小さな場所に宿る、豊かな体験の場。――リトルツリー・辻堂ハウスのHOPEFULな日常

こだわりの“おさんぽキャラバン”

ーー定期的にイベントやワークショップも開催しているそうですね。人気のイベントはありますか?

「私たちのペースでやってみたいことを気まぐれにやっています。(笑)
皆さんからやりたいことを募って“辻堂ハウスLABO”という形で実験的にやってみたり。オープン当初から“おさんぽキャラバン”はこだわって続けています。

私の本業は自然保育のアドバイザーなので、親子でお散歩をしたくて始めたものです。大きな公園とかに行くわけじゃないんですよ。普通の道ばたにある野草や、近くの小さな緑地で木の実を拾ったりとか。

最近の子どもたちって自由に遊べてないと感じます。おもちゃも余計なお世話が多い。押したら音が鳴るとかこうやって遊びますって設計されたおもちゃだったりとか。

でも自然物には決まった遊び方はなく、無限大の遊び方があります。

おさんぽ中は、なるべく子どもたちが自由に歩けるようにしています。大人がみんなで子どもの安全を見て、子どもの自由を保障するようにしています。
いまは世の中が、“安全・安全”と『こうしなければならない』って“正解”を押し付けられているように感じます。
でも子育てって正解を求めてたら辛いものです。子どもたちの個性は、100人いたら100通りですから。

私が子どもの頃は、フェンスがあればよじ登ってみたり、段差があればとび降りて、たまに怪我しちゃったりとか。車にブブーってやられたりとか、近所のおじさんに『入っちゃいけないよ!』と怒られたりとかもありました。
今はそういう体験が全くない、できない世の中だから、大人も一緒に怒られちゃうくらいな心の余裕というか余白を作るというか・・そんな気持ちでいます。(笑)

忍者の訓練のようにフェンス沿いを歩くこどもたち

自然と一緒に、親も子も育つ

ーー子どもたちや親御さんには、どんな変化がありますか?

「子どもを散歩させたことのなかったお母さんが、初めて“おさんぽキャラバン”に参加したんですね。
最初は子どものことが心配で心配でしょうがなかったんですが、お母さんの心配をよそに、子どもは一生懸命、松ぼっくりを集めている。大事そうに、一個づつ拾って。

最初は、子どもから目が離せなかったお母さんが、自分もだんだん慣れてきて、小さい子ってこういうふうに何でもない自然で遊ぶんですね・・って、お母さん自身も松ぼっくりを集め始めた・・・なんてこともありました。

このあいだは、お散歩中に“雪柳”を見つけて子どもたちに『これ甘い匂いがするんだよ。わー!いい匂い』とクンクン嗅いで見せると、子どもたちは『どれどれ?』と集まってくる。
それに釣られて寄ってきたお母さんたちにも『嗅いでみて』と勧めると、『すごい!いい匂いするねー』『へえー知らなかった!』と。

ユキヤナギの匂いを嗅いでみる「わーいい匂い」

今まで風景の一部になっていた自然を“体験する”瞬間です。遊びの楽しさや、自然を発見するよろこびを全身で感じて満たされる。
まさに“センス・オブ・ワンダー(※)”、豊かな体験ですよね。

「センス・オブ・ワンダー」:神秘さや不思議さに目を見はる感性のこと。環境保護のパイオニアと言われるレイチェル・カーソンの遺作「センス・オブ・ワンダー」に書かれている言葉。環境破壊への危機感をいち早く訴えたことで有名な『沈黙の春』の著者である彼女が、姪の息子である幼いロジャーと自然の中を探索しながら感性を開いて自然と対峙することの大切さを綴っています。子どもの頃は誰もが持っていて、大人になると気づかない間に見失っていく「センス・オブ・ワンダー 神秘さや不思議さに目を見はる感性」をずっと新鮮に保ち続けること。自然の恵みを常に体全体で受け止めることのできるように育つことの重要さを教えてくれます。

知識と体験が知恵になる

ーー現在は子ども大人も体験が少ない時代かもしれないですね。

「そうですね。頭で知っているだけの頭でっかちさんが増えているかもしれません。

先日、仕事で訪問した先の保育園での出来事です。冬から春に向かう時期でバッタなどの虫がいないので、子どもたちに『幼虫いるかな?探してみようか!』と呼びかけました。
子どもの一人が『僕、幼虫知っているよ!カブトムシになるんでしょ。』と。
私が『どんなカブトムシになるんだろうね』と問いかけると『ヘラクレスオオカブト!』と答えました。

日本にはいない世界最大のカブトムシを挙げました。動画サイトのYouTubeで知ったそうです。

“知っていること”と“実際に体験すること”は全く違います。
体験をするから、知識が身につきます。体験するから好奇心が出て、知への興味につながる。体験と知識の両方が必要で、それが知恵になるのだと思っています。

子どものやりたい!を叶えた「こどもマーケット」

ーー子どもたち自身が企画するイベントもあるそうですね。

「辻堂ハウスLABOの企画で、『何かやりたいことある?』って辻堂ハウスの常連さんの子どもや大人に聞いています。去年はあるお母さんから、『子どもの夢を叶えたい』と提案があり、子どもたちが自分の作ったものを売る“こどもマーケット”を開催しました。
小学生がマイクロプラスチックや自然素材で手作りしたものを、“どんぐりマネー”で売り買いしました。」

“こどもマーケット”の様子

どんな商品が並んだんですか?

「自然物で作った置き物とかアクセサリーなど、4-5組の親子が出店しました。
お買い物に来た人は最初に銀行で、“どんぐりマネー”を買ってもらいました。どんぐりマネーは、300円で10個。

ある出店では男の子が独特な形のマスコットを作ったのでなかなか売れず・・。
売り切れになるくらいお店もある中で、『僕のは売れないな・・』ってしょんぼりしていたんですが、その男の子が売れた分のどんぐりマネーを換金しに来ました。
銀行でどんぐりマネーが五百円玉に変わった途端、『くれるの?!』と男の子の目がキラキラ輝きました。
がっかりしていた彼が、『自分が作ったものがお金になったんだ!』と感動する瞬間でした。

海で拾ったマイクロプラスチックを再利用してアクセサリーにした子もいました。お母さんがデザイナーさんにアクセサリーのデザインを協力してもらって、工夫を凝らしていました。

当日もたくさん売れていたし、それ以降、デザイナーさんとコラボで販売するようになったみたいです。きっかけになったのかな?と思うと嬉しいです。」

ビーチクリーンは瞑想。誰かのためじゃなく自分のため

ーー毎月ビーチクリーンも続けているそうですね。

「歩いて10分ほどで海に行けるので、細々と続いています。辻堂の海は比較的きれいですが、 細かいマイクロプラスチックがたくさん落ちています。

最初の頃は、拾っていると怒りが湧きました。
『こんなに海が汚れて、地球をこんなにゴミだらけにしちゃってどうするのよ!』と。

でも、最近は淡々とゴミを拾っています。集中して小さなプラスチックを拾っていると、いいとか悪いとかいう考えがなくなってきます。頭の中が空っぽになって、終わった後はスッキリ。頭のゴミも消えちゃう。(笑)
ビーチクリーンは、私にとって瞑想のようなものになっていて、子どもたちが参加する時は、子どもたちと素敵な貝殻や石を見つけて楽しんでいます。」

江ノ島が見える茅ヶ崎の海岸

これからも、“being Me becoming We”

ーーコンセプトが体現されている場所になっているなと感じましたが、今後の展望を教えてください。

この4年間、一人一人が自己表現していくと、みんなで豊かな体験になることを目指してきました。とはいえ、やっていることはゆるゆるとリラックスしながらみんなで集うこと。

これからも皆さんと一緒に日常にある豊かな体験ができる場所として存在していきたいと思っています。興味のある方はぜひ気軽にくつろぎにきてくださいね。」

リトルツリー・辻堂ハウスは、2階建ての小さな長屋アパートにあります。

そこには、日々の暮らしのなかで見過ごしてしまいそうな、シンプルな豊かさと、人と人との間に生まれる小さな奇跡が広がっていました。
小さな場所に宿る、豊かな体験の場。
あなたも、そんな場所を、ゆっくりと探してみませんか?

リトルツリー・辻堂ハウス:様々な人たちが集い、一人一人が自由に過ごし豊かな体験が生まれる場所を目指しています。オープン日は2階くつろぎスペースを開放しています。飲食持ち込みOK。おむつ替え台あり。
不定期のオープンのため、当日の状況はInstagram @tsujido.house でご確認ください。

☆辻堂駅西口から徒歩15分、兵金山バス停から徒歩3分
神奈川県茅ヶ崎市松浪2丁目9−62
HP:https://little-hub.com/group/tsujido-house/

野村直子さん:一般社団法人new education LittleTree 代表理事
「子ども」と「自然」をキーワードに、保育と自然体験等に関わり25年以上。国内外での保育と自然体験活動などの経験を重ね、“森のようちえん”の活動に関わる。小規模保育室園長や自然学校にてディレクターなどを務めてきた経験を生かし、保育園・幼稚園等の園内研修講師や保育アドバイザーとして活動中。研修・講演会を通して、新しい保育・教育の視点を提案し、「地球の未来を創る人(リーダー)が育つ場」を提供している。2021年4月 コミュニティスペース「リトルツリー・辻堂ハウス」を立ち上げる

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