分断の時代に、共に生きる家をつくる——ベルリン「House of One」と北九州「希望のまち」

3つの宗教がひとつの建物で祈る「House of One(ハウス・オブ・ワン)」
ドイツ・ベルリンで進行中の「House of One(ハウス・オブ・ワン)」は、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教という三つの宗教が、ひとつの建物の中で祈り、対話し、共に過ごすという世界初のプロジェクトです。
それぞれの礼拝空間(シナゴーグ、教会、モスク)は独立しながらも、中央の「出会いのホール」でつながっています。建築コンセプトは「多様性の中の一体性(Diversity within Unity)」。異なる信仰を持つ人々が、互いの違いを尊重しながら共に存在することを象徴しています。
建設のきっかけは、ベルリンのペトリ広場で中世以降の複数の教会遺跡が発見されたことでした。2009年、14世紀(1350年)にまで遡るベルリン最古のペトリ教会とラテン学校の遺構が、建設予定地であるペトリ広場で発掘されたのです。
プロジェクトに参加している三宗教のリーダーのひとり、ユダヤ教指導者の故トビア・ベン・チョリン師は次のように語っています。
「ユダヤ人の観点から見れば、かつてユダヤ人に苦痛を与えることを計画したこの都市が、いまやヨーロッパ文化を形成する三つの一神教によって、一つのセンターを建設する都市であるという点に大きな意味があります。」

同じく参加しているイマーム(イスラム教指導者)のカディル・サンチ氏は、「この『一つの家』は、大多数のイスラム教徒が平和的であり、暴力的ではないことを伝えるサインであり、メッセージになる」と語ります。
さらに、ホーベルク牧師はこう述べています。
「一つの屋根の下に、(三つの宗教の礼拝空間である)シナゴーグ、モスク、教会があります。私たちはこれらの部屋を、それぞれの伝統に祈る人々のために使いたいと考えています。そしてまた、中心にある部屋を対話と議論のために、信仰を持たない人々にも開かれた場として使いたいと思っています。ベルリンは世界中から人々が集まる場所です。私たちは協力の良い手本を示したいのです。」
プロジェクトの発起人の一人であるグレゴール・ホーベルク牧師は、この歴史的な偶然の一致が、多文化化が進むベルリンの人口構成や国際的な都市文化と相まって、プロジェクトを推進していくうえで力強い要素になると確信していると語っています。
ハウス・オブ・ワンのコミュニティでは、宗教間の平和祈願を毎月行っています。
主催するのは、ユダヤ教指導者のアンドレアス・ナハマ師、マリオン・ガルデイ牧師、そしてイスラム教指導者のカディル・サンチ氏です。
ユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒、そしてさまざまな背景を持つ多くの人々が集まり、一息つきながらそれぞれの思いを分かち合い、平和と団結の共通メッセージを発信しています。

「小さな規模で達成できることは、大きな規模でも成功します。それは、尊敬、友情、そして互いの違いを認め合うことによる豊かさです。2023年10月以降、私たちは世界の多くの苦しみの地のために、そして正義と平和の未来のために共に祈ってきました。」
—(ハウス・オブ・ワン公式HPより)
建物の完成を待たずして、すでに「共に祈る」という営みがコミュニティの中で始まっています。
宗教の違いを超えたこの建物は、価値観が揺れ動く現代において、平和の象徴として注目を集めています。
誰もが安心して立ち寄れるまち——北九州「希望のまち」

一方、日本でも「人と人が垣根を超えて集える場所」をつくろうとする動きがあります。
北九州市の認定NPO法人 抱樸(ほうぼく)が進める「希望のまちプロジェクト」です。
かつて暴力団本部があった土地を、誰もが安心して立ち寄れる“まち”へと再生しようとしています。
そこに集うのは、子どもからお年寄り、赤ん坊を連れた母親、そして社会の中で声を上げにくかった人や、制度や支援の網からこぼれ落ちてしまった人たちなど、さまざまな背景を持つ人々です。
「生活の境界線を超える」。
まさに、“誰も排除しない場所”をつくるという挑戦です。
デザインを担当した北山雅和さんは、「どこからでも入れて、どこからでも出られる開放的なまち」を意識したと語ります。
その中心にあるのは、「人は誰もが助けを求めたり、支え合ったりできる存在である」という思想です。
「希望のまち」は次の5つの姿を掲げています。
- 「怖いまち」から「希望のまち」へ:暴力の象徴を、笑顔があふれる場所に。
- 「助けて」と言えるまち:支え合い、頼り合える関係を築く。
- まちを大きな家族に:孤立を防ぎ、共に生きる社会を育む。
- まちが子どもを育てる:地域全体で子どもと家族を支える。
- 北九州から全国へ:地域共生社会のモデルを広げる。

完成後には、子ども家族支援センター、放課後デイサービスに加え、生活の再出発を支えるための救護施設や、緊急時に一時的な居場所を提供するシェルター、市民交流スペースなどが一体となり、災害時には避難所としても機能する予定です。
救護施設は、病気や障がいなどの理由で生活に困難を抱える人々が、安心して暮らしながら社会復帰を目指す場所です。
シェルターは、家庭内暴力や貧困、住まいの喪失など、さまざまな事情で行き場を失った人が、一時的に身を寄せるための安全な空間です。
それぞれが、誰もが安心して「助けて」と言える社会を支える大切な役割を担っています。


分離から共生へ——いま、私たちは何を選ぶのか
ベルリンの「House of One」と北九州の「希望のまち」。
遠く離れた二つの場所に共通しているのは、異なる背景を持つ人々が“共に生きる”ための空間を築こうとしている点です。
私たちはそれぞれ独立した個人でありながら、同じ地球に生きる共同体でもあります。
恐れや不足からではなく、信頼とつながりの意識で社会をつくるとき、私たちのあり方そのものが変わっていきます。
いま、世界ではロシアによるウクライナ侵攻や、ガザ・イスラエル紛争が続き、排他や自国主義の波が広がっています。
そんな時代だからこそ、私たちは改めて問われています。
「違いを超えて、共に生きるとはどういうことか」——。
それを形にしようとする人々の挑戦が、世界のあちこちにあります。
激動の時代、ホピアスはそんな希望の芽をこれからもお届けしたいと思います。


ハウスオブワンのインスタグラムより


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