11月、キャリアの地殻変動が起きる──ボーダレス・ジャパン田口さんが語る、「ソーシャルキャリア」の価値と未来

皆さんは「ソーシャルキャリア」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。
それは、「社会的意義を軸に働く」という新しいキャリアの形。
「AIには代替できない、人間らしい仕事」として、いま急速に注目を集めている。
(参考:AIを「ほぼ毎日使う人」の6割が社会的意義を重視する理由(Forbes Japan))
そんな「ソーシャルキャリア」の働き方を力強く後押しするのが、株式会社スターコネクトである。
2025年11月に「ソーシャルキャリアフェス 2025」というイベントを企画しており、ホピアスでも社会意義を強く感じ、共催の立場でサポートしている。
ソーシャルキャリアフェスは、「人生と社会を変えるソーシャルキャリアに出会おう」をテーマに、11月8日・9日に東京・有楽町で開催される2,000名規模のイベントだ。『コテンラジオ』でおなじみの深井さんをはじめ、50名を超える起業家や事業家のトップランナーが集結する。イベントの詳細は、記事の最後でもご紹介する。
今まさに注目の「ソーシャルキャリア」…誕生のきっかけは、世界13カ国で50を超えるソーシャルビジネスを展開し、世界中で社会的インパクトを生み出し続けている株式会社ボーダレス・ジャパンにあった。

ボーダレス・ジャパンは社会起業家のビジネススクールである、「ボーダレスアカデミー」も運営している。スターコネクト代表の水本さんは2020年頃にボーダレスアカデミーに入学し、ここでの学びは、価値観やサービスの誕生にもに大きく影響を与えたという。
「ソーシャルキャリア」が主流になる。
ソーシャルビジネスを切り開き、現在も第一線で活躍されている田口さんの言葉の重みが突き刺さる。
今回は、ボーダレス・ジャパンCEOの田口さんに「ボーダレスアカデミー」から連綿と続く助け合いの系譜と、田口さんの考える「ソーシャルキャリア」の本質についてお話を伺った。
株式会社スターコネクトの公式noteにて後日公開予定だ。
ホピアスでは読者に分かりやすくする目的で、田口さんの発言内容のみを編集・抜粋して取り上げている。
「ボーダレスアカデミー」の誕生と価値
──2007年に設立した「ボーダレスアカデミー」の誕生のきっかけを教えてください。
「ボーダレス・ジャパンは社会課題のために事業を立ち上げたいという人たちが集まる会社です。
当時、年間300件ほど、『私も事業を立ち上げたい!』とボーダレス・ジャパンに応募いただいていました。
ただ、ボーダーレス・ジャパンは、社会的なインパクトと事業の持続性に対して、非常に高い基準が求められる環境です。ボーダーレスで事業化を目指すことは、逆に応募者の方々が苦しくなってしまうのではないか、と感じ、ほぼ全てを“お断り”していました。
けれども“お断り”は、その瞬間のボーダーレスに合わないという意味であって、社会にとって社会起業家がたくさん増えるのは重要なことです。社会は1つのサービスや会社で変わることはほぼなく、無数の点が網の目のように広がって社会変革が起きてくる。
だからこそ、ボーダーレスで培ったビジネスプランニングの手法を活用し、応募いただく方々をサポートできないかと立ち上げたのが、ボーダーレスアカデミーでした。」

──代表の水本さんにも多大な影響を与えた「ボーダレスアカデミー」ですが、改めて感じてる、アカデミーの意義や意味について教えてください。
「よくお伝えする例え話があります。
数十年前、芸人になる道は極めて閉ざされていました。弟子入りするために師匠の家の前で何時間も出待ちして、偶然の機会を得て芸人への扉が開いたスターの伝説的なエピソードなどを、聞いたこともあるのではないでしょうか。
でも今、テレビを見ると、そこらじゅうに芸人の方ばかり。
この変化がなぜ起きたのかということを考えると、大きな要因は吉本興業さんのNSC(お笑いを学ぶ学校)の存在にあるわけです。そこでまずは芸能への道が開かれ、相方を見つけたり、芸を切磋琢磨したり、異なる道に行くことも含めて小さなステップができるのです。
社会起業家もいきなり、書いたこともない事業プランを作り、家族を連帯保証人にしながら多額の借金をして、というハードルを乗り超えることは、昔の芸人になることと同じく非常に困難です。社会起業家にもステップを作る必要があると考えました。
またアカデミーでは人生を左右する起業というテーマだからこそ、プロたちの目線でビジネスプランを練り上げ、『本当に自分のやりたいことは何なのか』を数ヶ月突き詰める活動を一緒にやっています。
そこでは良い部分だけではなくて、『全然ダメ』『まだ早い』という耳が痛い話もしっかり行うことを、最も大切にしています。」

──代表の水本さんも「ボーダレスアカデミーでは悔しい思いもしたが、卒業後も考え抜いたことでソーシャルキャリアを支援する、今の『ソーシャリア』というサービスが誕生した」と仰ってますね。
「アカデミーの数ヶ月は、自分の人生として何をやりたいのかに向き合い続けるとても苦しい時間。
だからこそ水本さんのように悩み抜いて、自分がやりたいことを見つけている人は、僕は本当に理想の生き方だと思っています。とても嬉しいですね。」
『ソーシャリア』誕生の詳細は以下の記事をご覧ください。

「ソーシャルビジネス」というキャリアの変遷
──ソーシャルビジネスの第一線で、時代を見つめてきた田口さんだからこそ思う、キャリア観の時代変化について教えてください。
「ソーシャリアが掲げる、本業を維持したまま“複業”の形でソーシャルビジネスに関わるのは、時代に合っていると思います。
大きな流れは、ソーシャル=社会性を考えて事業をする、という感覚がスタートアップを中心に当たり前になってきたことです。助成金などもお金も出やすくなっているし、働き方を含めて選択肢も多様になってきています。
また昔は、『えいや!』で生活と人生をかける人だけが社会起業家をやってきましたが、みんなそこまで無鉄砲じゃない(笑)
家族や自分の生活を安定させつつも、社会貢献をしたいというのが大多数のマジョリティ層です。そういった中で、会社を辞めずに“複業”で社会活動に関わる、というのは多くの方の現実的な選択肢です。
大事なことは皆が幸せになる社会を作ること。
その手段が、必ずしも人生をかけた社会起業家である必要がなくなったのが、今の時代。
実は、ボーダーレスとしても役割を変えるべきだなと思っていて、一部が関わる“起業家支援”から、多数が関わる“事業創造グループ”として、マジョリティ層である副業支援を推進していこうとも考えています。
まさに、ソーシャルキャリアが多くの方にとって、重要で主要な働き方になり得るのです。」

──生成AIによって様々な変容が起こっている中で、仕事に対する『人間の生きがい』も変わってくると感じています。社会課題に取り組んでいる方は、前向きに楽しく仕事をされている印象ですが、どう捉えてますか?
「まさに、同じ印象です。
仕事を通して、『自分として価値があると思える活動がやれている』ということが、その人の生きがいそのものになります。これはソーシャルビジネスに関わる方の共通項ではないでしょうか。
もしかしたら、他のお金を目的とした活動よりは、収入が少ないタイミングがあるかもしれない。ただ、『何のために自分はこの時間を使っているのか』という充足感を感じるでしょう。
僕は“お金”と、“健康”と、“やりがい”がトータルバランスとして良い状態が“ウェルビーイング(※1)”だと思ってます。
“ポスト資本主義(※2)”という言葉をよく耳にしますが、その本質は、何のための経済なのか・個人は何のために働くのか、を改めて再セットすることにあると考えています。
つまり、お金一本の評価軸から、生きがい・やりがいを含めた複数のキャリアの価値観の軸へ、もっと変わってくると思います。」
(※1)ウェルビーイング
Well-being(ウェルビーイング)とは、心身と社会的な健康を意味する概念。決まった訳し方はなく、満足した生活を送ることができている状態、幸福な状態、充実した状態など、多面的な幸せを表す言葉である。瞬間的な幸せを表す英語「Happiness」とは異なり、持続的な幸せを意味するのがウェルビーイングの特徴だ。
(※2)ポスト資本主義
ポスト資本主義とは、資本主義の限界を超えようとする新しい社会のあり方。お金や利益よりも、人や自然の幸せ・持続性を重視し、共有・協働・信頼といった「価値の循環」で成り立つ社会を目指すことが多い。
「少し話は変わります。
実は、僕、違和感をすごく大切にする人間で、違和感あればすぐやめちゃうんですよ(笑)
ちょっとでも違和感があれば、朝令暮改(ちょうれいぼかい)ですぐ方針を変更したり、撤退したりするんです。
具体的な違和感は、短期的な流行りに合わせているな、と感じたときに起こります。必死にやっているチームメンバーに、少し経つと“ガラクタ”になるような消費される仕事をさせたくないんですよね。
でも、ソーシャルビジネスだけは20年間やっていてそういった違和感が全くないんです。
だからソーシャルキャリアというのも、本質的な価値があって、本当に良いものだと思っています。」

──マジョリティ層にとって、ソーシャルキャリアフェスはどういった場になりますか。
「人生には、“勇気”が必要だと僕は思います。
でも、その勇気は人によって程度は違うので、“半歩”の小さな勇気でチャレンジできる環境は用意する必要があります。
だからこそ11月のソーシャルキャリアフェスは、小さな勇気を持って踏み出そうとする方の“背中を押す”という意味で、すごく良いと思います。

──最後に。副業の先、転職という形で、「ソーシャルキャリア」に携わる人材が増えることで、企業側にはどういった変化が期待できますか?
「これまでの企業の人材獲得は、“給料上げ合戦”で優秀な人材を取り合って、企業間競争をしていた時代です。
結果、それが個人や社会の幸せに繋がればよかったのですが、賃金追求は人を幸せにしない、という構造的な問題を抱え続けています。
そういった中で『給料を上げるために転職する』ではなく、『自分のやりたいことができるから転職する』という連鎖は必ず起こる。この影響は経営者側に届くんです。
会社を経営している中で、一番悲しいときは、人が辞めるとき。
『あの優秀な人材がなぜやめたのか・・』という強烈なフィードバックが会社が変わる重要なきっかけなんです。
結果として、経営者も経済的な意義だけでなく、社会的意義も考えるようになる。転職というのは、去る人にも残る会社にもどちらにもインパクトがある行為です。
一定割合、こういった転職が増えればすごい企業は中から変革する動きになり、個人の転職行為そのものが、より良い社会に繋がると考えています。」
「ソーシャルキャリアフェス2025」について
最後に、田口さんはこうも言った。
ソーシャルキャリアフェス自体は、経済的な利害関係はなく、ボーダーレスアカデミーのきっかけを除けば、ボーダーレスグループの活動でもありません。
でも、本当に良いことだと思うから、心から応援できるんです。
そこには、本当の意味での“ボーダーレス”な、人と人との原点となる相互共助の関係性が目に見えるようだった。
ソーシャルビジネスに従事されている方は、価値観の根底に愛情深い人が多いように感じる。
共催するホピアスとしても、ソーシャルビジネスに携わる価値や感覚を、一人でも多くの方に感じてもらいたいと思い、引き続き応援していく。

ソーシャルキャリアフェス2025は、2025年11月8日(土)・9日(日)の2日間にわたり開催。
昨年からスケールアップして社会に“地殻変動”を起こすべく、出展企業は2倍の100社、来場者は4倍の2,000人を予定。
以下の2分弱の動画で雰囲気も感じていただけると思う。
いますぐに転職や副業を考えていなくても、「仕事の社会的意味や意義に興味がある」という温度感で十分楽しめるはずだ。
実のところ去年、私も気軽な気持ちで参加し、このHOPEを届ける希望のメディア「ホピアス」の創業のきっかけの1つになっている。
誰の胸の奥にも、小さな炎が宿っている。その炎が、ソーシャルキャリアフェスという風を受けて、やがて大きなうねりとなり、社会を動かす——。そんなキャリアだけでなく“希望の地殻変動”が始まる11月。
ホピアスも、そのうねりを会場で見届けたいと思う。
株式会社ボーダレス・ジャパン
代表取締役CEO 田口 一成
1980年生まれ、福岡県出身。早稲田大学在学中に米国ワシントン大学へビジネス留学。卒業後、㈱ミスミ(現 ミスミグループ本社)を経て、25歳でボーダレス・ジャパンを創業。社会課題を解決するソーシャルビジネスのパイオニアとして、日経ビジネス「世界を動かす日本人50」、Forbes JAPAN「日本のインパクト・アントレプレナー35」、EY「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン」に選出。2020年、カンブリア宮殿に出演。 TEDx『人生の価値は何を得るかではなく、何を残すかにある』の再生回数は118万回を超える。2021年『9割の社会問題はビジネスで解決できる』(PHP出版)を出版しベストセラーとなる。2024年12月、NPO法人ボーダレスファウンデーションを設立。
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