見知らぬ誰かへ、未来の誰かへ。やさしい循環が生む「お互いさまの街」
「お互いさまの街ふくしま」へ向けての船出
福島ひまわり里親プロジェクトが順調に拡大していくなかで、支援してくれた人たちへの感謝から、福島をもっと良くしたいという思いが重なり、新たな「恩送り」の取り組みが始まりました。
それが、「お互いさまの街ふくしま」の活動です。
福島市の人たち、特に高齢者は、顔を合わせたり、分かれる時の日常的なあいさつで、「どうもない、おでげーさま、だない」(どうもね、お互いさまに、ね)と「お互いさま」という言葉を使います。そこから生まれた「お互いさまの街ふくしま」。
半田さんたち「チームふくしま」のメンバーの中でも、全国や世界中の人たちから応援されたことを、次世代への『恩送り』をお互いさまのものとしていきたい」という思いがこのネーミングに込められました。
そして2019年ごろから吉成さんが中心となって、「お互いさまの街ふくしま」プロジェクトとして、2つの事業が構想されました。
1つは、「お互いさまチケット」、もう1つがフードバンク・子ども食堂「みんなの食糧庫(のちに「お互いさま倉庫 コミュニティフリッジひまわり」)」。
「お互いさまチケット」とは、店舗や事業所などで、来店者が他の誰かのために代金を先払いしてチケットを購入。
そのチケットをメッセージとともに店頭に掲示します。後からその店や事業所を利用した人が、チケットを利用して無料、または低価格で商品やサービスを購入したり、食事をしたりすることができる仕組みです。
近年、子育て家庭やひとり親家庭、経済的に困難を抱える家庭の支援のため、全国で「子ども食堂」が多数運営されていますが、「お互いさまチケット」は、店舗等が子ども食堂と同じ機能を持つことが可能になります。
「お互いさま倉庫 コミュニティフリッジひまわり」は、児童扶養手当や就学援助を受給するひとり親家庭や経済的に困難を抱える家庭や奨学金を受給する学生を対象に、利用者登録制の食料庫。
現在、全国では初めて、アパートにある無人福祉型(登録制)のフリッジとして運営されています。
「福祉型」というのは、福祉作業所に整理整頓を委託することで、作業所の収益が上がるという循環型を目指しています。
個人や企業で、消費されない食料を中心に寄付品を寄せてもらい、各家庭に利用してもらいます。各家庭の経済支援と、フードロス対策の両面で貢献することができます。

アパート内に無人福祉型フードバンク(子ども食堂)として設置されたのは全国初
発案は飲食店経営の副理事長・吉成さん
発案者は、福島市内で飲食店や理容店の経営者で、「チームふくしま」副理事長の吉成さんでした。
そもそもは市内各地にある店舗の利用者から伝えられる地域の困りごとや心配事が発端でした。
「よく顔を出すあのおじいちゃんは一人暮らしで料理が大変らしい」
「あの子は、ひとり親家庭でいつもおなかをすかせているみたいだ」
地域の人たちから心配の声が吉成さんのもとにも届きました。
また、児童養護施設の施設長の方より「児童養護施設に入りたくても入れない子どもたちがいる。その子どもたちの方がつらい」という話を聞き、 「誰もが安心して暮らせる地域にしたい」。
その思いから、まずは2021年、自らが経営するハンバーガーショップ「BLTカフェ」で、「お互いさまチケット」を開始し、地域の人たちにチケット購入(恩送り)への協力を呼びかけつつ、希望する人には遠慮なく食べてもらうようにしました。
さらに、店頭には小さな棚や冷蔵庫を置いてフードバンク「みんなの食糧庫」(=のちにフードバンク活動をしているコミュニティフリッジ[本部・岡山県]の全国ネットワークに参加、「お互いさま倉庫 コミュニティフリッジひまわり」もスタート。
地域住民の利用が増えるとともに、チケットなどの活動を知ってもらいつつ、安価に日用品が手に入る機会も増加しました。

それぞれの活動は非常に好評で、思いがけない効果もありました。それまでに来なかったような比較的年齢が上のお客さんが来たり、店のスタッフも「チケットを使って食べてくれた家族が本当に楽しそうだった」とやりがいを感じてくれたり。
同時に、経済的に困っている人が予想以上に多いことにも気づきました。米や卵の寄付があり、フリッジに並べると、アッという間に利用者さんが取りに来て、棚や冷蔵庫は空っぽになりました。
経済的貧困から体験の貧困に陥っている子どもたちが多くいるため、クリスマスプレゼント配布会などを通じて、体験・思い出の提供も併せて実施しています。
次ページ>>
吉成さんの急逝、遺志を継ぐ―チケットは福島、全国、そして海外100店舗に展開