな一歩の積み重ねが、思ってもみなかった景色を見せてくれることもあるのです。
「やりたいこと」と「社会にとって意味のあること」は、もう切り離す必要はありません。
“社会をよくしたい”というシンプルな想いが、そのままキャリアになっていく。そんな時代が、いま少しずつ動き始めています。
わたし自身も、HOPIUSを立ち上げるまでに、何年もかかりました。さまざまなキャリアを歩むなかで、「これだ」と心から思えるものに、ようやくたどり着きました。
時間がかかっても、遠回りしても、大丈夫。自分のペースで、じっくり進んでいけばいい。
いつかきっと、自分だけの“しごと”に出会えるはずです。
そして今回開催される「ソーシャルキャリアフェス2025」は、HOPIUSとしても深く共感し、共催というかたちでご一緒しています。
「はたらくって、なんだろう?」——そんな問いに向き合うきっかけとして、ぜひこのイベントを活用してみてください。

ソーシャルキャリアフェス2025は、2025年11月8日(土)・9日(日)の2日間にわたり開催されます。
昨年からスケールアップし、出展企業は2倍の100社、来場者は4倍の2,000人を目指しています。
未来をつくる“はたらく”と出会う場。詳細は、以下のリンクからご覧ください。
水本洋志(みずもと・ひろし)さん
株式会社スターコネクト 代表取締役社長 https://starconnect.jp/
製薬会社(武田薬品、ノバルティスファーマ)、外資系コンサルティング会社(PwC)でヘルスケア業界の営業・マーケティング領域を中心に、戦略立案~実行支援まで幅広い経験を積む。独立後、ヘルスケア業界の新規事業開発、営業・マーケティング組織立ち上げ支援を行う傍ら、株式会社ボーダレス・ジャパンが運営する「ボーダレスアカデミー」にてソーシャルビジネスに出会う。「社会をより良くする事業創りの為のエコシステム構築」に向け、第一弾となるサービス「ソーシャリア」をリリース。https://sociareer.com/