家賃が上がり続けたら、どこに住めばいい?──住まいを守る、東京と世界の取り組み

Transforming Western HPより

「家賃がまた上がった」「この先も値上がりが続く」。そんなニュースを見ると、これからも安心して暮らしていけるのか、不安になりませんか。

東京23区では、単身者向けマンションの平均募集家賃が、2026年8月に約11万4,000円となり、2015年以降の最高値を更新しました(アットホーム調べ)。さらに、MUFG不動産研究所は、23区の賃貸マンションの家賃が2030年までの5年間で約11%上がると予測しています。

海外でも、切実な声が上がっています。スペインでは、家賃の高騰や立ち退きに抗議するデモが広がりました。象徴となったのが、マドリードで70年以上暮らした家から、2026年9月に退去させられた87歳の女性です。

女性はその後、入院先で亡くなり、10月にはマドリードやバルセロナで抗議が起きました。

家を失うことは、雨風をしのぐ場所だけでなく、日々の安心や、人とのつながりを失うことでもあります。

暮らしの土台を、個人の負担だけに委ねず、社会でどう支えられるのでしょうか。

東京では家賃を抑えた住宅の供給、ニューヨークでは家賃の急上昇を抑える制度、ノックスビルでは住宅と医療・文化施設を組み合わせる再開発が進められています。

対象も方法も異なる三つの取り組みから、住まいを支える仕組みと、その課題を見ていきます。

東京──子育てできる住まいを、社会で支える

子どもが生まれ、もう少し広い家が必要になる。

けれど、住み替え先の家賃は高すぎる。

住宅価格や家賃が上がる東京で、子育て世帯が安心して暮らし続けられる選択肢を増やそうと始まったのが、アフォーダブル住宅の供給です。

「アフォーダブル」とは、手頃な価格で負担できること。東京都は、公社住宅や民間の資金、すでにある建物を生かして、家賃を抑えた住まいを届けようとしています。

東京都とJKK東京(東京都住宅供給公社)は、2026年6月から、既存の公社住宅を活用した入居者募集を始めました。子育て世帯や新婚世帯を対象に、本来の家賃を2割減額。45平方メートル以上、または2居室以上の住戸で、学校や公園が近いなど、子育てしやすい環境も重視しています。子育て世帯への減額は条件付きで最長12年間。今後6年間で1,200戸を供給する計画です。

住まいの広さや場所は、家族の生活に直結します。その選択を家計だけに委ねず、公的な仕組みで支える。この施策には、子育て支援を住まいまで広げる発想が読み取れます。

JKK東京 HPより抜粋

民間と連携する仕組みも動いています。東京都は住宅供給ファンドに100億円を出資し、民間と合わせて200億円以上の規模を目指しています。
2026年5月には、二つのファンドで最初の入居者募集が始まりました。

なぜ、民間との連携で家賃を下げられるのでしょうか。
都の説明では、出資者が投じた資金に対して求める収益の割合(利回り)を低くしたり、空き家などを活用して物件の取得費を抑えたりすることが、その方法です。

出資や物件取得の条件を工夫し、借りる人の負担を軽くしようとしています。

ニューヨーク──住む権利を、制度で守る

Photo by Fernando Strabuli

ニューヨークには、家賃の急上昇から借り手を守る、長い制度の歴史があります。

1969年、戦後に建てられた住宅などで家賃が高騰したことを背景に、家賃安定化制度が設けられました。現在、約100万戸が対象となり、急激な値上げを抑えることや、契約更新の権利を守る役割を担っています。

2026年6月、市の家賃ガイドライン委員会は、同年10月から翌年9月までに始まる対象住宅の1年・2年契約について、通常の家賃引き上げ率をともに0%と決めました。
市内すべての住宅が対象ではありませんが、対象となる住民の家賃負担を抑える決定です。

家賃凍結を公約に掲げていたのが、ゾーラン・マムダニ市長です。

マムダニ氏は市長選中のインタビューで、人の尊厳を政治の土台に置き、生活に必要なものが価格のために手の届かないものになってはならない、という考えを語っています。

住まいを人権と考えるなら、行政が持つ手段を使い、負担できる価格に近づける責任がある、という立場です。

Marc A. Hermann / MTA(Wikimedia Commons)、CC BY 4.0

家賃の支払いが難しくなったとき、それを個人だけで抱えるのか、制度を変えることで支えられるのか。
ニューヨークの取り組みは、住まいの安定を行政の責任として引き受けようとするものといえます。

一方、家賃を抑えながら、建物の修繕や維持管理をどう続けるかも課題です。借り手を守ることと、住環境を保つことを、同時に考える必要があります。

ノックスビル──住民の声から、健康とつながりを育む街へ

Transforming Western HPより抜粋

家賃が手頃でも、医療や学び、人と出会う機会が遠ければ、安心して暮らせる環境は十分とはいえません。

米テネシー州ノックスビルの「Transforming Western」は、住宅と地域の環境を一緒に整える再開発計画です。
対象となるウエスタン・ハイツの公的住宅は、1940年に最初の家族を迎えました。

都心に近い一方で、地域は投資不足や移動を妨げる障壁、貧困の集中などの課題を抱えてきました。

計画づくりには、14か月にわたって住民や地域の関係者が参加。「安全な街にしたい」「仕事や活動にもっとつながりたい」といった希望をもとに、住宅、健康、教育、交通、文化を組み合わせる方針が形になりました。

その一環として、地域の住宅供給や再開発を担うKCDCなどが、2026年10月21日に開所したのが「ザ・ギャラリー・アット・ボーモント」です。計52戸を備え、所得の異なる人々の入居を想定した住宅です。

また、医療や文化に触れる機会を身近にするため、建物には大学医療センターが運営するヘルスセンターと、アートセンターが入る予定です。

診療を受ける、子どもが芸術に触れる、近所の人と交流する。

住民の声から生まれたこの計画は、住む部屋の確保に加え、そこで送る日常の豊かさまで支えようとする街づくりです。

安心して住むことを、誰もが持つ権利に

© kohei_hara via Canva.com

東京、ニューヨーク、ノックスビルの施策は、対象も方法も異なります。

共通する問いとして見えてくるのは、住まいを個人の購買力だけに委ねず、社会でどう支えられるか、ということです。

もちろん、支援の対象や住宅の数には限りがあります。
「周辺相場より安い」ことが、すべての人にとって「払える」ことを意味するわけでもありません。制度ができた先に、誰の暮らしがどう変わったのかを見ていく必要があります。

それでも、住まいを守るために、資金の集め方を変え、既存の制度を動かし、住民と街の未来を考える人たちがいます。

家賃高騰のニュースの向こうで、安心して暮らせる選択肢をつくろうとする営みも、着実に進んでいます。

東京の募集住戸や申込条件は、JKK東京の専用サイトや、東京都が案内するファンド運営事業者のサイトで確認できます。

参照
JKK東京|アフォーダブル住宅の入居者募集開始
東京都|官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド
ニューヨーク市家賃ガイドライン委員会|2026〜2027年の家賃改定率の決定
WNYC Studios|マムダニ氏インタビュー:住まいや人の尊厳についての考え
KCDC|住宅・医療・文化の複合施設「The Gallery at Beaumont」の開所

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