子どもたちのゴールデンタイムが未来をつくる──放課後NPOアフタースクールの挑戦

【HOPEFULなひと】
HOPIUSの想い」をもとに、人類に希望を見出し、持続可能で愛ある世界を目指して活動している人たちを取り上げる企画です。
今回ご紹介するのは、子どもたちの「放課後」に光を取り戻すべく活動を続ける、特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール代表理事の平岩国泰(ひらいわ・くにやす)さんです。
子どもたちが自由に過ごせる時、安心して集まれる空、そして学年や学校を超えて交わる仲──。
かつては当たり前だった「3つの間」が、今の社会では急速に失われつつあります。放課後の公園が静まり返る現実を前に、「何とかしたい」と立ち上がったのが平岩さんでした。
活動を始めてから約20年。全国の仲間や企業との連携を広げながら、「子どもの声を当たり前に聞く社会」への道を模索し続けています。平岩さんがこの活動を始めるきっかけとなった原点や、仲間とともに描く未来の放課後の姿をお届けします。

子どもたちの「放課後」が、消えていく

「この町の放課後は、いつからこんなに静かになったんだろう。」

2004年、ある平日の午後、平岩さんが近所の公園を訪れると、そこに子どもの姿はほとんどありませんでした。自分が子どもだった頃は、ランドセルを放り投げて鬼ごっこや野球に夢中になる仲間であふれていたはずの場所。当時、全国で子どもの連れ去り事件が多発し、子どもを一人で外に出す家庭が減っていた時代でした。

そして現在は、共働きや習い事の増加、不足する放課後の居場所、友達や地域との関わりの減少により、「時間・空間・仲間」という“3つの間”が急速に失われています。

自由に過ごせる時間、安心して集まれる場所、さまざまな友達──こうした経験が減ることで、遊びや学びはますます限られ、多くの体験の機会が失われています。

放課後に光を取り戻すために

 2004年、第一子の誕生をきっかけに「人生をかけて夢中になれるテーマ」を探し始めた平岩さん。学生時代は野球部で、仲間がそれぞれの役割を果たし、一つの目標に向かって進むチームワークの面白さに没頭しました。

「試合に出られるのは9人、ベンチは15人が定員の野球。ベンチに入れなかったら、じゃあ偵察に回ろう、応援に回ろう、マネージャーをやろう! と、みんな自分の強みを活かして一つの目標に向かっている。

そういう世界観が好きでした。大人になっても野球部でチーム一丸となって目標を達成するような仕事をしたいなって思ってたんですよね。

そして社会人になり、流通業の会社で実際に働いてみると、会社にはいろんな部署があって、縦割りで遂行されることも多い。大企業の中でその世界観を実現するのは難しいんだなと実感してきたころです。

ちょうど同時期、全国で子どもの連れ去り事件が多発し、その7割がなんと午後2〜6時の放課後に起きていることを知りました。連れ去り事件と聞くと夜の暗闇をイメージしますが、そうではない。

まだ明るい放課後の時間に起きていた。会社が水曜休みだったので、ちょっと見てみようと思って夕方の公園に行ったら子どもがいないんですよね。1つ目の公園にいなくて、ここは小さい公園だから広いほうにいるだろうと思ったのですが、もう1つの広い公園にもいなくて。

僕の時代はとにかく『放課後といえば公園』でしたので、子どもがいない公園を目の当たりにして驚きました。

そんな問題意識を持ったのが2004年の出来事。その頃、メディアで働いていた高校時代の友人と会う機会があり、お互いの近況報告をしていた時です。

友人はアメリカのアフタースクールに取材に行き、現地の放課後には市民が関わっているのだと様子を語りました。
平岩さんが放課後に興味を持っていると一言も言っていなかったのに、友人から放課後の話が出て、「偶然の一致だ! 」と。

「その時の状態をよく“脳内のお団子に串が刺さったよう”に表現するんですが、本当にそんな感じで、課題と解決策と、あと夢中になれるテーマが見事に一致。『やってみたい!』と胸が高鳴りました。」

公園に子どもの姿がない現実と、「放課後」というキーワードが重なった瞬間、放課後NPOアフタースクールは動き出しました。

現代の子どもたちが抱える「体験格差」の実態

ーーコロナ禍では、子どもたちの遊ぶ場所がない、友達と遊べないなどの課題が顕著でした。そして今、2025年にはどんな課題があるのでしょうか?

「現在は、『体験格差』という課題が言われています。『体験』に関して、習い事は家庭の経済力が影響してくるところです。

我々の調査でも、年収別に習い事をしている頻度を調べましたが、当然、年収が高いほうが頻度は高い。そして調査で驚いたのが、友達と遊ぶ頻度を調べたら、友達と遊ぶ頻度も実は年収によって差がありました。年収が高い親の子供のほうが、友達と遊んでるんですよね。

「習い事をしていないなら、友達を誘って遊ぶ時間があるのでは? 」と思いますが、こういう結果が出ました。
なぜかと考えてみて2つの要因が思い浮かびました。

放課後NPOアフタースクール「小学生の長期休みの過ごし方|独自調査結果発表」より

一つの要因は習い事でコミュニティができることです。

例えばサッカークラブに所属していたら、サッカーの試合や練習のない日は時間ができる。この『時間がある日が共通』するので、そのコミュニティの仲間と遊ぶことが必然的になる。

もう一つは、親同士で遊ぶ時にLINEなどで連絡を取ったり、挨拶をしたりするので、親自身がそのコミュニティに入れていないと、子どもも入れていないことがあり得ると思っています。

『体験』というとお金を払って参加する習い事をイメージしがちですが、シンプルに『友達と遊ぶこと』なども含めて、子どもたちがやりたいことが思う存分かなっていない。

そこに『体験格差』という言葉で表れる課題
があるのだと思っていますね。」

放課後を“ゴールデンタイム”にするための4つの事業

 放課後NPOアフタースクールは、「日本中の放課後を、ゴールデンタイムに。」をミッションに掲げ、放課後を通じて社会全体で子どもの幸せ(ウェルビーイング)に貢献する未来を目指しています。事業の柱は4つあります。

  • 安全で豊かな放課後を日本全国で実現するため、学校施設を活用した放課後の居場所「アフタースクール」の運営
  • 地域のニーズに応じた居場所づくりを支援し、持続可能な運営を実現するための研修やコーディネートを行う全国の自治体・事業者支援
  • 企業との協働を通じて、全国の子どもの体験機会を創出する事業
  • 政策提言や社会的認知の拡大のための啓発と調査研究

この中で今回、①にあたる主軸のアフタースクールの運営について、東京都多摩市の小学校で実際の現場を取材。

広報の神原愛(こうばら・あい)さんと、該当スクールの責任者のエイコック恵美子さんにご案内いただきました。

放課後は、ゴールデンタイムの始まり!

アフタースクールの現場で、子どもを受け入れるためのミーティングをするスタッフたち

子どもたちは学校が終わった後、そのまま同じ校舎でアフタースクールのプログラムに参加することができます。
15時前にアフタースクールの先生たちが子どもの受け入れ準備のミーティングを実施。真剣に、子どもたち一人ひとりの状況や学校との情報連携を共有します。

そして15時過ぎに子どもたちが続々と集まってきました。毎日の参加者は平均すると60〜70人ほど。
まず1〜2年生が来室し、慣れた様子で列を作って受付をします。そして自分のカバンをカゴに入れて、それぞれプログラムや遊び、宿題などに向かいます。

慣れた様子で順番に受付をする子どもたち

自分の意思で過ごし方を決めるのですが、最初は宿題をする子が多く、先生に見守られながら、同級生と宿題ができるので捗っている様子。

「早く終わらせて遊びたい! 」という気持ちも後押ししているよう。

宿題を自主的に進めていく

それから、おやつの時間です。子どもたちにとって楽しみなおやつの時間。

机に座りながら、今日のおやつを堪能していました。

おやつは子どもたちの至福の時間

時間になると、それぞれ受講しているプログラムに参加。

参加しない子は、友達と自由に遊んだり自分の好きなことに没頭したり。

子どもたちそれぞれが「自分で選び、自分で決める」経験を積めることを目指しています。

学年も学校も超えてつながる居場所

施設責任者のエイコック恵美子さん。アメリカに駐在していた経験があり、その時には難民支援の活動に携わっていた。

今回お邪魔したアフタースクール施設責任者であるエイコックさんはこの学校に来て6年目です。

もともと子育て支援や学童クラブの仕事をしていて、夫の転勤で東京都に引っ越したことを機に、アフタースクールで働くことになりました。

日々子どもたちと接する中で実感しているアフタースクールの魅力や、子どもたちとの向き合い方、今後の夢について伺いました。


ーー学校教育とアフタースクールの違いは?

「 学校は決められた枠の中で、同学年と過ごす時間が多いですよね。もちろん縦割りグループもありますが、アフタースクールはもっと自由で、いろいろな学年の子と関わることができます。
触れる友達や関わる大人が変われば、子どもの表情も変わる。

規則や雰囲気も学校とは少し違うので、自分を出しやすい場所だと思っています。
今は、昔のように「帰ったら公園で遊ぶ」というのが難しい環境になってきています。アフタースクールは、やりたいことを自由にできる、自分を表現できる場所なんです。」

ーーどんなプログラムがあって、子どもたちはどのように過ごしているのですか?

「アフタースクールのプログラムは多岐にわたります。子どもたちの興味や要望に応じたさまざまな体験活動が提供され、地域や企業と連携したプログラムも実施されています。

例えば、料理教室、芸術活動、スポーツ、地域学習、異文化体験など内容は多種多様です。
また共働きの親御さんが多いので、夏休みはさまざまなプログラムを用意して、子どもたちがお友達と一緒にいろいろな遊びができる夏にしたいと思っています。」

子どもが先生になる「アフターズアクティビティ」

ーー アフタースクールに参加している子どもたちが変化する瞬間はありますか?

「はい、あります。劇的な変化というよりも、小学校6年間の中で、少しずつ体験を通して成長していきます
長い時間を一緒に過ごすからこそ、変化がよくわかるんです。

今の子どもたちは、自分の意見を伝えたり、気持ちを表現したり、自分の意思で選択をすることが苦手な子が多いように感じます。与えられたものがあって、自分で決めなくても進んでいく世界があるのかもしれません。

そんな子どもたちが、何が好きなのか?何をやってみたいのかを認識し、自分で選べるようになってほしいと思っています。

そこで「アフターズアクティビティ」というプログラムを用意しています。子どもたちが先生となり、自分の好きなことを仲間に教える企画です。
アイデアは子どもたちから出してもらい、「やりたい」「できる」ようにスタッフが伴走します。
子ども自身が計画書を作り、材料や手順を考えます。」

アフターズアクティビティを募集するボードにはたくさんのアイデアが集まる

 「このプログラムでは、普段は活発な子がみんなの話を落ち着いて聞きながら進めたり、控えめな子が堂々と発表したりと、新しい一面が見られます。

最後に振り返りをすると、「伝えるのは大変だった」「先生の話をちゃんと聞いてなかったけど、聞くのって大事だと分かった」といった気づきが生まれます。

今年はスタッフからの「記念レター」も始めました。企画書や先生とのミーティング、当日の様子を1枚のレターにまとめ、写真と一緒に保護者へ。

普段の様子が見えにくい保護者にも「こんなことをやりました」と伝えられ、実際のプログラムの写真も添えるとさらに喜ばれます。

「やりたいこと」がない子どもたちに、小さな挑戦を

ーー先ほど、失敗を恐れてチャレンジしにくかったり、自分の意見を言えなかったりする子が多いとありましたが、背景はなんでしょうか?

「 親御さん自身が子どもの声をじっくり聞いたり、話すのを待ってみたりすることが難しくなっている面もあると感じます。親も子どもも忙しく、親子でゆっくりコミュニケーションをとる時間が減っているのかもしれません。また、画一的な教育の影響もあるかもしれません。

情報や体験は与えられることが多く、知識は豊富。でも「自分からやってみたい」というきっかけが少ない。

だからまずは選択肢を提示し、その中から子どもが選べるようにすることが大事です。

理由が曖昧でも「友達と一緒にやってみたい」で十分。試して、振り返る。その積み重ねで、好き嫌いや得意・不得意が見えてきます。

そして楽しい、悔しい、悲しいといった感情を表現するのも大切です。
その感情を経て「じゃあ次はどうしよう」と考えるステップがとても大事だと思っています。」

ーーアフタースクールをどんな場として提供していきたいですか?

「子どもたちの「今」を大切にする場でありたいです。つまり、今この瞬間の子どもたちに向き合い、「あなたはどうしたい?」と問いかけられる環境です。
子ども同士でも「君はどうしたい?」と声を掛け合える場を広げていきたいと思っています。」

大人も幸せであることが、子どもへの最大のメッセージ

 平岩さんが目指すのは「今の子ども時代の幸せ」と「将来の幸せ」の両方だと言います。

「全国の小学校の数は約2万校。1校ごとに子どもたちが”行きたいな”と思える居場所が最低1つ存在することが、私たちが叶えたい未来なんですよね。

子どもに『どんな場所がほしい?』と聞くと、『自由に子どもたちだけで、遊んだり過ごせる場所』という答えが返ってきます。『自由』という言葉が一番強く出てくる。これが今の時代の特徴です。

遊ぶ場所は多くはありませんでしたが、私の過ごした子ども時代は行き先を決めるのは自由でした。

低学年の時は友達と、公園に行くか神社に行くかを決めて、待ち合わせて遊ぶ。
高学年になると、ちょっとずつ行動範囲を広げていくのが楽しみでした。自転車に乗ったりバスに乗ったりできるようになって、それが“大人になっていく感覚”でした。

今の子たちにはそれが難しいので、しっかり安全を確保した中で、子どもたちがいかに自分たちの声を発し過ごし方をデザインできるかが大事だと思います。

大人が先回りして準備してしまうと、大人の目を盗んだり、大人を出し抜くようなコミュニケーションになってきます。一方、自由で子どもたちに任せていると、その場所を自分たちで大事にしようという流れが出てくるんですよね。

すると具体的には喧嘩が減ったり、言葉遣いが優しくなったり、後輩たちを大事にしたり……その過程で大人になっていくんですよね。

子どもの声が社会に届くように

「 活動開始から約20年。
【放課後=学童】しかない時代から、いろんな過ごし方の選択肢も多少増えてきました。ただ、いまだに学童の待機児童の数は減りません。

また、保護者が「預かってくれるならそれでいい」という意識は依然として残っています。

放課後を、子どもたち自身で考えたり決めたりするのを、みんなで保証しようと、そんな意識が根付く社会にしたいと思っています。まだまだやることはたくさんあります!笑

それでも10周年を過ぎた頃からは、自治体や国と連携し、「子どもが自分で考え、選ぶ放課後」を広げる活動を開始できました。
自分たちの活動を通じて、世の中全体に良いインパクトを与えていける──この両輪が実現できる組織にと思っていたことが、ようやく実現し始めました。

私たちの団体の位置づけも変わってきたし、声をかけてくださる自治体の期待値も、『ただ単に預かる場所』『ただ単に待機児童をなくすだけ』ではない。
子どもたちのための放課後時間を本気で考えている自治体が出てきました。我々が現在連携する自治体数は12自治体になりました。

データで言うと、学校過ごす時間は年間約1200時間(朝登校してから下校するまで、授業・休み時間・給食をすべて含む)。一方、放課後は夏休みなど長期休みも入れると約1600時間になります。実は放課後のほうが長い上、さまざまな格差が出やすい時間です。
この時間を、子どもたちが自由にいろんな好きなことや得意なことに出会う時間、普段にはない友達と出会える時間、もしくは親友ができたりする時間にする。

──この“1600時間の可能性”に気づいて動き出す市区町村が増えています。これは大きな変化です。」

企業との取り組みでビジョンを広げる

ーー企業との取り組みも積極的に行われてますね。その狙いと最近、丸井グループと開始したプロジェクトについて教えていただけますか?

企業との協働でプログラムを届けた団体数は年間で225団体に上り、参加した児童数は、約7,000人を超えました。

企業協働の魅力は、子どもたちの新しい扉を開いてくれることです。
新しい学びや体験、出会いを届けることを通して、子どもたちの世界が広がるきっかけになります。
私たちの活動を広げる鍵にもなっています。

丸井グループには、「アフタースクールカード」の入会や利用を通じて、エポスカードから放課後NPOアフタースクールに寄付がされる仕組みをつくっていただき、小学生の放課後を応援いただいています。

カードデザインは2つあって、応援してくれるキャラクター「ガンバルン」と褒めてくれるキャラクター「ナデーテ・ホメホメ」の2種。

これは、全国の子どもたちから「どんなオバケが放課後にいたら楽しい?」とアイデアを募集し、 絵本作家 のtupera tupera(ツペラツペラ)さんが、素敵なキャラクターに仕上げてくれたものです。僕はガンバルンを選びました。ぜひ、皆さんに使ってもらえると嬉しいです。

アフタースクールカードを通じた寄付は、全国の放課後の居場所支援と、子どもたちの「スキ!」を応援する企画の実施に活用させていただきます。

エポスカード詳細:こちら

放課後が楽しくなる、あなたの「スキ!」を大募集

「カードからの資金の一部を子どもたちの「好き」を応援するプロジェクトに充てます(2025年7月11日〜8月31日実施)。
全国の小学生から「放課後が楽しくなるスキなこと、やりたいこと」を募集し、選ばれたアイデアを一つ実現します。
過去に行ったアンケートでは「やりたいことがない」と答える子の割合が多かった。
小さな夢でもいい――食べたい、遊びたい、欲しい、なんでもOK。
この企画を通して、子どもが自分の思いを自由に表現でき、大人がその声に寄り添うきっかけになることを願っています。」

応募はこちら

ゴールデンタイムの先の、未来を見つめる

ーーアフタースクールを広げていく過程で、困難なこともあったと思いますが、どのように乗り超えていったのでしょうか?

「僕の場合は比較的、終わったことを振り返らないタイプ。基本的にはこれからのことに興味があるんですよね。次はどうしようといつも考えている。もちろんいっぱい失敗もしたし、いっぱい後悔もありますが、それについてはもう終わったことで、どうやっても変わらない。コントロールできるのって“これからのこと”。
それが、基本的な考え方になっているかもしれませんね。

そして、支えとなってきたのは、一緒に働く仲間たちです。

2024年にはビジョンに「子どもたちが、いまも未来も幸せに。」という言葉を掲げ、それに「わたしたちが、いまも未来も幸せに。」という「Wish」という項目を加えました。

働くうえで大切にしている願い「Wish」

これは私自身、ずっと何か足りないと思っていて、念願かなって言語化し、追加したもの。

大人が自己犠牲で働いていたら、子どもたちもそういう大人像を学んでしまう。だからこそ、大人自身が幸せに働くことが一番のメッセージになるんです。

目指すは「子どもの声を当たり前に聴く社会

ーー 平岩さんが目指すのは、「子どもの声を当たり前に聴く社会」ですね。

「大人には子どもの声を聞いてみる練習が必要かもしれません。『どうせ子どもは無茶なことしか言わない』と思うかもしれませんが、子どもたちに聴いていくんです。何度も何度も。
そうすると子どもたちも、自分を表現できるようになってくる

『子どもの権利』の話ですが、合理性に欠けるルールが決められていることがあります。

例えば、「登下校時に日傘を差してはいけない」というルールは、必要か。
雨の日に傘を差してはいけないというルールはありません。この酷暑の中、命の危険があるので、日傘は適切な対処かもしれないのに、大人の固定概念で禁止している可能性もあります。

子ども自身が判断する機会を増やすべきだと考えています。

そのために必要なのは”自由を取り扱う力”。

小学生~高校生の間に、意思を持って選び、責任を持って行動する経験を積める環境を整えることが重要だと思っています。

アフタースクールを“憧れの職業”にしたい

(左)広報・神原愛さん(右)アフタースクール施設責任者・エイコック恵美子さん 

それから──と平岩さんが強調したのが、「放課後に従事する方々の仕事が、憧れの職業になること」。

「現在は、学童に勤務するのはパートタイムの方がほとんど。しかしその役割は重大で、大きな責任が伴います。
例えば震災が起きたら子どもの命を守る責任があるし、1600時間という時間で子どもたちに深く関わることができる、やりがいのある素晴らしい職業です。

その素晴らしさを知って、若い人や新しくやってみようという人たちが入ってきてくれる未来をつくりたいと思っています。子どもの仕事に関わりたい、教育関係をやりたい人は世の中に結構いらっしゃる。

ただ、選択肢として「学校の先生」か「学習塾の先生」の二択が多い感覚があります。

放課後の先生という職業が定着し、子どもたちと自由に関われる重要な仕事であること、やりがいと楽しさにあふれた仕事であること、そんな認知を広げたいです。

そしてNPOという存在の価値も、もっと広めていきたい。

NPOのような団体が社会的に認められていくと、働く人たちが健全に頑張れる社会になると感じます。
これも、私たちの活動やスタッフを見て、そう感じてくれる人が増えるように頑張りたいと思います。」

水道橋のオフィスにて

希望は一時的な出来事ではなく、続いていく仕組み

ーーHOPIUSのテーマである“希望”について、お伺いしたく、平岩さんにとっての”希望”とはなんですか?

 「希望って、一時的な出来事じゃなくて、継続的により良くなっていく“仕組み”だと思うんです。
そして、そこには仕組みと同時に人の情熱が欠かせません。

子どもに関心を持ち続け、声を聞きながら成長する組織が全国に広がれば、日常の風景は変わるはずです。

子どもがいて当たり前、子どもの声があって当たり前。そんな社会なら、大人も子どもも、もっとのびやかに暮らせると思うんです」。

平岩さんのまっすぐな挑戦は続きます。

著書あとがき

取材を通じて感じたのは、「こんなに優しい職場があるだろうか?」ということでした。
小学校での取材では、子どもたちに寄り添う先生方のまなざしや、子どもたちの笑顔があふれ、インタビューの最中に想いがこみ上げて涙するエイコックさんや、広報の神原さんの姿がありました。

平岩さんへの取材では、水道橋のオフィスを訪問。ドアを開けた瞬間に感じたのは、温かな空気とスタッフの皆さんの笑顔。そして平岩さんご自身が、私たちの小さなメディアに惜しみないエールを送ってくださったことに、感動しました。

そこには、愛や信頼が循環し、人がそのエネルギーで動いている世界がありました。
20年かけて築かれたその背中を見て、私も「未来を見据えつつ、今を楽しむ取材をしていこう」と心から勇気をもらいました。

また、放課後NPOアフタースクールのnoteで紹介されている卒業生インタビュー動画や放課後NPOの市民先生の関わり、企業との関わりがわかる動画からも、この場所の価値を実感しました。

子どもが自由に、伸び伸びと自分の道を見つけ、大人も子どもを通して自分の好きを再発見できる、まさに子どもと大人のゴールデンタイムが重なる場所。

ぜひこちらもご覧ください。

【卒業生インタビュー】アフタースクールの経験で今にいきていることとは?

Oneday in Afterschool〜みんなの1日ver〜


特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール (https://npoafterschool.org/)
「日本中の放課後を、ゴールデンタイムに。」をミッションに活動。2009年に法人化。自由で豊かな放課後を日本全国で実現するため学校施設を活用した放課後の居場所「アフタースクール」を運営。子どもが主体的に過ごせる環境づくりに力を入れています。また、 企業や自治体と連携して、全国の放課後の居場所における環境整備や人材育成の支援、子どもたちの体験機会創出に取り組んでいます。活動に賛同くださる多くの方々とともに、社会全体で子どもたちを育むことにチャレンジし続けています。

平岩国泰(ひらいわ・くにやす)さん
特定非営利活動法人・放課後NPOアフタースクール代表理事

1974年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、株式会社丸井で人事や経営企画、海外事業に携わる。2004年、長女の誕生をきっかけに放課後の居場所づくりを始め、2009年に法人を設立。これまで全国21校のアフタースクールを開校。現在は渋谷区教育委員(教育長職務代理)や新渡戸文化学園理事長として、学校・放課後・教育委員会の三つの現場を横断して教育に関わる。著書に『自己肯定感育成入門』。2児の父、好きな食べ物はしらすとアイス。

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