半世紀前、無名の一人から始まった「希望」──世界に広がる、ヤクルトレディの健康を守る活動
郡山発の実践が全国活動に——“愛の訪問”の制度化
この郡山ヤクルト販売の草の根の取り組みは、後にヤクルト本社から全国各地の販売会社に共有され、1972年に“愛の訪問活動”の名で全国展開されています。
現在は各地の販売会社と自治体が契約を締結し、対象の高齢者にヤクルト商品をお届けしながら、安否確認をする活動として展開されています。それぞれの具体的な活動は各販売会社で異なるものの、安否確認で異変を確認した場合には自治体など関係機関に迅速に連携して対応することになっています。
そして今、ヤクルトレディの見守り活動は、病気の高齢者の早期発見や、犯罪防止にも貢献しています。
和歌山県では、和歌山西警察署(和歌山市)管内で、適切な対応により特殊詐欺被害を未然に防止した和歌山ヤクルト西浜センターのヤクルトレディ花折稔子さんが大野矢雄署長から感謝状を贈呈されました。

愛媛東部の新居浜警察署(愛媛県・新居浜市)管内では、迅速な対応で人名救助に寄与したとして、愛媛東部ヤクルト川西サービスセンターのヤクルトレディ堤南さんが感謝状を受けました。
お届けエリアで道路上に転倒している高齢女性を発見し、熱中症の症状があると判断して、救急車が到着するまで女性の体を氷で冷やし、飲料を飲んでもらうなどの応急処置を行い、この高齢女性の命を救いました。

ヤクルト本社広報室では
「『孤独・孤立』への対応が社会課題となっている昨今において、当社独自の宅配ネットワークを活用した高齢者の見守り活動は、微力ながらも社会的に意義があると考えます。
安否の確認だけでなく、孤立しがちな高齢者の方に対し、ヤクルトレディとの交流を通じて、社会とのつながりも感じていただける点も、当社ならではの活動であると考えます」と活動の意義について話しています。
確実に救われた命があり、安心できる地域社会の実現への取り組みが進んでいるのです。
ふるさと納税という新しいかたち
最近では、ヤクルトレディの見守り活動をふるさと納税の“返礼品”として採用する自治体も現れました(千葉県などで広がり、他県にも波及)。
「単なる贈り物として『ヤクルト』を届けるのではなく、ヤクルトレディによる定期訪問が付くことにこそ価値があります」と石塚専務は強調します。
返礼品のトレンドが牛肉などの物品が中心の地域では浸透がゆっくりなものの、石塚専務らは「これからはこうした形でのふるさと納税も増えていってほしい」と期待しています。
誰もが手に入れられる価格で、予防医学を
石塚専務、小針常務は、郡山ヤクルト販売とヤクルトレディが始めた活動の背景には「代田イズムがあります」と話し、「代田イズム」の重要性を力説します。
ヤクルトの創始者・代田稔博士は、戦前、多くの人たちが赤痢で亡くなる現状に心を痛め、病気にならない体を作る「予防医学」を考えました。そして、乳酸菌シロタ株が含まれる「ヤクルト」を開発。
掲げたのは「誰もが手に入れられる価格で健腸長寿を」。
医薬品ではなく食品として広く、誰でも買える価格で販売し、人から人へと届けることで、病気になる前に健康を守るという発想があります。
こうした理念は、「ヤクルト」製品を製造・販売している海外の国や地域でも共有。日本国内をはじめ、海外でも「現地生産・現地販売」を基本とする「現地主義」を大切にしています。
それによって「従業員やヤクルトレディを現地で積極に採用することで、商品とともに健康情報もお届けし、お客さまや地域社会の健康づくりに貢献するという使命を現地に根ざすことができます」(同社)。
世界へ広がる社会的弱者への支援
「ヤクルト」の製造・販売を実施している各国では、就労機会の提供、女性の社会進出にも貢献し、「地域社会との共生」として社会貢献活動を実施。
現地の生活文化や食習慣に合わせた健康に関する情報誌を作成したり、シンポジウムを開催したり、地域コミュニティや企業の職場、学校などでの「健康教室」の開催なども行っています。
「愛の訪問活動」は、海外では韓国ヤクルトでも実施。独り暮らしの高齢者約3万人の安否を確認する活動を継続しています。
インドネシアヤクルトでは、2022年から孤児院で生活する子どもたちへ「ヤクルト」の寄付活動を行っています。
2024年は1施設に計9,802本の「ヤクルト」を寄付しました。孤児院に「ヤクルト」を届ける際は、商品の紹介に加えて、歯みがきの仕方を伝えるなど、健康や衛生に関する指導も行っています。
フィリピンヤクルトは、小学校に通う貧困家庭の子どもたちを対象とした給食プログラムに協賛しています。
2024年1~2月に、商品のサンプリングとともに、栄養価の高い食事を提供し、子どもたちの健康と幸福をサポートしました。
欧州でも社会的弱者に対する支援活動を実施。イギリスヤクルトは、ロイヤルボランタリーサービス(RVS)と提携し、高齢者や社会的弱者が健康で快適に冬の寒い時期を過ごすための支援を行っています。
中国ヤクルトは、同国のメディアグループ「第一財経」が実施する山間部の貧困家庭の子どもたちに朝食を提供する公益活動「朝食1人前」(朝ごはん活動)に参加しています。
メキシコのグアダラハラヤクルトは「ヤクルト」の商品の売り上げに応じて、小児がん患者など病気の子どもを支援する活動 を行っています。
2023年3、4月の2か月間に「ヤクルト」1本ごとに1セントを積み立て、子どもの医療を支援する 2つの団体にも約30人の子どもたちの医薬品、検査、手術などの支援のために、売り上げに応じた積み立てと社員からの募金の合計約26万ペソを寄付しました。
インドヤクルトは、JICA Indiaによる新型コロナウイルス感染症やその他の感染症予防に向けた子どもの衛生意識を高める活動“Achhi Aadat (Good Habit) Campaign”との協働を進めています。
手洗い・腸の重要性を啓発するリーフレット40,000枚をヤクルトレディが配布・説明したり、健康教室を実施しました。
一人の力は無力ではない。つながって社会の仕組みへ広げる
ヤクルトの社会貢献方針は「良き企業市民」として地域社会と協調し、健康で楽しい生活づくりに寄与することです。
「高齢者の孤独・孤立が深刻化するなか、独自の宅配ネットワークを生かした見守りは、安否確認にとどまらず、人と人のつながりを回復する意義を持つのではないでしょうか」と石塚専務。
そして「誰かを幸せにしようという気持ちは誰もが持っていて、そして他の人に指示されるようなものではありません。だからこそ現場の矜持が生きるのでしょう。女性の真心に支えられた婦人販売システムがあったから、愛の訪問活動はなるべくしてなったのだと私には思えるのです」と、石塚専務は静かに結びました。

誰にも言わず、知られないまま、「命を救いたい」という思いから始まった行動は、匿名の一通のはがきによって光が当てられ、その行動に注目した多くの人々によって共有され循環し、広がっています。
その実践は、地方から全国へ、そして海外へも展開され、活動自体が成長して、地域を明るく照らし出しています。
創業90年の歴史をもつヤクルトの人々が運んでいるのは、栄養や健康だけではありません。
“人と人のつながり”という、もうひとつの私たちの社会になくてはならない必需品です。そこに安全、安心、優しさ、愛がぎっしり詰まっています。
「未来への希望」──それは半世紀以上続いた活動が、さらにこれからも広がって、多くの人々へ手渡されるバトンとして、温かな地域を作っていることではないでしょうか。

参考(数値・方針等)
国内販売会社数101社、国内レディ31,341人(2025年3月末)。海外39の国・地域で販売、13の国・地域で49,947人のレディが活動(2024年末)。活動の基本枠組み、敬老の日の取り組み、社会貢献方針・海外の地域密着の考え方などは、ヤクルト本社の回答資料による。


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