【書籍紹介】『Humankind 希望の歴史』人類が善き未来をつくるための18章

【Touch Hope
本、映画、展示、イベント、場所——。
世界には、人の可能性や社会の前向きな変化に気づかせてくれる作品や体験があります。
「Touch Hope」は、ホピアス編集部が出会った“希望に触れられる”モノやコトをご紹介するシリーズです。
一冊の本、一つの映画、一つの場所との出会いを通じて、世界を少し違った視点で見つめ、新たな思考や行動につながるきっかけをお届けします。

Touch Hopeは、今回が初めての試みです。
この紹介の仕方でいいのか、どんな内容をお届けすると面白いのか、試行錯誤しながら書いてみました。「面白かった」「もっとこうしてほしい」「こんな本や映画も取り上げてほしい」など、画面下部のHOPEボタンなどから率直なご意見をいただけたら嬉しいです。みなさんの声を参考にしながら、この企画を少しずつ育ててまいります。

本書が問いかけるのは、とてもシンプルなテーマです。

「人間の本質は、本当に利己的で暴力的なのだろうか?」

私たちは子どもの頃から、「人は追い詰められれば争う」「秩序がなくなれば暴力が支配する」といった物語に触れてきました。その象徴ともいえる作品が、ウィリアム・ゴールディング氏の小説『蠅の王』です。無人島に漂着した少年たちが、極限状態のなかで理性を失い、暴力と狂気に飲み込まれていく──。
世界的ベストセラーとなったこの作品は、多くの人に「人間の本性」を描いた物語として受け止められてきました。しかし著者であるブレグマン氏は、ある疑問を抱きます。

「本当にそうなのだろうか?」

調査を進めた彼は、1965年に実際に無人島へ漂着した6人の少年たちの記録にたどり着きます。
少年たちは1年以上にわたって孤立していました。ところが、彼らは争うどころか、小さな共同体を築いていました。菜園をつくり、雨水を貯め、当番を決め、助け合いながら暮らしていたのです。
そこには『蠅の王』で描かれたような崩壊した社会ではなく、人が協力し合いながら生き延びる姿がありました。

私はこのエピソードに大きな衝撃を受けました。同時に私たちは、自分が思っている以上に「物語」に影響されているのではないか、と立ち止まりました。

人間とはどういう存在なのか。
社会はどこへ向かっているのか。
未来は明るいのか、暗いのか。

そうした世界観は、日々触れているニュース、SNS、本、映画、そして周囲の人との会話によって少しずつ形づくられていきます。

だからこそ、どんな情報に触れるかはとても重要です。

ブレグマン氏の問題意識

本書につながるブレグマン氏の問題意識は、とても興味深いものです。

彼は以前、ベーシックインカムを提唱する『隷属なき道』を出版しています。その際、多くの人からこんな反応が寄せられました。「制度の考え方には賛成だ。でも、人は条件なしでお金を受け取ったとき、本当に家族や未来のために使うのだろうか。無駄遣いしてしまうのではないか。」

その問いの奥には、人間に対するある前提があります。

私たちは、人を信頼するよりも疑うことを前提に、多くの制度や仕組みをつくってきたのではないか。

ブレグマン氏はそのことに気づき、「人間とはそもそもどのような存在なのか」を探る旅に出ます。
そして歴史的な出来事や数々の実験を検証しながら、「ほとんどの人は本質的にかなり善良だ」という仮説を追いかけていくのです。

本書の中で、彼はこう語ります。

本書は人間の美徳について説くものではない。明らかに人間は天使ではない。
人間は複雑な生き物で、良い面もあれば、良くない面もある。問題はどちらを選択するかだ。
つまり私が言いたいのは、人は仮に世慣れていない子どもとして無人島にいて、そこで争いに巻き込まれたり、危機に陥ったりしたら、必ず自分の良い面を選択する、ということだ。
本書では人間性に関しての、肯定的な見方が正しいことを裏付ける、数々の化学的証拠を提供しよう。
わたしたちが、そのような見方を信じるようになれば、それは一層真実になるはずだ。

その考えを象徴する寓話も紹介されています。

ある老人が孫に言いました。
「私の心の中には二匹のオオカミがいる。一匹は怒りや嫉妬、貪欲やうらみに支配されたオオカミ。もう一匹は平和や喜び、愛情、親切、共感を持つオオカミだ。」
孫が尋ねます。「おじいちゃん、どっちが勝つの?」老人は答えました。

「お前が餌を与えたほうだ。」

自分が生きているコンテクスト

この本は、人間や社会に対する固定観念を揺さぶり、自分が生きているコンテクスト(ものの見方や前提)が、実は知らず知らずのうちに刷り込まれたものかもしれないと気づかせてくれました。

そして、そのコンテクストを発見し、新しいコンテクストから物事を見てみると、世界はまったく違って見えるかもしれない——そんな視点を与えてくれます。

また本書では、多くのメディアやニュースが性悪説のコンテクストから発信され、人間の「怒り、嫉妬、貪欲、うらみ、劣等感、ウソ、身勝手」といった側面を強調しやすい特性を指摘しています。
私たちは知らず知らずのうちに恐怖や不安を抱き、自分自身もそのような存在であるかのように思い込んでしまうことがあるかもしれないことの気付かされます。

どちらを選ぶのか?
「平和、喜び、愛情、謙遜、親切、共感、真実」のオオカミに餌を与えるような情報を発信するメディアがあってもいいのではないか——そんな発想が生まれました。

その延長線上に、ホピアスの立ち上げがあります。

人類には大きな可能性がある。
社会はより良い方向へ進むことができる。

そんな視点を私に与えてくれた、人生を変えた一冊です。

未来に希望が持てないとき。
人を信じられなくなったとき。
ニュースに疲れてしまったとき。

ぜひ手に取ってみてください。読み終わった後に、あたりを見回してみると、いつもの景色が明るく鮮やかな世界になっているかもしれません。

<紹介した書籍>
希望の歴史 上 人類が善き未来をつくるための18章
ルトガー・ブレグマン (著),野中 香方子 (翻訳) 文芸春秋 

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163914077

<著者紹介>ルドガー・ブレグマン
1988年生まれ。歴史学者、ノンフィクション作家。これまでに歴史、哲学、経済学に関する5冊の本を出版。著書『希望の歴史』(2020年)と『Utopia for Realists』(2017年)はいずれもニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーとなり、40カ国以上で翻訳されている。ブレグマンは、「ザ・コレスポンデント」での仕事により、権威あるヨーロッパ報道賞に2度ノミネートされている。オランダ在住。

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