住まいが、母子の尊厳を取り戻す。LivEQuality がつくる「孤立させない」支援のかたち(上)

【HOPEFULなひと】
「HOPIUSの想い」をもとに、人類に希望を見出し、持続可能で愛ある世界を目指して活動している人たちを、取り上げる企画です。社会に変革をもたらすチャレンジをしている社会起業活動団体へのインタビューを通して、希望的な未来を発信しています。
今回は、愛知県名古屋市を拠点に、シングルマザー向け伴走型居住支援活動を通じて、「住まいを起点に始まる負のスパイラル」の解決に、真正面から取り組んでいる認定NPO法人LivEQuality HUB(リブクオリティハブ/代表理事・岡本拓也さん、以下「LivEQuality HUB」)の活動を(上)(下)でお届けします。
同法人は、株式会社LivEQuality大家さん(以下「LivEQuality大家さん」)との両輪で事業・支援活動を続けています。具体的な活動内容について(上)で、さらには(下)では、居住支援コーディネーターの榊原有望さんに社会状況と支援活動について伺います。
住まいを失う―問題解決のHUB(ハブ)として
ひとり親、とりわけDV被害や離婚、貧困、孤立のただ中にいるシングルマザー家庭にとって、住まいは非常に重要だ。もし住まいを失うような状態に置かれた場合、それは単に“家がない”ということに止まらない。書類などに住所が書けない。行政手続きが進まない。子どもを保育園に預けられない。そして仕事が決まらず、収入も得られない。生活全体の基盤が失われ、崩れていくことに直結する。しかも、何より、「助けて」と声をあげること自体が難しい。声をあげても、どこにも届かないのではという怖さも先立つ。
「LivEQuality HUB」は、シングルマザーが直面する「住居問題を起点にした負のスパイラル」の問題を真正面から受け止め、その解決に向けて、伴走型居住支援活動に取り組んでいる。団体名には、「Live(暮らし)」「Quality(豊かさ)」「Equality(公平さ)」、そして問題解決に向けて多様な機関と多様な人々をつなぐ「HUB(ハブ。結節点・拠点)」になるーとの思いが込められた。
代表理事の岡本さん、常勤6人、非常勤5人の体制で、住まいに困窮するシングルマザー家庭に対し、低価格で入居できる気持ち良い住宅と、社会とのつながりを届けている。LivEQualityのビジョンは明快だ。「安心安全な住まいを起点に、だれもが自分らしく生きられる社会」。そしてミッションは、「住まいに困窮する人たちに、低価格で気持ちのよい住宅と社会とのつながりを届ける」ことにある。

コロナ禍をきっかけに社会貢献活動として開始

「LivEQuality HUB」の活動のきっかけはコロナ禍と、創業者である代表理事の岡本さんの「社会課題を解決したい」という思い、そして参加したスタッフの共感と熱意がある。
岡本さんは、大阪で曽祖父が設立し、現在は名古屋市に本社のある「千年(ちとせ)建設会社」の創業者一族に生まれた。大学時代は、父が社長を務める同社を継ぐ気は全くなく、バックパックで世界30ヵ国を旅する。世界の広さと深さを実感する旅の中、バングラデシュでマイクロファイナンスの現場に出会い、「社会課題をビジネスで解決する」という発想に強い衝撃を受けた。さらにインドで「君には何ができるのか」と問われた経験から、自分の無力さと向き合い、専門性を持つ必要性を実感した。
岡本さん 30代は自分にとって原点の一つであるバングラデシュでのソーシャルビジネスとの出会い(当時はそういう言葉もなかった)が忘れられず、原点回帰すべくNPOの世界に飛び込みました。その過程で、非営利組織の経営の難しさと現場の奥深さ、そして感動を骨の髄まで味わいました
と、岡本さんは当時を振り返る。
帰国後、公認会計士資格を取得、大手監査法人や企業再生の現場へ。ビジネスの現場で力を磨きながらも、「いずれ自分で道を切り拓く」という意識を持ち続けていた。やがてソーシャルベンチャー支援組織と出会い、社会起業家たちと関わる中で、「自分のやりたいことと仕事が一致している人々」に強く惹かれていく。仕事は順調だった一方で、次第に「自分の頭の中は社会事業のことで占められている」ことに気づく。葛藤の末、「好きなことをやる」という原点に立ち返り、安定したキャリアを手放して社会的な活動へ飛び込む決断をした。すると、独立した直後に東日本大震災が発生。被災地支援の現場に深く関わっていく中で、社会課題に対する実践的な関与を一気に強めていった。
その後、ソーシャルセクターに本腰をいれて10年近く。この先の人生もずっと、この業界で働き続けるものだと思っていたが、2018年、先代の急逝に伴い家業である建設会社・千年(ちとせ)建設株式会社を承継することになった。建設業のことは全く分からなかったが、「建物の修繕」という領域に向き合うように。
こうした一連の経験――世界での原体験、金融・再生の専門性、NPOの現場での実践、そして建設業の事業承継を通じて得た視点――が重なり合う中で、新型コロナウイルスパンデミックが発生。住まいに困窮するシングルマザーの課題に直面したことを契機に、「自分にできることは何か」を問い直した先に生まれたのが、「LivEQuality」という事業である。

活動の発端は2020年3月。当時、新型コロナウイルスのパンデミックで、女性の失業や虐待による離婚が深刻な社会問題になった。さらに保育園も相次いで休園し、多くのシングルマザーが働けず、収入が得られずに苦しんでいた。当時、岡本さんは父で先代の千年建設社長の急逝を受けて、同社の社長に就任していた。東日本大震災という社会活動の経験があることから、「苦しむ女性、シングルマザーたちのために何かできないか」と考え、社会貢献活動として安く住宅を賃貸する事業を始めた。そして2021年6月、最初の入居者を受け入れた。
ところが、その活動を始めてみると、シングルマザーを取り巻く課題は想定していたよりも深刻なことが明らかになった。そこで、「一時的なサポートで投げ出すのではなく、お母さんたちが自立できるまで伴走し、責任をもって寄り添いたい」という思いから2022年1月、「LivEQuality HUB」を設立した。
LivEQuality HUBによると、住宅物件は名古屋市内に限定されているにも関わらず、住まい相談は全国そして海外在住者からも寄せられている。その内訳は同市内が半数弱を占め、その他愛知県内が30%弱。残り20%程度が県外や海外などから。この事業がいかに必要とされているか、また切実な状況に置かれているシングルマザーの存在が改めて理解できる
特徴的な活動―持続可能性な支援の仕組み
「LivEQuality HUB」の活動の特徴は、住まいの提供を行う「LivEQuality大家さん」の事業と両輪になった「ハイブリッド型」で、国内でも希少な支援活動として注目されている。

居住支援コーディネーターとシングルマザー家庭が二人三脚で安心できる暮らしの実現に取り組む (写真:LivEQuality)
まず最初に、「LivEQuality大家さん」が物件を取得・提供し、「LivEQuality HUB」が入居希望者の問い合わせ時から入居前、さらには入居後の伴走型支援を担う。そこには生活支援、就労支援も含まれている。収益源も分かれており、「LivEQuality大家さん」は家賃収入、「LivEQuality HUB」は寄付や助成金を軸に運営されている。
事業と支援の両輪が回り、つながり、支え合う仕組みが、住まいの提供を“慈善”ではなく、持続可能な仕組みとして成り立たせている。そこから、シングルマザー家庭に必要な福祉的支援、生活の土台作りや安心できる暮らしの実現を目指している。両団体はこれを、日本の実情に合わせた「日本版アフォーダブルハウジング」と呼ぶ。「LivEQuality大家さん」はその市場創出へとチャレンジを続けている。
長期的に定住できること、良質な住環境であること、社会資源へのアクセスが良いこと、孤立せずに人とのつながりが設計されていること、それらが持続可能な事業として社会をより良く変えていくために。
「LivEQuality大家さん」と「LivEQuality HUB」の連携
では、両団体がどのように連携して、シングルマザー家庭への住宅提供と生活支援事業を行っているのか、より具体的に見ていきたい。
まず、初めに「LivEQuality大家さん」の住宅事業が起点となる。「LivEQuality大家さん」が中古マンションを1棟丸ごと買い上げ、全体の部屋の3割を近隣相場よりも安い7割程度の家賃で、支援を必要としているシングルマザー家庭に賃貸する。そして残り7割の部屋は、通常の家賃で貸す。
この仕組みは「クロス・サブシダイゼーション(内部相互補助)」と呼ばれ、これを取り入れることで、1棟全体の収支が維持できる。購入資金は自社資金だけでなく、「インパクトボンド」という少人数私募債でも調達(多数向け募集は実施していない)。これは一般的な事業運営のための社債と比べて流動性や金利、リターンが限定的である一方、投資を通じて、入居者の生活を再建することに貢献するという社会的インパクト(ソーシャルリターン)が最大化する仕組みになっている。
また昨年はりそな不動産投資顧問(福田修平社長)と「LivEQuality大家さん」により、国内初のアフォーダブル住宅の提供と経済的な自立支援を組み合わせたひとり親支援型のインパクトファンド(社会的・環境的な課題解決と同時に財務利益を追求する投資ファンド)を設立。アフォーダブルハウジング市場の拡大へと前進している。

対象のマンションは、ただ“安い”というだけではない。主要駅から徒歩10分以内と交通の便が良い立地で、日当たりもよく、きれいにリノベーションされ、心地よく住める物件になっている。両団体はその点も重視している。
背景として、貧困や困難の中にある人には、「古くて不便な家でも十分だ」「本当は住みたくない環境に建つ家だが、お金がないので危険な家でも我慢しなければ」という考えを持ちやすい。納得しないまま住んでみて、さまざまなリスクに触れると、自尊心が損なわれ、余裕や希望も無くなり、日々の生活にやる気が起きないなど、負のスパイラルに落ち込むことがある。それを避けるために、「LivEQuality大家さん」はシングルマザーが安心して暮らせる環境を整え、自分の生活を立て直していくために、まず「ここに住んでいいんだ」と思える場所を準備している。
住宅の提供実績も着実に積み上がっている。2025年7月末時点で、累計取得戸数は121部屋、累計問い合わせ件数は約593件、のべ受け入れ世帯数と入居者は31世帯75人、年間約200件の住まい相談に対応している。相談は本人からが72%を占め、名古屋市内44%、愛知県内31%、県外25%と、地域を超えて寄せられている。
相談者の特徴としては 頼れる人がいない人が大半の8割を占め、夫または親からDVを受けた経験が88%、離婚前が48%、無職が68%、精神的に不安定な状態が56%と、複合的な課題を抱えるケースが多い。それにもかかわらず、入居後の家賃滞納はゼロ、就業率は8割超という成果も出ている。
「LivEQuality HUB」によると、困難を抱えるシングルマザーの相談先は、「LivEQuality HUB」への相談前には1.9機関・人だったのが、入居後には11機関・人前後まで増えた。これは、住まいを中心とした生活支援の本質をよく表している。単に部屋を貸す、借りるーという関係ではなく、シングルマザーが孤立から抜け出し、社会との接点を取り戻しているという成果がこのデータからも明らかに見られるのである。
日本の母子家庭が置かれた厳しい現実
では、なぜこうした住宅を軸とした生活全般の相談・支援が必要なのか。そこには、日本の母子家庭が置かれた厳しい現実がある。国内のシングルマザー家庭は約120万世帯もある。ひとり親世帯の貧困率は48.3%で、実に「2世帯に1世帯」が相対的貧困状態で、OECD加盟国の中でも最下位(最も貧しい)レベルになっている。
就業と仕事をみると、シングルマザー家庭の就業率自体は82%と高いが、さらに内容を見ると正社員率は49%、非正規雇用率は43%と非正規率が高く、さらに平均年間収入は272万円にとどまっている。父子家庭が年間平均収入518万円、両親がいる家庭は約700万円であるのと、大きな開きがある。
つまり、多くのシングルマザーたちは懸命に働いているものの、それでも生活が安定しないという、「働いても稼げない」構造が固定化されてしまっているのだ。

しかも困難は、収入という経済的な問題だけではない。行政サービスの多くが住所にひもづいているため、住宅を失う、住まいがないという状況は、保育園の利用、子育て関連の手当、子どもの転校が難しくなる。つまり公的支援やサービスから切り離されてしまうという重大な問題が起きる。困難を抱えるシングルマザー家庭の存在が「見えなく」されてしまっているのだ。
そうなると、シングルマザーが仕事を探そうにも、住所がなければ履歴書も書きづらい。子どもを保育所や幼稚園に預けられなければ、働く時間そのものを確保するのも難しくなる。住まいがない→行政手続きが進まない→仕事がない→住まいが得られないというまさに「困難のスパイラル」が生まれてしまうのだ。

さらに、こうした支援や公的サービスを受けるために、対応窓口でシングルマザーである実情やその経緯について説明を求められることがあり、思い出したくない過去を話すことによる心理的な負担が生じる。
また、上手く説明ができず自信を失うこともある。ワンオペで大変な中やっとの思いで相談ができたとしても結果が振るわず相談を諦めて孤立してしまうことも起き得る。「LivEQuality HUB」は、制度からこぼれ落ちる瞬間だけではなく、こぼれ落ちるまでの「しんどさ」そのものがあることを理解している。
では、現場ではどのように伴走支援が行われているのだろう。
次回、「住まいが、母子の尊厳を取り戻す、LivEQuality がつくる「孤立させない」支援のかたち 【下】」では、居住支援コーディネーターの榊原有望(さかきばら・ゆうみ)さんに、社会背景と具体的な支援の実態を聞く。
岡本 拓也(おかもと・たくや)
LivEQuality創業者兼CEO。ICCソーシャルグッドカタパルト2024優勝。日本版アフォーダブルハウジング市場を創出する。PwC企業再生→SVP東京代表を経て、’18年に父の急逝で建設会社を承継。第二創業推進中にコロナ禍となり、シングルマザーの住まい貧困を解決する事業を開始。
LivEQualityグループ
住まいの不安定さによって自立が妨げられているシングルマザーの支援に取り組む団体です。低価格で安心できる住まいを提供し、日常に寄り添う伴走支援を通じて生活の基盤を整えます。母親の安定が子どもの健やかな成長につながるという考えのもと、貧困や孤立の連鎖を断ち切り、親子の尊厳と未来の可能性を取り戻すことを目指しています。
<応援方法はこちら>
・個人寄付:https://livequality.co.jp/hub/donate
・法人寄付:https://livequality.co.jp/hub/donate/other/houjinp
・遺贈寄付:https://livequality.co.jp/hub/donate/other/izou


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