小さな場所に宿る、豊かな体験の場。――リトルツリー・辻堂ハウスのHOPEFULな日常

【HOPEFULなひと】
「HOPIUSの想い」をもとに、人類に希望を見出し、持続可能で愛ある世界を目指して活動している人たちを、取り上げる企画です。
今回ご紹介するのは、長屋アパートの一角にある小さなコミュニティスペース「リトルツリー・辻堂ハウス」。保育・教育の現場で長年子どもたちを見守ってきた野村さんが作った、「あるがままの自分」が表現される場所です。野村直子(のむら・なおこ)さんが目指すHOPEFULな世界をお届けします。

神奈川県にある辻堂駅西口から海へ向かって浜竹通りを15分ほど歩き、小道に入ると、古い長屋風の建物が現れます。辻堂ハウスは、その入り口から4軒目。
革小物づくりが体験できるレザールーム「Bluno(ブルーノ)」と、レンタルカフェ&スペース「Fujinami(フジナミ)」が並び、取材に伺った日は、おむすび屋さんがオープンしていました。
そこは、昭和レトロなのにどこかおしゃれで、懐かしさと新しさが同居する空間です。

辻堂ハウスは2階建て。1階には台所と、人と自然に優しいお菓子や雑貨を扱う小さなお店「もじゃ商店」。2階には押入れを活かした本棚と黒板、真ん中にちゃぶ台が並ぶ畳のスペース。
足を踏み入れると、おばあちゃんちに来たような安心感に包まれます。週に2〜3日はフリースペースとして開放し、月2〜3回は“豊かな体験の場”をコンセプトとしたイベントを開催。

野村さんと辻堂ハウス管理人を担う杉村裕美(すぎむら・ひろみ)さんの二人で運営し、杉村さんは「もじゃ商店」の店主でもあります。覗いてみると子どもたちや親たちが集い、おもいおもいに遊び、話し、ゆっくり過ごしたりお昼寝をしたり…昭和の時代にタイムスリップしたような時間と空間が広がっています。
辻堂ハウスが、どのような想いでつくられたのか。代表の野村さんにお話を伺いました。

きっかけはコロナのロックダウン

リトルツリー・辻堂ハウス、代表の野村直子さん

ーー辻堂ハウスをつくろうと思ったきっかけをお伺いできますか?

「きっかけは、コロナ禍のロックダウンでした。

2020年6月ごろ、会社も学校も止まり、社会が一瞬静止したような時期でした。その時、小さな子どもを育てる家庭のことが思い浮かんだんです。慣れないリモートワーク、家事、育児を同時にこなしていく親御さんたちが心に余裕がなくなってしまうんじゃないかって。
子どもたちも、そんな状況では、家にいること自体が苦しくなってしまうかもしれない。だから、家でも職場でもない、ほっとできる場所を作ろうと思いました。

そんな時、辻堂に住む知人から、長屋アパートの一角が空いているという話を聞きました。
見に行ったら、少し奥まったところに、小さな庭のある古いアパートで、窓を開けたら心地よい風が入ってきて・・その風と周辺の雰囲気が気に入って、即決。友人たちとリノベーションをスタートしました。

窓は割れ、カビとほこりだらけの空間。まずは掃除から始め、壁や天井に漆喰を塗り、ペンキを塗り、床を剥がして貼り直し。下駄箱やカウンターをすべて手作りしました。

元園児や親御さんたちと壁を塗っている様子

コロナ禍で友人や、元園児とその親御さんに手伝ってもらいながら週末にゆるゆると作業を続け、みんなで楽しみながら半年かけてDIYをしました。最初は薄暗かった場所が、どんどん光って輝いていく…。空間がよみがえっていく体験を経て、2021年4月に辻堂ハウスはオープンしました。

多様な想いが交じり合ったコンセプト

ーー辻堂ハウスのコンセプトもユニークですね。

「はい。コンセプト作りは、私一人ではなく、4人の仲間と考えました。
『環境』『経済』『暮らし』『教育』、それぞれ興味の分野が違う仲間たちです。

その掛け合わせから生まれたのが、“豊かな体験の場 being Me becoming We
一人ひとりが自己表現をしていくことで、私たちの豊かな体験になる。そんな想いを込めています。」

辻堂ハウスのコンセプト

ありのままの自分がいられる場所

ーーオープンから4年。辻堂ハウスはどんな場所になっていますか?

「ご近所さんの口コミやSNSで知った方々で輪が広がり、今では子ども連れのお母さんやお父さん、小学生、知人、保育関係の方、もじゃ商店に買いに来る人などがふらっと立ち寄る場所になりました。
お家でもない、学校や幼稚園でもない、もうひとつのお家・おばあちゃん家のような存在です。

コンセプトの“being Me becoming We”という言葉は、一人一人の『私(わたし)』が、ここで、あるがままに表現されていることで、『私たち』みんなの体験になるイメージです。
その言葉に今も引っ張られています。

“豊かな体験の場”も、すごいことを言ったりやったりすることではなくて、泣きたい時は泣いて、笑いたい時は笑って、眠たい時は寝て、お腹空いたら、お腹空いたーってみんなで食べる。大人も子どもも、本当に“そのまんま”が表現されている場を目指しています。

素敵ですね!家でも学校でも何か気を張っていて、そのままをじっくり味わえていないかもしれないですね。

「そうなんです。みんな忙しいでしょ。
日々の暮らしを皆でゆったりと“そのまんま”体験すること、これが実はとても豊かな体験だと考えています。
子どもたちは、家ではあまりできない工作をしたり、小さいお庭で遊んだり、2階で遊んだりしています。
2階のおもちゃは、幅広い年齢の子が遊べるように工夫できるものを選んでいます。
大人たちものんびりしたり、本を読んだり、お茶したり、情報交換やちょこっと愚痴をこぼしたり・・・・そういう場所になっていますね。」

お父さんと赤ちゃんが一緒にお昼寝

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