キャリアが変わると、社会が変わる──Professionals For Impact (PFI) 代表・平井さんが語る「社会課題起点のキャリア」の最前線

気候変動、貧困、紛争、人権侵害、パンデミック。
世界は今、複雑で解きにくい課題を同時に抱える時代に入っています。
こうした課題に対して、資金や技術の議論は進んでいる一方で、もうひとつ見落とされがちな論点があります。
それは、「誰がその課題に取り組むのか」という視点です。
どれだけ資金が集まっても、どれだけ素晴らしい技術が生まれても、優秀な人材がプロジェクトを牽引しなければ、社会課題はなかなか解決しません。ビル・ゲイツは、「世界で最も困難な課題には、最も優秀な人材が挑む必要がある」と語っています。また、オランダの歴史学者のルドガーブレグマンも、近著「倫理的野心を持て」の中で「才能を無駄にせず、世界を変えるために使うべきだ」と指摘しています。
しかし日本では、社会課題に関わる仕事は「収入が低そう」「キャリア形成が難しそう」といったイメージが根強く、志と経験・スキルを併せ持つ人材の流入は、まだ十分とは言えない面があります。これは個人や組織単体の問題だけではなく、構造的な課題だといえるでしょう。
あなたのキャリアは、社会にとってどのような意味を持ちますか?
「どのような組織で」「何に取り組むか」という選択は、実は自分自身の単なる転職や昇進の話だけではなく、「どんな社会をつくりたいか」という意思表明にもなるのです。
そうした構造的なギャップに向き合うため、社会課題に取り組む組織とプロフェッショナル人材をつなぎ、「人材のミスマッチ」という見えにくい課題解決に立ち上がったのが、株式会社Professionals For Impact(プロフェッショナルフォーインパクト 以下、PFI)です。PFIでは、初期事業として、社会課題に取り組む団体と、志ある人材を繋ぐマッチング、即ち転職支援・採用支援事業と、採用コンサルティング事業を展開しています。
今回、PFIとホピアスの共創企画として、社会課題起点のキャリアにおける意思決定のプロセスをひも解いていきます。
実際にPFIを通じて転職・就職した方々や、インパクトキャリアの最前線で活躍する方々のストーリーも順次公開します。
見えにくかった「キャリアの思考プロセス」を可視化することで、この領域をより多くの人にとって現実的な選択肢にする。
そして、再現性のあるキャリアの道筋を示すことで、エコシステムの広がりにつなげることを目指します。
こんな方に読んでほしい
- 学生時代は特定の社会課題に取り組んでいたが、現在は企業など課題の外側で経験を積んでいる方
- 現職で一定の成果を上げてきたが、次のステップとしてより社会的意義のある仕事に関わりたい方
- 社会課題領域に関心はあるものの、選択肢や報酬、キャリアの見通しが見えず踏み出せていない方
- 現役の学生や、すぐに転職を考えているわけではない社会人など、将来に向けて情報収集したい方
本連載の第一回は、PFI代表・平井光城(ひらい・みつしろ)さん。
「社会課題起点のキャリア」という新しい選択肢の実態と可能性を伺いました。
代表取締役CEO 平井光城(ひらい・みつしろ)さんのプロフィール
大阪市出身。高校卒業後に単身渡米し、米国の大学卒業後、コロンビア大学国際公共政策大学院修了。ボストン コンサルティング グループに新卒入社後、ビル&メリンダ・ゲイツ財団(現ゲイツ財団)の日本拠点に2人目の職員として参画。2024年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得後、「最も優秀で意欲のある人材が、最も重要で困難な課題に取り組める社会」を目指し、Professionals For Impactを創業。社会課題領域に特化した採用・転職支援をはじめ、営利・非営利双方の事業を展開。「インパクト×キャリア」の普及に取り組んでいる。両親が非大卒の「ファーストジェネレーション」であり、同様の背景を持つ人材のキャリア支援も行う。Business Insider Japan「BEYOND AWARD 2026」個人部門受賞。

気候変動やジェンダーなど、社会への関心からキャリアを描く

──そもそも社会課題起点のキャリアとはどういうものでしょうか?
平井さん 一般的なキャリアは、「どの会社に入るか」「どんな業界に行くか」「どんな職種に就くか」から考えることが多いと思います。あるいは年収やキャリアパスといった、自分を軸にした基準で選ばれることが一般的です。一方で、私たちが提唱しているのは、「何のために働くのか」からスタートするキャリアです。
例えば「気候変動を解決したい」「ジェンダー格差を是正したい」といった社会への関心から出発し、その実現に向けて、自身の適正とマッチする組織や職種を考えていく。
つまり、組織や職種を先に決めるのではなく、取り組みたい課題を起点にキャリアを設計する考え方です。
このように順番に変える考え方をすると、むしろ選択肢は狭まるどころか広がります。
同じ課題に対しても、コンサルティング、事業会社、スタートアップ、投資、NPO・NGO、財団、行政、国際機関など、多様な関わり方が存在するからです。
そしてこれは、単なる善意や理想論だけで成り立つものではありません。
専門性や経験を活かして成果を出し、その結果として社会に変化を生み出す、プロフェッショナルとしての仕事です。正当な報酬と持続可能な働き方があって初めて成立するキャリアだと考えています。
「三方よし」から現代へ──経済性と社会性の両立
──このキャリアの歴史や近年の動きについて教えてください。
平井さん もともと日本には、江戸時代の近江商人が大切にしていた「売り手よし、買い手よし、世間よし」の3つの視点で商売を行う経営哲学があります。自社の利益だけでなく、顧客の満足と地域・社会への貢献も追求する理念ですね。
ただ、それが現代の組織運営の中で再び強く意識されるようになったのは、ここ20年ほどだと思います。背景には大きく3つの流れがあります。
一つは、社会課題が企業経営そのものに直結することが認知されるようになったことです。気候変動や環境汚染、紛争や感染症、人権侵害などは、サプライチェーンや事業継続、企業の信頼や評価にも影響を与えるようになり、もはや無視できない経営課題になっています。
二つ目は、そうした変化を受けて、経済性と社会性を両立する動きが広がってきたことです。社会課題が企業価値や事業リスクに直結するようになり、資本市場の側でも「何に投資するか」が見直され始めました。その結果、インパクト投資(※1)やゼブラ企業(※2)といった考え方が広がり、社会課題への取組みは、現実的な事業として成立する領域になりつつあります。
三つ目は、個人の価値観の変化です。不確実性の高い時代だからこそ、「自分は何のために働くのか」「自分の時間や能力をどこに使うのか」を意識する人が、特に若い世代や子育て世代で増えています。以前はそう思っても選択肢が見えにくかったり、国際協力をはじめ、一部の領域に限られていました。
しかし、今はようやく、その受け皿が少しずつ広がり始めています。
(※1)インパクト投資:財務的リターンだけでなく、社会や環境へのポジティブな影響(インパクト)の創出を目的とする投資。例えば、気候変動対策や医療アクセス向上などの課題解決に資金を投じ、その成果を測定・評価しながら、経済的リターンとの両立を目指す。
(※2)ゼブラ企業:社会課題の解決と持続的な収益の両立を目指す企業のこと。短期的な利益最大化ではなく、長期的にステークホルダー全体の価値を高めることを重視し、共存・協働を前提に事業を展開する。複雑な社会課題に向き合い、従来の資本に頼らない多様な資源を活かして成長していく点が特徴。

──実際にどれくらい広がっているのでしょうか?
平井さん この領域は、確実に拡大しています。
すでに、社会課題に取り組むことは「理想論」ではなく、「事業として成立する領域」へと変わりつつあります。
その結果、これまで成立しづらかった事業や組織が立ち上がり、人材の採用も生まれています。
実際にロールモデルも増えており、ボーダレス・ジャパン(※3)のように複数の社会課題に対して事業を展開する企業群や、クロスフィールズ(※4)、リディラバ(※5)のように、社会性と事業性を両立する組織は着実に広がっています。インパクトスタートアップ協会(※6)には、すでに300社以上が加盟しています。
さらに、この領域に特化した求人プラットフォームやコミュニティも徐々に立ち上がっています。
まだ大きい市場ではないにせよ、少なくとも「点在する仕事」ではなく、「市場として成立しはじめている」ことの証左だと考えています。
ただし、この領域は特定の業界としてまとまっているわけではなく、さまざまな産業の中に分散しています。そのため全体像は見えにくいものの、実態としては着実に広がっています。
(※3)ボーダレス・ジャパン:社会課題の解決を目的に複数の事業を立ち上げるソーシャルビジネスグループ。貧困、環境、人権など多様な領域でビジネスを通じた解決を目指し、国内外で事業を展開している。
(※4)NPO法人クロスフィールズ:企業や個人の人材を新興国の社会課題の現場へ派遣し、現地のNPOや政府機関と協働する「留職プログラム」を展開。人材育成と社会課題解決の両立を目指す日本発のNPO。
(※5)株式会社リディラバ:「社会の無関心の打破」を理念に2009年創業。教育旅行や企業研修、メディア・コミュニティ運営に加え、事業開発や政策立案も展開し、社会課題の解決に取り組む。これまで15年以上にわたり、400種類以上の社会課題を扱っている。
(※6)インパクトスタートアップ協会:社会課題の解決と持続的な成長の両立を目指すスタートアップを支援する団体。政策提言やコミュニティ形成を通じて、インパクトスタートアップのエコシステム構築と市場の拡大を推進している。
「誰がやるか」で、結果は変わる

──なぜこの領域で人材が重要なのでしょうか?
平井さん 大企業で働けば、その人は大きな組織の一員として価値を発揮します。それはもちろん重要なことです。
ただ、同じ人材が社会課題の領域で、戦略、事業開発、資金調達、政策連携、組織づくりなどを担ったとき、より大きな変化を生み出せることがあります。社会課題は、複雑で、難しく、しかも山積みです。一方で、それに取り組む人材はまだ十分ではありません。だからこそ、一人参画する影響が大きいのです。
一人ひとりの力が、大きな変化につながりやすい領域とも言えます。
象徴的な事例があります。
大手外資消費財メーカー「P&G」出身のマーケターが、ハーバードビジネススクールを卒業後「がん検診の受診率向上」に取り組むスタートアップ「キャンサースキャン」を作りました。行政だけでは動かしきれなかった課題に対して、マーケティングの専門性を生かしターゲットの心理を分解し、行動導線を設計し直した結果、検診率は明確に改善しました。同社は、2023年12月の日経新聞によれば、上場企業に142億円で買収されています。
同じ課題でも、「誰が取り組むか」で結果は変わります。社会課題の解決において不足しているのは、アイデアそのものよりも、「適切な人材が、適切な場所に配置されること」だと感じています。
最大のボトルネックは「情報不足」
──それでも人材流入が進まない理由は何でしょうか?
平井さん 今の最大の課題は、情報の非対称性だと思っています。以前は報酬の低さが大きな理由でしたが、今は状況が変わってきています。
NGO・NPOでも事業型の団体で、且つ一定の専門性が求められる責任のあるポジションであれば年収1,000万円以上のケースが出てきていますし、資金調達済みのインパクトスタートアップでは、管理職や事業責任者クラスで1500万円に届くポジションもよく見られるようになってきました。また、昨今の国際情勢からか、日本に活路を見出して進出する外資のNGO・NPO、財団、インパクトスタートアップも出てきており、日本チームの組成などを手伝っています。
ただ、その情報が十分に届いていないのが現状です。
どのような求人があり、どんなスキルが求められ、報酬水準がどうなっていて、その先にどんなキャリアパスがあるのか──それらが見えないため、判断が難しいのです。
また、企業転職のように口コミサイトもないため、各団体を比較検討することもできません。
年収や役職名が明示されていない求人には応募しづらいですし、「この領域に入ると元の業界や生活水準に戻れないのではないか」という不安も生まれます。さらに、ロールモデルがまだ少なく、再現性を以て自分の将来像を描きにくいという問題もあります。
つまり、能力や意志の問題ではなく、「判断材料が足りないから選べない」ことが最大の障壁になっています。多くの人は、やらないのではなく「選べない」のです。キャリアチェンジはそれだけでハードルが高いものです。
不確実性の高い社会課題領域であれば、なおさらです。だからこそ、人が踏み出せるだけの判断材料を整えることが重要だと考えています。
環境が絶望も希望も生むと知った青年時代

──平井さんがこの課題に向き合う原点は、どこにあるのでしょうか?
平井さん 私は公立小・中学時代、いじめや母親の病気の影響もあり、将来に希望を持てない時期がありました。 自分の人生が良くなるイメージを、当時は持ちづらかったです。
そこから環境を変えるためにとある私立の高校受験を決意しました。家から片道1.5-2時間かかるので地元のものは誰も行かず、環境も充実していて給付制の奨学金もある学校でした。
「ここで変わらなければ、このままの人生だ」と思って、中3夏の部活終了時から必死に勉強しました。結果的に偏差値は半年で10以上あがり、進学した高校では、これまでとはまったく違う環境に出会いました。
勉強することが冷笑されるのではなく、応援される。そこで初めて、学ぶことや挑戦することの楽しさを実感しました。
模擬国連や英語ディベートなどにも取り組み、その中で世界の貧困や飢餓を知るようになりました。同時に、自分が変われたのは「環境があったからだ」と気づきました。
もし日本に生まれていなければ、奨学金制度も、教育の機会もなく、自分にセカンドチャンスはなかったかもしれない。そう考えたとき、「自分の時間を、自分や家族だけのためではなく、他の誰かのためにも使いたい」と思うようになりました。
そこから国際協力の道を志し、大学は海外へ進学。将来は国連で働くことを目指すようになりました。ただ、その過程で一つの気づきがありました。国際協力の現場でも、民間セクターの役割が大きくなっているということです。
実際に現場で働く方からも、「まずは民間で力をつけてほしい」と言われました。
加えて、これまで高校・大学・大学院と積み上がった自身の教育ローンの返済もあり、現実的に一定の年収を得る必要もありました。まずはビジネスの世界で経験を積むことを選びました。
そこでコンサルティング会社に入り、その後、ゲイツ財団へ。日本拠点の戦略策定や、グローバルヘルス領域でのアドボカシー(※7)、民間企業とのコンソーシアム組成、助成先団体のマネジメントなどに携わりました。
こうした経験から「環境や機会によって人生が大きく左右される」という実感を持つようになりました。そして同時に、社会課題に関わりたいと思っても、収入やキャリアの制約、情報不足によって踏み出せない人と数多く出会ってきました。
この構造を変えたいという思いが、PFIの立ち上げにつながっています。
(※7)アドボカシー:社会課題の解決に向けて、政策提言や世論喚起を通じて意思決定に働きかける活動のことです。政府や自治体、企業などに対し、制度や仕組みの改善を促すことで、より大きな社会変化を実現することを目的とする。
最も優秀で意欲のある人材が、最も重要で困難な課題に取り組める社会を創る

──社会課題起点のキャリアの構造を変えるために、PFIを立ち上げられたのですね。
平井さん そうですね。当事者意識があって、やる気もある。それでも、収入や安定の問題で、この領域に入りたくても入れない人が多かった。
一方で今は、インパクトスタートアップや事業型NPOなど、きちんと給与を支払える組織も増えています。
それにもかかわらず、情報やコネクションがないことで、「働きたい人が働けない」状況が続いている。
つまり、この領域のボトルネックは「機会がないこと」ではなく、「見えないこと」だと思っています。
だからこそ、この構造は、当事者として経験してきた自分が変えていくべきだと感じました。
ハーバードで社会起業を教える教授との出会いも大きかったです。
その方は「自身の授業を受けた教え子から何人社会起業家が生まれるか」を人生のKPIにしているような人で、その姿勢に背中を押されました。PFIのミッションは、「最も優秀で意欲のある人材が、最も重要で困難な課題に取り組める社会を創る」ことです。
人類や社会にとって最も重要で困難な課題に、最も優秀で意欲のある人材が「取り組みにくい」社会なんてシンプルにおかしいと思いませんか。
報酬への先入観や情報不足、ツテがなければ機会に届かないといった“見えない障壁”を減らしていきたいと考えています。
──では、この領域には具体的にどのような求人があるのでしょうか?
平井さん 例えば、医療領域のインパクトスタートアップでは、COO(最高執行責任者)直下のポジションで、年収1000万〜1500万円の幹部案件も出てきています。
また、災害対策で国連とも連携する宇宙スタートアップでは、政府や国際機関向けの事業開発ポジションも募集されています。年収は800万〜1500万円程度で、中央官庁や国際機関との関係構築や提案、政策調整などを担う役割です。
また、近年日本に進出した外資のインパクトスタートアップの担当者レベルで年収1,000万円弱、同じく進出したばかりの外資の財団で年収2,000万円に届く例もあります。
さらに、Gaviワクチンアライアンス(※8)のような国際機関では、JPO派遣制度(※9)を通じてキャリアを築く道もあります。外務省の国際機関人事センターや、グローバルヘルス人材戦略センターの求人データベースは是非見ていただきたいです。
このように、領域もポジションも幅広く、報酬水準も含めて、現実的な選択肢が増えてきています。
また、年収は450-600万円程度であっても、重要な課題に取り組み、働き方が柔軟で、チームに人格者が揃っている、本人の事情によっては非常にマッチした魅力的な団体も数多くあります。
想像よりもずっと、持続的なキャリアとして成立する領域になってきていると思います。
(※8)Gaviワクチンアライアンス: ワクチンへの公平なアクセスを推進する国際的パートナーシップ。各国政府、WHO、ユニセフ、民間企業などが連携し、主に低所得国の子どもたちへの予防接種の普及と保健体制の強化に取り組んでいる。
(※9)JPO派遣制度:日本政府が人材を国際機関に派遣し、実務経験を積みながら将来的なキャリアにつなげる仕組み。
──PFI社の強みは何ですか?
平井さん: 私自身、社会課題に取り組む企業、NPO、行政、財団、国際機関など、団体属性を問わず幅広いネットワークがあります。そのため、関心のある領域に対して、全方位的に選択肢を提示できます。
特に、各団体のトップや幹部、採用責任者 と直接つながっているため、一般には出回らない情報やポジションにアクセスできる点が強みです。また、グローバル案件や英語が求められるポジション、適切なタイトルや報酬水準で入社できる案件など、キャリアの幅を広げる機会も多く扱っています。
一方で、人権やジェンダー領域など、報酬が上がりにくい 分野においても、「都心で暮らせる水準の年収を確保できるなら、自分が最も関心のある領域で働きたい」といった方のサポートも可能です。
わたし自身が社会課題領域の求職者・採用者の双方を当事者として経験してきた立場だからこそ、単なる紹介にとどまらず、その人にとって意味のあるキャリアを一緒に考え、具体的なアドバイスができると考えています。
社会課題に関わることで、働く意味はどう変わるのか

──このキャリアで、働く側が得られるものは何でしょうか?
平井さん 社会課題領域で働くことの価値は、単に「社会のためになる仕事ができる」ということだけではありません。キャリア形成の観点でも、大きな意味があると考えています。
第一に、今後伸びていくキャリアを先取りしやすいことです。
近年は、大企業でも社会課題を起点に新規事業を構想したり、事業そのものを社会的価値と結びつけて再設計したりする動きが強まっています。実際、一部のコンサルティングファームでも、社会課題を起点に事業をつくる方法論が体系化され始めています。
つまり、社会課題と事業をつなぐ力は、一部の特殊な領域だけでなく、今後ますます多くの企業で求められる力になっていくはずです。そうした意味で、この領域での経験は、これからの時代に伸びていくキャリアを先取りすることにもつながります。
第二に、若いうちから裁量を持ちやすく、幅広い力が身につきやすいことです。
社会課題領域の組織には、スタートアップや少数精鋭の組織が多く、事業開発、営業、資金調達など、複数の役割を横断して経験できる環境があります。役割が細かく分かれた組織では得にくい、広い視野や実行力、オーナーシップを培いやすいのは大きな魅力です。
第三に、普段の企業キャリアでは接点を持ちにくい人たちと協働でき、視野が大きく広がることです。
この領域では、企業だけでなく、NPO・NGO、財団、政府、自治体、国際機関など、多様なセクターと一緒に仕事をする機会が生まれやすいです。立場や価値観の異なる人たちと協働する中で、社会課題の構造を立体的に理解できるようになりますし、自分の専門性がどこでどう活きるのかも見えやすくなります。
結果として、キャリアの幅そのものが広がっていく感覚があります。
第四に、自分をストレッチしやすく、実力を伸ばしやすいことです。
社会課題に関わる仕事には、「何のためにやるのか」が明確にあります。ただ業務をこなすのではなく、「困っている人のために動いている」「この課題を少しでも前に進めたい」という実感があると、人は想像以上に力を出せるものです。
本来なら途中で妥協してしまうような場面でも、もう一歩踏み込みやすくなる。そうした経験の積み重ねが、自分自身の成長にもつながっていくと思います。
そして、個人的には、最も大きな価値のひとつは「良い人たちと働けること」だと思います。
社会課題に向き合う人には、何らかの当事者意識を持ち、人にも自分にも誠実で、寛容な方が多い印象があります。
競争や損得だけでなく、「どうすれば社会を少しでも良くできるか」という視点で会話ができる。社会や未来についての話を、気負わず自然に共有できる仲間がいる。理想や問題意識を冷笑されずに語れる環境に身を置けること自体、このキャリアの大きな価値だと感じています。
──社会課題起点のキャリアの可能性についてどう考えますか?
平井さん 今後、この領域は確実に広がっていきます。
企業の中でも社会課題に取り組む動きは加速していますし、政府、スタートアップ、NPOなど、セクターを越えてキャリアを横断する人も増えていくはずです。専門性を軸に、領域を越境する動きも一般的になっていくと思います。
働き方も多様化しています。フルタイムに限らず、副業やフリーランス、プロボノなど、関わり方は広がっていく。
経験がある方なら、社外取締役や理事・評議員といった関わり方もあるかもしれません。自分の時間の一部でも、この領域に関わる人は増えていきます。
一方で、キャリアパスはまだ十分に整っていません。
大企業で社会価値と事業の両立を推進する責任者(チーフインパクトオフィサー)のようなポジションや、サステナビリティと事業成長を担う役割などは、自然発生的に広がるだけでは不十分です。
また、そのような役割を経験した方が、常務や専務、社長になっていく道筋も、まだ存在していません。だからこそ、こうしたキャリアを意図的に設計し、私たち自身が社会に実装していくことが重要だと考えています。
キャリアは、個人の問題であると同時に、社会の設計でもあります。
キャリアの呼称としては「インパクトキャリア」と整理することもできると考えていますが、重要なのは、その仕事がどんな変化を生んでいるかです。何人に届いたのか、どんな制度が変わったのか。
そうした成果に目を向けながら、この領域に関わる人を増やしていきたいと考えています。
個人の働く場所次第で、社会は変わる

──「インパクトキャリア(社会課題起点のキャリア)」に興味のある人に、伝えたいことは何ですか?
平井さん 私たちは、適切な報酬とキャリアパスがあり、社会課題の領域での挑戦がきちんと報われる社会をつくっていきたいと考えています。
その上で、一人でも多くの方にこの領域に来てほしい。安心して飛び込んできてほしいです。
実際に、コンサルや金融、営業や企画など、これまでの経験をそのまま活かせるポジションは増えています。特別なスキルがなければできない仕事だけではありません。
──社会課題に関心があれば、まずは一歩踏み出してほしい、ということですね。
平井さん 例えば、優秀な営業が、誰かの健康を損なう可能性のある商品ではなく、社会にとって意味のあるプロダクトを売ったとしたら。その人が生み出す価値は、大きく変わるはずです。
これまで積み上げてきたスキルや経験は、使う場所によって、社会への影響がまったく変わる。
そして、それが本当に必要とされている場所で活きたとき、「このためにやってきたんだ」と思える瞬間がある。
もし少しでも気になっているなら、まずは一度、選択肢を知るところから始めてみてほしいです。
社会課題に携わる仕事のドアは、すでに開かれています。
その一歩を、ぜひ一緒に考えられたらうれしいです。
「インパクトキャリア」を、共に描くために
私たちホピアスは、この社会課題起点のキャリアを、これからみなさんと共につくっていきたいと考えています。
ぜひ率直なご意見をお聞かせください。
本企画は連載として、実際にPFIを通じて転職・就職した方々や、インパクトキャリアの最前線で活躍する方々のストーリーも順次公開し、一歩踏み出すための具体的なヒントとして、お届けしていく予定です。
株式会社Professionals For Impact(プロフェッショナルフォーインパクト)
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