東日本大震災から15年、福島の「今」を体感する2日間、ホープスタディツアーを開催
2日目)おたがいさまのまち福島から学ぶ人が起点のまちづくり

さて、2日目は、福島で生まれた新しい仕組みを体感する日です。
それは、ホピアスの記事でもおなじみ、福島市のNPOチームふくしま代表・半田真仁さんやスタッフのみなさん、そして市民や支援者が参加し、15年かけて築いてきた新しい取り組み、「恩送り」「お互いさまのまち」という活動です。その活動は、共生と福祉を起点に、人とまちをつなぎ、循環させる仕組みです。

高齢者による弁当配食活動「んだよねぇ」

最初に尋ねたのは、福島市の住宅街にある「んだよねぇ」という名称の子どもや高齢者へのお弁当配食グループです。
「んだよねぇ」は、福島弁で「そうだよねえ」という相槌ちの言葉。代表の石塚全代さんはかつて、立って歩くこともままならない要介護3の認定を受けました。家の南側の陽当たりの良い部屋が一番のお気に入りのスペースで、そこから窓の外を眺めていました。
しかしふと、「私はこのままでいいのかしら」と疑問を持ち、「残された身体機能を生かして、何か人のため、社会のために少しでもできることはないかしら」と考えました。
そしてその陽当たりの良い部屋を台所とカフェにして、地域の子どもたちや高齢者に気軽に立ち寄ってもらえるようにしてみよう、と思い立ちました。
そしてカフェを開くと、地域の人たちが立ち寄るように。子どもたちも来るからーと、準備をすることが石塚さんの生活の軸となり、喜びとなって、石塚さんの生活に張り合いが生まれました。すると、それまで窓の近くまで行くのも大変だった石塚さんは立ち上がり、歩けるように。要介護度がみるみる低くなっていきました。
私たちが訪ねたこの日、「んだよねえ」の台所からは高齢者の声と調理の熱気と香りが漂っていました。
野菜を刻む包丁の音、天ぷらを揚げる音、交わされる何気ない会話──その一つひとつが、地域の安全な暮らしを象徴しているようでした。
福島弁で石塚さんを中心とした高齢女性たちが手際よく弁当を仕上げていきます。
経済的に困難を抱える家庭や高齢者などを対象に、多い日には120~130食を配食し、単なる食事提供にとどまらず、配達を通じて見守りやつながりの役割も担っています。

案内してくれた半田さんは言います。
「支援される側」と「する側」が固定するのではなく、かつて要介護で支えられた高齢者が、誰かを支える担い手となって別の誰かを支えています。ここには、その循環があります」。
誰かが語り掛けたら、「んだよねぇ」と即答が帰ってくる、そんな会話の循環も、この場所を明るく楽しい場にしている要因なのでしょう。
無人のフード支援 「コミュニティフリッジひまわり」
次に訪れたのは、NPO法人チームふくしまによる無人の子ども食堂・フード支援の「コミュニティフリッジひまわり」(フリッジ=冷蔵庫、の意味)です。この活動は、食品支援を“見えにくい困窮”へ届けるための仕組みとして注目されています。
無人の支援拠点になっており、室内には専用の冷蔵庫や棚があります。そこに活動に登録した企業や個人から寄付された食材や日用品が常備されています。
事前登録した利用者は、スマートフォンで開錠し、好きな時間に受け取ることがでます。対面でのやり取りを最小限に抑えることで、支援を受けることへの心理的ハードルを下げ、「必要なときに、必要な分だけ」利用できる設計になっているのが特徴です。

内部を見学すると、整然と並べられた食品の一つひとつに、地域の思いが託されていることが伝わってきます。
米や野菜、レトルト食品、菓子類まで、日常生活に欠かせない品が揃い、利用者が選びやすいよう丁寧に分類されています。
白板はメッセージボードになっており、「おいしく食べてくださいね」という提供者からのメッセージのほか、「ありがとうございました」という受領者からのお礼のことばも貼られています。
補充や管理は福祉作業の皆さんのお仕事として担い、食品ロス削減と生活支援を同時に実現している点も特徴的です。冷蔵庫の扉を開ける行為は単なる受け取りではなく、「地域から支えられている」という感覚に触れる瞬間でもあるのです。
半田さんはいいます。
「フリッジは、『お互いさまの街ふくしま』の活動の一環で、支援の網を多層的に広げています。対面の場に来られない家庭や、時間的制約を抱えるひとり親世帯などにも届く仕組みになっています」。
見学を通じて感じたのは、支援が特別な出来事ではなく、日常の中に自然に組み込まれ、対面以外でも人と人をゆるやかにつなぐ新しい共助のかたちを提示していると思いました。
「お互いさまの街ふくしま」で”恩送り”を体験 「お互いさまチケット」

3番目に訪れたのは、福島の老舗菓子店で「薄皮饅頭(まんじゅう)」が名物の福島柏屋八木田店(本社・郡山市)。
店内に入ると、レジ脇にある掲示ボードには商品のお饅頭の写真とともにメッセージカードが目に留まります。これが「お互いさまチケット」です。
チケットの仕組みは、来店者が見知らぬ誰かのために菓子代を前払いし、メッセージを書き残します。
店舗ではそのメッセージとともにチケットを掲示ボードに掲げます。後から来た人はそのチケットを使って、無料で商品を受け取ることができます。
見知らぬ誰かのために、先に何かをする──それが「お互いさまの街ふくしま」の活動の軸の一つである“恩送り”の仕組みです。
今回、スタディツアーに参加した人の中には、見知らぬ誰かのためにチケットを購入する人も。チケットを利用しておいしいスイーツを手にする子どもも。実際に「恩送り」を体験する機会になりました。
チケットを買った人にも、利用した人にも、同時に笑顔が広がります。さらに印象的なのは、受け取った人が今度は誰かのためにチケットを購入して残していくという場面も。
「見知らぬ誰かから受け取ったら、今度は私が見知らぬ人にパスしよう」。そんな自然な循環が静かに広がっていました。
参加者はもう1軒の「お互いさまチケット」の店も訪ねました。福島柏屋方木田店と道路を挟んで向かい側にある「モスバーガー福島八木田店」。こちらも半田さんの案内で、店内を視察しました。
やはりレジ横に並ぶボードに小さなチケットが並んでいました。
これら2つの店舗で特徴的なのは、「お互いさまチケット」による支援が「特別な行為」として切り離されていないことです。普段の注文の延長でチケットを1枚受け取って利用する。あるいはチケットを1枚買って誰か次の人のために残しておく。そのささやかな行為が、別の誰かの一食につながるという循環です。
「お互いさまチケット」の由来である、「困ったときはお互いさま」という感覚が、老舗の菓子店とファストフード店の日常に静かに根を下ろしている風景でした。
半田さん講演とワークショップ

その後、福島市内の会議室に移動し、「んだよねぇ」のお弁当を食べた後、半田真仁さんが講演しました。
半田さんは参加者とともに巡った「お互いさまの街づくり」の拠点の様子と、実際の活動理念について解説。
半田さんやNPO法人チームふくしまの活動の原点と背景には、児童養護施設や困難を抱える若者との関わりがあり、さらに2011年の東日本大震災後に国内外から受けた支援への「恩返し」がありました。
半田さんは「お互いさま」の活動は、支援する、されるという役割を固定化せず、人と人との循環の仕組みを大切にしているとし、「『ありがとう』という感謝の言葉は自然に生まれるもの。そして『(支援してもらって)すみません』とは言わせない仕組みこそが大切です」と語りました。
弁当配食や子ども食堂、チケット制度なども、支援する側とされる側が循環する設計で、高齢者の孤独解消や地域のつながりづくりという波及的な効果も生まれているそうです。また、活動の広げ方にも特徴があり、無理に拡大するのではなく、地域での“濃度”を高めることを優先。理念に共感し腑に落ちた人がコアな担い手になっていくことを重視しています。
それは「ビジネス」戦略ではなく、ご縁を育てる「商人」的な感覚で関係を築くことで、結果として自然に広がっていくという考え方を説明しました。
今、「恩送り」の活動(お互い様チケットなど)に参加している企業・団体は福島県内をはじめとして全国139か所(2026年4月現在)。これからも増えていく予定だそうです。

背景には、福島で培ったモデルを誰もが実現できる形にし、各地で自発的に実施できるようにしていると言います。
その重要な考え方は、人の内側から動機が生まれる瞬間を大切にして、教育や地域活動での「内発的なスイッチ」をいかに引き出すかが鍵だと強調しました。
半田さんは、人が持つ可能性を信じており、かつて少年院にいた若者がコミュニティフリッジの存在に触れ、「もらう側ではなく入れる側になりたい」と語り、行動を変えていったというエピソードも紹介してくれました。
講演全体を通して浮かび上がったのは、人を変えるのは制度や理屈ではなく、「心が動く瞬間」「腑に落ちる瞬間」が大切だということ。教育も社会活動も同様で、誰かから押し付けられることは学びではなく、内側から興味や関心が開いてきて、そこで知りたい、やってみたいと思うことが重要なため、人が自分の意思で動き出す環境をどうつくるかとい問いと実践を半田さんは続けているということでした。
参加者も半田さんの話にうなずいたりメモを取ったりして理解を深めていました。
ワークショップで振り返る、2日間の体験

ツアーの最後に行ったのが、「フォトリフレクションワークショップ」です。
このワークは、今回のツアーの核となるプログラムとして企画したもの。現場に立ち、実際の声や風景に触れたうえで、自分の感情と向き合い、「この社会の中で自分はどう在りたいのか」を問い直すことを目的に設計しました。
福島・双葉で高校生向けの教育に携わる八木橋さんとホピアスメンバーで、数ヶ月前から議論を重ねてつくり上げたものです。
- 写真
- そのときの感情(漢字一文字)
- 感情を象徴する色
- なぜそれを選んだのか
を言葉にして共有していきました。同じ場所を訪れていても、感じ方は人それぞれ。その違いが、場に深い気づきをもたらします。

例えば、ある参加者は伝承館に展示されていた子どもたちの魚の絵を選び、「透明」という言葉で表現しました。そこには、自由に描かれた絵から感じた“解放感”や“希望”があったといいます。
また別の参加者は、請戸小学校の曲がった蛇口の写真を見て、「どす黒い茶色」と表現。津波の圧倒的な力と、瓦礫の光景を重ね合わせたと語りました。
さらに、放射線量のデータに触れた参加者は、「グレーと黄色」という色でその変化を表現。事実を知ることで不安が和らぎ、見方が変わっていく過程を言葉にしていました。
印象的だったのは、「被災地=重い場所」というイメージが揺らぐ瞬間もあったこと。ある参加者は浪江の風景に「青とライムグリーン」を感じ、「爽やかさ」を覚えたと話していました。
グループでの共有の後、最後の個人ワークへ。
テーマは 「家に帰ってからも大切にしたいこと」。
ツアー全体を通して得た気づきや決意を、A4用紙に自由に書き出します。 文章でも、箇条書きでも、絵でも構いません。わずか5分という短い時間でしたが、参加者はそれぞれ真剣に言葉を紡いでいました。
書き終えた紙は、その場でチェキ撮影。 “持ち帰るための言葉”として、手元に残してもらいました。




共有された「これからの自分」
最後に、全員で円になり、それぞれの「持ち帰り」を共有しました。
そこには、多様でありながらも共通するテーマがありました。震災を風化させず、人とのつながりを大切にする。「想定外はない」という意識で、日常から備えるという声もありました。

皆さんの持ち帰りを一部、共有します。
危機から希望を生み出す
僕は、「危機から希望を生み出す」ということを意識したいと思いました。
これから気候変動や国際情勢の影響で、天災も人災も増えていくのではないかと感じています。そうした中で、無力感を持ってもおかしくないと思っていましたが、今回のツアーを通じて、災害という悲惨な出来事の中からも、新しいものが生まれていることを知りました。
その姿勢や視点を、自分の中に持ちながら、これからに活かしていきたいと思います。(30代・男性)
想定外はない、想定外を考える
私が言いたいのは、「想定外はない、想定外を考える」ということです。
津波が来た時も、思っているより少し高いところに避難所をつくったり、考えたりしたいです。(小学校5年生・女性)
世界に恩送りを広げる
私がやってできる恩送りは何だろう、と考えました。そして、恩送りで世界を変えることをしていきたいと思いました。この2日間は、本当に最高の経験でした。(60代・女性)
同窓会で会いましょう
とにかく、このツアーに参加できたことに本当に感謝しています。これで終わりではなく、ぜひ同窓会のような形で、また集まる機会をつくってほしいです。半年後や一年後に再会して、それぞれがどんな変化をしたのか、共有できたら嬉しいです。みんなの変化を知ることで、自分自身のこれからにもつながると思うので、そういう場をぜひつくってほしいと思いました。よろしくお願いします。(70代・女性)
すべてのプログラムの最後に、八木橋さんがこう話しました。
同じ写真を見ても、人によって感じ方はまったく違う。それを共有すること自体に意味がある
その言葉の通り、このワークショップは“正解を出す場”ではなく、それぞれが感じたことを持ち寄り、広げていく時間でした。
終了後、自然と拍手が起こり、ある参加者からは 「ホピアスの皆さん、この場をつくってくれてありがとう」という言葉が上がり、ホピアスメンバーが涙する場面もありました。温かくそして熱を持った時間でした。
参加者の声──それぞれに起きた変化

今回のツアーには、10代から70代まで、幅広い世代の参加者が集まりました。2日間の体験を通して、それぞれが感じたこと、持ち帰ったものは異なります。アンケートでいただいたお声を、一部ご紹介します。
毎日嫌なニュースが続き、この国の行く末に憂うるばかりです。この国に、そして福島に多くの取り組みをなさっている方々がおられる事に、希望を頂きました。負の面を捉えながら、希望を持って人の為に何かをする事の大切さを、改めて認識した次第です。ありがとうございました。(70代・男性 福島市在住)
2日目の恩送り恩返しの循環のお話で、お互いwin-winの関係で成り立っているのが印象的でした。誰かのために、というのももちろんあるにはあるけど、何より自分のために動けるのが素晴らしい取り組みだと思いました。(10代 女性 神奈川県在住 親子参加)
とっても楽しく、豊かで、かけがえのない時間をありがとうございました!自分自身にとってたくさんの学びや気づきがあったのはもちろんのこと、何よりも娘が社会の様々な課題や希望に触れる体験をさせてもらえたことがとてもありがたいです。ぼくにとって一生の思い出となりました。(30代・男性 東京都在住 親子参加)
あまりの刺激の多さにとてもひとつに絞るのは難しいですが、あえて言えば、浪江小学校の避難の経緯を語ってくれたたけださんの語りと、内容の半分くらいしか理解できなかったけど、半田さんのお話が印象に残りました。このツアーに参加して、私の中の何かが大きく動いたことは間違いありません。ワークショップも、このツアーからの学びを更に深める形となりました。感謝。(70代 女性 静岡県在住)
被災地を”被災地”として一括りで捉えて、悲惨なイメージを持ってしまいがちだが、人や地域によって多様な被災地があり、絶望もあれば希望と可能性、それぞれのストーリーとグラデーションがあることが理解できてよかった。(30代 男性 東京都在住)
このツアーで生まれたもの

今回のツアーは、単なるプログラムではなく、参加者とともに創り上げた深い体験の場でした。
震災で多くの人の命が失われました。その極限の状態があった場所福島で、私たちは人間の弱さ、多くの矛盾や憤り、悲しさ、やるせなさといった感情にも襲われました。
同時に人間の持つ強さ、優しさ、寛容さも見ました。
自然災害の脅威と同時に真摯に社会に向き合う人たちが集まったときに生まれる力も感じました。
そして、参加者同士で感じたことを共有したワークショップでは、人間の感性や考えの多様さに人の持つ豊かな精神性を見ました。人間しか持ちえないその豊かさは、人間同士で刺激しあい、学びあい、また新たなものが生まれる源泉であることも強く感じました。
老若男女で様々なバックグラウンドの人たちと交流することで生まれる面白さも今回のツアーの醍醐味となりました。
体験を、行動へ

私たちホピアスは、不安や対立が注目されやすい情報環境の中で、人や社会の前向きな変化に光を当て、読者の視点や行動の変化を促すメディアです。
いま、世界では分断や対立が続き、日本でも暮らしの不安が広がっています。
だからこそ、「どう生きるのか」「社会とどう関わるのか」が、あらためて問われているのではないでしょうか。
今回のスタディツアーは、その問いを自分ごととして持ち帰るための機会でした。
ホピアスでは、この体験を一過性のものにせず、「行動につながるきっかけ」として育てていきたいと考えています。これからも、情報と体験の両面から、社会との関わりを見つめ直す場をつくっていきます。
(文・藍原弘子/柳澤芙美)


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