94.2%が願う平和な未来へ──「へいわのつくりかた」がつなぐ希望の一歩

「平和」と聞いて、あなたはどんな印象を持つだろうか。
そして、周りの人はどのような印象を抱いていると思うだろうか。

  • 毎日の流れる戦争のニュースや、不穏な空気を肌で感じている方
  • なんとなくタブーのように扱われていると感じる方
  • 自分に何ができるのか分からないと考えている方

絶対に大切だと分かっていながらも、どこか捉えどころのない存在──それが「平和」なのかもしれない。

そんな中、“平和を願う”から一歩進み、“自分事として動き出す”きっかけをつくろうと挑む団体がある。
世界13カ国で50以上のソーシャルビジネスを展開してきたボーダレス・ジャパンが2024年12月に新設したNPO法人ボーダレスファウンデーションと、人と社会のための問いを探究し、本質的なリサーチとプランニングを強みを持つQO株式会社だ。

QO株式会社 代表取締役
恒藤 優さん(写真右)

QO株式会社の恒藤さんは語る。

様々な社会課題と横並びに「平和」を並べるのではなく、「平和」は社会課題の前提にあるものです。
今回や調査結果や企画は、その根底の考えをあらためて示すことができました。

この二社が共同で行った調査は、人々の平和に対する意識や姿勢を浮き彫りにし、ぼんやりと映る「平和」の輪郭を見事に描き出してくれた。まずはその調査結果をご覧いただきたい。

平和の意識調査

平和の意識調査は15-79歳の2,200名を対象に、インターネットリサーチで行われた。
※詳細はQO株式会社の公開情報をご覧ください。

まず注目すべきは、94.2%もの人が「今後の日本の平和を望む」と答えている点だ。
一見すると「当たり前」に思えるかもしれないが、この共通認識こそが、議論を進めるうえで欠かせない土台となる。

その奥にあるのは、利己的な感情ではなく、家族や身近な人たちが幸せに暮らしてほしいという、温かな願いだ。

一方で、42.5%は「日本は平和でなくなると思う」と答えている。
不安定な世界情勢の中で、日本もいつか巻き込まれるのでは──そんな危機感を抱いているのだ。

つまりは平和への強い願いがある一方で、現状との間には大きなギャップがある。
ただ、個人の平和に向けた行動としては遠い存在になってしまっているのが実情だ。

行動に移せていない理由として、実に8割近い人が精神的なハードルを感じている。
「タブー感」や「敷居の高さ」という感覚は、筆者自身もよく理解できる。

多くの人が「そうそう!」と共感する結果ではないだろうか。

調査から浮かび上がるのは、敷居の高い「平和」というテーマに対し、大切だと感じながらも行動に移すのが難しいという現状、そして人々の前向きな行動をどう促すかという課題だ。
ここからは、その調査結果をもとに二社が企画した「へいわのつくりかた展」の内容を紹介していきたい。

へいわのつくりかた展

「へいわのつくりかた展」は2025年8月9日〜11日、東京・日比谷で開催され、私も実際に足を運んだ。
すでに展示は終了しているが、その雰囲気や内容を感じていただければと思う。

出典:「へいわのつくりかた展」開催のお知らせ

入り口すぐ、1945年の広島・長崎の光景と、2025年現在のガザの状況が重なり合う展示物が。
戦争は過去の記憶ではなく、今なお息づく現実なのだと胸を打つ。

次に目を引くのは、テーブル一面にびっしりと並ぶドット。
これは2021年8月の長崎新聞に掲載されたもので、当時世界にあった13,865発(現在:12,340発)の核兵器を黒いドットで、長崎と広島で実際に使用された2発を赤いドットで表している。

赤丸が実際に使われた唯一の原爆(左下)

被爆遺物を今に伝える「Vase to Pray Project」の花瓶は、長崎の原爆の熱風で変形した瓶を3Dスキャンし、そのデータをもとに精密に再現した作品だ。
「好きなお花を一輪、花瓶に生けてみてください。」──その案内のそばには、参加者が添えた花々が美しく咲き誇っていた。

会場にはさきほどの「意識調査結果」の大型パネルが並び、心には感情として、頭には論理として、平和との重要性と距離を感じさせる工夫が施されている。

最後は展示の目玉となる「ピース・アクション・クラスター診断」へ。
パネルの質問に答えていくと、7つの診断結果からタイプ別の「へいわのつくりかた」を見つけるきっかけを提示する。


平和へのスタンスが積極的でも消極的でも、誰一人否定せず、7つのタイプ別診断から気軽に行えるアクション提案が並ぶ。
それぞれに合った平和との向き合い方を可視化し、どういった方でも一歩を踏み出す勇気を与えてくれると感じた。

Peace Adovocate(提案者)の場合、平和活動に参加するなどが並ぶ
Peace Observer(観察者)の場合、友人と話すなどが並ぶ

取り扱いの難しいテーマでありながら、とても丁寧に設計された場だった。
戦争の悲しさだけでなく、作品の美しさや希望に満ちた前向きなエネルギー、そしてふんわりしていた「平和」が少し鮮明になり身近にもなる展示会。今後の広がりにもぜひ期待したい。

主催する25歳の中村さん

そして今回の調査と展示企画を主導したのは、NPO法人ボーダレスファウンデーション理事の中村涼香さんだ。

2000年長崎県生まれの25歳で、上智大学総合グローバル学部を卒業。祖母が被爆者の被爆3世として、高校時代から被爆地・長崎を拠点に核兵器廃絶を求める平和活動に参加してきた。

NPO法人ボーダレスファウンデーション 理事
中村 涼香さん(写真右)

経歴だけを見ると、つい特別な存在のように感じてしまう。
しかし、トークセッションで中村さんはこんな言葉もくれた。

被爆者の方と会話している中で、寄り添いかたが不十分じゃないかじゃないかと感じることがあります。でも正直、私も「戦争当事者」ではないので、どのように被爆者の方にもっと寄り添えばいいのか難しく感じることもあるんです。
ただ、だからこそ「当事者意識」だけは忘れずに接するようにしてます。

実際に行動を続ける中村さんも、私たちと同じような悩みを抱えながら、等身大でもがき、前へ進んでいた。

「戦争を体験していない自分でも、声を上げていい。行動していい。」──そう勇気づけられた人も多いのではないだろうか。中村さんの姿から、戦争を体験したかどうかよりも、それを自分ごととして受け止められるかが大切だと気づかされる。

著者あとがき

最後に少しだけ私なりの「へいわのつくりかた」を述べたい。
アンケートでも示されていたように、「平和を願ってはいるが、自分ひとりでは何もできない」と感じる方は多いのではないだろうか。

“民主主義”を学ぶ中で気づいたのは、意外にも世の中を動かしているのは「空気感」であることが多いということだ。
多くの人々の意思が波のように重なり合い、良くも悪くも世論を形づくり、行動規範を生み出す。
「平和を強く望む」という感覚を、意識・無意識で広く共有できれば、それは自然に戦争を遠ざける方向に働き、選挙や投票行動にも影響を与え、政治をも動かす世論の力になるはずだ。

では、その良い意思による集団のうねりをどう生み出すのか。
私は、それは一人ひとりの小さな“行動”と、その行動から生まれる周囲との対話だと考える。逆説的に聞こえるかもしれないが、脳科学によれば“行動”こそが“思考”を強化するという。

「反戦映画を観る」「平和記念のイベントに参加する」「平和のメッセージが込められたグッズを身につける」──そんな小さく楽しめるアクションが、平和への想いを深め、家族や友人へと伝わっていくのだと思う。

私自身も、口先だけでなく行動に移したいと思い、今回のイベントで小さなポストカードを購入し、家に飾った。
世の中の温度感が高まる“終戦の8月”だけでなく、ときおりそのポストカードを眺めながら、日々の暮らしや仕事の中でも「平和」を考え、語り、願い続けていきたい。
これが、私なりの「へいわのつくりかた」だ。

著者自宅より

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