社会貢献は、もっと楽しくていい。Empact(エンパクト)・林がつくる「謎解き」から始まる社会参加

【HOPEFULなひと】
HOPEFULなひとでは、「ホピアスの想い」をもとに、人類に希望を見出し、持続可能で愛ある世界を目指して活動している人たちを紹介します。今回話を伺ったのは、一般社団法人Empact(エンパクト)代表理事の林 栄佑(はやし・えいすけ)さんです。林さんが手がけているのは、謎解きゲームを楽しむ中で、気づけば社会課題を知り、寄付や支援に自然と関われる仕組み。気軽さと楽しさを入口にした設計に至った背景、そしてその先に目指す社会について、言葉を追いました。
謎解きの熱量の先で、寄付が“自然な行動”になる

「ちょっと待って、もしかして…..」 「わかった!!これじゃない?」
12月、東京駅近くの会場に、そんな声が響いていました。
この日開催されていたのは、リアル体験型謎解きイベント『ユキと見習いサンタの忘れられたプレゼント』。
10代から30代の参加者がチームを組み、先輩サンタ役のガイドとともに物語の中を進んでいきます。
イベント終了後、参加者の中にはNPO法人チャリティサンタの活動「ブックサンタ」(※1)に参加し、書店で本を選び、寄付をしていました。
アンケートには、こんな声が並びました。
「普段生活していると社会貢献について考える時間がなかなか取れないので、とても貴重な体験でした。」
「思ったより身近なところに非営利活動があると感じられて、とても親しみ深い印象になりました」
知らない間に社会課題に触れ、気づけば行動している。寄付を終えた参加者は、少しやわらいだ表情で家路につきます。
社会貢献は遠いもの——。そんなイメージを、ゲームが軽やかにほどいていく。 この“距離の近さ”こそが、Empactが目指しているものです。

(※1)NPO法人チャリティサンタ が実施する「ブックサンタ」は、クリスマスに、困難な状況にある子どもたちへ本を届ける寄付プロジェクトです。参加者は書店で子ども向けの本を選び、レジで購入・寄付するだけ。集まった本は、全国の支援団体や施設を通じて子どもたちに届けられます。本を通じて「誰かを想う気持ち」を贈る、誰でも参加できる社会貢献のかたちです。
興味はあるが、関われない——その違和感から始まった
林さんがNPOに関心を持ったのは大学時代でした。教育や心理学に興味はあったものの、当時は将来像を明確に描けず、いわゆる「ミーハー就活」をしていたといいます。
そんな中、内定後に受けた授業で出会ったのが、NPO法人 Learning for All(※2) 代表・李さんの講義でした。
貧困に直面する子どもたちの学習支援に、現場の最前線で取り組む姿を知り、「社会課題に本質的に向き合い、大きなインパクトを生み出せる存在がNPOなのだ」と、確信に近い感覚を抱いたといいます。
とはいえ、すぐに団体の立ち上げへ進んだわけではありません。まずは社会を知ろうと マッキンゼー・アンド・カンパニー に入社し、全社変革や人材育成などに携わりながら、論理的思考や資料作成といったビジネススキルを磨きました。
一方で、社会貢献活動への思いは次第に強まっていったといいます。
転機となったのは、Learning for Allのビジョンを「謎解きゲーム」として表現する社内イベントに関わった経験でした。
楽しさと没入感の中で、後から自然と意義が伝わる——
その手応えから、「これなら、関心はあるものの一歩踏み出せない人にも届くのではないか」と感じました。
背景には、「社会貢献に興味がある」と口にすると「偉いですね」「意識が高いですね」と返されてしまう違和感がありました。
善意が高尚なものにされ、かえって壁になっている。だからこそ林さんは、「正しさ」や「意義」を前面に出すのではなく、楽しさを入口に、人が自然と関われる仕組みをつくろうと考えました。
それが、Empact立ち上げの原点です。
(※2)NPO法人 Learning for All は、「子どもの貧困に、本質的解決を」を掲げ、学習支援から活動を始めた教育支援団体です。貧困や虐待、発達障害など、複合的な困難を抱える子どもたちに向き合う中で、「学び」だけでは足りないと確信。現在は、子どもが自立するまで地域で支える包括的な支援モデルを構築し、制度や仕組みの変革にも取り組んでいます。
なぜ、謎解きだったのか

林さんが謎解きに惹かれた原点は、中学3年生のときに友人に誘われて体験した「体験型謎解きゲーム」でした。
「会場に集まった参加者たちが脱出を目指す体験型イベントで、これが感動的におもしろかった。自分が物語の主人公となって謎を解き進める感覚や、制限時間のあるスリル、ひらめきや伏線回収がありました」
小説を読むことや書くことが好きだった林さんにとって、謎解きは推理小説の醍醐味が凝縮された体験でした。その後、高校では友人と謎解き制作団体を立ち上げ、イベントの企画・運営にも携わります。
「今振り返れば未熟な部分も多かったですが、あの経験が今につながる原体験になっています」
やがて林さんは、謎解きが「ストーリーを伝えること」と相性のよい手法であることに気づきます。
寄付や社会問題を説明するのではなく、物語の中で主体的に体験してもらえるからです。
「謎自体が本質なのではなく、主人公として行動することが大事です。本や映画は受動的ですが、謎解きでは自分で考え、進める。その過程で、社会課題も自然と通過してもらえる仕掛けになると思っています」
思いやり・優しさを、ピュアなまま出せる社会にしたい

謎解きを通じた体験設計の背景には、林さん自身が長く抱えてきた違和感があります。
それは、「興味はあるのに、関われない人」があまりにも多いという現実でした。
「他人のために優しくありたい、困っている人を助けたいというピュアな思いを持っている人がいるのに、『そんなの自己責任だろう』といった声によって、行動を萎縮してしまうことがある。そのこと自体が、社会のため以前に、その人自身の幸福追求を妨げていると思うんです」
社会課題に向き合うことは、覚悟や正しさが求められるもの——。
そんな空気が、善意にブレーキをかけてしまっているのではないか。林さんはそう感じてきました。
「関わり方は一つじゃないし、正解もありません。だからこそ、とりあえずやってみようよ、と背中を押したい。そうすることで、社会にとっても、その人自身にとっても、少し楽になるんじゃないかと思っています」
林さん自身、NPOと出会う前は、関わり方がわからず勝手に距離を取っていた一人でした。困っている人を前にすると胸が痛む一方で、自分の立場や背景を意識しすぎて、どう関わればいいのかわからなくなる。
そんな雑音に、知らず知らずのうちに影響されていたといいます。
だからこそ林さんは、社会貢献を「立派な行為」や「覚悟のいる選択」にしたくありませんでした。
もっと自然に、もっと軽やかに、思いやりや優しさを表に出せる社会にしたい。
そのための入口として選んだのが、「楽しい」「夢中になれる」体験だったのです。
Empactという名前には、共感(Empathy)から行動(Act)が生まれ、その積み重ねが社会への影響(Impact)につながっていくという思いが込められています。
人の心が動くところから、社会は少しずつ変わっていく——。そんな信念が、この名前に表れています。
社会貢献を「推し活」に!

「社会貢献」という言葉を前にすると、誰のための行為なのか、どこまでやれば十分なのかと考えすぎて、動けなくなってしまう人も少なくありません。
「だからこそ僕らは、一度そういう問いを脇に置いていいと思っています。まずは自分のために楽しむ。それでいいし、それは全く偽善じゃない」
林さんは、寄付やボランティアも「応援したい団体や活動を推す行為」だと捉えています。音楽やスポーツ、キャラクターを応援するように、心が動いた対象を応援する。その延長線上に、社会貢献があってもいい。
日本にはもともと、共同体の中で支え合う文化があります。
一方で、「善意」を表に出すことに照れや遠慮が生まれやすい側面もある。
だからこそ、サブカルチャーやエンターテインメントと掛け合わせることで、そのハードルを下げられるのではないか——。林さんは、そこに大きな可能性を感じています。
「推し活のように、楽しみながら関わる人が増えれば、結果として社会との接点も広がっていく。そういう循環をつくりたいんです」
「ミチシルアソビ」が社会参加の選択肢になる未来へ

林さんが描く未来は、社会貢献したいと思ったときに、ボランティアや寄付と並んで、「ミチシルアソビを遊ぶ」という選択肢が自然に浮かぶ社会。日常と地続きの場所に、そうした接点がいくつもある状態です。
また、遊ぶ人とつくる人が行き来するコミュニティづくりにも力を入れています。作り手として関わること自体が、楽しく、意義のある社会参加になる。活動に共感した仲間たちが各地で自主的にイベントを開催し、その輪が広がっていくことを目指しています。
さらに、企業がCSRやチームビルディングの文脈で取り入れ、遊びながら社会とつながる体験を持てる機会も広げていきたいといいます。
世界に期待できることが、希望
林さんにとっての希望とは何か。そう尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「この世界に期待して生きていることだと思います」
マッキンゼーというエリートコースを1年で退き、自らの価値観を信じて歩み出した林さん。その選択の裏側には、迷いや葛藤もあったといいます。
「以前の自分だったら、この世界に絶対的な価値はない、という感覚を抱いていたかもしれません。
でも今は、活動を通して、世界は少しずつ良くしていける、この輪はきっと広がっていく、という確信があります。
その『期待』そのものが、僕のエネルギーであり、希望なんです」
社会を変えるのは、一部の「立派な人」だけではありません。
「面白い」「やってみたい」——そんな私たちのピュアな好奇心の先にこそ、希望の火は宿っているのかもしれません。
Empact 次回イベント予告
Empactが手がける次回イベントは、 リアル体験型謎解きゲーム『わたしのドラゴンと5つの冒険』。 2026年2月21日(土)・22日(日)に開催されます。
物語の主人公として謎を解き進めながら、自分自身の選択や価値観と向き合う体験型プログラムです。初めての方も楽しめる設計となっています。
詳細・申込は下記よりご確認ください。
ttps://empact-org.studio.site/event/20260221
林 栄佑(はやし・えいすけ)
一般社団法人Empact 代表理事
2001年生まれ、東京都出身。筑波大学附属駒場高校、東京大学教育学部卒業。
マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社後、社会貢献をもっと身近でワクワクするものにしたいという思いから、入社1年で退職。2025年9月、一般社団法人Empactを設立。謎解きイベント「ミチシルアソビ」など、社会課題とエンターテインメントを掛け合わせた体験の企画・運営を行っている。
一般社団法人Empact(エンパクト)
「社会貢献を、もっとワクワクする身近なものに」を掲げ、社会課題とエンターテインメントを掛け合わせた体験づくりに取り組む団体です。リアル体験型の謎解きゲームを通して、参加者が楽しみながら社会課題に触れ、寄付や支援といった行動へ自然につながる仕組みを設計しています。


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