住まいが、母子の尊厳を取り戻す。LivEQuality HUBの居住支援と「希望のかたち」(下)   

居住支援コーディネーターの榊原有望(さかきばら・ゆうみ)さん(写真:LivEQuality HUB)

【HOPEFULなひと】
「HOPIUSの想い」をもとに、人類に希望を見出し、持続可能で愛ある世界を目指して活動している人たちを、取り上げる企画です。社会に変革をもたらすチャレンジをしている社会起業活動団体へのインタビューを通して、希望的な未来を発信しています。
今回は、愛知県名古屋市を拠点に、シングルマザー向け伴走型居住支援活動を通じて、「住まいを起点に始まる負のスパイラル」の解決に、真正面から取り組んでいる認定NPO法人LivEQuality HUB(リブクオリティハブ。代表理事・岡本拓也さん。以下「LivEQuality HUB」)の活動の(下)です。同法人では居住支援コーディネーターによる支援活動が行われています。居住支援コーディネーターの榊原有望(さかきばら・ゆうみ)さんから具体的な支援活動の内容と、安全・安心の確保によるシングルマザーと子どもたちの変化、そして住まいを起点とした「希望のかたち」について伺いました。

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重要な役割を担う居住支援コーディネーター

お母さんだけでなく子どもたちとのふれあいも大切な時間(写真:LivEQuality HUB)

「LivEQuality HUB」の支援活動の中で重要な役割を果たしているのが、居住支援コーディネーターだ。現在は3名体制で居住者の方のサポートを行っている。居住支援コーディネーターのサポートは、入居前、住まい相談を受けたときからスタート。そして入居後も継続され、一人ひとりの状況に合わせて関わり方を変えていくのが特徴だ。

今回、住居支援コーディネーターの榊原さんからお話を伺った。前職は障がい者就労移行支援施設の支援員。支援をする方の中にはシングルマザーや、その方の母親がシングルマザーだったという方がいた。

そういう方から、「離婚をしたときに支援につながれていたら、遠回りしなくても良かったかもしれない」という話を耳にすることがあった。離婚時のシングルマザー支援に関心が湧き始めた時に、「LivEQuality HUB」の活動を知った。「私が本当にやりたい仕事だ」と感じて求人に応募し、2023年11月に応募・採用された。

月に一度の定期面談で入居されたシングルマザーの家庭を直接訪ね、お母さんの声にじっくりと耳を傾ける。
「最近、何か困っていることはありませんか?」――そんなさりげない会話の中から、暮らしの細かな変化や悩み、日々の様子を丁寧に見守り続けていく。加えて、日常的にLINEでつながり、困りごとがあればその都度、相談を受ける。 

実際の相談内容は幅広い。子どもの発達について保育園と連携することもあれば、離婚が成立していない人で必要な場合には弁護士につなぐ。どこへ相談してよいかわからない人には適切な機関への橋渡しをする。

医療、福祉、法務、就労、子育て支援と、必要なものを「全部自分で探してください」というのではなく、その人の隣に立って、つなぎ、見守る。榊原さんの言葉を借りれば、「さまざまな機関や人々をつないでいく」仕事である。 

特に印象的なのは、支援の出発点が「解決」ではなく、「まずは相談のハードルを下げること」にある点だ。

榊原さんは、「電話をかけたり窓口へ出向いたりすること自体が、子育て中の母親には大きな負担」だと語る。そのため、LINEは非常に重要なツールになっている。相談者は夜中でもメッセージが送れる。LivEQuality HUBのスタッフはすぐに読めない場合でも、翌日には必ず読んで相談へ対応する。 

LINEで送られてくるのは、悩みやSOSだけではないのだという。「子どもとこんな時間を過ごした」「こんなうれしいことがあった」といった、日常の出来事の報告もシェアされる。それは、単なる「支援する側・される側」という一方的な関係に留まらず、孤立しがちなシングルマザーと豊かな時間や体験を分かち合い、共に歩んでいく関係性を育むことにつながっている。

シングルマザーの諦めがほどけていく瞬間に立ち会う

安全で便利で居心地の良い住居を提供 (写真:LivEQuality HUB)

実は、榊原さん自身もシングルマザーでその時の住まい探しを巡る体験が「LivEQuality HUB」での活動に生かされている。

それは、離婚時に部屋探しをした際に傷ついたという経験だ。不動産屋を巡り、賃貸対象として案内されたのは、木造の古いアパートだった。部屋を案内してくれた不動産屋の社員に「古いから靴を脱がないで部屋に上がっていい」と言われたとき、「修繕や掃除をしてからの入居でしょうか?」と確認すると、「いえ、軽く掃除をして、このままのお渡しです」と返答されました。

その時、榊原さんは「土足で上がってもいいような家を案内されているのか」と愕然としたという。離婚で心理的に落ち込んでいた時だっただけに、その体験は忘れられない痛みとして残っている。 

その記憶があるからこそ、「LivEQuality 大家さん」の物件を見ると榊原さんは「私も住みたいと思うような物件」と毎回思うという。物件を案内した際に、入居希望者の母親や子どもたちの表情がぱっと明るくなる瞬間は忘れられない。

「ここに住めるんですか」「こんな場所に住んでいいんですか」と尋ねる母親。

その喜びと驚きの混じった言葉は、単なる良質住宅のスペックへの反応ではない。それまで積み重なってきた支援に対する諦めや失望が、少しずつ少しずつ、生活への意欲や自分への可能性の実感へと変換していく瞬間なのだろう。

住まいの質は、人間の尊厳と直結していることを、榊原さんも痛感した。 

支援内容は、低価格家賃の住まいの確保にとどまらず、生活全体を支えるものだ。
食料や日用品の提供、行政手続きのサポートや社会資源の利用支援。医療機関やカウンセリング機関、弁護士、就職支援の専門機関への接続や連絡調整などの支援。「LivEQuality HUB」がつながっている支援機関の数は152機関に及ぶ。母子が孤立しないように見守り続けることやピア交流(※)やイベントも行う。

2025年12月某日、親子で参加するクリスマス会としてバス遠足を開催。LivEQuality HUBのスタッフが運営する(写真:LivEQuality HUB)

こうした伴走支援の例として、DV避難直後の30代の母と幼児のケースでは、シェルター退出後に住まい・資金ゼロの状態から支援が始まり、離婚調停や子どもの発達の課題、収入減といった問題が次々に表面化するなかで、継続的な支援が行われている。 

夫から妻への暴力を子どもが目撃した場合、母親はDV被害者、子どももまた面前DVの被害者となる。母は避難し、子は児童相談所へ保護されることもある。そうしたケースで「LivEQuality HUB」の支援の結果母親に弁護士、医師、児童相談所、就労支援をつなぎ、子どもにも医師やトラウマケアの支援を組み合わせることで、1カ月半ほどで再び母子が一緒に暮らせるようになった事例もあるという。

母親への支援が、子どもの安心安全を守ることにつながったのだが、この視点は、制度が細かく分かれている日本社会では、意外なほど共有されていないのだという。 

*ピア交流:精神的に困難な経験をした人たち同士が、対等な立場での交流の場 

「その町の“頼れる応援者”になる」

さらに興味深いのは「LivEQuality HUB」が「その町で近くにいる、“頼れる応援者”になる」という発想を掲げていることだ。

生活相談支援の目的は、困りごとを解決することだけではない。ランチ会や流しそうめん大会、上映会、春のピクニック、こどもえんにち、スポーツ大会など、親子で楽しみ、学び、過ごしながら、自然に地域とつながる場をつくっている。 

こどもえんにちで、参加した子どもたちをサポートするスタッフ(写真:LivEQuality HUB) 


前述した入居時の1世帯がつながっている支援機関や人の数は平均1.9だが、入居後には平均10.9と大きく増える。「HUB」による支援だけではなく、こうしたイベントを通して人との関係を持つ体験がつながりを豊かにしていくフックなのではと感じられるデータだ。

お母さんたちからは、「子どもが楽しそうでうれしかった」「ほかのお母さんが子どもを見てくれて助かった」といった声が寄せられている。孤立の反対は、単なる支援の有無ではない。

誰かと笑えること、安心して子どもを任せられる瞬間があることが、日常を取り戻す回復なのだということが榊原さんの説明から伝わってくる。   

さらに榊原さんは、支援によって見えてくる変化についてこう語る。

入居当初は無表情で、一切話さなかったお子さんが、支援や関わりを続けることで表情が和らいで、訪問の際には『一緒に遊ぼうよ』と笑顔を見せ、話しかけてくれるようになった。暮らしがより良くなっているという母親の自信やモチベーションの変化もあり、それがお子さんの変化につながっている。

最初は「困っていない」と言っていた人が、LivEQuality HUBの見守りや支援を通して、初めて自分が疲れ切っていたことに気づき、「頼ってもいいんだ」と思えるようになる姿へと変化するという。

支援とは、ゼロから何かを与えることではなく、押し込められていた感情や力を、もう一度表に出せるようにする営みでもあるのだろう。榊原さんは、「お母さんたちはもともと力を持っている。それを元通りにしていくことが、私たちの役割です」と。  

行政の支援との違いについて尋ねると、私たちはお母さんたちを待つことができます」と榊原さんは即答する。
お母さんに伴走して、一人ひとりの日常生活のペースを尊重する。時には見守り、待つ。

それでも決して孤立のなかへ放り込まない。家庭を訪問した時、お母さんの状態を理解してドアを開けずに、お菓子を玄関のドアノブにそっとかけて帰るということもあるという。

居住支援でみた希望の姿

榊原さんにとっての「希望」の形は、きわめて具体的だ。

それは、心身ともに安心・安全でいられること。

当たり前のようで、今の社会にはその土台さえ手にすることが難しいシングルマザー家庭が数多く存在する。安心・安全が感じられるようになると、自分の希望や意思が出てくるという。

それは、人が持っている本来の力を取り戻すことでもある。母親が力を取り戻していくことで、子どもも元気になる。子どもの成長は日本社会の未来そのものでもある。これもまた「希望の形」なのだ。

 LivEQuality HUBの実践は、住まいの支援を通じて、社会のまなざしを変え、人間の尊厳を再構築する試みだ。

安心と信頼に包まれ、誰もが尊厳を持って暮らせる社会へ。住まいという起点から生まれるその確かな変化こそが、LivEQuality HUBの現場で目的した希望の姿だ。 

流しそうめん大会での一コマ(写真:LivEQuality HUB)

参考:
・【note】岡本拓也 | LivEQuality 創業者兼CEO| 千年(ちとせ)建設CEO
・【note】LivEQuality大家さん
・【公式HP】https://livequality.co.jp/

LivEQualityグループ
住まいの不安定さによって自立が妨げられているシングルマザーの支援に取り組む団体です。低価格で安心できる住まいを提供し、日常に寄り添う伴走支援を通じて生活の基盤を整えます。母親の安定が子どもの健やかな成長につながるという考えのもと、貧困や孤立の連鎖を断ち切り、親子の尊厳と未来の可能性を取り戻すことを目指しています。

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