家がない、仕事がない、身分証がないーそれでも、やり直せる社会をつくるーRelight 市川加奈の挑戦

【HOPEFULなひと】
「HOPEFULなひと」では、「ホピアスの想い」をもとに、人類に希望を見出し、持続可能で愛ある世界を目指して活動している人たちを紹介します。今回お話を伺ったのは、Relight株式会社 代表の市川加奈さんです。
市川さんはこれまで、ホームレスの人たちに「仕事」や「家」を提供してきました。累計の問い合わせ数は1万件を超え、仕事や住まいにつながった人は1,400名以上。現在の入居者は45名ほどで、スタッフ3名とともに日々現場に向き合っています。
市川さんが取り組んできたのは、社会の“不均衡”を少しずつ整えていく仕事です。
人手不足と言われながら働けない人がいる。家が余っていると言われながら住めない人がいる。その矛盾に向き合い続けてきました。一方で、現場に立ち続けるなかで、ある感覚も芽生えてきました。
──課題ばかり追い続けても終わりがない。
「課題にフォーカスするのではなく、こういう社会をつくりたい、にフォーカスすればいいのではないか。」
事業を始めて7年目。市川さんは今、新しい構想に向けて動き始めています。
「Relight村 in 八王子」という構想

現在、市川さんが構想しているのが「Relight村 in 八王子」です。
ここにくれば、どんな人も自然体で暮らせる。そんな場所をつくりたいと考えています。
市川さんは2026年3月、東京・八王子の民家にRelightの拠点を移しました。周囲にはRelightが借りて提供するアパートがあり、中心には市川さんやスタッフがいるオフィス兼居住スペースがあります。
必要な人には見守りの訪問を行い、来たい人は自由に立ち寄ることができる。
「管理」というより、ゆるやかな見守りの関係をつくりたいと市川さんは言います。
この構想の出発点は、とてもシンプルな発想でした。
生活の中で困窮(※1)するから、ホームレス状態になってしまう。
だったら、そもそも困窮しない社会にしていけばいい。そのための拠点を作ろう
(※1)困窮とは経済的な問題やその他の事情により、最低限度の生活を維持することが困難、またはその恐れがある状態のことです。単なる金欠だけでなく、就労や健康、社会的孤立など複合的な要因で生活が成り立たない状況を指します。
拠点には、コーヒーを飲める場所や洗濯機、乾燥機など、日常生活に必要な設備を用意する予定です。
相談したいときには立ち寄ることができ、喫茶室のように人と話せる場所でもあります。
また、八王子には貸し出し農園が多くあります。
Relight村の住人たちで畑を耕し、野菜を育て、みんなで食べる。料理が苦手な人がいれば得意な人が作る。家計管理が苦手なら、得意な人が教える。
市川さんはこう話します。
「お金のやりとりを中心にした経済でももちろんいいんですけど、私が理想として描いている形でもある、お金だけではない、お互いに頼り頼られる“相互扶助”の仕組みを作れたらいいなと思っています。元気になって、働きたかったら、また働けばいいんです。」
Relight村の構想は、特別な支援の仕組みというより、人が自然に支え合える暮らしの場をつくることに近いものです。
では、市川さんはどのような経緯でこの取り組みに至ったのでしょうか。
なぜホームレス支援だったのか

市川さんがホームレス状態にある人の「住まい」や「仕事」の問題に関心を持ったのは、高校生の頃でした。16〜17歳のとき、路上で寝ている人を初めて見ました。
当時は介護福祉士を目指していましたが、「路上で寝ている人たちをどうにかできる方法はないのか」と考えるようになります。
すぐに福祉の現場に入るのではなく、まず大学で幅広く学ぼうと考え、中央大学に進学しました。
大学時代、通学途中の新宿ではさまざまな募金活動が行われていました。保護犬や保護猫の活動、海外の教育支援など、多くの人が足を止めて寄付をしています。
しかし同じ場所に、路上で眠っている人たちもいました。しかし、そこにお金を渡す人はほとんどいません。
「共感されやすい課題にはお金が集まるのに、なぜホームレス状態の人に寄付が集まりにくいのだろう。」
その疑問は、強く心に残りました。大学時代のボランティア活動でも、ホームレス支援に関わるようになります。
就職活動の時期になり、社会課題に取り組む企業を探しました。しかし「ホームレス」をテーマにした事業に取り組める企業はほとんどありませんでした。
そのとき知ったのが、ボーダレス・ジャパン(※2 以下、ボーダレス)です。ボーダレスには、入社後に社会起業を支援する仕組みがあります。「ここしかない」と思い、副社長・鈴木さんと面談し入社しました。
(※2)ボーダレス・ジャパン
「社会問題をビジネスで解決する」を理念に掲げるソーシャルビジネス企業グループ。2007年に田口一成氏が創業し、貧困、環境、教育、難民支援など世界各地の社会課題に取り組む事業を展開しています。社内には起業を支援する制度があり、志を持つ人が新しい社会事業を立ち上げられる仕組みも特徴です。現在、国内外で多くのソーシャルビジネスが生まれ、社会課題の解決に挑戦しています。
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現場で学んだ「事業をつくる力」

ボーダレスでは、ビジネスの現場を一から経験しました。
最初の配属は、本革製品のオーダーメイドブランド「JOGGO(ジョッゴ)(※3)」です。生産管理と顧客対応を任され、入社初日から電話対応やクレーム対応なども担当しました。
ものづくりがどのように進み、商品がどのように顧客に届き、どんな声が返ってくるのか。
ビジネスの基本を、実務を通して学んでいきました。さらに、精神発達障害のある方々と働く工房の立ち上げにも関わり、既存事業の運営と新規事業の立ち上げの両方を経験します。
工房は後のUNROOF(アンルーフ)(※4)という事業になります。

その後、起業準備のために約3〜4ヶ月のプランニングを経て、ホームレス状態の人に仕事と住まいを提供するRelightの事業につながっていきます。
(※3)JOGGO(ジョッゴ)
カスタムオーダーの革製品を提供するブランドで、社会課題の解決を目指すソーシャルビジネスとして誕生しました。主にバングラデシュで革製品を生産し、貧困などの理由で就業機会が限られていた人たちを革職人として育成し、安定した雇用を生み出しています。オーダーメイドの財布やバッグなどを通じて、ものづくりの価値と働く人の誇りを社会に届けることを目指しています。
(※4)UNROOF(アンルーフ)
障害のある人が「好き」や「得意」を活かして働ける環境をつくることを目指すソーシャルビジネスです。デザインやイラスト制作などのクリエイティブな仕事を中心に、精神・発達障害のある人がチームで働きながらスキルを伸ばし、社会とつながる機会を広げています。障害の有無に関わらず、一人ひとりの個性や強みが活かされる新しい働き方を社会に広げることを目指しています。
Relightの事業

Relightは「誰も孤立せず、何度でもやり直せる社会をつくる」をビジョンに掲げ、2つの事業を展開しています。
問い合わせは月200件ほどにのぼります。問い合わせ内容は、すぐ働ける仕事がないか、住宅の審査が通らずに住む家がない、などの切実なものばかりです。
こうした相談の多くは、いわゆる「見えないホームレス状態」と呼ばれる人たちで、 路上生活には至っていないものの、家や仕事を失っている状態にある人たちです。
「見えないホームレス」は、原因がひとつではありません。さまざまな要因が重なって生まれています。
派遣などの非正規雇用の拡大や、配達などのスポットバイトの普及によって、働き方は以前より柔軟になりました。住まいもシェアハウスなど選択肢が増え、生きやすくなった人もいます。
しかし、自由な働き方は責任とも表裏一体です。社会保険や税金の仕組みを理解しないまま日払いの仕事を続け、結果としてフリーランスの働き方になり、確定申告が必要になるケースもあります。
また、お金の使い方や生活習慣の問題が重なることもあります。得たお金をすぐ使ってしまう、貯金ができないといった状況です。生活保護につながってもその水準で生活を維持できない人や、制度の条件に合わない人もいます。
さらに、相談できる家族や友人がいない人も少なくありません。真面目で「歯車が合わなかっただけ」の人もいれば、家賃滞納など加害的な側面を抱える人もいます。こうした被害者でもあり加害者でもあるという二面性が、支援を難しくしています。
──Relightが支援したこんなケースがありました。
山本さん(仮名)は、以前は調理の仕事をしていましたが、職場でのパワハラが続き、耐えきれずに仕事も家も手放して上京しました。探されたくないという思いから携帯電話や身分証も置いてきてしまい、お金だけを持った状態で今後どうするか悩んでいたといいます。
Wi-Fiのある場所で仕事を探していたときに「いえとしごと」を見つけました。

当初は警備の仕事を紹介されましたが、面接の際に調理師免許を持っていることを伝えたところ、「その資格を活かした方がいい」と系列の福祉施設での調理の仕事を提案されました。
現在はその職場で働き始めて2年半ほどになります。人間関係も良く、休日には職場の人と海釣りに出かけることもあるそうです。将来は地元に戻り、自分の店を開きたいと考えています。
このように、「いえとしごと」を通して働き、自分を取り戻していく人が多くいます。
市川さんの原動力「構造への疑問」と「推し活」

市川さんの原動力のひとつは、社会の「構造」への疑問です。
人手不足と言われているのに、働きたくても働けない人がいる。
家が余っていると言われているのに、住めない人がいる。
人もモノも十分にあるはずなのに、それが必要な人に届かない。
そこには社会の構造的な問題があるのではないか。そうした疑問から、強い知的好奇心が生まれたと言います。
もう一つの理由は、市川さんが冗談めかして語る「推し活」という感覚です。
「お笑い芸人のマネージャーに近いかもしれません。
好きなんです。ベースとして、彼らのことが。」
路上生活を経験した人たちの多くは、とてもユニークで、日本社会の主流とされる価値観にうまく当てはまらなかった人たちもいます。世の中の主流の生き方に順応できない人がいるのは、当然のことだと市川さんは言います。
「私は、彼ららしく生きていくことを応援したいんです。
もちろん守るべき社会のルールはあります。でも、社会に合わなくてつらい部分は、なるべく緩めてあげたい。」
ただ、以前の市川さんは「この人たちのために」と先回りしすぎてしまうこともあったと言います。
「ここに来れば何とかなる」という支援は安心感を生む一方で、自分で歩む力を削いでしまう面もあると気づきました。
「彼らは強いんです。ちゃんと生きていける力はある。ただ、社会の側にぴったり合う場所がないだけなんです。」
だからこそ、市川さんが目指すのは「支援すること」だけではありません。
その人が持っている力や良さを引き出すことです。
「どうやったら生きていけるか。それを一緒に考えるのが面白いんです。」
市川さんは、そう語ります。

NPOの立ち上げと、「Relight村」の誕生

「どんな人でも、とりあえず生きていけるようにしたい」。
そう考えたとき、市川さんはビジネスだけでは十分ではないかもしれないと感じました。そこで2025年2月にNPOを立ち上げます。
役所での申請や手続きに不安がある方にはスタッフが同行し、身寄りがなく保証人がいない方には緊急連絡先の代行を行う。また、生活の再建に欠かせない「お金の管理力」を身につけてもらうため、家計相談や予算管理などの実践的な金融教育も行っています。
株式会社では対応しきれなかった部分を、寄付金を活用したNPOの活動として支えているのです。
そして、もう一つ動き出した取り組みが、冒頭に紹介した「Relight村」です。
課題解決に向き合い続けるなかで、市川さんはあることに気づきました。課題を深く掘れば掘るほど、新しい課題が見えてくるということです。犯罪歴のある人、放火や殺人などの過去を持つ人――必要な支援だと分かっていても、社会が簡単に受け入れることは難しい場合もあります。
課題解決とは、課題を定義し続ける営みでもあります。次々に新しい課題が見えてくること自体は大切ですが、それだけでは持続可能な仕組みにするのが難しいと感じました。
そこで市川さんは、こう考えるようになりました。
「課題にフォーカスするのではなく、こういう社会をつくりたい、にフォーカスする。」
犯罪をした人を支える社会よりも、犯罪が起きにくい社会の方がいい。被害者も加害者も生まれない社会の方がいい。未然に防ぐほど、対象者は「困っていない状態」になるため見えにくくなりますが、そもそも困らない社会をつくることの方が大切ではないか。その延長線上で、市川さんは「八王子に村をつくろう」と考えました。
それが、Relight村の構想です。
市川さんの感じる希望とは

ホームレス支援という難しくシリアスで、時に絶望を味わいかねない難題に対し、底抜けに明るく楽しそうに取り組む市川さん。最後に、事業の6年間で感じた「希望」について聞いてみました。
市川さんが希望を感じるのは、関わった人が必要なサービスにつながり、人生が“回り始める”瞬間だと言います。
「20年ぶりに病院にいけるようになった」 「身分証を持てた」 「就職して昇進した」 「子どもが生まれた」 「膨大な借金を抱え、『偽名で生きる』とすら言っていた人にパートナーができた」 「就職先の会社案内のパンフレットに載った」
そうした話を聞くと、本人からの「ありがとう」という言葉も嬉しいですが、それ以上に「人生が好転している」と実感できることが何より嬉しいと話します。
「必要なピースにつながれば、人はちゃんと生きていけます。仕組みを少し変えるだけで、うまく回り始めることも多いんです。貧困問題は永遠になくならない、という絶望ではなく、『やりようはある』と思えるんです。」
市川さんは相談者の生命力に向き合うたびに希望を感じると、力強くいいます。
終わりに
今回の取材を通して、誰でも「見えないホームレス状態」になる可能性があることを知りました。
親の介護や家族の死、ちょっとしたミスで身分証をなくしてしまうこと。働きすぎてうつになること。職場でのパワハラや家族関係の不和など。
生活の歯車が少しずつズレていくと、精神的に追い込まれ、どうすればよいのかわからなくなる。自暴自棄になり、さらに状況が悪くなっていく。そうした負の連鎖は、決して特別な話ではないと感じました。
日本では「多様な社会」という言葉を耳にすることが増えました。
一方で、長く続いてきた価値観や社会の仕組みの中では、生き方の選択肢がまだ限られていることがあります。現代社会では、「働く(お金を稼ぐ)」こと以外の形で生きていくことが難しい場面も少なくありません。
そんな中で、市川さんは人の「存在」そのものへの理解と尊敬を持ち続けている人でした。
3月から八王子に拠点を移し「Rilight村」を始動させる市川さんは、終始笑顔で、生命力にあふれていました。このパワーで村をつくっていくなら、一風変わった人たちが集まる、ユニークで生命力に満ちた場所になっていくのだろう。そんな未来が自然と想像できました。
何かあったときに、その村がある。どんな状況でも受け入れてくれる場所がある。
そんな拠点が全国に広がっていけば、窮屈な社会の中にも、力強くあたたかな場所が少しずつ増えていくのではないでしょうか。


八王子のRelight村の拠点にはのどかで穏やかな空気が広がっている(写真提供:Relight株式会社 市川さん)
Relight株式会社とは
Relight株式会社は、「誰も孤立せず、何度でもやり直せる社会をつくる」を理念に掲げるソーシャルベンチャーです。家や仕事を得ることが難しい人に向けて、仕事探しを支援する求人サービスや、住まいを借りづらい人のための賃貸物件の提供などを行っています。身分証や保証人がないなど、既存の制度の狭間で住まいや仕事にアクセスできない人たちに対し、実務的な支援を通じて生活の再建をサポートしています。現在は八王子を拠点に、ゆるやかな見守りと相互扶助のあるコミュニティ「Rliht村」の構想にも取り組んでいます。
NPO法人Relightを応援する方法
NPO法人Relightは、住まいや仕事など生活に課題を抱えた人に対し、就労支援や居住支援、生活再建に向けた伴走支援を行っています。「働きたいけれど住む場所がない」「一人では立て直せない」──そんな声に向き合い続けています。Relightでは、継続的に支えるマンスリーサポートと、自由なタイミングで参加できるスポットサポートの2つの形で支援を受け付けています。例えば月3,000円の支援は、住まいを失った方の宿泊支援につながります。関心を持った方は、ぜひ活動をご覧ください。https://npo-relight.org/support/


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