【映画紹介】一人の少年の冒険が、私たちが忘れていた大切なものに光を当てる──短編ドキュメンタリー『Return to My Blue』(7/24公開)

『Return to My Blue』 ©︎スタジオなあに

【Touch Hope】
本、映画、展示、イベント、場所——。
世界には、人の可能性や社会の前向きな変化に気づかせてくれる作品や体験があります。
「Touch Hope」は、ホピアス編集部が出会った“希望に触れられる”モノやコトをご紹介するシリーズです。
一冊の本、一つの映画、一つの場所との出会いを通じて、世界を少し違った視点で見つめ、新たな思考や行動につながるきっかけをお届けします。

「人工呼吸器が必要な少年が無人島へ行く冒険」

7月公開予定の、ある映画のあらすじを聞いたとき、正直なところ私は少し身構えていました。

映画の主人公である壮眞(そうま)くんは10歳。
人工呼吸器を使っていて、痰の吸引や胃への流動食の注入など、日常生活を送る上で医療的ケアが欠かせません。そんな彼が、医療機器や電気の設備も整っていない無人島へ行く。
看護師として長く働いてきた私が最初に考えたのは、命が危険にさらされないかという不安や疑問でした。

「医療依存度の高い子どもを、沖縄の離島へ連れて行くなんて、無謀ではないか。」
「そもそも、その挑戦は本人が望んでいることなのだろうか。」
「もしかしたら、周囲の大人たちの思いが先走っているだけではないか。」

そんな懐疑的な視線を向けていました。しかし、映画を観終えた今振り返ると、この作品は私が想像していたような「障がいのある少年の挑戦を描いた感動作」という枠には収まらないものでした。

壮眞くんが目指す沖縄の無人島(『Return to My Blue』公式HPより ©︎スタジオなあに)

「無理だ」を「一緒に行こう」に変えたもの

壮眞くんを担当する山本英世(やまもと・えいせい)医師も、初めは無人島へ行くのは無理だと伝えるために彼の元を訪れます。

「無人島への旅で命の危険にさらされるのは壮眞だ。」「沖縄へ行きたいなんて、壮眞の意思ではないだろう。」と。

しかし、訪れた先で山本医師が目にしたのは、想像とは全く違う光景でした。

無人島ツアーに向け、飛行機で座る練習をする壮眞くん(『Return to My Blue』本編より ©︎スタジオなあに )

椅子に座り、飛行機の長旅に備えた練習をする壮眞くん。

「沖縄へ行きたい?」の問いに笑顔で応え、「沖縄行けないかもよ。」と言うと表情を曇らせる。そこには、壮眞くん自身の「無人島へ行きたい」という確かな意思があったのです。

山本医師の考えは変わり、最終的に自らが無人島ツアーに一緒に行くという選択をして、無謀だと思われた冒険が実現へと動き出します。

潮風を感じながら無人島へと向かう壮眞くん(『Return to My Blue』予告動画より ©︎スタジオなあに)

海で見せた笑顔が溶かしたもの

作品の中で特に印象に残ったのは、壮眞くんが無人島で初めての海に入る場面です。

沖縄の強い日差しの中、海に身を浸した彼は、まぶしいほどの笑顔を見せます。
その表情を見た瞬間、私は自然と涙がこぼれていました。

なぜ泣いたのか、すぐには言葉にできませんでした。

海面にきらめく日差しの中の壮眞くんの笑顔は、光そのもののように見えました。
海や空の青さと溶け合うような笑顔は、映画のタイトルにもある「Blue」を象徴しているようにも感じられます。

時間が経ってから、涙の理由を少しだけ言葉にできる気がしました。

私は知らず知らずのうちに、この物語を「支援する人」と「支援される人」の物語として見ようとしていたのです。

誰かが支え、誰かが支えられる。
誰かが願いを叶え、誰かが叶えてもらう。

そんな関係を思い描いていました。
けれど、海で笑う壮眞くんの姿を見たとき、その境界線は海や空の光の中へ静かに溶けていく感覚がありました。

そこにいたのは「支援する人」と「支援される人」ではありません。
一人の少年の「やりたい」という願いに心を動かされた人たちでした。

彼の願いを実現するために集まった家族や医療者、支援者たちは、何かを一方的に与える存在として描かれているわけではありません。むしろ彼ら自身もまた、壮眞くんの願いによって動かされ、変化していく存在として描かれていました。

それは「助ける人」と「助けられる人」の物語ではなく、ひとつの願いをみんなで生きる過程を映したものだったのかもしれません。

初めての海、満面の笑みを見せる壮眞くん(『Return to My Blue』予告動画より ©︎スタジオなあに)

「やりたい」でつながる世界

作品の中で印象的だった言葉があります。

壮眞くんの母・純代(すみよ)さんは「『大変です』と声を上げることで広がってきたこともあるけれど、それよりも『やりたいです』と言ったときのほうが魅力的な人たちが集まってきた。」と語ります。

この言葉を聞いたとき、私は少し立ち止まりました。

私たちは困っている人を支えたい・助けたいと思います。それはとても自然なことです。
一方で、人は誰かの希望にも強く心を動かされる存在なのかもしれません。

「こんなことをやってみたい。」
「こんな景色を見てみたい。」
「あそこへ行ってみたい。」

そんな願いに触れたとき、人は自然と力を貸したくなる。
そこには義務感だけではないエネルギーがあります。誰かの足りないものを補うためではなく、誰かの可能性に参加したいという気持ちです。

「無人島へ行きたい」に集まった人たち(『Return to My Blue』予告動画より ©︎スタジオなあに)

この映画が映していたのは「困ったこと」や「やれないこと」を中心にした人のつながりだけではありませんでした。誰かの「やりたい」という願いを中心に広がっていくこともあるのだと感じました。

そして、それは医療や福祉の現場だけの話ではないように思います。
家族でも、友人でも、地域でも。

誰かの「困っています」だけでなく、「やりたいです」に耳を傾けたとき、関係性は少し違うものになるのではないでしょうか。

「命をつなぐ」その先にある「どう生きたいか」

私は看護師としてICU(集中治療室)で働いていた頃、命の瀬戸際にいる多くの患者さんたちと向き合ってきました。
そのとき考えていたのは、単に命をつなぐことだけではありません。

この人にはどんな未来があって、どのように生きたいと思っているのか。
そのために今、自分に何ができるのか。
そんなことを考えながら看護をしていました。

無人島ツアーの主催者の一人である加藤さくらさんは、自身も医療的ケア児の母です。彼女は、映画の中で「命をつなぐこと」と「生きること」は同じではないと語ります。

この言葉は、私の胸にも深く残りました。

もちろん命を守ることは大切です。
けれど、命を守ることだけが目的になったとき、「この人は何を望んでいるのか」という問いが置き去りになってしまうことがあります。

39分という限られた時間の中で、この作品は「生きるとは何か」という大きな問いを静かに投げかけてきます。
それは医療的ケア児の話にとどまりません。
私たち一人ひとりが、自分の人生をどう生きたいのかという問いにもつながっているように感じました。

山本医師は、今回の体験を通して「人の役に立ちたいという、医師としての原点に立ち返れた。」と語っています。

壮眞くんの「やりたい」という希望の光は、彼自身だけでなく、関わる人たちの原点も照らしていたのです。
誰かの「やりたい」が、人の中に眠っていた大切なものを呼び覚ましていく。
そんな力をこの映画から感じました。

沖縄の海と空のもと、参加したご家族が見せた弾けるような笑顔(写真提供:©︎スタジオなあに )

私たちの中にある「Blue」

作品のタイトルにある「Blue」は誰の心にもある忘れかけていた大切なものだと意味づけられています。
私には「Blue」とは、誰もが持っている自分自身の「原点のようにも思えました。

山本医師も、壮眞くんの母も、壮眞くんと旅を共にした人たちも、それぞれが自分の原点へ立ち返っていくように見えました。
そして私もまた、患者さんが望む生き方に寄り添いたいという、看護師としての原点を思い出していました。

この映画は、観る人それぞれが、自分の「Blue」に立ち返るための作品なのではないでしょうか。

私たちは誰かを支援するとき、無意識のうちに「支える側」と「支えられる側」に分かれてはいないでしょうか。
誰かの「困っている」「助けてほしい」という声だけでなく、「やりたい」という声にも耳を澄ませることができたなら、人と人との関係はどのように変わるのでしょう。

海で笑う壮眞くんの姿を思い出しながら、そんなことを考えています。

『Return to My Blue』は、一人の少年の「やりたい」を通して、人と人との関わりがもたらす新しい可能性を教えてくれる作品でした。

あなたにとっての「Blue」とは何ですか。

39分の旅の軌跡は、その問いを静かに手渡してくれます。


今回ご紹介した短編ドキュメンタリー映画『Return to My Blue』は、2026年7月24日(金)より全国の劇場で公開されます。
監督・プロデューサーは、NHK連続テレビ小説『あんぱん』『エール』、大河ドラマ『どうする家康』などで監督を務めた野口雄大さん。
この夏、ぜひ劇場へ足を運んで、あなたの「Blue」を見つけてみませんか。

公開予定の劇場(『Return to My Blue』公式HPより ©︎スタジオなあに)

前売り券購入はこちら:
https://ticket.moviewalker.jp/film/093016

LINEオープンチャット「チーム マイブル」
仲間になりたい方、ぜひご参加ください!
https://line.me/ti/g2/zbjp0werYicfDMFY2DVd3GAU9gmbWSSWwxBV0g

短編ドキュメンタリー映画『Return to My Blue』
劇場公開日:2026年7月24日(金)

監督:野口 雄大
プロデューサー:中臺 孝樹
ラインプロデューサー:小宮 誠
アソシエイトプロデューサー:松井 佳敬、小林 由佳
出演:吉原 壮眞/吉原 純代/加藤 真心/加藤 さくら/山本 英世
配給:ギグリーボックス 
制作プロダクション:スタジオなあに
39分/日本/2026年/ドキュメンタリー

問い合わせ先:スタジオなあに
myblue0907@gmail.com

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