子どもたちのゴールデンタイムが未来をつくる──放課後NPOアフタースクールの挑戦
大人も幸せであることが、子どもへの最大のメッセージ

平岩さんが目指すのは「今の子ども時代の幸せ」と「将来の幸せ」の両方だと言います。
「全国の小学校の数は約2万校。1校ごとに子どもたちが“行きたいな”と思える居場所が最低1つ存在することが、私たちが叶えたい未来なんですよね。
子どもに『どんな場所がほしい?』と聞くと、『自由に子どもたちだけで、遊んだり過ごせる場所』という答えが返ってきます。『自由』という言葉が一番強く出てくる。これが今の時代の特徴です。
遊ぶ場所は多くはありませんでしたが、私の過ごした子ども時代は行き先を決めるのは自由でした。
低学年の時は友達と、公園に行くか神社に行くかを決めて、待ち合わせて遊ぶ。
高学年になると、ちょっとずつ行動範囲を広げていくのが楽しみでした。自転車に乗ったりバスに乗ったりできるようになって、それが“大人になっていく感覚”でした。
今の子たちにはそれが難しいので、しっかり安全を確保した中で、子どもたちがいかに自分たちの声を発し過ごし方をデザインできるかが大事だと思います。
大人が先回りして準備してしまうと、大人の目を盗んだり、大人を出し抜くようなコミュニケーションになってきます。一方、自由で子どもたちに任せていると、その場所を自分たちで大事にしようという流れが出てくるんですよね。
すると具体的には喧嘩が減ったり、言葉遣いが優しくなったり、後輩たちを大事にしたり……その過程で大人になっていくんですよね。」
子どもの声が社会に届くように
「活動開始から約20年。
【放課後=学童】しかない時代から、いろんな過ごし方の選択肢も多少増えてきました。ただ、いまだに学童の待機児童の数は減りません。
また、保護者が『預かってくれるならそれでいい』という意識は依然として残っています。
放課後を、子どもたち自身で考えたり決めたりするのを、みんなで保証しようと、そんな意識が根付く社会にしたいと思っています。まだまだやることはたくさんあります!笑
それでも10周年を過ぎた頃からは、自治体や国と連携し、『子どもが自分で考え、選ぶ放課後』を広げる活動を開始できました。
自分たちの活動を通じて、世の中全体に良いインパクトを与えていける──この両輪が実現できる組織にと思っていたことが、ようやく実現し始めました。
私たちの団体の位置づけも変わってきたし、声をかけてくださる自治体の期待値も、『ただ単に預かる場所』『ただ単に待機児童をなくすだけ』ではない。
子どもたちのための放課後時間を本気で考えている自治体が出てきました。我々が現在連携する自治体数は12自治体になりました。
データで言うと、学校過ごす時間は年間約1200時間(朝登校してから下校するまで、授業・休み時間・給食をすべて含む)。一方、放課後は夏休みなど長期休みも入れると約1600時間になります。実は放課後のほうが長い上、さまざまな格差が出やすい時間です。
この時間を、子どもたちが自由にいろんな好きなことや得意なことに出会う時間、普段にはない友達と出会える時間、もしくは親友ができたりする時間にする。
──この“1600時間の可能性”に気づいて動き出す市区町村が増えています。これは大きな変化です。」
企業との取り組みでビジョンを広げる
──企業との取り組みも積極的に行われてますね。その狙いと最近、丸井グループと開始したプロジェクトについて教えていただけますか?
「企業との協働でプログラムを届けた団体数は年間で225団体に上り、参加した児童数は約7,000人を超えました。
企業協働の魅力は、子どもたちの新しい扉を開いてくれることです。
新しい学びや体験、出会いを届けることを通して、子どもたちの世界が広がるきっかけになります。
私たちの活動を広げる鍵にもなっています。
丸井グループには、『アフタースクールカード』の入会や利用を通じて、エポスカードから放課後NPOアフタースクールに寄付がされる仕組みをつくっていただき、小学生の放課後を応援いただいています。
カードデザインは2つあって、応援してくれるキャラクター『ガンバルン』と褒めてくれるキャラクター『ナデーテ・ホメホメ』の2種。

これは、全国の子どもたちから『どんなオバケが放課後にいたら楽しい?』とアイデアを募集し、 絵本作家のtupera tupera(ツペラツペラ)さんが、素敵なキャラクターに仕上げてくれたものです。
僕はガンバルンを選びました。ぜひ、皆さんに使ってもらえると嬉しいです。
アフタースクールカードを通じた寄付は、全国の放課後の居場所支援と、子どもたちの『スキ!』を応援する企画の実施に活用させていただきます。」
放課後が楽しくなる、あなたの「スキ!」を大募集

「カードからの資金の一部を子どもたちの『好き』を応援するプロジェクトに充てます(2025年7月11日〜8月31日実施)。
全国の小学生から『放課後が楽しくなるスキなこと、やりたいこと』を募集し、選ばれたアイデアを一つ実現します。
過去に行ったアンケートでは『やりたいことがない』と答える子の割合が多かった。
小さな夢でもいい──食べたい、遊びたい、欲しい、なんでもOK。
この企画を通して、子どもが自分の思いを自由に表現でき、大人がその声に寄り添うきっかけになることを願っています。」
ゴールデンタイムの先の、未来を見つめる

──アフタースクールを広げていく過程で、困難なこともあったと思いますが、どのように乗り超えていったのでしょうか?
「僕の場合は比較的、終わったことを振り返らないタイプ。基本的にはこれからのことに興味があるんですよね。次はどうしようといつも考えている。もちろんいっぱい失敗もしたし、いっぱい後悔もありますが、それについてはもう終わったことで、どうやっても変わらない。コントロールできるのって“これからのこと”。
それが、基本的な考え方になっているかもしれませんね。
そして、支えとなってきたのは、一緒に働く仲間たちです。
2024年にはビジョンに『子どもたちが、いまも未来も幸せに。』という言葉を掲げ、それに『わたしたちが、いまも未来も幸せに。』という“Wish”という項目を加えました。

これは私自身、ずっと何か足りないと思っていて、念願かなって言語化し、追加したもの。
大人が自己犠牲で働いていたら、子どもたちもそういう大人像を学んでしまう。だからこそ、大人自身が幸せに働くことが一番のメッセージになるんです。」
目指すは「子どもの声を当たり前に聴く社会」
──平岩さんが目指すのは、「子どもの声を当たり前に聴く社会」ですね。
「大人には子どもの声を聞いてみる練習が必要かもしれません。『どうせ子どもは無茶なことしか言わない』と思うかもしれませんが、子どもたちに聴いていくんです。何度も何度も。
そうすると子どもたちも、自分を表現できるようになってくる。
『子どもの権利』の話ですが、合理性に欠けるルールが決められていることがあります。
例えば、『登下校時に日傘を差してはいけない』というルールは、必要か。
雨の日に傘を差してはいけないというルールはありません。この酷暑の中、命の危険があるので、日傘は適切な対処かもしれないのに、大人の固定概念で禁止している可能性もあります。
子ども自身が判断する機会を増やすべきだと考えています。
そのために必要なのは“自由を取り扱う力”。
小学生~高校生の間に、意思を持って選び、責任を持って行動する経験を積める環境を整えることが重要だと思っています。」
アフタースクールを“憧れの職業”にしたい

それから…と平岩さんが強調したのが、「放課後に従事する方々の仕事が、憧れの職業になること」。
「現在は、学童に勤務するのはパートタイムの方がほとんど。しかしその役割は重大で、大きな責任が伴います。
例えば震災が起きたら子どもの命を守る責任があるし、1600時間という時間で子どもたちに深く関わることができる、やりがいのある素晴らしい職業です。
その素晴らしさを知って、若い人や新しくやってみようという人たちが入ってきてくれる未来をつくりたいと思っています。子どもの仕事に関わりたい、教育関係をやりたい人は世の中に結構いらっしゃる。
ただ、選択肢として『学校の先生』か『学習塾の先生』の二択が多い感覚があります。
放課後の先生という職業が定着し、子どもたちと自由に関われる重要な仕事であること、やりがいと楽しさにあふれた仕事であること、そんな認知を広げたいです。
そしてNPOという存在の価値も、もっと広めていきたい。
NPOのような団体が社会的に認められていくと、働く人たちが健全に頑張れる社会になると感じます。
これも、私たちの活動やスタッフを見て、そう感じてくれる人が増えるように頑張りたいと思います。」

希望は一時的な出来事ではなく、続いていく仕組み
──HOPIUSのテーマである“希望”についてお伺いしたく、平岩さんにとっての”希望”とはなんですか?
「希望って一時的な出来事じゃなくて、継続的により良くなっていく“仕組み”だと思うんです。
そして、そこには仕組みと同時に人の情熱が欠かせません。
子どもに関心を持ち続け、声を聞きながら成長する組織が全国に広がれば、日常の風景は変わるはずです。
子どもがいて当たり前、子どもの声があって当たり前。そんな社会なら、大人も子どもも、もっとのびやかに暮らせると思うんです。」
平岩さんのまっすぐな挑戦は続きます。
著書あとがき

取材を通じて感じたのは、「こんなに優しい職場があるだろうか?」ということでした。
小学校での取材では、子どもたちに寄り添う先生方のまなざしや、子どもたちの笑顔があふれ、インタビューの最中に想いがこみ上げて涙するエイコックさんや、広報の神原さんの姿がありました。
平岩さんへの取材では、水道橋のオフィスを訪問。ドアを開けた瞬間に感じたのは、温かな空気とスタッフの皆さんの笑顔。そして平岩さんご自身が、私たちの小さなメディアに惜しみないエールを送ってくださったことに、感動しました。
そこには、愛や信頼が循環し、人がそのエネルギーで動いている世界がありました。
20年かけて築かれたその背中を見て、私も「未来を見据えつつ、今を楽しむ取材をしていこう」と心から勇気をもらいました。
また、放課後NPOアフタースクールのnoteで紹介されている卒業生インタビュー動画や放課後NPOの市民先生の関わり、企業との関わりがわかる動画からも、この場所の価値を実感しました。
子どもが自由に、伸び伸びと自分の道を見つけ、大人も子どもを通して自分の好きを再発見できる、まさに子どもと大人のゴールデンタイムが重なる場所。
ぜひこちらもご覧ください。
【卒業生インタビュー】アフタースクールの経験で今にいきていることとは?
Oneday in Afterschool〜みんなの1日ver〜
オフィスのインタビュー写真は、カメラマンの伊藤歩夢さんに撮影いただきました。

特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール (https://npoafterschool.org/)
「日本中の放課後を、ゴールデンタイムに。」をミッションに活動。2009年に法人化。自由で豊かな放課後を日本全国で実現するため学校施設を活用した放課後の居場所「アフタースクール」を運営。子どもが主体的に過ごせる環境づくりに力を入れています。また、 企業や自治体と連携して、全国の放課後の居場所における環境整備や人材育成の支援、子どもたちの体験機会創出に取り組んでいます。活動に賛同くださる多くの方々とともに、社会全体で子どもたちを育むことにチャレンジし続けています。
平岩国泰(ひらいわ・くにやす)さん
特定非営利活動法人・放課後NPOアフタースクール代表理事
1974年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、株式会社丸井で人事や経営企画、海外事業に携わる。2004年、長女の誕生をきっかけに放課後の居場所づくりを始め、2009年に法人を設立。これまで全国21校のアフタースクールを開校。現在は渋谷区教育委員(教育長職務代理)や新渡戸文化学園理事長として、学校・放課後・教育委員会の三つの現場を横断して教育に関わる。著書に『自己肯定感育成入門』。2児の父、好きな食べ物はしらすとアイス。
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